2010/09/07 業界コラム 金子 成彦 産業の教育と現場から No.10 学部4年生のためのもう一つの発表会 東京大学名誉教授・元早稲田大学教授 金子 成彦 1972年 山口県立山口高等学校理数科1期卒 ...もっと見る 1972年 山口県立山口高等学校理数科1期卒 1976年 東京大学工学部機械工学科卒 1978年 東京大学大学院工学系研究科舶用機械工学科修士課程修了 1981年 東京大学大学院工学系研究科舶用機械工学科博士課程修了(工学博士) 同年 東京大学工学部舶用機械工学科講師 1982年 東京大学工学部舶用機械工学科助教授 1985年-1986年 マギル大学機械工学科客員助教授 1990年 東京大学工学部附属総合試験所機械方面研究室助教授 1993年 東京大学工学部舶用機械工学科助教授 1995年 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻助教授 2003年 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻教授 2018年 早稲田大学理工学術院創造理工学部客員教授 2019年 早稲田大学理工学術院国際理工学センター教授 2019年 東京大学名誉教授 2019年 日本機械学会名誉員 2020年 自動車技術会名誉会員 大学生は、夏休みに入ると、運動部やサークルの合宿、旅行などで過ごすのが一般的であるが、4年生になると様子が変わってくる。東大機械系では7月中旬に卒論の中間発表会が待っている。4月に研究室に配属になってから3ヶ月間に見せる学生の伸びはすばらしく、この時期に発表概要を纏め、パワーポイントで発表できるようになっているのは研究室での指導によるところが大きい。中間発表では問題設定、作業内容、進捗状況について試問教員からチェックを受け、指摘を受けた内容を2月上旬締め切りの卒論に反映させるのである。 4年生の夏休みの過ごし方さて、この発表会を境に大半の学生は8月末に控える大学院入試の勉強に突入する。まさに暑い夏を過ごすのである。院試対策の勉強は専門領域についての知識を再確認する役割を持っており、この時期の集中勉強は、知識の定着に一役買っていることは確かである。 しかし、暑い夏にダラダラ勉強していても能率は上がらないので、小生の研究室では、一服の清涼剤として、ある発表会に参加することを慣例としている。 「おもしろメカ」の枠組み2010年おもしろメカで説明する学生諸君 4年生が担当しているのは、日本機械学会関東支部主催の「おもしろメカニカルワールド(略称:おもしろメカ)」というイベントの説明員である。この企画は、1994年に始まり、現在は、日本機械学会が定めた「機械の日(8月7日)」の周辺で全国展開されているイベントの一つにもなっている。 この企画は、元々、国立科学博物館(上野本館)の夏休み行事の一環として小中学生を対象にして毎年開催されている「夏休みサイエンススクエア」の中の企画としてスタートした。 今年は、7月27日~8月22日までの間に開催された。機械、電気、化学をはじめ様々な学会や研究機関の協力で面白い企画がたくさん集められているため、夏休みの自由研究のネタ探しには格好の場にもなっている。 日本機械学会関東支部主催の「おもしろメカ」の特徴は、各研究室で作成した模型を使って実験を行うことで、機械工学の原理を平易にやさしくわかりやすく示し、子供たちに慣れ親しんでもらう参加形式を心がけている。 今年の出しものは、次の4テーマであった。 ブランコはなぜゆれるの(東京工業大学:木村研究室) 自分で作れる!ちょっと不思議なやじろべい(埼玉大学:佐藤研究室) 地球に優しいクリーンエネルギー(早稲田大学:勝田研究室) あれ,水タンクで建物の揺れが止まるよ(東京大学:金子研究室) 金子研究室の展示内容と紹介の仕方小生の研究室のテーマは、建物を模した振動系の上に水を入れた透明な容器を取り付け、水の動揺によって発生する力で振動を速やかに減衰させられることをデモするものである。容器の形状や中に入れる水の量の加減で減衰しなかったり、減衰が早まったりする。原理は、いわゆる「ダイナミックダンパー」というものである。このテーマは、バブル期に大手ゼネコンと共同研究していた「スロッシングダンパー」に由来している。したがって、知識としては纏まった形になっており、実用例も写真で見せることができる。 問題は、学生の説明である。小学生に分かるように説明するというのがポイントで、これが学生諸君の頭を悩ませることになる。この企画が始まった当初は、小生がネタを書いて、Q&Aメモも用意してノウハウを伝授していたが、その内容は代々受け継がれ毎年少しずつアレンジされ、その年の4年生に伝えられている。 参加学生への効果説明する学生とサイエンス ボランティアの方々通常、学生にとっての発表の場は、研究室内部の研究会、卒論中間発表会や最終発表会、学会の講演会である。このような機会では、聴衆は専門家であり、発表時間も限られている。