早稲田大学教授・東京大学名誉教授

金子 成彦

1972年 山口県立山口高等学校理数科1期卒
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1972年 山口県立山口高等学校理数科1期卒
1976年 東京大学工学部機械工学科卒
1978年 東京大学大学院工学系研究科舶用機械工学科修士課程修了
1981年 東京大学大学院工学系研究科舶用機械工学科博士課程修了(工学博士)
同年   東京大学工学部舶用機械工学科講師
1982年 東京大学工学部舶用機械工学科助教授
1985年-1986年 マギル大学機械工学科客員助教授
1990年 東京大学工学部附属総合試験所機械方面研究室助教授
1993年 東京大学工学部舶用機械工学科助教授
1995年 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻助教授
2003年 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻教授
2018年 早稲田大学理工学術院創造理工学部客員教授
2019年 早稲田大学理工学術院国際理工学センター教授
2019年 東京大学名誉教授
2019年 日本機械学会名誉員
2020年 自動車技術会名誉会員

大学生は、夏休みに入ると、運動部やサークルの合宿、旅行などで過ごすのが一般的であるが、4年生になると様子が変わってくる。東大機械系では7月中旬に卒論の中間発表会が待っている。4月に研究室に配属になってから3ヶ月間に見せる学生の伸びはすばらしく、この時期に発表概要を纏め、パワーポイントで発表できるようになっているのは研究室での指導によるところが大きい。中間発表では問題設定、作業内容、進捗状況について試問教員からチェックを受け、指摘を受けた内容を2月上旬締め切りの卒論に反映させるのである。

4年生の夏休みの過ごし方

さて、この発表会を境に大半の学生は8月末に控える大学院入試の勉強に突入する。まさに暑い夏を過ごすのである。院試対策の勉強は専門領域についての知識を再確認する役割を持っており、この時期の集中勉強は、知識の定着に一役買っていることは確かである。 しかし、暑い夏にダラダラ勉強していても能率は上がらないので、小生の研究室では、一服の清涼剤として、ある発表会に参加することを慣例としている。

「おもしろメカ」の枠組み

2010年おもしろメカで説明する学生諸君

4年生が担当しているのは、日本機械学会関東支部主催の「おもしろメカニカルワールド(略称:おもしろメカ)」というイベントの説明員である。この企画は、1994年に始まり、現在は、日本機械学会が定めた「機械の日(8月7日)」の周辺で全国展開されているイベントの一つにもなっている。

この企画は、元々、国立科学博物館(上野本館)の夏休み行事の一環として小中学生を対象にして毎年開催されている「夏休みサイエンススクエア」の中の企画としてスタートした。
今年は、7月27日~8月22日までの間に開催された。機械、電気、化学をはじめ様々な学会や研究機関の協力で面白い企画がたくさん集められているため、夏休みの自由研究のネタ探しには格好の場にもなっている。
日本機械学会関東支部主催の「おもしろメカ」の特徴は、各研究室で作成した模型を使って実験を行うことで、機械工学の原理を平易にやさしくわかりやすく示し、子供たちに慣れ親しんでもらう参加形式を心がけている。

今年の出しものは、次の4テーマであった。

  • ブランコはなぜゆれるの(東京工業大学:木村研究室)
  • 自分で作れる!ちょっと不思議なやじろべい(埼玉大学:佐藤研究室)
  • 地球に優しいクリーンエネルギー(早稲田大学:勝田研究室)
  • あれ,水タンクで建物の揺れが止まるよ(東京大学:金子研究室)

金子研究室の展示内容と紹介の仕方

小生の研究室のテーマは、建物を模した振動系の上に水を入れた透明な容器を取り付け、水の動揺によって発生する力で振動を速やかに減衰させられることをデモするものである。容器の形状や中に入れる水の量の加減で減衰しなかったり、減衰が早まったりする。原理は、いわゆる「ダイナミックダンパー」というものである。このテーマは、バブル期に大手ゼネコンと共同研究していた「スロッシングダンパー」に由来している。したがって、知識としては纏まった形になっており、実用例も写真で見せることができる。
問題は、学生の説明である。小学生に分かるように説明するというのがポイントで、これが学生諸君の頭を悩ませることになる。この企画が始まった当初は、小生がネタを書いて、Q&Aメモも用意してノウハウを伝授していたが、その内容は代々受け継がれ毎年少しずつアレンジされ、その年の4年生に伝えられている。

参加学生への効果

説明する学生とサイエンス ボランティアの方々

通常、学生にとっての発表の場は、研究室内部の研究会、卒論中間発表会や最終発表会、学会の講演会である。このような機会では、聴衆は専門家であり、発表時間も限られている。また、質疑応答が評価対象になっていることも多く、その場を切り抜けたいという衝動に駆られる学生も多く見られる。

一方、「おもしろメカ」は聴衆の大多数が小学生で、如何に興味を引きつけるか、おもしろさを理解させるかがポイントである。めったに得られない、専門家ではない人に説明する機会が与えられることは学生にとってのメリットである。さらに、人を喜ばせることの重要性に学生に気付いてくれれば大成功である。

小生は、学生が普段研究室で見せない側面を見るのが楽しみで、意外な学生が子供に受けるスキルを持っていることを発見したときにはうれしくなる。ただし、父兄の中にたまに専門家が混ざっていて、学生の肝を冷やすような質問が飛んでくることがあり、このようなときには、説明終了後、真摯な態度で応える必要がある。そこで、このようなケースのために別途専門家向けの資料を用意している。

今後に向けて

目下のところ、夏休みサイエンススクエアは、サイエンスボランティアの方々のご協力もあり、大人気を博している。このような企画に協力できるのは光栄であり、小生の研究室の学生諸君は運の良い学 生である。学生諸君がサイエンスマインドやもの作りの楽しさを次世代に繋ぐことの重要性に気付き、具体的な行動を起こす切っ掛けになることを祈っている。