早稲田大学教授・東京大学名誉教授

金子 成彦

1972年 山口県立山口高等学校理数科1期卒
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1972年 山口県立山口高等学校理数科1期卒
1976年 東京大学工学部機械工学科卒
1978年 東京大学大学院工学系研究科舶用機械工学科修士課程修了
1981年 東京大学大学院工学系研究科舶用機械工学科博士課程修了(工学博士)
同年   東京大学工学部舶用機械工学科講師
1982年 東京大学工学部舶用機械工学科助教授
1985年-1986年 マギル大学機械工学科客員助教授
1990年 東京大学工学部附属総合試験所機械方面研究室助教授
1993年 東京大学工学部舶用機械工学科助教授
1995年 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻助教授
2003年 東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻教授
2018年 早稲田大学理工学術院創造理工学部客員教授
2019年 早稲田大学理工学術院国際理工学センター教授
2019年 東京大学名誉教授
2019年 日本機械学会名誉員
2020年 自動車技術会名誉会員

2023年は異常な暑さの年であった。6月から9月頃まで30度を超える日が続き、11月になっても夏日があった。そのような年の夏から秋にかけての雲の様子を写真に留めておいた。

2023年を象徴する猛暑が続いた夏から秋の雲の写真

夏の筋雲1

夏の筋雲2

低空に発達する雲

にわか雨を降らせる雲

雨雲の向こうに見える積乱雲

一雨降った後の夕焼け

鉄塔の横にゴジラの影絵が浮上

夏の富士山と積乱雲

秋の富士山冠雪

秋の富士山と筋雲

ある日、暑さのせいで明け方に眠りが浅くなった頃、小学6年から高校2年にかけて通った英語塾の夢を見て覚醒したことがあり、これをきっかけに、教員生活最後の年を迎えて、約60年にわたる自分と英語との付き合いを纏めてみた。

英語学習

以下が、小、中、高、大で小生が受けた英語学習のあらましである。

  • 岩本英語塾:基礎・文法読解中心
  • 山口大学附属山口中学校:一切日本語を使わない授業、教科書は三省堂の『クラウン』
  • 山口高校:文法読解中心
  • 東京大学教養学部:文学もの中心
  • 東京大学工学部:英語論文の輪講会以外に特別なものはなし。 (最近では国際工学教育推進機構の中に国際教育部門が設けられ、英語の自信を高めるためのスペシャル・イングリッシュ・レッスン (SEL) が課外プログラムで実施されている。)

特に強い影響を残してくれたのは、岩本英語塾 (通称:ガンポン) である。ここが小生の英語との出会いである。
小6では、英語に慣れるためアルファベットと簡単な単語学習が中心だったが、中1から高2までの5年間は、週2日2時間みっちりと英語力を鍛え上げるこの塾では、研究社の『マイ英和辞典』、『英和中辞典』、『アメリカ口語教本』、旺文社の『実用英会話』、開拓社の『Thinking in English』を始めとする様々な教材を使い、単語、文法、読解を中心としたトレーニングが行われていた。一方、小生が通った中学校は英会話に力を入れていたので、両者は補完関係にあった。

さて、この塾の構成であるが、中1では生徒40名のクラス、2クラスで始まるが、中3から高1にあがるところで1クラスになり、そのクラスに残った生徒は英語力にかけては自信のある強者たちである。県内の模試で英語のトップ100位に入る生徒が多かった。

この塾は昔の寺子屋スタイルで、冬でも汗が出るほどの緊張感の中、2時間みっちり英語と向き合った。なお、予習が必須で、教材研究を事前に十分行っていないと、先生からの質問には耐えられない。

