2013/06/11 業界コラム 金子 成彦 日本機械学会会長の経験を通じて (その1) 東日本大震災対応 東京大学名誉教授・元早稲田大学教授 金子 成彦 1972年 山口県立山口高等学校理数科1期卒 ...もっと見る 1972年 山口県立山口高等学校理数科1期卒 1976年 東京大学工学部機械工学科卒 1978年 東京大学大学院工学系研究科舶用機械工学科修士課程修了 1981年 東京大学大学院工学系研究科舶用機械工学科博士課程修了(工学博士) 同年 東京大学工学部舶用機械工学科講師 1982年 東京大学工学部舶用機械工学科助教授 1985年-1986年 マギル大学機械工学科客員助教授 1990年 東京大学工学部附属総合試験所機械方面研究室助教授 1993年 東京大学工学部舶用機械工学科助教授 1995年 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻助教授 2003年 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻教授 2018年 早稲田大学理工学術院創造理工学部客員教授 2019年 早稲田大学理工学術院国際理工学センター教授 2019年 東京大学名誉教授 2019年 日本機械学会名誉員 2020年 自動車技術会名誉会員 久しぶりにコラムに書かせていただきます。 6 月は麦秋とも呼ばれます。我が家の家庭菜園もジャガイモの収穫時期を迎え、昨日収穫を終えました。今年の関東地方は陽気が安定しない年で、なかなか寒さが抜けきらないと思っていたら 3 月中に桜が咲き出し、4 月の入学式の時期には散っていたという珍しい春を経験しました。雨も少なく、3 月から 6 月初旬の間にまとった量の雨が降った記憶はありません。そのせいか、畑の中には例年に比べて虫が少なく、ミミズもあまりいません。土もパサパサしています。 さて、土のパサパサにはもう一つ理由があります。言い訳じみていますが、秋から年明けにかけて植えた大根を収穫した後の 2 月終わりから 3 月初旬に掛けての時期は、畑を寝かせて置かなければならない大事な時期です。しかし、今年は日本機械学会の会長職の引き継ぎ時期にあたり、畑の手入れに割ける時間が不足し、大根を引き上げた同じ週のうちに畑に肥料を施してジャガイモの種芋を撒いてしまいました。その結果、収穫されたジャガイモは小粒なものばかりでした。このように、手を抜くとすぐにバレテしまいます。 震災後の日本機械学会の動き ・調査・提言分科会 WG1:機械設備の被害状況と耐震対策技術の有効性 WG2:力学体系に基づく津波被害のメカニズムの理解 WG3:被災地で活動できるロボットの課題の整理 WG4:被災地周辺の交通,物流分析 WG5:エネルギーインフラの諸問題 WG6:原子力規格基準の課題と今後の方向性 WG7:地震、原発事故等に対する危機管理 ・長期的課題検討分科会 WG1:将来のエネルギー源・エネルギー利用に関する定量的評価と提言 WG2:人工物に対する信頼性・ロバスト性の確立と危機に対する管理制御方法 WG3:工学を社会に対して適正に説明する方法とそのための機械技術者の人材育成 WG4:福島原発事故の教訓から学ぶ工学の原点と社会的使命~安全・安心社会の構築に向けて 英国機械学会訪問少し歴史をひも解いてみることにしましょう。日本機械学会の初代会長は眞野文二先生です。1886 年に英国に渡られた眞野文二先生は Institution of Mechanical Engineers(略称:IMechE、英国機械学会)の会員となられ、同会の会員が大学の学位以上に尊ばれているという実情に驚き、帰国後、東京帝国大学機械工学科および東京高等工業学校機械科の卒業生を中心に 1897 年に設立されたのが現在の日本機械学会です。 英国機械学会周辺地図 英国機械学会の建物 (向かい側はセントジェームズパーク) 小生は、2012 年 9 月に学会と市民をつなぐ情報発信活動に関する調査を目的として英国機械学会を訪問する機会を得ました。英国機械学会は、英国土木学会と並んでバッキンガム宮殿からそれほど離れていないウエストミンスター地区に建物があり、存在感を示しています。しかし、事務局長さんの説明によって、その存在感は、市民への発信という形でより具体的に実現していることが分かりました。 英国機械学会は、毎年、ポリシーステートメントという冊子体を発行しています。内容は、様々で、その時に話題となっているテーマについてパブリックステートメントという形で 4~5 年前から市民や行政に向けての発信が開始されていました。驚いたことには、機械工学の重要性を市民に浸透した度合いを測るために、英国機械学会からの発信がどのようなメディアに取り上げられたかを定期的に調査しており、Voice of the Profession という名前のデータ集として纏められています。改めて、成熟社会での学会の役割を考えさせられた訪問でした。 震災後の調査提言活動を通じて考えたこと東日本大震災は、工学者に多くのことを気付かせてくれました。その一つに、日本は戦後の急成長によって生活の豊かさや利便性を向上することには成功しましたが、人工物がもたらす負の側面やリスクに関しては専門家と市民との間にはコミュニケーションが十分にとれていたとは言えず、ある意味で発展を急ぎすぎた国だったということが挙げられます。