また、質疑応答が評価対象になっていることも多く、その場を切り抜けたいという衝動に駆られる学生も多く見られる。 一方、「おもしろメカ」は聴衆の大多数が小学生で、如何に興味を引きつけるか、おもしろさを理解させるかがポイントである。めったに得られない、専門家ではない人に説明する機会が与えられることは学生にとってのメリットである。さらに、人を喜ばせることの重要性に学生に気付いてくれれば大成功である。 小生は、学生が普段研究室で見せない側面を見るのが楽しみで、意外な学生が子供に受けるスキルを持っていることを発見したときにはうれしくなる。ただし、父兄の中にたまに専門家が混ざっていて、学生の肝を冷やすような質問が飛んでくることがあり、このようなときには、説明終了後、真摯な態度で応える必要がある。そこで、このようなケースのために別途専門家向けの資料を用意している。 今後に向けて目下のところ、夏休みサイエンススクエアは、サイエンスボランティアの方々のご協力もあり、大人気を博している。このような企画に協力できるのは光栄であり、小生の研究室の学生諸君は運の良い学 生である。学生諸君がサイエンスマインドやもの作りの楽しさを次世代に繋ぐことの重要性に気付き、具体的な行動を起こす切っ掛けになることを祈っている。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 東京大学名誉教授・元早稲田大学教授 金子 成彦さんのその他の記事 2025/01/15 業界コラム 人生の低山を歩く 2024/01/10 業界コラム あんたぁ先頭 ! 2023/01/11 業界コラム トランジェントな時代を生きる ( 4 ) 2022/01/12 業界コラム トランジェントな時代を生きる ( 3 ) 2021/01/12 業界コラム トランジェントな時代を生きる ( 2 ) 2020/01/08 業界コラム トランジェントな時代を生きる 2019/01/09 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの冬休み小旅行(ハウステンボス・湯田温泉編) 2018/01/10 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの冬休みの小旅行(京都・尾道編) 2017/02/07 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの(研究環境の来し方行く末) 2017/01/11 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの(冬休み小旅行編) 2016/02/09 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの(立春編) 2016/01/13 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの(初詣編) 2013/08/03 業界コラム 日本機械学会会長の経験を通じて (その3) 日英文化交流活動 2013/07/09 業界コラム 日本機械学会会長の経験を通じて (その2) アジア圏との国際交流活動 2013/06/11 業界コラム 日本機械学会会長の経験を通じて (その1) 東日本大震災対応 2010/11/09 業界コラム 産業と教育の現場から No.12 未来の研究開発リーダーに贈るメッセージ ~これからの学会との付き合い方~ 2010/10/05 業界コラム 産業の教育と現場から No.11 タフな学生を育てるためのコンテストの活用法 2010/09/07 業界コラム 産業の教育と現場から No.10 学部4年生のためのもう一つの発表会 2010/08/03 業界コラム 産業の教育と現場から No.9 留学生の慶事 2010/07/07 業界コラム 産業の教育と現場から No.8 産学官連携功労者表彰を通じて学んだもの 2010/06/08 業界コラム 産業の教育と現場から No.7 若手人材育成を意識した同窓会の活用法 2010/05/12 業界コラム 産業の教育と現場から No.6ホロニックエネルギーシステムの実現に向けて 2010/04/06 業界コラム 産業の教育と現場から No.5PBL教育を通じて日本のガラパゴス化を阻止しよう! 2010/03/02 業界コラム 産業の教育と現場から No.4 ゆとり世代ついに研究室に現る ! 2010/02/09 業界コラム 産業の教育と現場から No.3 就活学生に贈るメッセージ~エネルギー作物栽培の体験から~ 2010/01/13 業界コラム 産業の教育と現場から No.2 手料理コンパと工学教育 2009/12/01 業界コラム 産業の教育と現場から No.1メンテナンスの現場から学ぶべきもの 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月