座席は正答率が高い順に並ぶことになっていた。先生から発せられる質問に回答できる生徒は挙手で知らせ、手が挙がった生徒が多数の場合には、最上席に座っている生徒から順番に答えを口頭で述べることがルールで、上席の生徒が答えられないと、次の下席の生徒に回答権が移り、その生徒が正しい回答をした場合には席次が1つ上がる。
時には、最下席に座っている生徒のみが正しい回答をするというケースがあり、その時には最下席の生徒が最上席に座るのである。この時、先生から「あんたぁ先頭 ! 」という威勢の良い声が掛かり、座席の大移動が起こるのである。毎回帰りには、前回よりも席次が上がったとか下がったとか気にしたものである。このように、単調になりがちな英語学習にゲーム性を取り入れて、張り詰めた状態で集中して英語学習する仕組みが設計されていた。
この先生は、授業開始時にクラスがざわついていると、強い言葉で生徒を叱ったり、場合によっては別室に籠ったままなかなか教室に出て来られないという気難しい一面があったが、お孫さんが来訪されている時は優しかった。そのため、お孫さんが訪問されているかどうかを生徒はよく気にしていた。

いつも難しい顔をされている先生だったが、小生が教員として大学に奉職することが決まった時に報告に行くと、とても喜んでくださり、「生身の人間を相手にする仕事には楽しみがある」とのお言葉をいただいたことが記憶に残っている。やっぱり生徒が好きだったのかと再確認した。

留学時代

助教授になりたての頃、カナダのモントリオールにあるマギル大学に1年間留学する機会を得た。モントリオールは、欧州、アジア、中近東、アフリカなどからの移民や留学生が沢山暮らしていて、当時はフランス語と英語とのバイリンガルの街であった。到着してすぐに感じたことは、英語の聞き取り力の不足だった。

弱点を補強するために、大学のすぐ傍にあるモントリオールハイスクールの英語コースに通った。ここでは学生だけではなく、様々な年代の方々に出会った。また、英語にもいろいろな話し方や発音があることを学んだ。例を挙げると、英語が母国語の人は聞き慣れない難しい単語を使うのでわかりづらい。反対に英語が第2外国語の人の英語はわかりやすい。特に中近東の方が話す英語は、文章構成が日本人と似ていてわかりやすい。気の合った人や共通項がある人とはコミュニケーションがとりやすく、お互い語彙が少ないことでかえって正直に話すことができた。なお、お国訛りの強いインド人、ベトナム人の英語はわかりにくかったが、ここで彼らの英語発音の特徴を知ることができたのは、後々役に立った。

マギル大学では、指導教官のパイドウシス先生と話す機会が多かったが、 正確な文章表現力を持ったケンブリッジ大学出身のこの先生による論文添削は実務英語を学ぶ上で役立った。今でも、この先生が執筆された概説論文から、よく登場する言い回しを抜き出して使用している。また帰国後は、雑誌に投稿された論文の査読者として、質問や回答に対する反論を書く機会が増えたが、先生の書かれた文章を参考にさせていただいた。

留学生との英語での付き合い

東京大学時代に研究室で受け入れた留学生は中国人、韓国人、台湾人が多く、研究生としては、米国、ドイツ、スイス、フランス、エジプト、ケニア、インドからの留学生も受け入れた。研究指導が中心だったので、専門分野に関する英語を使う機会がほとんどであった。
一方、早稲田大学では、学部1年生から4年生までの学生を対象に英語で講義と演習、および卒論指導を行っている。留学生の出身国は、韓国、中国、台湾、ベトナム、タイ、ミャンマー、シンガポール、インドネシア、バングラデシュ、インド、ロシア、イタリア、アメリカ等バラエティに富んでいる。また、英語での講義に耐えられる英語力を有する帰国子女も含まれている。熱心な学生が多く、特に試験前になると英語で質問を浴びせてくる。英語はコンピューターのプログラミング言語に似たところがあり、指示を出す時は形式を踏めばよいが、相手にニュアンスを正確に伝えるのが難しい。ついつい命令口調になってしまいがちである。

中国、イタリア、バングラデシュからの留学生の卒論指導をしたが、こちらが学ぶこともあった。例を挙げると、研究室のイタリア人学生は、イタリア語、フランス語、英語が話せるにもかかわらず、早稲田大学のフランス語講座を履修している。日本に来てからも改めてフランス語を履修している理由を聞いてとても参考になった。彼が言うには、フランス語のルールは英語ほど簡単ではないので、時々思い出すためにトレーニングが必要とのこと。我々が普段使っている日本語もこのようなケアーが必要なのかもしれない。学生から教えられることはまだまだ多い。

