2020/01/08 業界コラム 金子 成彦 トランジェントな時代を生きる 東京大学名誉教授・元早稲田大学教授 金子 成彦 1972年 山口県立山口高等学校理数科1期卒 ...もっと見る 1972年 山口県立山口高等学校理数科1期卒 1976年 東京大学工学部機械工学科卒 1978年 東京大学大学院工学系研究科舶用機械工学科修士課程修了 1981年 東京大学大学院工学系研究科舶用機械工学科博士課程修了(工学博士) 同年 東京大学工学部舶用機械工学科講師 1982年 東京大学工学部舶用機械工学科助教授 1985年-1986年 マギル大学機械工学科客員助教授 1990年 東京大学工学部附属総合試験所機械方面研究室助教授 1993年 東京大学工学部舶用機械工学科助教授 1995年 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻助教授 2003年 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻教授 2018年 早稲田大学理工学術院創造理工学部客員教授 2019年 早稲田大学理工学術院国際理工学センター教授 2019年 東京大学名誉教授 2019年 日本機械学会名誉員 2020年 自動車技術会名誉会員 あけましておめでとうございます。 今年の干支はねずみです。 ねずみの置物と自宅のベランダから撮影した日の出と朝日に照らされた富士山の写真をお届けします。今年もよろしくお願いいたします。昨年3月に東京大学を定年退職し、4月から早稲田大学理工学術院に勤務しています。最終講義にご出席くださった皆様、聴講して頂き有り難うございました。 謹賀新年ねずみの置物 日の出 朝日に照らされた富士山 今号では、勤務先の早稲田大学の話題と昨年11月に工学研究教育調査に出かけたオーストラリアの大学の話題を中心にお届けします。トランジェントという言葉は、今回のブログの話題に共通するキーワードで、個人的には国立大学から私立大学に異動するという過渡期を過ごしました。また、モノづくり教育が中心だった日本の工学教育が情報、知識、データ活用型教育を取り込む方向に移ろうとしている過渡期を迎えていることを踏まえて、もともと第2次産業が弱いオーストラリアの大学がどのような考えで工学研究教育基盤を整備しているかについて調査を行いました。 新川タイムズ10周年今年は、新川タイムズが創刊されてから10年目にあたる節目の年です。立ち上げの年の12回分のブログ執筆を担当させて頂きましたが、毎月締め切りがやって来るという、初めての経験をし、直前まで担当月のテーマが決まらずに焦ったことを懐かしく思い出します。なんとか12回を書き終えた時に、創刊1周年を記念して、新川電機さんから頂いたものが写真の温度計、湿度計のついた卓上時計でした。温度計、湿度計は単なるセンサーでしたが、あれから9年が経過して、世間では、第4次産業革命、IoT、サイバーフィジカルといった言葉が飛び交っています。これからは、物理的な原理に支えられたセンサーで取得されたデータ記録をクラウドサーバーに送り、演算を行った後に、これまでにはなかった便益を提供することが可能になって行く時代を迎えるのだと思います。それゆえ今は、過渡期といえましょう。 早稲田大学キャンパス周辺東京大学在籍中は、本郷から1時間ほどの場所にある早稲田大学を訪問する機会は、学会やプロジェクトの会議以外ではほとんどなく、高田馬場周辺にいくつかあるキャンパスや位置関係を知りませんでした。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、早稲田大学のキャンパスについて簡単に紹介します。 まず、地下鉄東西線早稲田駅を降りると早稲田大学のメインキャンパスに到着します。ここは、早稲田キャンパスと呼ばれていて、大隈講堂、大隈庭園、創設者の大隈重信候の銅像があります。周辺には、カフェテリア、ゆるい坂道に沿った校舎や歴史博物館等があります。 大隈講堂 大隈庭園 大隈重信候像 カフェテリア 早稲田キャンパス ここを起点にJR高田馬場駅方面に向かって歩くと、早稲田通りと早大南門通りが交差する馬場下町の交差点の向こう側に戸塚キャンパスが見えてきます。ここには、最近整備されたばかりの早稲田アリーナというバスケットコート3面は優にとれる地下体育館があり、スポーツミュージアムが併設されています。なお、戸塚キャンパスにあった旧体育館は1964年の東京オリンピックのフェンシング会場に使用されたそうです。さて、このキャンパスの向かい側には、穴八幡宮と放生寺があり、この土地の歴史を感じさせます。 