2013/07/09 業界コラム 金子 成彦 日本機械学会会長の経験を通じて (その2) アジア圏との国際交流活動 早稲田大学教授・東京大学名誉教授 金子 成彦 1972年 山口県立山口高等学校理数科1期卒 ...もっと見る 1972年 山口県立山口高等学校理数科1期卒 1976年 東京大学工学部機械工学科卒 1978年 東京大学大学院工学系研究科舶用機械工学科修士課程修了 1981年 東京大学大学院工学系研究科舶用機械工学科博士課程修了(工学博士) 同年 東京大学工学部舶用機械工学科講師 1982年 東京大学工学部舶用機械工学科助教授 1985年-1986年 マギル大学機械工学科客員助教授 1990年 東京大学工学部附属総合試験所機械方面研究室助教授 1993年 東京大学工学部舶用機械工学科助教授 1995年 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻助教授 2003年 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻教授 2018年 早稲田大学理工学術院創造理工学部客員教授 2019年 早稲田大学理工学術院国際理工学センター教授 2019年 東京大学名誉教授 2019年 日本機械学会名誉員 2020年 自動車技術会名誉会員 日本機械学会は、発足の時点にお手本とした英国機械学会や、規格基準や研究を通じて関係の深い米国機械学会以外に、韓国、中国、インドネシアを初めとするアジア圏の機械学会と交流を深めつつあります。会長を務めさせて頂いた間にタイとベトナムを訪問する機会がありました。訪問した季節は日本では涼しさを感じ始める 10 月下旬でしたが、発展段階は違うものの工業が発展しつつある両国で工学を担う若者から熱気を感じてきました。 タイ機械学会への参加久しぶりに訪れたバンコクの玄関は、旧国際空港のドンムアン空港ではなくパリのシャルルドゴール空港を思わせるようなスワンナブーム国際空港に変わっていました。ここで乗り換えて飛行機で 1 時間 20 分、タイの北端でミャンマー国境にほど近いチャンライが今回の訪問地でした。北タイの風景はどこか日本の農村の原風景を感じさせるのんびりした雰囲気ですが、道路を走っている車は手入れが行き届いた最近の日本車が多く、現地の人の収入とのバランスを考えると、どうやって購入するのか不思議に思いました。物価が安く人も素朴なこの町には、フランスやドイツあたりから移り住んだリタイヤ組も見かけました。日本語学校もあり、レストランのウェイターの中には日本語ができる若者もいます。空港の待合室の雰囲気からすれば日本人も結構住んでいるような感じです。町の中心街から少し離れた場所にある Dusit Island Resort Hotel が 2012 年度のタイ機械学会の会場でした。主催者の話では毎回参加者の関心を引くようなリゾートを会場に選んでいるとのことで、次年度はバンコクからそれほど離れていないパタヤビーチが会場に選ばれています。 会議のテーマは「Following His Majesty’s Footsteps: Sustainable Development through Research」で、2012 年が国王 84 才(12 年 ×7 巡)の記念すべき年であることから、Sustainability がメインテーマに取り上げられていました。 印象的だったのは、開会式後の基調講演で、まず、皇室評議委員の方から「タイの機械・農業工学における現国王の貢献」と題する講演が行われ、タイでは皇室、特に現国王が強く尊敬されていることを再認識しました。また、二つ目の基調講演として、登壇された方は、タイと米国で教育を受け、製糖会社の経営者として成功された方で、タイ国内はもとより中国とオーストラリアで合計 21 の工場を管理運営されている製糖会社の社長さんでした。この方は講演の中で現状のタイの大学における技術者教育に厳しい意見を述べられましたが、指摘された内容はそのまま日本の大学教育に通じるものであったことに感心しました。 研究発表は3日間で合計、英語一般講演が 105 件、タイ語の講演と合わせて 300 を超える発表件数でした。