また、エネルギー問題を始めとする日本の課題は過去の歴史を背負っており、簡単に解決できるものはありません。 解決の糸口を見出すために学会が果たせること、それは、工学者に自分の専門領域を越えた俯瞰的な見方を身に付けさせる機会を提供することだと思いました。これは、豊かな作物をもたらす肥沃な土壌の大切さを認識して用意することに似ています。 また、学会は専門分野に関しては目下の最新情報を持った人々の集う場所であり、最新のデータに基づいた議論ができるはずです。さらに、学会は年代を越えた技術者や研究者によって構成されており、過去のデータも扱うことができる集団です。したがって、今後の学会は、これまでのような仲間内に向けての発信だけでなく、市民に向けての発信機能を併せ持つ集団に変わって行くべきと考えます。ただし、市民向けの情報発信活動は、正確さと迅速さが求められるため、その役割は現役世代だけが担うものではなく、日本の人口のボリュームゾーンを形成している 65-75 歳までのアクティブシニアの参加を得て内容の充実を図るべきと考えます。 最後に、これからの工学者には、アイデアを形にする創造的活動だけでなく、社会実装の重みを感じさせる経験も積ませるべきで、それによって、様々な立場に立って考えるという発想を植え付けることができると考えます。一市民の側に立って考えることが習慣として身に付くように、学校教育の中でも科学技術リテラシーの時間を取って、リスクに対する説明や合意形成の方法を教えるべきと感じた次第です。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 東京大学名誉教授・元早稲田大学教授 金子 成彦さんのその他の記事 2025/01/15 業界コラム 人生の低山を歩く 2024/01/10 業界コラム あんたぁ先頭 ! 2023/01/11 業界コラム トランジェントな時代を生きる ( 4 ) 2022/01/12 業界コラム トランジェントな時代を生きる ( 3 ) 2021/01/12 業界コラム トランジェントな時代を生きる ( 2 ) 2020/01/08 業界コラム トランジェントな時代を生きる 2019/01/09 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの冬休み小旅行(ハウステンボス・湯田温泉編) 2018/01/10 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの冬休みの小旅行(京都・尾道編) 2017/02/07 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの(研究環境の来し方行く末) 2017/01/11 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの(冬休み小旅行編) 2016/02/09 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの(立春編) 2016/01/13 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの(初詣編) 2013/08/03 業界コラム 日本機械学会会長の経験を通じて (その3) 日英文化交流活動 2013/07/09 業界コラム 日本機械学会会長の経験を通じて (その2) アジア圏との国際交流活動 2013/06/11 業界コラム 日本機械学会会長の経験を通じて (その1) 東日本大震災対応 2010/11/09 業界コラム 産業と教育の現場から No.12 未来の研究開発リーダーに贈るメッセージ ~これからの学会との付き合い方~ 2010/10/05 業界コラム 産業の教育と現場から No.11 タフな学生を育てるためのコンテストの活用法 2010/09/07 業界コラム 産業の教育と現場から No.10 学部4年生のためのもう一つの発表会 2010/08/03 業界コラム 産業の教育と現場から No.9 留学生の慶事 2010/07/07 業界コラム 産業の教育と現場から No.8 産学官連携功労者表彰を通じて学んだもの 2010/06/08 業界コラム 産業の教育と現場から No.7 若手人材育成を意識した同窓会の活用法 2010/05/12 業界コラム 産業の教育と現場から No.6ホロニックエネルギーシステムの実現に向けて 2010/04/06 業界コラム 産業の教育と現場から No.5PBL教育を通じて日本のガラパゴス化を阻止しよう! 2010/03/02 業界コラム 産業の教育と現場から No.4 ゆとり世代ついに研究室に現る ! 2010/02/09 業界コラム 産業の教育と現場から No.3 就活学生に贈るメッセージ~エネルギー作物栽培の体験から~ 2010/01/13 業界コラム 産業の教育と現場から No.2 手料理コンパと工学教育 2009/12/01 業界コラム 産業の教育と現場から No.1メンテナンスの現場から学ぶべきもの 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月