2018/01/10 業界コラム 金子 成彦 大学が変わるべきところ守るべきもの冬休みの小旅行(京都・尾道編) 早稲田大学教授・東京大学名誉教授 金子 成彦 1972年 山口県立山口高等学校理数科1期卒 ...もっと見る 1972年 山口県立山口高等学校理数科1期卒 1976年 東京大学工学部機械工学科卒 1978年 東京大学大学院工学系研究科舶用機械工学科修士課程修了 1981年 東京大学大学院工学系研究科舶用機械工学科博士課程修了(工学博士) 同年 東京大学工学部舶用機械工学科講師 1982年 東京大学工学部舶用機械工学科助教授 1985年-1986年 マギル大学機械工学科客員助教授 1990年 東京大学工学部附属総合試験所機械方面研究室助教授 1993年 東京大学工学部舶用機械工学科助教授 1995年 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻助教授 2003年 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻教授 2018年 早稲田大学理工学術院創造理工学部客員教授 2019年 早稲田大学理工学術院国際理工学センター教授 2019年 東京大学名誉教授 2019年 日本機械学会名誉員 2020年 自動車技術会名誉会員 東京から実家のある山口市までの途中にある名所旧跡を訪ねる小旅行を数年続けてきました、今回の訪問先は京都と尾道です。 京都では、祇園のフォーエバー現代美術館で開催されている「かぼちゃと水玉」で有名な草間彌生さんの展覧会がお目当てでした。草間さんの初期の作品がたくさん展示されていて、緻密な絵からはエネルギーをもらうことが出来ました。 謹賀新年草間彌生作品 かぼちゃのオブジェと筆者 月並みですが、展示会場からほど近い場所にある清水寺の「戌」の絵馬と狛犬の写真をお届けします。 清水寺の絵馬 清水寺と狛犬 しまなみ海道京都でエネルギーをチャージした後は、兼ねてより一度は自転車で通ってみたいと思っていた「しまなみ海道」に足を延ばしました。尾道から今治に続く約 70 キロの西瀬戸自動車道は、因島大橋から来島海峡大橋までのルートに歩行者、自転車、原動機付自転車が通れる専用道路が併設されていて、自転車愛好家には人気の高いルートです。年末にもかかわらず、海外からもサイクリストが訪れています。 千光寺からみた天寧寺三重塔と新尾道大橋遠景 尾道は坂の町で有名なところです。西回り航路の中継基地として栄えたところで、現在でも 25 の寺院と 6 つの社が山麓部を中心に残っています。とくに有名なのは千光寺で、ここからは、尾道-今治ルートに掛かる最初の橋である新尾道大橋が良く見えます。 尾道港でレンタサイクルを借りて、対岸の向島に渡船で渡ること 3 分(日本一短い船旅だそうです)、そこから自転車道はスタートします。 向島の中では、道路に引かれたブルーのラインと看板に従って走行します。島といってもそれほど実感がなく、陸続きといった感じです。みかんやイチジクの栽培が盛んです。 尾道港 向島のみかん畑 この島に隣接する因島の間には、立派な因島大橋(橋長 1270m、国内 8 位)が掛かっています。 因島大橋 因島大橋自転車道 自転車道は片道 1 キロ程度ですが、爽快な気分が味わえます。自転車道に上るまでのジグザグに蛇行した道は勾配がきつく、息が上がり足がガクガクし、京都で蓄えたエネルギーをここで吐き出します。下り坂を漕ぐのは爽快で、普段の生活でたまったもやもやが晴れます。こんな感じで念願を果たすことができました。 さて、昨年は国内 20 日、海外 40 日、約 2 か月間、学会出張やプロジェクト成果発表、個人旅行等で旅に明け暮れました。 海外では、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、中国に出かけましたが、印象的だったワシントン DC への旅と長沙への旅について説明をしながら大学の来し方行く末について思いを巡らせてみたいと思います。 ワシントン DC3 月初旬にワシントン DC に行き、シーベルエネルギー財団の授賞式に参加しました。我々の「災害時の事業継続性(BCP:Business Continuity Planning)」に関する研究(注 1)が評価され受賞に繋がりました。 (注 1): http://www.siebelenergyinstitute.org/2017-research-grants/ この制度は、IoT ベンチャーを経営している Tom Siebel 氏が資金提供して、サイバーセキュリティに貢献するアイデアを募集し、優れたテーマに対して研究資金を提供して頂けるものです。我々の提案は、地震、津波、台風などの大規模自然災害が発生した際に停電からクラウドサーバーを守るために必要な技術であるとの評価を受けました。授賞式の会場は、恐らく二度と足を踏み入れることはないであろう、米国国家登録財に指定されている National Science of Academyでした。 このような研究支援制度の背景にあるものは、大学発のアイデアを支援する動きです。 アメリカには SBIR(スモールビジネスイノベーション開発法)という法律があり、アメリカ連邦政府の外部委託研究費の一定割合をスモールビジネスに拠出することを義務付けています。1983 年から 2015 年度までの 33 年間で 389 億ドルの資金が投じられています。この制度は起業した大学院生やポスドクが応募できる制度で、8-15 万ドルの賞金が 2 年間期限で与えられます。研究費の獲得者の 74% は博士号を取得した人です。このような活動の中からバイオベンチャーなどがたちあがったのです。