早稲田大学教授・東京大学名誉教授

金子 成彦

1972年 山口県立山口高等学校理数科1期卒
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1972年 山口県立山口高等学校理数科1期卒
1976年 東京大学工学部機械工学科卒
1978年 東京大学大学院工学系研究科舶用機械工学科修士課程修了
1981年 東京大学大学院工学系研究科舶用機械工学科博士課程修了(工学博士)
同年   東京大学工学部舶用機械工学科講師
1982年 東京大学工学部舶用機械工学科助教授
1985年-1986年 マギル大学機械工学科客員助教授
1990年 東京大学工学部附属総合試験所機械方面研究室助教授
1993年 東京大学工学部舶用機械工学科助教授
1995年 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻助教授
2003年 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻教授
2018年 早稲田大学理工学術院創造理工学部客員教授
2019年 早稲田大学理工学術院国際理工学センター教授
2019年 東京大学名誉教授
2019年 日本機械学会名誉員
2020年 自動車技術会名誉会員

2009年4月に東大総長に就任された濱田総長は、社会を覆っている閉塞感を打破するような活力に満ちた『タフな学生』をつくることをキャッチフレーズにされている。 タフの中身は、以下を指すようである。

『タフな学生とは』

  • がんばれること。へこたれないでいられること。「いっぱいいっぱい」を楽しめること。
  • 社会への責任と自分への責任を併せ持てること。
  • 無理だと思ってもコミュニケーションを試み続けられること。

小生は、かねてより頭でっかちになりがちな学生に欠けているものを補う機会は、様々な場を通じての他流試合であると認識していた。今回は、コンテストを通じての教育について紹介したい。

機械系学生対象のコンテスト

最近では、学生が参加するコンテストは、ビジネスコンテスト発明コンテストから、ものづくり系のものまで、様々なものが用意されている。機械系の学生が参加する主なものには、鳥人間コンテストNHK大学ロボコン全日本 学生フォーミュラ大会~ ものづくり・デザインコンペティション ~ESV(Enhanced safety vehicle)国際学生安全技術デザインコンペティションNI(National Instruments)アプリケーションコンテストなどがある。

研究室単位でのコンテストへの参加

当研究室では、小生が指導教員となってESV国際学生安全技術デザインコンペティションとNIアプリケーションコンテストに毎年継続して参加しており、受賞した経験も持っている。

特に、ESVデザインコンペでは、2009年に国内最優秀賞に選ばれ、2名の学生を国際大会に送ることができた。国際大会では、受賞は逃したものの、技術的特徴は出せたと思っている。なお、学生のコンテスト参戦記は自動車技術会のWEB雑誌「モーターリンク、No.29(2009年10月)」に記載されているので、興味を持たれた方は、ご一読頂きたい。

そもそもESVとは、「安全性を更に高めた車」という意味で、ESV国際会議は、欧米にて隔年で開催されており、2009年時点で21回目を数える。自動車会社や自動車部品メーカーが革新的な安全技術を展示公開するとともに、論文発表を行う場として継続して開催されている。この国際会議に併設して学生安全技術デザインコンペが開かれているのである。

コンペでは、各大学・大学院の学生チームが、独自に考案した安全問題解決のための技術アイデアを発表し、その斬新さや発展性、実用性などを競う。発表はスケールモデルを用いて行うため、アイデアだけでなく技術的な裏付けや十分な検証が要求される。なお、2年に一度、世界各地域の予選を勝ち抜いた代表校が集まり国際大会が開催されるが、代表選考を兼ねる日本地域大会は毎年自動車技術会主催で開催されている。

学生が得たもの、指導教員が得たもの

2009年に学生が提案したテーマは「接地面への粘着剤塗布による制動距離短縮システム」で、ディスクブレーキを登載した1/10スケールモデルのラジコンと路面状態を摸擬したモーター駆動の回転ドラムを用いたプロトタイプを製作し、タイヤ接地面に粘着剤を塗布することで制動トルクが上昇することを示すことが出来た。

学生は、普段の研究では経験できないチームワーク、役割分担の決め方、限られた予算の有効な活用法、ピンチに動じない安定感、相手を納得させるプレゼン術、短時間で纏め上げる段取り力を獲得したと考えている。

また、指導教員側は、毎回ハラハラさせられるものの、学生を信じる気持ちの重要さ、夢を持つことの大切さを学生から教えられている。さらに、後輩たちは次年度の課題設定の参考にするため、審査の場での審査委員と発表学生とのやりとりを一言も漏らすまいとして緊張して聞いている。目下のところ、日本語でのプレゼンや質疑応答の質はだいぶ改善されてきたが、まだ英語での発表や質疑応答に耐え得るだけの力量を身に付けるところまでには到達していない。これは今後の課題である。

2009年ESVテーマ 「接地面への粘着剤塗布による制動距離短縮システム」コンセプト

終わりに

以上のように、大学では、サークル単位あるいは研究室単位での従来型の研究活動では経験できない体験も学生に積ませるべく、様々な場を提供するよう努力を続けている。多くの学生が、大学時代に海外に出掛けて行って他流試合を通じて自分達の置かれた立場や弱さに気づいて、高いモチベーションを持って社会に巣立ってくれれば本望である。
しかし、そもそも『タフな学生』とはどのような資質をもった学生であろうか。読者の皆様の周辺でも一度話題にして頂ければ幸いである。

2009年学生安全技術デザインコンペティション日本地域決勝大会 東京大学が最優秀チームに決定