SSHの運営指導委員を通じての英語教育

小生は、出身高校に設置された理数科の第1期卒業生というご縁で、出身高校がスーパーサイエンスハイスクール (SSH) 指定校に選ばれた時に運営指導委員を務めさせていただき、それ以来かれこれ20年間、山口県や神奈川県でSSHの運営指導に携わらせていただいている。
神奈川県立厚木高校では、当時の校長先生からの「自由研究課題の発表と質疑をすべて英語で実施しよう」という、当時としては型破りの提案の下、これをやり遂げられたのには感銘を受けた。近隣の大学に通っている留学生に質問者として協力してもらい、留学生との交流も深めることができた。この時は、当時、東京大学工学部国際工学教育推進機構に所属されておられた先生に運営指導委員会のメンバーとして加わっていただき、英語での資料作成の仕方や発表についてご指導いただいた。大学での実用英語教育の経験を高校生に伝えることができ、英語教育を通しての高大連携を実行に移すことができた。それにしても、高校の通常の授業に加えて、特定の研究テーマについての課題研究の指導だけでも大変なところに英語の指導も加わって、この時期に関係された先生方のご苦労は大変だったのではと思う。

※ 文部科学省では、将来の国際的な科学技術人材の育成を図るため、平成14年度より科学技術、理科・数学教育に関する研究開発等を行う高等学校等を「スーパーサイエンスハイスクール」に指定し、理科・数学等に重点を置いたカリキュラムの開発や大学等との連携による先進的な理数系教育を実施しています。
出展:文部科学省/スーパーサイエンスハイスクール(SSH)

耐震補強工事を通じて感じたこと

昨年、現在住んでいる築40年のマンションの耐震補強工事に携わり、現場作業者に外国人の割合が高まっていることを肌で知った。この工事現場では、現場作業者 (アジア系) 、現場指導者 (日系人) 、現場監督 (日本人) となっていて、現場作業者と現場監督を繋ぐ現場指導者の役割が大切であった。日本語が十分に理解できない作業者と日本人の現場監督の間に立ち、日本語も現地語も理解しているコーチ役の日系人が活躍していることを知った。具体的な作業内容や手順、安全に係わる注意事項を現地語で説明できる方の存在はとても重要である。ここでは、質の高いコミュニケーション力が求められている。

AIの登場

最近、翻訳ソフトが大活躍している。一昔前の翻訳ソフトの完成度は今一つだったが、最近登場した、DeepL (和文⇒外国語訳) とQuillBot (言い回しが選択可能) を使用すると、かなりのレベルの翻訳が可能である。

問題は会話である。対面でのやり取りでは、まさか翻訳ソフトで作成したカンニングペーパーを読んで会話する訳にはいかないので、聞き取り力と言い回しのセンスが頼りである。場合によっては身振り手振りも役に立つ。これを鍛えておかないと交渉ごとなどで困ることになる。なお、講義や研究指導は専門用語が多く、言い回しも定型のものが多いので比較的楽ではあるが、実験のやり方を教える場面や機械設計の指導など、実務内容についてのやり取りには苦労が伴うし、理解を得てもらうまでに時間がかかる。

最近は翻訳ソフトに頼りすぎるとコミュニケーション力が落ちてくるのではないかという恐怖感があり、ここをどうするかが今後の課題ではないだろうか。 この課題のカギは、「如何に相手と向き合うか」について真剣に考えることである。会話は相手を見て話す必要があり、相手が求めていることにこちらが関心を持ち続けることが大切だ。コロナ禍以降は、在宅勤務やオンライン会議が定着していて、対面でのコミュニケーションの機会が以前と比べると減ってきていることから、相手に対して興味を持つことや心情を思いやるという気持ちが足りなくなっているであろう昨今の傾向がとても心配である。

ともあれ、英語には長い間お世話になってきた。一生ものの力を付けてくださった先生方に改めて感謝申し上げる。最近、夢で「あんたぁ先頭 ! 」という言葉で覚醒したことがあった。それほど、英語を習い始めたころのことが小生の記憶には強く残っているのである。皆様の英語との付き合いは如何でしょうか。