講演室は7室を使い、AEC(エネルギと燃焼)、AME(航空海洋工学)、AMM(応用力学と材料)、BME(バイオ)、CST(計算力学)、DRC(動的系とロボット、制御)、ETM(エネルギ工学)、 TSF(熱流体力学)の 8 分野に分けられ、各分野で Best Paper Award が選ばれました。研究発表では、タイの学生の発表する論文の指導に欧米人や日本人があたっているケースもあり、タイの著名大学では外国人客員教授による指導の効果が出始めていると感じました。 チャンライ郊外の風景(ホテルのベランダから)学会の最終日の夜のバンケットは、特設ステージを設けた戸外で開かれました。北タイの特徴的な舞踊やバンコクからプロ歌手を連れてくるなど、入念に準備されたものでしたが、余興としてビールの早飲み競争が組み込まれており、若干アルコール度数の低いビールを 5 名一組でチームを作って大学対応で飲み比べるイベントは熱気あふれるものでした。 ここチャンライでは、毎年 11 月の満月の夜に、自然の恵みへの感謝の気持ちと豊かで幸な未来への願いを込めて灯篭を夜空に飛ばす習慣があります。これはスカイランタン(タイ語ではコームロイ)と呼ばれているものです。バンケットの終わりの方では、あちこちで打ち上げが始まりました。こうして幻想的な雰囲気の中でチャンライの夜は更けてゆきました。 スカイランタンの打ち上げに参加した筆者 幻想的なスカイランタン ハノイ工科大学訪問チャンライでのタイ機械学会参加後、ベトナム機械学会と日本機械学会の学会同士の交流協定締結の準備交渉のためハノイ工大を訪問しました。チャンライとハノイ間は直線で結ぶと距離は短いのですが、直行便はないため、一旦バンコクのスワンナブーム国際空港に戻り、ここを経由して 1 時間半のフライトでハノイのノイバイ空港に到着しました。 この時期、ハノイ湾あたりに季節外れの台風が止まっていて折あしく雨降りで遠くの景色は霞んでいましたが、空港から市内へ向かう高速道路は整備されていて、道路の周辺は建設ラッシュであることは分かりました。最近、日本企業が沢山進出しているようで、日本企業の看板や、日本製のバイクが目立ちました。まだ地下鉄がなく、市内の交通はモーターバイク中心ですが、発展のスピードは極めて早く、今後はインフラの整備が急速に進むものと感じました。 都心部に向かう道路の交通状況ハノイ工科大学(Hanoi University of Science and Technology、 最近になり Science が名称に追加された)は、理工系大学としてベトナムでトップレベルの教育機関であり、政府や官庁などを含めて多くの理工系人材を輩出している大学です。機械系を中心にハノイ工科大学の現状を聞いたところ、ベトナムは第二次世界大戦の後、東西冷戦時代には大学教員の人材育成がソ連や東ドイツなどを中心になされたこと、現在の政府は大学のレベル向上のため未だ少ない博士号取得者を増やす政策などを進めていることを伺いました。近年はドイツ、フランス、米国、日本などでの学位取得者が増えているものの、留学志望者の数は多く、日本に留学を希望している学生も多いとのことでした。 ハノイ工科大学正門 ハノイ工科大学の建物 講堂内に置かれた ホー・チ・ミンの胸像続いて、同大学の副学長と面会しました。副学長の教育上の肩書は准教授であり、タイと同様、大学行政上の地位と教員としての肩書(教授、准教授)に強い関連はないようでしたが、副学長はアジア工科大学で教えていた経験もあり、かなり英語が堪能でした。若手幹部の強いリーダーシップのもと、急ピッチで先進国に追いつこうとしていることを感じました。 ところで、ハノイ工科大学訪問にあたりお世話をしてくれた若手教員から聞いた話は今でも忘れられません。彼は、ベトナムの高校を卒業した後、日本語ができないまま来日して静岡県の茶畑で茶摘みのアルバイトをし、その間に日本語学校に通い日本語をマスターして、次にファーストフード店に勤めて、最後は店長まで昇格したそうです。お金を貯めてからは受験勉強して、東京工業大学の一般入試を受験して合格し、学部、修士を卒業して、ハノイ工科大学の講師に採用されたとのことです。日本に留学した動機を伺ったところ、「おしん」を見て日本にあこがれたとのことでした。