成功しているベンチャーを分析すると、コア学問群とサイエンス型ベンチャーに特徴があります。コア学問とは、心理学、哲学、法学、環境学、数学、物理学、化学、生命科学のことで、ちなみに、従来型の工学である機械、電気等はサイエンス型ベンチャーに遠いそうです。(注 2) (注 2):イノベーションはなぜ途絶えたか―科学立国日本の危機 著者:山口栄一、ちくま新書(筑摩書房) 目下の日本の工学教育は、明治以来の基礎学問の体系を基盤として、戦後発展したコンピュータ、情報、通信、地球環境問題あたりで止まっている感じがあり、その先にある何かを追い求める態度を忘れてはいけないことをこの授賞式では感じました。 また、トム・シーベル氏は、自らも複数の専門分野を学ばれた方で、基礎科学から応用科学へ展開でき、時代が抱えている問題が見える人や先が読める若手を育てようとしていて、先見性を持った人物であるとの印象を持ちました。 さらに、主催者側が期待していることは、各国から選ばれた優秀な人材によって構成されたネットワークを活用して IoT 社会が内包している複雑な問題を解き明かす仕組みの提案と、各国が抱える課題をシステムとソフトの力で解決し、それをビジネスに展開するアクションプランでした。 ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンスの建物なお、我々の提案した BCP に関する研究は、その後、災害拠点病院の非常用エネルギー供給設備導入計画の研究へと発展し、2017 年の JST-RISTEX のテーマに採択され、現在、当研究室の上道茜助教を中心に研究が進められています。(注 3) (注 3): http://ristex.jst.go.jp/stipolicy/project/ project25.html エネルギーグリッド・サイバーセキュリティ 脅威と対策 トム・シーベル氏と筆者 長沙訪問フェン君・程永華駐日中国全権大使・筆者昨年 11 月に中国で開催されたアジア太平洋振動会議に参加した際に、かつて、博士課程学生として当研究室に在籍した教え子と再会することが出来たことは小生の喜びでありました。30 歳代で長沙市にある湖南大学の教授に昇進した彼は、1000 人計画で中国に呼び戻された留学生の一人で、本コラムでかつて紹介したフェン・カイ君です。(注 4) (注 4):http://www.shinkawa.co.jp/times/column/s-kaneko/vol9_column_profks.html 湖南大学フェン教授の研究室フェン教授は、博士課程で取り組んだ理論的研究をもとに、特徴あるフォイル軸受設計論に発展させ、進境著しい中国の精密加工技術と連携することに成功して、実際のもの作りまでを手掛けるようになっていました。また、他大学との共同研究や企業との連携の動きを強めており、研究スタイルの改革にも取り組んでいました。さらに、海外や日本からの専門家も招聘しており、活気に満ちた研究が大学で行われ始めています。 湖南大学では短時間ではありましたが、小型分散エネルギー機器に関する講演を行いました。日曜日にもかかわらず、立ち見が出るほど多くの学生さんが参加してくれて、熱心に耳を傾けてくれました。 筆者の講演会の通知 熱気あふれる学生諸君 千年学府湖南大学さて、フェン教授が勤務されている湖南大学について紹介したいと思います。この大学は、千年以上の歴史を有しており、前身は宋時代の「四大書院」の一つである岳麓書院(紀元 976)で、1926 年に「湖南大学」と命名されました。多くの政治家、有名人を輩出している中国でも有名な大学で、学生数 3 万人、教員数 4500 名、敷地面積 146 万平方メートルの大規模大学です。 岳麓書院はたいへん広く、総面積は 21000 平方メートルです。なお、現存している建築は殆んど明清時代のものです。主な建築物は、大門、二門、講堂、半学斎、教学斎、百泉斎、御書楼、湘水校経堂、文廟などです。これらはお互いに繋がり、雄大な中国古代の建築の様子を再現しています。岳麓書院の建築は教学(授業をする所)、蔵書(本を収蔵する所)、祭祀(祭りを行う所)、園林(観賞用の庭園)、記念(記念の建築)という五つの部分からなっています。 岳麓書院全体図 御書楼 このように千年の歴史を持った大学でも、欧米や日本から帰国した優秀な研究者の指導の下に、産学連携を通じた実学的な取り組みがなされています。最近では、北京や上海のような PM2.5 問題を抱えていたり、住居費が高い大規模都市よりも、衣食住のバランスのとれた中規模都市に置かれた大学を優秀な学生は選択するようになってきているそうで、このような動きは中国の研究の厚みを増してゆくことでしょう。 変化の年清水の舞台縷々述べてきた通り、アメリカと中国では、大学を取り巻く研究環境は変化しつつあり、日本も清水の舞台から飛び降りるような大胆な変化が必要なタイミングを迎えています。 日本の大学を取り巻く環境は相変わらず厳しいものがありますが、向かい風の中でも前に進むヨットのタッキングのように、目標を定めて少しでも前進できるように行動したいと思います。 今年もよろしくお願いします。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 早稲田大学教授・東京大学名誉教授 金子 成彦さんのその他の記事 2024/01/10 業界コラム あんたぁ先頭 ! 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Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月