2010/03/02 業界コラム 金子 成彦 産業の教育と現場から No.4 ゆとり世代ついに研究室に現る ! 東京大学名誉教授・元早稲田大学教授 金子 成彦 1972年 山口県立山口高等学校理数科1期卒 ...もっと見る 1972年 山口県立山口高等学校理数科1期卒 1976年 東京大学工学部機械工学科卒 1978年 東京大学大学院工学系研究科舶用機械工学科修士課程修了 1981年 東京大学大学院工学系研究科舶用機械工学科博士課程修了(工学博士) 同年 東京大学工学部舶用機械工学科講師 1982年 東京大学工学部舶用機械工学科助教授 1985年-1986年 マギル大学機械工学科客員助教授 1990年 東京大学工学部附属総合試験所機械方面研究室助教授 1993年 東京大学工学部舶用機械工学科助教授 1995年 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻助教授 2003年 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻教授 2018年 早稲田大学理工学術院創造理工学部客員教授 2019年 早稲田大学理工学術院国際理工学センター教授 2019年 東京大学名誉教授 2019年 日本機械学会名誉員 2020年 自動車技術会名誉会員 大学の2月は試験や卒論、修論の締め切り時期が重なり、教員も学生も最も忙しい時期である。卒論の指導にあたり、今年はいつもの年とは違った経験をした。締め切りが来ても切迫感を感じていない学生が登場したのである。学生は、普段はのんびり構えていても、ゴールが近づくと全力で駆け抜けるものと思っていた小生は少なからず衝撃を覚えた。そう、ゆとり世代の登場である。ゆとり世代とは、2002年度学習指導要領(ゆとり教育の実質的な開始)による教育を受けた世代のことで、高校入学から7年目を迎えた2009年度に最初の学生が大学4年生になり研究室に配属となった訳である。 仕事振りを見ていると、分からないことは隣で仕事している学生に聞いたり、手に負えないことは頼んだり、先輩方の仕事振りを見て学ぶという、これまでの学生が普通に行っていたことが出来ない、いわゆる段取り力が身についていないことに気づいた。また、仕事の大きさが読めない、仕事のペース配分にムラがあり時間管理が出来ない、自分の興味のゾーンにはまると深く掘り下げようとするものの知識が上滑りしていて有意な結論を導き出すまでには至らない、などの特徴がある。しかし、中には、周囲の人に聞かない分だけ独創的な仕事が出来る学生も含まれているような気がする。ただし、そのために必要なポテンシャルが備わっていることが前提ではあるが。 仏教用語に卒啄同時 (そったくどうじ) という言葉がある。卵の中からヒナが殻を破って生まれ出ようとする瞬間、内側からヒナが殻をつつくのを「そつ」、外から親鳥がつつくのを「啄」という。このタイミングが合わないとヒナは死んでしまう。大学の教員の役割は、学生の向学心、好奇心の手助けをし、殻を打ち破るための手助けをするものだと指導教官から教わってきた小生には、このやり方が通用しない世代が登場したことに時代の流れを感じる。 最近、ゆとり世代の教育を大学よりも先に経験された高校の先生方に生徒の学習態度の変化について伺う機会があった。グループで勉強することが多く、受験勉強を個人競技と捉えているのではなく団体競技と捉えている。また、物分りは良いが、自分で考えようとしない、答えをすぐに求めて、それを覚えようとするといった特徴があるとの事。 また、大学で基礎科目を教えている先生にも、最近の学部学生の勉学態度について伺った。別の解法で解いてみなさいと学生に勧めたところ、「別の解き方で解ける確証がないとやりません」といって来た学生がいたのに驚かされたとのことであった。どうやら、無駄を省いて最短距離で通過しようとしているようで、人とは違った別のエレガントな解法を見つけたことを喜びと感じていた時代の学生とは感性が違っているようである。 先の見通しが立ちにくくなってきた日本社会に、少子化、高齢化だけでなくゆとり世代が社会の表舞台に登場する時代の到来という第3の課題が顕在化していることを認識した。皆様の近くにこのような学生が配属される日もそう遠くはないものと思われます。基礎教育や一般教養のあり方、情報や知識の価値と評価など、産学官でゆとり世代の育成方針についての意見交換の場が必要なのかも知れません。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 東京大学名誉教授・元早稲田大学教授 金子 成彦さんのその他の記事 2025/01/15 業界コラム 人生の低山を歩く 2024/01/10 業界コラム あんたぁ先頭 ! 2023/01/11 業界コラム トランジェントな時代を生きる ( 4 ) 2022/01/12 業界コラム トランジェントな時代を生きる ( 3 ) 2021/01/12 業界コラム トランジェントな時代を生きる ( 2 ) 2020/01/08 業界コラム トランジェントな時代を生きる 2019/01/09 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの冬休み小旅行(ハウステンボス・湯田温泉編) 2018/01/10 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの冬休みの小旅行(京都・尾道編) 2017/02/07 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの(研究環境の来し方行く末) 2017/01/11 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの(冬休み小旅行編) 2016/02/09 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの(立春編) 2016/01/13 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの(初詣編) 2013/08/03 業界コラム 日本機械学会会長の経験を通じて (その3) 日英文化交流活動 2013/07/09 業界コラム 日本機械学会会長の経験を通じて (その2) アジア圏との国際交流活動 2013/06/11 業界コラム 日本機械学会会長の経験を通じて (その1) 東日本大震災対応 2010/11/09 業界コラム 産業と教育の現場から No.12 未来の研究開発リーダーに贈るメッセージ ~これからの学会との付き合い方~ 2010/10/05 業界コラム 産業の教育と現場から No.11 タフな学生を育てるためのコンテストの活用法 2010/09/07 業界コラム 産業の教育と現場から No.10 学部4年生のためのもう一つの発表会 2010/08/03 業界コラム 産業の教育と現場から No.9 留学生の慶事 2010/07/07 業界コラム 産業の教育と現場から No.8 産学官連携功労者表彰を通じて学んだもの 2010/06/08 業界コラム 産業の教育と現場から No.7 若手人材育成を意識した同窓会の活用法 2010/05/12 業界コラム 産業の教育と現場から No.6ホロニックエネルギーシステムの実現に向けて 2010/04/06 業界コラム 産業の教育と現場から No.5PBL教育を通じて日本のガラパゴス化を阻止しよう! 2010/03/02 業界コラム 産業の教育と現場から No.4 ゆとり世代ついに研究室に現る ! 2010/02/09 業界コラム 産業の教育と現場から No.3 就活学生に贈るメッセージ~エネルギー作物栽培の体験から~ 2010/01/13 業界コラム 産業の教育と現場から No.2 手料理コンパと工学教育 2009/12/01 業界コラム 産業の教育と現場から No.1メンテナンスの現場から学ぶべきもの 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月