2010/11/09 業界コラム 金子 成彦 産業と教育の現場から No.12 未来の研究開発リーダーに贈るメッセージ ~これからの学会との付き合い方~ 東京大学名誉教授・元早稲田大学教授 金子 成彦 1972年 山口県立山口高等学校理数科1期卒 ...もっと見る 1972年 山口県立山口高等学校理数科1期卒 1976年 東京大学工学部機械工学科卒 1978年 東京大学大学院工学系研究科舶用機械工学科修士課程修了 1981年 東京大学大学院工学系研究科舶用機械工学科博士課程修了(工学博士) 同年 東京大学工学部舶用機械工学科講師 1982年 東京大学工学部舶用機械工学科助教授 1985年-1986年 マギル大学機械工学科客員助教授 1990年 東京大学工学部附属総合試験所機械方面研究室助教授 1993年 東京大学工学部舶用機械工学科助教授 1995年 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻助教授 2003年 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻教授 2018年 早稲田大学理工学術院創造理工学部客員教授 2019年 早稲田大学理工学術院国際理工学センター教授 2019年 東京大学名誉教授 2019年 日本機械学会名誉員 2020年 自動車技術会名誉会員 機械系にはたくさんの学会があり、会員数が数万人という大規模学会と数千人規模の小ぶりではあるが焦点が絞れたピリッとした中小規模学会に分類することができる。大規模学会には部門という組織があり、さらに部門の傘下に委員会や分科会という組織が繋がっている。 学会の組織と活動学会には研究にまつわる研究分科会活動以外に、講演会、見学会、シンポジウム等の集会事業、会誌・論文集や書籍の刊行、国内外の関連学協会との連携、規格・標準策定維持活動、表彰・顕彰活動等を行っている。最近の特徴ある学会活動として、日本機械学会の機械状態監視資格認証事業(注1)が挙げられる。この事業には新川センサテクノロジにも関係機関の一つとして協力して頂いている。 (注1)日本機械学会機械状態監視資格認証事業 学会活動事始1984年1月に雪の降る箱根大平台の宿に赤穂浪士47士ならぬ、28名の振動分野のエキスパートが集まり、第1回FIV研究会が開催された。この研究会は、小生が講演発表・論文投稿以外の学会活動に参加した始めての行事であった。FIVとは、正確にはFlow Induced Vibration(流体関連振動)と呼ばれる。流体と構造・音響が関係して発生する振動騒音問題の解明と制御に関する学問領域の名称である。 この時の参加者は、重工業、電機、造船を中心とした企業の第一線の研究者と、大学で振動工学を専門とされている先生方が中心で、この道のベテランが多かったが、大学院を修了して教員になったばかりの小生も幸いにもメンバーの一員として呼んで頂くことが出来た。 この会は、日本機械学会機械力学部門傘下にあり、海外文献を購読し抄録の形にまとめデータベースを作成するとともに、産学の交流を図ることを目的としてスタートを切った。以来この研究会の、委員、幹事、主査を務めさせて頂いて現在に至っている。研究会には、目下100名余りのメンバーが登録されているが、毎年6月の第1週に開かれている文献購読会には、企業や大学をリタイヤされた大先達から企業の若手設計者・研究者や大学院生まで、平均すると50名程度の参加者がある。 小生が若手に分類されていた時代には、会場までの行き帰りの電車の中や2次会で、通常では話を伺う機会が持てないような大御所から経験談が聞けるという楽しみがあった。第1回から数えて25年が経過した今は、同窓会的な色彩も帯びてきている。 小生がシニアになった頃に、この会の舵取りを任された。せっかく任されたのであるから活動に特徴を出だそうと思い、主査就任以降は、集まった論文抄録を書籍の形に纏めることに注力してきた。 研究ロードマップを作ろうさて、25年間の活動を通じて集められた約600件もの論文抄録を元に、ベテラン、中堅メンバーに参加を募り、事例集を出版した。これまでに我が国には、書店で購入できるようなハンドブックスタイルの当該分野の書籍が無かったため、専門書としては良好な売れ行きで、数年も経たず改訂増補版(注2)を出版することになった。同時並行的に、英文での出版話が持ち上がり、関係者は多忙であったが、何とか英文でも出版(注3)することが出来た。しかし、一段落ついた今、データベースの形での出版だけでは不十分であると考えている。 その時代の流行テーマは、2~30年経過すると、様々なアプローチや応用が出尽くして、次の世代がテーマ探しに戸惑うような状況が生まれる。成熟した学問領域は多かれ少なかれ目下このような状況に置かれている。この時に役に立つのは、研究ロードマップである。 研究ロードマップとは、(1)過去から現在まで、誰がどのような動機で何を思いつき、(2)誰がどのような視点から改良・改善を行ったか、を誰にも分かるようにロードマップの形で表したものである。専門家の間で議論してコンセンサスを得たものであるに超したことはないが、私家版でもよいと小生は思う。研究ロードマップが会社や学会等の組織で作成される戦略ロードマップと違う点は、動機を含めて知識体系を構築することによって、将来の研究活動の企画に役立てることができるという点にある。 (注2)データベースを元に出版した和文書籍 (事例に学ぶ流体関連振動(第2版)、日本機械学会編、技報堂) (注3)データベースを元に出版した英文書籍 (Flow-Induced Vibrations- Classifications and Lessons from Practical Experiences,Shigehiko Kaneko et.al, Elsevier) 学生の役割と若手への提言FIV研究会での学生諸君の役割は、購読対象文献の選定作業の補助、分科会開催時の受付や2次会の準備まで雑多であるが、最も重要なのは、抄録の作成と発表である。当研究室の修士・博士課程の学生には全員に各自1件抄録作りを担当してもらっている。小生はこの機会を捉えて、学生に英文論文の読み方、抄録作成の仕方などの指導を行う。対象となる論文が自分自身によるものではなく他人のものであることから、比較的気楽に読み進むことが可能で、厳しい評価を下すこともできる。ただし、学生には、論文そのものを単に読むのではなく、広く周辺情報も調査して発表するよう勧めている。 さて、研究会では、馬の合うOBと出会い、その後、就職に繋がるというケースも珍しくない。この研究会は会社での仕事振りや研究の醍醐味を生の声として学生が聞ける場としても貴重である。 また、研究室を卒業して企業や研究機関に入り、そこから派遣されてこの会に参加している委員も多く、かつての指導教員としては、卒業生の成長ぶりを垣間見ることの出来る機会でもある。小生にとっては今後の研究指導に資するフィードバックループとしても、この研究会を通じての学会活動は有益に機能している。 次世代を担う若手研究者にはこのような日本の学会活動の良さを理解して継承し、当該分野で培われた技術も受け継いで貰いたいと思う。技術開発の国際化がますます進む状況の中で、知識や経験データの蓄積を持続的に行うことの重要性は高まることはあっても低下することはないと思うからである。 第25回FIV研究会文献講読会(2010年6月、山形にて) この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 東京大学名誉教授・元早稲田大学教授 金子 成彦さんのその他の記事 2025/01/15 業界コラム 人生の低山を歩く 2024/01/10 業界コラム あんたぁ先頭 ! 2023/01/11 業界コラム トランジェントな時代を生きる ( 4 ) 2022/01/12 業界コラム トランジェントな時代を生きる ( 3 ) 2021/01/12 業界コラム トランジェントな時代を生きる ( 2 ) 2020/01/08 業界コラム トランジェントな時代を生きる 2019/01/09 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの冬休み小旅行(ハウステンボス・湯田温泉編) 2018/01/10 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの冬休みの小旅行(京都・尾道編) 2017/02/07 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの(研究環境の来し方行く末) 2017/01/11 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの(冬休み小旅行編) 2016/02/09 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの(立春編) 2016/01/13 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの(初詣編) 2013/08/03 業界コラム 日本機械学会会長の経験を通じて (その3) 日英文化交流活動 2013/07/09 業界コラム 日本機械学会会長の経験を通じて (その2) アジア圏との国際交流活動 2013/06/11 業界コラム 日本機械学会会長の経験を通じて (その1) 東日本大震災対応 2010/11/09 業界コラム 産業と教育の現場から No.12 未来の研究開発リーダーに贈るメッセージ ~これからの学会との付き合い方~ 2010/10/05 業界コラム 産業の教育と現場から No.11 タフな学生を育てるためのコンテストの活用法 2010/09/07 業界コラム 産業の教育と現場から No.10 学部4年生のためのもう一つの発表会 2010/08/03 業界コラム 産業の教育と現場から No.9 留学生の慶事 2010/07/07 業界コラム 産業の教育と現場から No.8 産学官連携功労者表彰を通じて学んだもの 2010/06/08 業界コラム 産業の教育と現場から No.7 若手人材育成を意識した同窓会の活用法 2010/05/12 業界コラム 産業の教育と現場から No.6ホロニックエネルギーシステムの実現に向けて 2010/04/06 業界コラム 産業の教育と現場から No.5PBL教育を通じて日本のガラパゴス化を阻止しよう! 2010/03/02 業界コラム 産業の教育と現場から No.4 ゆとり世代ついに研究室に現る ! 2010/02/09 業界コラム 産業の教育と現場から No.3 就活学生に贈るメッセージ~エネルギー作物栽培の体験から~ 2010/01/13 業界コラム 産業の教育と現場から No.2 手料理コンパと工学教育 2009/12/01 業界コラム 産業の教育と現場から No.1メンテナンスの現場から学ぶべきもの 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月