早稲田大学教授・東京大学名誉教授

金子 成彦

1972年 山口県立山口高等学校理数科1期卒
...もっと見る
1972年 山口県立山口高等学校理数科1期卒
1976年 東京大学工学部機械工学科卒
1978年 東京大学大学院工学系研究科舶用機械工学科修士課程修了
1981年 東京大学大学院工学系研究科舶用機械工学科博士課程修了(工学博士)
同年   東京大学工学部舶用機械工学科講師
1982年 東京大学工学部舶用機械工学科助教授
1985年-1986年 マギル大学機械工学科客員助教授
1990年 東京大学工学部附属総合試験所機械方面研究室助教授
1993年 東京大学工学部舶用機械工学科助教授
1995年 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻助教授
2003年 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻教授
2018年 早稲田大学理工学術院創造理工学部客員教授
2019年 早稲田大学理工学術院国際理工学センター教授
2019年 東京大学名誉教授
2019年 日本機械学会名誉員
2020年 自動車技術会名誉会員

「物理寄りの講義が多く、いつになったらメカの話に移るんだろう。」とは、
この秋、機械科に進学してきたばかりの学部2年生のアンケートに書かれた感想である。科学技術基本計画が始まった頃から、機械系学科では、メカやマシンについて教える講義がめっきり少なくなった。将来の産業の芽を育てるためには先端科学は重要であるが、技術伝承や学生の発想を重視するのであれば、身の回りにある10~100年の歴史を持った機械やシステムを対象とした研究や教育も大切である。

大学側も手を拱いているわけではなく、社会の中での機械工学の役割を学生に理解して貰おうと、近郊工場見学や夏季休暇期間を利用した1~2週間の産業実習を企画している。関係機関のご協力で、大半の学生は、企画者側が意図した通りの体験を積むことが出来ているとは思っているが、不況の進行とともに、少々内容や形式がマンネリ化してきたように思う。

JAL羽田整備場にて

この事態を打開するために、研究室に所属している学生を、滅多に見ることの出来ない航空機や発電所のメンテナンス現場に連れ出すことにした。仕事ぶりや作業の様子の見学もさることながら、メンテナンスにあたっておられる人の生の声や人柄に触れることも目的であった。

6月に梅雨の合間を縫って、JAL羽田整備場を見学させて頂いた。珍しい夕方からの見学であったが、「新しい飛行機が出現する度に緊張する。リスクをとるのはメンテナンスする側である。」との、部長さんの話にはしびれるものがあった。

Boeing 777-200操縦席にて

というのも、この見学の少し前に、品質管理の手法を取り入れて事故確率を下げることに成功し、ボーイング747のようなエンジン4発機からボーイング777のようなエンジン2発機の時代を実現することに成功したという話を聞いていたからである。信頼性工学の成功事例のように考えていた小生は、別の立場からの見方を知り、考えを改めさせられた。

9月には、東京電力福島第一原子力発電所の定期点検作業を見学させて頂いた。ここでは、狭い空間の中での点検作業や補修作業が行われていた。経年劣化が避けられないとすれば、確かな技術を持った作業者を継続して確保することが重要であるとの印象を持った。我々が見学させて頂いた現場は、輸送とエネルギーで我が国を支える中核的役割を担っている場所であり、そこでは、もちろん数多くのセンサーや遠隔監視システムも使われていた。しかし、情報を使いこなし判断するのは人である。人材確保の問題は、農林水産業だけでなく、人間が英知を絞って作り上げ、今後も活用しようとしているシステムの維持においても、同じ悩みがあることを再認識した。

最近、「保全学」という言葉を耳にするようになったが、メンテナンスの現場を見学した後では、現場に内包されているものは「保全学」という言葉では語り尽くせないものがあると感じている。検査する人、利用する人も含めて、人中心にメンテナンスを見直し、再考する時代が来ているように思う。