このドラマは 1983 年から 1 年間にわたって放送されたものですが、「おしん」は勤勉に働いていればいつか報われるという元気を与えてくれるそうです。 「おしん」の話は、タイでも学生が日本について語るときに話題にしていました。帰国後、講義時間の終わりの方で「おしん」を知っているかどうか日本の学生に聞いたところ、知っていた学生は 130 名中 1 名だけでした。残念ながら「おしん」を見て心に火をつけたのは東南アジアの学生だったようです。 長州ファイヴ英国上陸 150 周年さて、ハノイ工科大学の若手教員のことから思い出したことに長州ファイヴのことがあります。井上聞多(井上馨)、遠藤謹助、山尾庸三、伊藤俊輔(伊藤博文)、野村弥吉(井上勝)の長州藩士 5 名のことは長州五傑または、2006 年に製作された映画のタイトルから長州ファイヴと呼ばれています。当時幕府は海外渡航を禁じていましたが、西欧の状況を視察して将来に備えるために、「生きた器械」となることを託されて長州藩から英国に送り出されていたのがこの 5 名でした。おそらく伊豆下田沖に停泊中の外国船に乗り込んで海外渡航を試みて失敗した吉田松陰の行動が長州の若者の心に火をつけたと思われます。帰国後の長州ファイヴの活躍を見るとき、彼らは使命感一杯で留学時代を過ごしたに違いありません。 今年は長州ファイヴが英国に上陸して丁度 150 周年の年を迎えています(注 1)。今年から数年間は、明治維新 150 周年を記念する行事が国内で企画(注 2)されています。小生も、来週は、山尾庸三の功績と工部大学校についてグラスゴーで講演(注 3)することになっています。 日本の若者気質と海外体験多様化が進んでいる日本の若者に目を移してみましょう。最近、なかなか日本人学生が海外に出たがらないという話を耳にすることが増えました。小生の研究室周辺の学生を見ていますと、二極化されているように思います。 一つの集団は、平素からアルバイトなどで計画的に資金を貯めて、休暇期間や大学からの派遣の機会を活用して海外に積極的に出かけ、見聞を広め、欧米諸国だけでなく、アジアや中近東諸国まで見て回る学生。もう一つの集団は、国内温泉旅行組です。どうやら大学に入学するまでの競争に疲れてしまった学生はこちらが多いようです。研究室では、前者のグループに入る学生が多くなるように、欧米だけでなく、アジアやエジプトからも留学生を迎えて、日本人学生が海外に関心を持ってくれるよう働きかけています。最近、東大では 9 月入学の検討が行われてきました。4 月から 9 月の間にギャップイヤーを設けて入学前の学生に様々な体験をしてもらう期間を設けようとしたものです。実現に向けて困難な問題は横たわっているかもしれませんが、学生の心に火をつけるような活動になって欲しいと考えています。 (注 1) ・http://www.uk.emb-japan.go.jp/jp/event/2013/choshu/info.html ・https://sites.google.com/site/kagakushanetwork/news/the150yearsanniversaryofuk-japanacademicinteraction ・http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130703/k10015760181000.html (注 2) ・http://www.oidemase.or.jp/meijiishin/contents01.html ・http://www.city.kagoshima.lg.jp/_1010/kanko/imadoki/_44640/_44682.html (注 3) ・http://www.japandeskscotland.com/activities/japan-matters-lecture/201314-2/yozo-yamao この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 早稲田大学教授・東京大学名誉教授 金子 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Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月