2011/12/06 業界コラム 瀧本 孝治 状態監視モニタ vol.4 ~ 偏心モニタ ~ 新川電機株式会社 瀧本 孝治 マーケティング部 ST製品企画室...もっと見る マーケティング部 ST製品企画室 2010年2月号でも提示しましたが、TSI(タービン監視計器)の監視項目には何があるのか概要を表2に示します。今回はTSI特有の監視項目の中から「偏心計測」に関してもう少し詳しく説明します。 表2. TSIの監視項目 項目 内容 警報 遮断 回転数 タービンの回転数を計測。振動の警報値の切替用接点を出す場合もある。 – – 偏心 軸の偏り(曲がり具合)を測定。タービン起動可否判断の重要な測定項目。 ○ – 伸び タービンケーシングの熱膨張による伸びを測定。 – – 伸び差 タービンケーシングとタービンロータの相対的な熱膨張差を伸び差として測定。ロータとケーシングの接触事故防止のための重要な測定項目。 ○ ○ 振動 タービンの振動を測定。 ○ ○ 軸位置 スラストベアリング近傍でロータの軸方向の位置を測定。メタルの接触によるベアリング焼付き事故防止のための重要な測定項目。 ○ ○ 弁開度 蒸気加減弁の開度に応じた測定。 – – 軸受温度 軸受部の温度を測定。 ○ – 偏心計測とは図4は発電タービンの一般的な起動・停止パターンを示していますが、この起動時の低速回転運転「ターニング」の状態において軸の偏りが偏心であり、この偏りを測るのが偏心計測ということになります。 タービンロータは停止中に自重や温度の不均衡などにより簡単に曲がります。タービン起動時の回転昇速前に数rpmから10rpm程度の低速回転運転を行いますが、これをターニングと呼びます。このターニング時におけるタービンロータの曲がりを偏心量として監視し、許容値以下になってから回転昇速を開始します。 なお、図4では定格運転終了(解列)から回転降下・停止後にもターニング状態が示されていますが、これはタービンロータが熱いうちに回転停止してしまうと自重により曲がりやすくなってしまうため、タービンロータが十分に冷えるまで低速回転による運転を続けている状態を示しています。 ここで余談になりますが、タービンのターニングは、ターニングギアを介してターニング用のモータにより駆動されます。このターニングギアはタービン運転時には外れた状態であり、タービンが十分に回転降下してほぼ停止した状態でターニングギアを勘合します。この時、回転がほぼ停止した状態を検知するモニタをゼロスピードモニタと呼びます。まだタービンがある程度の回転数で回転している状態でターニングギアを勘合してしまうと、ターニングギアやロータを損傷してしまう可能性があり、このゼロスピードモニタを含むゼロスピード検知システムは重要な制御システムの一つということになります。 図4. 発電タービンの起動・停止パターン例偏心計測センサ偏心計測には軸振動計測用センサとして使用される2mmレンジの渦電流式変位センサ(FK-202Fなど)や、もう少しレンジの広い4.5mmレンジの渦電流式変位センサ(FK-452Fなど)が適用されます。この偏心計測センサは図5に示すように、軸の曲がりが現れやすいロータ末端のロータ円周面や、ロータ末端に設けられたカラーの円周面をターゲットとして測定できるように設置されます。 偏心計測には上記の偏心計測センサだけでなく、図5にあるように1回転1パルスのフェーズマーカ信号も必要となります。これは位相基準を得るためではなく、ロータの1回転が偏心波形のどこからどこまでかという1回転分の長さを知るためのものであり、例えば1回転60パルスなどの回転数検知用のパルスでもかまいません。ただし、低速回転数でのパルス検知が必要なため、いずれの場合も渦電流式変位センサ(FK-202Fなど)を使用する必要があります。(理由は2011年2月号と2011年3月号を参照ください) 図5. 偏心計測センサとフェーズマーカの設置例偏心モニタにおける偏心量の演算偏心モニタには上述のように、タービンロータ末端で偏心波形を検出する偏心計測センサと、偏心波形の1回転分の長さを知るためのフェーズマーカ信号(または回転数検知用パルス信号)が入力されます。 それぞれの信号は図6のように示されますが、偏心モニタでは1回転分の長さ、つまり偏心波形の1周期毎の最大値(ピーク)と最小値(ボトム)を検知し、その差を偏心量(偏心p-p値)として演算、出力しています。 さて、ここで疑問が生じませんか ? 軸振動モニタでも振動波形の最大値と最小値の差である振幅値(p-p値)を演算しているのに、軸振動計測にはフェーズマーカ信号や回転数検知用パルス信号を必要としていません。そもそも振動と偏心の違いは何 ? 機械振動を『機械系の運動または、変位を表す量の大きさが、ある平均値または基準値よりも大きい状態と小さい状態とを交互に繰り返す時間的変位』と定義するならば、ここで議論しているタービンの偏心も振動の一つであると言えます。しかし、タービンの軸振動と偏心は明らかに別物として取り扱われます。ここには上記の定義では規定されていない周波数(または周期)の違いがあります。これは信号処理の都合上であったり、人間の感覚の問題でもあるかもしれませんが、振動とは動的(ダイナミック)な状態やその量であり、偏心とは静的(スタティック)な量であると言えるかも知れません。そして回転機械の状態監視においては便宜上、数Hzから10kHz程度までを振動として取り扱っています。したがって、周期が数十秒(周波数は0.1Hz以下)となるようなターニング時の周期的に繰り返される時間的変位は「振動」とは区別して「偏心」として取り扱っています。ターニング時における時間的変位は振動として扱うにはあまりにも周期が長く、振動モニタにおける演算方法では検知不可能、または(長周期振動を演算できるように定数を変更したとしても)演算結果を得るまでに非常に長い時間を必要としてしまうことになります。しかし、偏心モニタのようにフェーズマーカ信号や回転数検知用パルス信号を取り込んで、1回転分の長さを検知することができれば、図6でイメージできるように、1回転する毎に偏心量を検知することができるのです。