2010/10/05 業界コラム 金子 成彦 産業の教育と現場から No.11 タフな学生を育てるためのコンテストの活用法 東京大学名誉教授・元早稲田大学教授 金子 成彦 1972年 山口県立山口高等学校理数科1期卒 ...もっと見る 1972年 山口県立山口高等学校理数科1期卒 1976年 東京大学工学部機械工学科卒 1978年 東京大学大学院工学系研究科舶用機械工学科修士課程修了 1981年 東京大学大学院工学系研究科舶用機械工学科博士課程修了(工学博士) 同年 東京大学工学部舶用機械工学科講師 1982年 東京大学工学部舶用機械工学科助教授 1985年-1986年 マギル大学機械工学科客員助教授 1990年 東京大学工学部附属総合試験所機械方面研究室助教授 1993年 東京大学工学部舶用機械工学科助教授 1995年 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻助教授 2003年 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻教授 2018年 早稲田大学理工学術院創造理工学部客員教授 2019年 早稲田大学理工学術院国際理工学センター教授 2019年 東京大学名誉教授 2019年 日本機械学会名誉員 2020年 自動車技術会名誉会員 2009年4月に東大総長に就任された濱田総長は、社会を覆っている閉塞感を打破するような活力に満ちた『タフな学生』をつくることをキャッチフレーズにされている。 タフの中身は、以下を指すようである。 『タフな学生とは』 がんばれること。へこたれないでいられること。「いっぱいいっぱい」を楽しめること。 社会への責任と自分への責任を併せ持てること。 無理だと思ってもコミュニケーションを試み続けられること。 小生は、かねてより頭でっかちになりがちな学生に欠けているものを補う機会は、様々な場を通じての他流試合であると認識していた。今回は、コンテストを通じての教育について紹介したい。 機械系学生対象のコンテスト最近では、学生が参加するコンテストは、ビジネスコンテストや発明コンテストから、ものづくり系のものまで、様々なものが用意されている。機械系の学生が参加する主なものには、鳥人間コンテスト、NHK大学ロボコン、全日本 学生フォーミュラ大会~ ものづくり・デザインコンペティション ~、ESV(Enhanced safety vehicle)国際学生安全技術デザインコンペティション、NI(National Instruments)アプリケーションコンテストなどがある。 研究室単位でのコンテストへの参加当研究室では、小生が指導教員となってESV国際学生安全技術デザインコンペティションとNIアプリケーションコンテストに毎年継続して参加しており、受賞した経験も持っている。 特に、ESVデザインコンペでは、2009年に国内最優秀賞に選ばれ、2名の学生を国際大会に送ることができた。国際大会では、受賞は逃したものの、技術的特徴は出せたと思っている。なお、学生のコンテスト参戦記は自動車技術会のWEB雑誌「モーターリンク、No.29(2009年10月)」に記載されているので、興味を持たれた方は、ご一読頂きたい。 そもそもESVとは、「安全性を更に高めた車」という意味で、ESV国際会議は、欧米にて隔年で開催されており、2009年時点で21回目を数える。自動車会社や自動車部品メーカーが革新的な安全技術を展示公開するとともに、論文発表を行う場として継続して開催されている。この国際会議に併設して学生安全技術デザインコンペが開かれているのである。 コンペでは、各大学・大学院の学生チームが、独自に考案した安全問題解決のための技術アイデアを発表し、その斬新さや発展性、実用性などを競う。発表はスケールモデルを用いて行うため、アイデアだけでなく技術的な裏付けや十分な検証が要求される。なお、2年に一度、世界各地域の予選を勝ち抜いた代表校が集まり国際大会が開催されるが、代表選考を兼ねる日本地域大会は毎年自動車技術会主催で開催されている。 学生が得たもの、指導教員が得たもの2009年に学生が提案したテーマは「接地面への粘着剤塗布による制動距離短縮システム」で、ディスクブレーキを登載した1/10スケールモデルのラジコンと路面状態を摸擬したモーター駆動の回転ドラムを用いたプロトタイプを製作し、タイヤ接地面に粘着剤を塗布することで制動トルクが上昇することを示すことが出来た。 学生は、普段の研究では経験できないチームワーク、役割分担の決め方、限られた予算の有効な活用法、ピンチに動じない安定感、相手を納得させるプレゼン術、短時間で纏め上げる段取り力を獲得したと考えている。 また、指導教員側は、毎回ハラハラさせられるものの、学生を信じる気持ちの重要さ、夢を持つことの大切さを学生から教えられている。