2012/02/14 業界コラム 瀧本 孝治 状態監視モニタ vol.6 ~ 伸び差モニタ(その2) ~ 新川電機株式会社 瀧本 孝治 マーケティング部 ST製品企画室...もっと見る マーケティング部 ST製品企画室 今回は前回に引続き伸び差モニタに関する説明ですが、「単センサ方式」「相補伸び差方式」「ランプ伸び差方式」のそれぞれの違いと特徴について説明します。 伸び差演算方式伸び差計測においては、通常±1mmの軸位置計測に比べ非常に大きな測定レンジが必要であり、これをどのようにして実現するのかということが1つの課題となります。非接触変位センサ自体で大きな測定レンジを確保できれば良いのですが、変位センサの測定レンジを大きくするためにはセンサの形状も大きくなると同時に、必要とするターゲットエリアも大きく取る必要があり、タービン車室内でそれらのスペースを確保することが困難になるという現実的な問題が発生します。 伸び差測定レンジがセンサの測定レンジ(リニアレンジ)より小さく、かつ車室内にセンサとターゲットのスペースを確保できるようなケースにおいては、最も単純なシステムとなる図8-(a)の単センサ方式を適用できるのですが、伸び差測定レンジがセンサ測定レンジを越えるようなケースや、センサとターゲットのためのスペース確保が問題となるようなケースでは図8-(b)の相補伸び差方式や図8-(c)のランプ伸び差方式を適用することになります。 それではまず、表3に概要を示し、次にそれぞれの方式についてもう少し詳しく説明します。 表3. 伸び差方式 センサ取付方式 適用モニタ (VM-5の場合)※ 特徴 図8-(a) 単センサ方式 VM-5D デュアル伸び差モニタ 測定原理はスラストモニタと同じで単純。 伸び差測定レンジをセンサ測定レンジより大きく取ることはできない。 図8-(b) 相補伸び差方式 VM-5L 相補入力伸び差モニタ 2個のセンサを測定用カラーの両側に対向させて配置することで、伸び差測定レンジをセンサ測定レンジの2倍まで取ることが可能。 図8-(c) ランプ伸び差方式 (図10を含む) VM-5N ランプ伸び差モニタ ロータに対して傾斜(ランプ)を持った測定面と2個のセンサを設けることで、センサ測定レンジの数倍の伸び差測定レンジを取ることが可能。 (実用例:ランプ角度14.5度で4倍) ※ VM-7モニタの場合、VM-701, VM-701Bモニタが伸び差だけでなく、振動、軸位置など多くの計測パラメータに設定可能で型式による区別がないため、計測パラメータ毎に機種・型式が設定されているVM-5モニタを例に表記しています。 (a) 単センサ方式図8. 主な伸び差計測におけるセンサ取付方式 (a) 単センサ方式1つのセンサで測定用カラーとのギャップを計測する方式であり、基本的な原理は2011年11月号の「スラストモニタ」と同じです。原理的には単純で分かりやすいのですが、伸び差測定レンジをセンサの測定レンジ(リニアレンジ)以上に大きくすることはできません。したがって、VKシリーズで最も長レンジのVK-263P(リニアレンジ26mm)を適用しても、伸び差測定レンジは26mm以下にしなければなりません。 なお、測定点数1点当たり、センサの入力点数も1点であり、2CH入力のVM-5モニタの場合、1台のモニタで2点の計測が可能であるためVM-5Dは「デュアル伸び差モニタ」と称しています。 (b) 相補伸び差方式図8. 主な伸び差計測におけるセンサ取付方式 (b) 相補伸び差方式図8-(b)に示すように、2つのセンサA,Bを測定用カラーの両側で相互に対向するように配置します。図8-(b)において測定用カラーが両センサ間の中央より左側となる範囲では、左側のセンサ(センサA)で測定し、中央より右側となる範囲では右側のセンサ(センサB)で測定します。伸び差測定レンジの中央で2つのセンサを切替えて測定するため、伸び差測定レンジはセンサの測定レンジの最大2倍まで取ることが可能となります。例えば、伸び差測定レンジ50mmであれば、VK-263P(リニアレンジ26mm)を適用することで実現できます。 なお、相補伸び差モニタにおける、センサAとセンサBの切り替わり点の演算は、少々複雑な処理が必要となります。これはセンサAからセンサBへの切替えを、単純にセンサAの出力が伸び差測定レンジの1/2に相当する点で行なったり、または両センサの出力を単純に伸び差測定レンジの1/2に相当する点でクリップして差動演算を行なったりすると、センサの取付精度(セットギャップ)やドリフトなどにより伸び差出力が突変したり、不感帯を生じる可能性があるためです。VM-5LおよびVM-701、VM-701Bの相補伸び差演算においてはこのような現象を回避するためにセンサAとセンサBの切り替わり点付近ではそれぞれの感度を1/2として差動演算を行なうという特殊な処理をしています。この演算に関する説明は複雑で多くのページを割く必要がありますのでここでは割愛させていただきます。 (c) ランプ伸び差方式図8-(c)に示すようにロータ軸方向に対称な傾斜を持った部分を測定面として、それぞれの測定面とのギャップを測定するようにセンサを配置します。これによりセンサの測定レンジよりも大きな伸び差測定レンジを実現することができます。その原理を図9で説明します。 図9に示すようにロータと測定面の成す傾斜角をランプ角度と呼びθで表します。まず図9-(a)において、ケーシングに固定されたセンサを規準として、ロータの軸方向の移動量である伸び差変化量をaとし、センサギャップの変化量をcとすると、a=c/sinθという関係になります。つまり、伸び差測定レンジは、センサ測定レンジの(1/sinθ)倍とすることができるということになります。これは、例えばθ=14.5度とした場合には、センサ測定レンジの4倍の伸び差測定レンジを確保できるということであり、13.5mmレンジのVK-143Pを適用して、50mmの伸び差を測定できるということを示しています。 図8. 主な伸び差計測におけるセンサ取付方式 (c) ランプ伸び差方式図9. ランプ伸び差計測におけるセンサレンジと伸び差レンジの関係これだけ十分な伸び差測定レンジが確保できるならセンサは1個だけでよいのではないか、または2個取り付けて相補伸び差と同様な演算を行なうことで、さらに2倍の伸び差測定レンジを確保して、より小型のセンサを適用できるのではないかと考えられるかもしれません。ところが、ここで図9-(b)に示すラジアル方向の変化量bが問題となるのです。タービンロータは回転数上昇とともに潤滑油膜圧力が上昇し斜め上方に浮上してゆきますが、この変化量がbということになります。bはセンサギャップの変化量cに対して(c=b/cosθ)として影響を与えますので、これを伸び差変化量に換算すると(a=c/sinθ ⇒ a=b/tanθ)となります。 仮にθ=14.5度で、b=0.3mmであったとすると、a=b/tanθ=3.87bより、伸び差測定値に対する誤差要因として約1.2mmの影響を与えることとなります。 