あけましておめでとうございます。
今年の干支はねずみです。
ねずみの置物と自宅のベランダから撮影した日の出と朝日に照らされた富士山の写真をお届けします。今年もよろしくお願いいたします。昨年3月に東京大学を定年退職し、4月から早稲田大学理工学術院に勤務しています。最終講義にご出席くださった皆様、聴講して頂き有り難うございました。
謹賀新年

ねずみの置物

日の出

朝日に照らされた富士山
今号では、勤務先の早稲田大学の話題と昨年11月に工学研究教育調査に出かけたオーストラリアの大学の話題を中心にお届けします。トランジェントという言葉は、今回のブログの話題に共通するキーワードで、個人的には国立大学から私立大学に異動するという過渡期を過ごしました。また、モノづくり教育が中心だった日本の工学教育が情報、知識、データ活用型教育を取り込む方向に移ろうとしている過渡期を迎えていることを踏まえて、もともと第2次産業が弱いオーストラリアの大学がどのような考えで工学研究教育基盤を整備しているかについて調査を行いました。
新川タイムズ10周年

今年は、新川タイムズが創刊されてから10年目にあたる節目の年です。立ち上げの年の12回分のブログ執筆を担当させて頂きましたが、毎月締め切りがやって来るという、初めての経験をし、直前まで担当月のテーマが決まらずに焦ったことを懐かしく思い出します。なんとか12回を書き終えた時に、創刊1周年を記念して、新川電機さんから頂いたものが写真の温度計、湿度計のついた卓上時計でした。温度計、湿度計は単なるセンサーでしたが、あれから9年が経過して、世間では、第4次産業革命、IoT、サイバーフィジカルといった言葉が飛び交っています。これからは、物理的な原理に支えられたセンサーで取得されたデータ記録をクラウドサーバーに送り、演算を行った後に、これまでにはなかった便益を提供することが可能になって行く時代を迎えるのだと思います。それゆえ今は、過渡期といえましょう。
早稲田大学キャンパス周辺
東京大学在籍中は、本郷から1時間ほどの場所にある早稲田大学を訪問する機会は、学会やプロジェクトの会議以外ではほとんどなく、高田馬場周辺にいくつかあるキャンパスや位置関係を知りませんでした。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、早稲田大学のキャンパスについて簡単に紹介します。
まず、地下鉄東西線早稲田駅を降りると早稲田大学のメインキャンパスに到着します。ここは、早稲田キャンパスと呼ばれていて、大隈講堂、大隈庭園、創設者の大隈重信候の銅像があります。周辺には、カフェテリア、ゆるい坂道に沿った校舎や歴史博物館等があります。

大隈講堂

大隈庭園

大隈重信候像

カフェテリア

早稲田キャンパス
ここを起点にJR高田馬場駅方面に向かって歩くと、早稲田通りと早大南門通りが交差する馬場下町の交差点の向こう側に戸塚キャンパスが見えてきます。ここには、最近整備されたばかりの早稲田アリーナというバスケットコート3面は優にとれる地下体育館があり、スポーツミュージアムが併設されています。なお、戸塚キャンパスにあった旧体育館は1964年の東京オリンピックのフェンシング会場に使用されたそうです。さて、このキャンパスの向かい側には、穴八幡宮と放生寺があり、この土地の歴史を感じさせます。

戸塚キャンパス

穴八幡宮

放生寺

西早稲田キャンパス
学習院女子大学の外壁に沿って高田馬場に向かって歩くと、明治通りと交差する諏訪町の交差点に出ます。ここからは、理工学術院のある西早稲田キャンパスが見えてきます。このキャンパスでひときわ高い建物が51号館です。

西早稲田キャンパスには、理工学術院がありますが、本院は、基幹理工学部、先進理工学部、創造理工学部に分かれています。小生が所属している創造理工学部は、建築学科、総合機械工学科、経営システム工学科、社会環境工学科、環境資源工学科に分かれていて、その中で小生はME Majorという英語学位プログラムの教員として活動しています。

西門を入ったところに建てられている胸像は理工学部の設立に貢献された竹内明太郎先生の像で、この方は小松製作所を創業された方です。設立は、明治41年(1908)2月で,日本の私立大学の理工系学部教育機関としては最も古い歴史を持っています。

