早稲田大学教授・東京大学名誉教授

金子 成彦

1972年 山口県立山口高等学校理数科1期卒
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1972年 山口県立山口高等学校理数科1期卒
1976年 東京大学工学部機械工学科卒
1978年 東京大学大学院工学系研究科舶用機械工学科修士課程修了
1981年 東京大学大学院工学系研究科舶用機械工学科博士課程修了(工学博士)
同年   東京大学工学部舶用機械工学科講師
1982年 東京大学工学部舶用機械工学科助教授
1985年-1986年 マギル大学機械工学科客員助教授
1990年 東京大学工学部附属総合試験所機械方面研究室助教授
1993年 東京大学工学部舶用機械工学科助教授
1995年 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻助教授
2003年 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻教授
2018年 早稲田大学理工学術院創造理工学部客員教授
2019年 早稲田大学理工学術院国際理工学センター教授
2019年 東京大学名誉教授
2019年 日本機械学会名誉員
2020年 自動車技術会名誉会員

大学の年度末行事と言えば、卒業式や送別会であるが、企業と同じくこの時期は決算時期でもある。まずは大学の予算の仕組みを簡単に紹介したい。

大学の予算

大学からは「校費」と通常呼ばれている「運営費交付金」が教員に配布される。これに、各教員ベースで集めた「受託・共同研究費」、「奨学寄付金」、「科学研究費補助金」、「財団等からの研究助成金」が主な予算である。運営費については、以前は、年度を跨いで繰り越すことが認められていなかったので、12月頃になると、余りそうな予算を使ってもらえる信頼できるパートナーを探していた。もちろん、次年度に貸した側に戻してくれると言う条件付きである。科研費についても、繰越が認められていなかったので、年度末には残金をゼロ円にする必要があった。実験中心の研究室では、学生が論文提出締め切りギリギリまで実験をしていて、予期せぬ実験装置の不具合の発生や追加試作発生のリスクに備えるため、予算の執行を遅らせ、執行締め切り直前に使い切ると言う形態がまま見受けられた。

国立大学が法人化されて以降は、運営費、科研費ともに次年度に繰り越しが出来るようになり、年度末にあせって残金処理をする必要はなくなった。このような仕組みが出来たのは、東大では、本部に大きな積立金があり、それをバッファータンクのように使って、多少の変動成分を調整する仕組みがあるからである。

エネルギーのやりとり

このような予算調整の仕組みに類似していると小生が考えているエネルギーシステムに「スマートグリッド(賢い電力網)」がある。2009年に米国にオバマ政権が誕生して以来、スマートグリッドが一躍注目を集めるようになり、マスコミでも取り上げられる機会が多くなった。スマートグリッドとは、情報通信技術の活用により、変動の大きい太陽光、風力などの再生可能エネルギーによる分散型電源や需要家の情報を統合し活用して、高効率・高品質・高信頼度の電力供給システムの実現を目指すものである。さらに、最近では、最新技術を活用した自然協調型のライフスタイルを実現するインフラである「ネイチャーグリッド」という考え方も登場してきている。これは、1980年代に提唱された、ホロニック・パス(注1)の中で提唱されている考え方を実現する途中の過程であるように思う。その考え方とは、量と質、ハードとソフト、中央と地方、個と全体との「バランス・調和」を求めて「かかわりあい・間柄」を重視する「人間主義・間柄主義の道」である。

(注1)「ホロニック・パス」、石井威望、講談社(1985)

ホロニックの始まり

ホロニックの語源である“ホロン(HOLON)”は英国の哲学者アーサー・ケストラー(注2)が1970年代に提唱した概念で、ギリシャ語の“ホロス(HOLOS)”(全体)と“オン(ON)”(個や部分)の合成語である。すべてのものは全体の一部分つまり“構成要素”でありながら、それ自体がひとつの“全体”でもあるという考え方で、日本語では“全体子”と訳され、個と全体の有機的調和という意味で用いられる。この考えをエネルギーシステムに適用したのがホロニックエネルギーシステムである。

(注2)「ホロン革命」、アーサー・ケストラー、田中・吉岡訳、工作舎

大学におけるホロニックエネルギーシステム研究

東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻では、東京ガスの寄付による『ホロニックエネルギーシステム学寄付講座』を2005年4月から設置し、分散型エネルギーシステムの最適な導入規模・形態・運用等についての設計技術、コージェネレーションや風力・太陽光・バイオマスなど再生可能エネルギーやエネルギー貯蔵、熱利用などのシステムを構成する要素技術について研究をおこない、2010年3月に活動を終了した。小生の研究室は、ガスエンジンの高効率運転、バイオマスガスと都市ガスの混焼運転、ガスエンジンの数理モデルの構築をテーマとして参画した。この研究は、発展的に継承されており、グリッドの電源構成や制御方式の検討に利用可能なシミュレータの研究へと繋がっている。

ホロニックエネルギーシステム実現に向けて

さて、先日、とある研究所の所長さんから、組織論について伺う機会があった。組織を構成する基本4要素は、

  • ガバナー(方針を決定する人)
  • プロモーター(決定された方針に基づいて事業を推進する人)
  • サポーター(事業を推進する人を支援する人)
  • アナライザー(結果を分析し、フィードバックを掛ける人)

だそうである。ホロニックエネルギーシステムについてこの考えを当てはめると、

  • ガバナー(政府・地方自治体他)
  • プロモーター(電力・ガス・石油・通信業界他)
  • サポーター(発電機器・電気機器・センサーメーカー他)
  • アナライザー(大学・研究機関・シンクタンク他)

となるように思う。

輸入総額に占める石炭・原油・天然ガス等の化石燃料資源の割合は年々伸びており、1997年の統計では14.4%だったものが2007年では24.1%に達している(注3)。わが国の将来を思うとき、多種多様なエネルギー資源を上手に組み合わせる方法いわゆるベストミックスの実現が必須である。ホロニックエネルギーシステム実現に向けては、アナライザーとして大学が果たすべき役割は大きく、データ収集に必要なセンサーを提供して下さるセンサーメーカーとは、これまで以上に緊密な連携が必要であると考えている。

(注3)「日本の研究開発力を高める!アンブレラ産業・エレメント産業による成長戦略」、安藤・嶋林、日本経済新聞社

ホロニックエネルギーシステムのイメージ[出典]東京ガスホームページより