さらに、後輩たちは次年度の課題設定の参考にするため、審査の場での審査委員と発表学生とのやりとりを一言も漏らすまいとして緊張して聞いている。目下のところ、日本語でのプレゼンや質疑応答の質はだいぶ改善されてきたが、まだ英語での発表や質疑応答に耐え得るだけの力量を身に付けるところまでには到達していない。これは今後の課題である。 2009年ESVテーマ 「接地面への粘着剤塗布による制動距離短縮システム」コンセプト終わりに以上のように、大学では、サークル単位あるいは研究室単位での従来型の研究活動では経験できない体験も学生に積ませるべく、様々な場を提供するよう努力を続けている。多くの学生が、大学時代に海外に出掛けて行って他流試合を通じて自分達の置かれた立場や弱さに気づいて、高いモチベーションを持って社会に巣立ってくれれば本望である。 しかし、そもそも『タフな学生』とはどのような資質をもった学生であろうか。読者の皆様の周辺でも一度話題にして頂ければ幸いである。 2009年学生安全技術デザインコンペティション日本地域決勝大会 東京大学が最優秀チームに決定 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 東京大学名誉教授・元早稲田大学教授 金子 成彦さんのその他の記事 2025/01/15 業界コラム 人生の低山を歩く 2024/01/10 業界コラム あんたぁ先頭 ! 2023/01/11 業界コラム トランジェントな時代を生きる ( 4 ) 2022/01/12 業界コラム トランジェントな時代を生きる ( 3 ) 2021/01/12 業界コラム トランジェントな時代を生きる ( 2 ) 2020/01/08 業界コラム トランジェントな時代を生きる 2019/01/09 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの冬休み小旅行(ハウステンボス・湯田温泉編) 2018/01/10 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの冬休みの小旅行(京都・尾道編) 2017/02/07 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの(研究環境の来し方行く末) 2017/01/11 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの(冬休み小旅行編) 2016/02/09 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの(立春編) 2016/01/13 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの(初詣編) 2013/08/03 業界コラム 日本機械学会会長の経験を通じて (その3) 日英文化交流活動 2013/07/09 業界コラム 日本機械学会会長の経験を通じて (その2) アジア圏との国際交流活動 2013/06/11 業界コラム 日本機械学会会長の経験を通じて (その1) 東日本大震災対応 2010/11/09 業界コラム 産業と教育の現場から No.12 未来の研究開発リーダーに贈るメッセージ ~これからの学会との付き合い方~ 2010/10/05 業界コラム 産業の教育と現場から No.11 タフな学生を育てるためのコンテストの活用法 2010/09/07 業界コラム 産業の教育と現場から No.10 学部4年生のためのもう一つの発表会 2010/08/03 業界コラム 産業の教育と現場から No.9 留学生の慶事 2010/07/07 業界コラム 産業の教育と現場から No.8 産学官連携功労者表彰を通じて学んだもの 2010/06/08 業界コラム 産業の教育と現場から No.7 若手人材育成を意識した同窓会の活用法 2010/05/12 業界コラム 産業の教育と現場から No.6ホロニックエネルギーシステムの実現に向けて 2010/04/06 業界コラム 産業の教育と現場から No.5PBL教育を通じて日本のガラパゴス化を阻止しよう! 2010/03/02 業界コラム 産業の教育と現場から No.4 ゆとり世代ついに研究室に現る ! 2010/02/09 業界コラム 産業の教育と現場から No.3 就活学生に贈るメッセージ~エネルギー作物栽培の体験から~ 2010/01/13 業界コラム 産業の教育と現場から No.2 手料理コンパと工学教育 2009/12/01 業界コラム 産業の教育と現場から No.1メンテナンスの現場から学ぶべきもの 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月