西門を出ると紅葉が美しい戸山公園が広がっています。
高田馬場周辺には、早稲田キャンパス、戸塚キャンパス、西早稲田キャンパスの他にも喜久井町キャンパス、河田町キャンパス等があり、キャンパス間の移動のためにスクールバスが運行されています。

キャンパス案内板

スクールバス
オーストラリア大学訪問記
11月末に紅葉の季節の日本を離れて、ジャカランダの咲く初夏のオーストラリアに出かけてきました。今回は、シドニー周辺の下記の大学を訪問し、第2次産業が現時点では強くはないのに工学基礎を大事にしているオーストラリアの大学教育のポリシーと活動を支えるサポート体制の調査を行いました。
The University of Sydney (Usyd)
Western Sydney University(UWS), Center for Infrastructure Engineering
University of Technology, Sydney(UTS), UTS Tech Lab & Centre
University of New South Wales (UNSW), Tyree Energy Technologies Building

シドニー大学

ウェスタンシドニー大学

シドニー工科大学

ニューサウスウェールズ大学
今回のオーストラリアの大学訪問で最も印象に残った言葉は、シドニー大学法学部の入り口周辺に掛かっていた看板に書かれていた下記の言葉です。
The law, like the traveler, must be ready for the morrow.
(法律は、旅行者と同様に、明日の準備ができていなければなりません。)
法律は、目下のもめ事を収めるために使われるものと思っていましたが、違いました。次の時代に備えた法整備の研究を怠りなく進めようという姿勢を感じました。既存勢力の調整に明け暮れていては、若手からの斬新な発想や若者の持つポテンシャルを生かすことはできません。
法律の整備に関係して、小生が最近気になっているのは、後付け技術の開発と普及促進です。最近、利便性や安全性を増した自動車や住宅が世に出るようになってきました。法整備の議論も進んでいます。しかし、スマート化を促進するには、新車や新築の住宅を対象とするだけでは不十分で、既存の自動車や住み慣れた住宅をより便利にできないものかという声に応えることにももっと力を入れるべきです。特に、機械分野におけるレトロフィットは建築分野と比較して法整備やインセンティブの導入が遅れており、加速すべきテーマがたくさんあると感じています。
日本機械学会会長時代に米国機械学会(ASME)事務局を訪問し、ASMEでは、新興国での問題解決に必要とされる道具や技術を海外から持ち込むのではなく、与えられた環境や条件のもとで道具や技術を使い続けることができるような適正技術(Appropriate Technology)で問題解決するプロジェクトに力を入れているという話を伺いました。目下の日本においては、適正技術の向かう先は、高齢者が購入可能な価格帯の製品で、使い続けることが可能な後付け製品であり、これを迅速にマーケットに送り出すことが求められています。
おわりに
年初めに、佐賀市にある早稲田大学創設者の大隈重信候の生家を訪ねました。お母さん(三井子)が少年時代に重信候(八太郎)に諭されていた人生五訓が残っています。
- 喧嘩をしてはいけません
- 人をいじめてはいけません
- いつも先を見て進みなさい
- 過ぎたことを、くよくよ振り返ってはいけません
- 人が困っていたら助けなさい
「進取の精神」、「久遠の理想」といった早稲田スピリットはここから始まっているのかもしれません。

佐賀城本丸も訪問しましたが、鍋島藩10代藩主、鍋島直正公の見識の高さに感心しました。西洋医学の導入、鉄製大砲の鋳造、蒸気船の建造、理化学研究所の設立など、技術重視の政策をとられたことで有名です。この方の、先見性が人を育て、育てられた人材が幕末から明治、大正までの日本の過渡期において、日本の近代化に大きく貢献しました。

小生が少年時代を過ごした昭和30年代よりも数字の上では豊かな日本になっているはずなのに、自然災害、人間関係、職場環境や生活環境が厳しくなったと感じるのはなぜでしょうか。便利になりすぎたゆえの負の側面が顕在化してきているように思います。データサイエンスの進展、エビデンスに基づく政策決定というような言葉が躍っていますが、裏付けを持った形でコンセンサスが得られる展開が期待されています。これまでの知見を活かしつつ現代技術文明に端を発する諸問題に対処したいと思います。今年もよろしくお願いします。
早稲田大学理工学術院教授 金子成彦先生の過去掲載コラムはこちら
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