そこで、2個のセンサで測定することにより、ラジアル方向の変位による影響を受けないように補正しています。ラジアル方向の変化量bは、センサAの測定値にも、センサBの測定値にも全く同じギャップ変化量(c=b/cosθ)として影響しますので、2個のセンサによる測定値の差動演算([センサAの測定値]-[センサBの測定値])を行なうことで補正することができます。 ここまで述べた説明はランプ伸び差方式の中の「差動演算方式」ということができますが、ランプ伸び差としてはこの他に図10に示すような方式もあります。 図10. その他のランプ伸び差計測方式図10-(a)の「加算演算方式」は、ロータのセンターライン(軸中心線)に対して対象となるように2つのセンサを配置します。この時、図9で示したラジアル方向の変化量bは、センサAの測定値とセンサBの測定値に極性が逆の同じギャップ変化量(c=b/cosθ)として影響します。つまり、図10-(a)でロータが上方にb’だけ動いたとすると、センサA側のギャップはc’(c’=b’/cosθ)だけ狭くなり、センサB側のギャップはc’だけ広くなるということを意味しています。したがって、2個のセンサによる測定値の加算演算([センサAの測定値]+[センサBの測定値])を行なうことでラジアル方向の変化量bを補正することができます。この加算演算方式は、伸び差の変化に伴う、センサで測定している部分のロータ直径の変化を測定しているのと等価であるということができます。 最後に図10-(b)について、これには簡潔で的確な名称を付けにくいのですが、「ラジアル変化補正方式」として説明します。「差動演算方式」も「加算演算方式」もラジアル変化量を補正するための演算なので、図10-(b)の「ラジアル変化補正方式」という呼び方は適切ではないと言われそうですが、一方のセンサ(センサB)で直接ラジアル方向の変化のみを測定して補正をかけるため、このように呼んでみました。さて、この方式では、センサBで測定したラジアル変化量bをセンサAのギャップ変化量(c=b/cosθ)に換算して、センサAの測定値から減算することで、ラジアル方向の変化量bによる影響を補正しています。したがってこの方式は、一方のランプ角度を0度(ゼロ度)とした特異なケースの「差動演算方式」ということができるかもしれません。 VM-5NおよびVM-701,VM-701Bのランプ角度設定範囲は4度~90度となっています。例えば、ランプ角度θを4度とした場合、(1/sinθ)=14.3となりますので、センサ測定レンジの14.3倍までの伸び差計測レンジを設定することが可能ということになります。ただし、ランプ角度を小さくするとターゲットの加工精度やセンサの取付精度などの影響も大きくなりますので注意が必要です。実際に適用されているランプ角度θの値としては、先の説明で例として示した14.5度(4倍)の他に9.5度(6倍)などがあります。 次回は回転モニタに関する話を予定しています。 本コラム関連製品 VM-5シリーズVM-7シリーズFKシリーズ この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 新川電機株式会社 瀧本 孝治さんのその他の記事 2024/07/09 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 4 ) 2024/07/02 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 3 ) 2024/06/25 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 2 ) 2024/06/17 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 1 ) 2024/02/14 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2023/11/07 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2014/09/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(13)バランス調整 / 不釣合い修正 2014/08/05 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(12)ハイスポットとヘビースポットの位相角 2014/07/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(11)振動ベクトルとポーラ線図 2014/05/13 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(10)同期サンプリングにおける設定 2014/04/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(9)非同期サンプリングにおける設定 2014/03/11 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(8)同期サンプリングと非同期サンプリング 2014/02/12 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(7)データ収集間隔 / データ保存間隔 2014/01/14 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(6)サンプリング周波数 2013/12/10 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(5)位相基準信号(フェーズマーカ) 2013/10/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(4)軸振動センサのX-Y取付けでできること 2013/09/03 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(3)軸振動センサのX-Y取付け 2013/08/06 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(2)ターゲット、システムケーブル長 2013/07/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(1)非接触変位センサの精度に関する用語の意味 2013/06/11 業界コラム 振動解析と診断 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Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月