戸塚キャンパス 穴八幡宮 放生寺 西早稲田キャンパス西早稲田キャンパス学習院女子大学の外壁に沿って高田馬場に向かって歩くと、明治通りと交差する諏訪町の交差点に出ます。ここからは、理工学術院のある西早稲田キャンパスが見えてきます。このキャンパスでひときわ高い建物が51号館です。 51号館西早稲田キャンパスには、理工学術院がありますが、本院は、基幹理工学部、先進理工学部、創造理工学部に分かれています。小生が所属している創造理工学部は、建築学科、総合機械工学科、経営システム工学科、社会環境工学科、環境資源工学科に分かれていて、その中で小生はME Majorという英語学位プログラムの教員として活動しています。 竹内明太郎像西門を入ったところに建てられている胸像は理工学部の設立に貢献された竹内明太郎先生の像で、この方は小松製作所を創業された方です。設立は、明治41年(1908)2月で,日本の私立大学の理工系学部教育機関としては最も古い歴史を持っています。 戸山公園 西門を出ると紅葉が美しい戸山公園が広がっています。 高田馬場周辺には、早稲田キャンパス、戸塚キャンパス、西早稲田キャンパスの他にも喜久井町キャンパス、河田町キャンパス等があり、キャンパス間の移動のためにスクールバスが運行されています。 キャンパス案内板 スクールバス オーストラリア大学訪問記11月末に紅葉の季節の日本を離れて、ジャカランダの咲く初夏のオーストラリアに出かけてきました。今回は、シドニー周辺の下記の大学を訪問し、第2次産業が現時点では強くはないのに工学基礎を大事にしているオーストラリアの大学教育のポリシーと活動を支えるサポート体制の調査を行いました。 The University of Sydney (Usyd) Western Sydney University(UWS), Center for Infrastructure Engineering University of Technology, Sydney(UTS), UTS Tech Lab & Centre University of New South Wales (UNSW), Tyree Energy Technologies Building シドニー大学 ウェスタンシドニー大学 シドニー工科大学 ニューサウスウェールズ大学 今回のオーストラリアの大学訪問で最も印象に残った言葉は、シドニー大学法学部の入り口周辺に掛かっていた看板に書かれていた下記の言葉です。 The law, like the traveler, must be ready for the morrow. (法律は、旅行者と同様に、明日の準備ができていなければなりません。) 法律は、目下のもめ事を収めるために使われるものと思っていましたが、違いました。次の時代に備えた法整備の研究を怠りなく進めようという姿勢を感じました。既存勢力の調整に明け暮れていては、若手からの斬新な発想や若者の持つポテンシャルを生かすことはできません。 法律の整備に関係して、小生が最近気になっているのは、後付け技術の開発と普及促進です。最近、利便性や安全性を増した自動車や住宅が世に出るようになってきました。法整備の議論も進んでいます。しかし、スマート化を促進するには、新車や新築の住宅を対象とするだけでは不十分で、既存の自動車や住み慣れた住宅をより便利にできないものかという声に応えることにももっと力を入れるべきです。特に、機械分野におけるレトロフィットは建築分野と比較して法整備やインセンティブの導入が遅れており、加速すべきテーマがたくさんあると感じています。 日本機械学会会長時代に米国機械学会(ASME)事務局を訪問し、ASMEでは、新興国での問題解決に必要とされる道具や技術を海外から持ち込むのではなく、与えられた環境や条件のもとで道具や技術を使い続けることができるような適正技術(Appropriate Technology)で問題解決するプロジェクトに力を入れているという話を伺いました。目下の日本においては、適正技術の向かう先は、高齢者が購入可能な価格帯の製品で、使い続けることが可能な後付け製品であり、これを迅速にマーケットに送り出すことが求められています。 おわりに年初めに、佐賀市にある早稲田大学創設者の大隈重信候の生家を訪ねました。お母さん(三井子)が少年時代に重信候(八太郎)に諭されていた人生五訓が残っています。 喧嘩をしてはいけません 人をいじめてはいけません いつも先を見て進みなさい 過ぎたことを、くよくよ振り返ってはいけません 人が困っていたら助けなさい 「進取の精神」、「久遠の理想」といった早稲田スピリットはここから始まっているのかもしれません。 