例えば、ターニング回転数が3rpm(周期20秒)だったとすれば、ある偏心のピークまたはボトムから長くてもわずか20秒後には偏心量を演算して出力を更新することができます。 20秒を「わずか」とは、と思われるかもしれませんが、元々周期が長いのでこれが最短ということになります(勿論、ターニング回転数がもっと遅ければ、周期は更に長くなり、偏心量更新までの時間も長くなりま)。 偏心計測はかなり特殊な計測項目であり、上記の解説では分かりにくい点もあったかと思いますが、大型のタービンでは起動に欠かせない重要な計測項目であるということで理解していただければと思います。 さて、次回も大型タービン特有の計測項目である伸び差に関して説明する予定です。 図6. 偏心波形と偏心p-p計測値の関係 本コラム関連製品 VM-5シリーズVM-7シリーズFKシリーズ この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 新川電機株式会社 瀧本 孝治さんのその他の記事 2024/07/09 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 4 ) 2024/07/02 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 3 ) 2024/06/25 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 2 ) 2024/06/17 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 1 ) 2024/02/14 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2023/11/07 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2014/09/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(13)バランス調整 / 不釣合い修正 2014/08/05 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(12)ハイスポットとヘビースポットの位相角 2014/07/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(11)振動ベクトルとポーラ線図 2014/05/13 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(10)同期サンプリングにおける設定 2014/04/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(9)非同期サンプリングにおける設定 2014/03/11 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(8)同期サンプリングと非同期サンプリング 2014/02/12 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(7)データ収集間隔 / データ保存間隔 2014/01/14 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(6)サンプリング周波数 2013/12/10 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(5)位相基準信号(フェーズマーカ) 2013/10/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(4)軸振動センサのX-Y取付けでできること 2013/09/03 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(3)軸振動センサのX-Y取付け 2013/08/06 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(2)ターゲット、システムケーブル長 2013/07/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(1)非接触変位センサの精度に関する用語の意味 2013/06/11 業界コラム 振動解析と診断 vol.11 ~ ポータブル振動解析システムKenjin ~ 2013/05/14 業界コラム 振動解析と診断 vol.10 ~ 振動解析診断システムの紹介(5) ~ 2013/04/09 業界コラム 振動解析と診断 vol.9 ~ 振動解析診断システムの紹介(4) ~ 2013/03/12 業界コラム 振動解析と診断 vol.8 ~ 振動解析診断システムの紹介(3) ~ 2013/02/13 業界コラム 振動解析と診断 vol.7 ~ 振動解析診断システムの紹介(2) ~ 2013/01/16 業界コラム 振動解析と診断 vol.6 ~ 振動解析診断システムの紹介(1) ~ 2012/09/04 業界コラム 振動解析と診断 vol.5~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(2)~ 2012/08/07 業界コラム 振動解析と診断 vol.4 ~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(1)~ 2012/07/10 業界コラム 振動解析と診断 vol.3 ~ オービットとポーラ線図 ~ 2012/06/12 業界コラム 振動解析と診断 vol.2 ~ 解析グラフ ~ 2012/05/15 業界コラム 振動解析と診断 vol.1 ~ 振動解析の概要 ~ 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月