大隈重信候生家佐賀城本丸も訪問しましたが、鍋島藩10代藩主、鍋島直正公の見識の高さに感心しました。西洋医学の導入、鉄製大砲の鋳造、蒸気船の建造、理化学研究所の設立など、技術重視の政策をとられたことで有名です。この方の、先見性が人を育て、育てられた人材が幕末から明治、大正までの日本の過渡期において、日本の近代化に大きく貢献しました。 鍋島直正公像小生が少年時代を過ごした昭和30年代よりも数字の上では豊かな日本になっているはずなのに、自然災害、人間関係、職場環境や生活環境が厳しくなったと感じるのはなぜでしょうか。便利になりすぎたゆえの負の側面が顕在化してきているように思います。データサイエンスの進展、エビデンスに基づく政策決定というような言葉が躍っていますが、裏付けを持った形でコンセンサスが得られる展開が期待されています。これまでの知見を活かしつつ現代技術文明に端を発する諸問題に対処したいと思います。今年もよろしくお願いします。 早稲田大学理工学術院教授 金子成彦先生の過去掲載コラムはこちら この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 東京大学名誉教授・元早稲田大学教授 金子 成彦さんのその他の記事 2025/01/15 業界コラム 人生の低山を歩く 2024/01/10 業界コラム あんたぁ先頭 ! 2023/01/11 業界コラム トランジェントな時代を生きる ( 4 ) 2022/01/12 業界コラム トランジェントな時代を生きる ( 3 ) 2021/01/12 業界コラム トランジェントな時代を生きる ( 2 ) 2020/01/08 業界コラム トランジェントな時代を生きる 2019/01/09 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの冬休み小旅行(ハウステンボス・湯田温泉編) 2018/01/10 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの冬休みの小旅行(京都・尾道編) 2017/02/07 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの(研究環境の来し方行く末) 2017/01/11 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの(冬休み小旅行編) 2016/02/09 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの(立春編) 2016/01/13 業界コラム 大学が変わるべきところ守るべきもの(初詣編) 2013/08/03 業界コラム 日本機械学会会長の経験を通じて (その3) 日英文化交流活動 2013/07/09 業界コラム 日本機械学会会長の経験を通じて (その2) アジア圏との国際交流活動 2013/06/11 業界コラム 日本機械学会会長の経験を通じて (その1) 東日本大震災対応 2010/11/09 業界コラム 産業と教育の現場から No.12 未来の研究開発リーダーに贈るメッセージ ~これからの学会との付き合い方~ 2010/10/05 業界コラム 産業の教育と現場から No.11 タフな学生を育てるためのコンテストの活用法 2010/09/07 業界コラム 産業の教育と現場から No.10 学部4年生のためのもう一つの発表会 2010/08/03 業界コラム 産業の教育と現場から No.9 留学生の慶事 2010/07/07 業界コラム 産業の教育と現場から No.8 産学官連携功労者表彰を通じて学んだもの 2010/06/08 業界コラム 産業の教育と現場から No.7 若手人材育成を意識した同窓会の活用法 2010/05/12 業界コラム 産業の教育と現場から No.6ホロニックエネルギーシステムの実現に向けて 2010/04/06 業界コラム 産業の教育と現場から No.5PBL教育を通じて日本のガラパゴス化を阻止しよう! 2010/03/02 業界コラム 産業の教育と現場から No.4 ゆとり世代ついに研究室に現る ! 2010/02/09 業界コラム 産業の教育と現場から No.3 就活学生に贈るメッセージ~エネルギー作物栽培の体験から~ 2010/01/13 業界コラム 産業の教育と現場から No.2 手料理コンパと工学教育 2009/12/01 業界コラム 産業の教育と現場から No.1メンテナンスの現場から学ぶべきもの 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月