2024/01/10 業界コラム 堀田 智哉 軸受の振動 ( 5 ) 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉 2017/3 博士(工学) 東京理科大学...もっと見る 2017/3 博士(工学) 東京理科大学 2017/4‐2020/3 関東学院大学理工学部助教 2020/4-2023/3 関東学院大学理工学部講師 2023/4 関東学院大学理工学部准教授 [専門分野] 転がり軸受工学、機械要素・機械設計、トライボロジー、材料工学 転がり軸受 (ベアリング : Bearing) は、さまざまな機械に使用される重要な機械要素です。機械の運転状態を監視するために、振動あるいは音響を測定し、その周波数を分析および評価することが多いです。この振動は軸受に起因するものも多く、正しい評価には、軸受からどのような振動が発せられるのかをよく理解しておく必要があります。そこで、本連載では、軸受からどのような振動 (音響) が発せられるのか解説していきます。 第5回目となる今回は、軸受の取扱い不良および損傷に起因する振動について解説します。 転がり軸受の取扱い不良に起因する振動 転がり軸受の取扱い不良によって発生する振動には、「きずによる振動」、「ごみによる振動」、の2種類が含まれます (図1) 。 図1 転がり軸受の取扱い不良によって発生する振動転がり軸受は、HRC60以上の非常に硬い表面を有しています。しかし、軸受を落下させたり、衝撃を加えたりするなど、誤った扱い方をすると、圧こんやきずが発生します。また、軸受に使用されているSUJ2はサビやすい材料ですので、環境や保管方法によってはサビが生じます。これらの圧こん、きずまたはサビなどが転走面や転動体の表面にある場合には、周期性のある振動が発生します。この振動の周期は回転速度に依存し、回転速度が遅くなれば、この振動周期も遅くなります。玉軸受では、きずが軌道の接触面にあるときには連続的な振動が常に発生しますが、きずが玉にある場合には、玉のスピンによって接触面が変化しますので、振動が不規則に発生します。また、軸受の洗浄が不十分である場合や、潤滑剤に異物が混入した場合には、非周期性のごみ音および振動が発生します。 きずによる振動 軸受の仕上げ面にきず、圧こんまたはサビなどがある場合には、軸受を回転させたときにパルス的な振動が発生します。この振動は仕上げ面のきずなどの部分に転動体が衝突することによって発生する振動ですから、この振動は軸受の固有振動周波数と同じです。したがって、測定した振動波形をそのままFFT解析すれば、固有振動周波数にピークが現れます。しかし、固有振動が発生する原因はさまざまですので、そのピークの原因がきずによるものなのか、それ以外の原因によるものなのかを判別することはできません。そこで、エンベロープ処理によって、固有振動の発生周期を明らかにします。 きずによる振動の発生周期 (損傷周波数) は、きずの場所、個数、回転速度および軸受の内部諸元などで決まります。つまり、発生周期がわかれば、軸受のどこにきずがあるのかがわかります (「軸受の寿命と振動 (2) 」でも解説しています) 。ただし、玉軸受で玉にきずがある場合には、玉のスピンによって、きずが転走面に衝突したりしなかったりしますので、振動の発生も不規則になります。また、粘度の高い潤滑油を使用した場合には、振動が減衰され、振動が小さくなることもあります。 図2に軸受内輪にきずがある場合の振動波形の例を示します。何も処理をおこなわない場合では、さまざまな振動が含まれていますので、きずによる振動は隠れています。したがって、これをFFT解析しても、内輪損傷周波数にピークは現れません (図2 (a) )。きずによる振動を抽出するために、軸受の固有振動周波数近辺以外の振動をHPF (ハイパスフィルタ) あるいはBPF (バンドパスフィルタ) によって除去します (図2 (b) )。この時点では、低周波は除去されますので、FFT処理をしても損傷周波数は出てきません (軸受の固有振動周波数にピークが現れます) 。さらに、これをエンベロープ処理すると、内輪損傷周波数にピークが現れます (図2 (c) )。 図2 振動波形の処理によるFFT解析結果の変化 (軸受呼び : 6204, 内輪1か所に圧痕, 内輪回転数 : 1800 rpm) きずによる振動をなくすためには、軸受を新品に交換する、軸受に衝撃が加わらないようにする、きずの原因を調査し、対策などをとる必要があります。また、取り扱い時や保管時には十分に注意し、きず、圧こんまたはサビなどを発生させないことが重要です。 ごみによる振動 潤滑剤中への異物の混入や、軸受の洗浄が不十分である場合には、軸受内部にごみが侵入することがあります。この異物またはごみを転走面にかみ込んだときには、きずと同じような振動が発生します。 きずによる振動に比べてごみによる振動は、振動の大きさが一定にならず、発生も不規則になることが多いです。異物またはごみの影響は、小径玉軸受やミニチュア玉軸受で問題となることが多いです。異物やごみの侵入は転走面の圧こんの原因となり、表面起点型はく離にいたることもあります。ごみによる振動をなくすためには、潤滑剤中の異物を除去する、軸受の洗浄方式を見直す、密封装置 (接触式シールに変更するなど) を改善するなどをおこなう必要があります。 おわりに 今回は全5回にわたり、転がり軸受の振動について解説をおこないました。ここでは主な振動のみをご紹介しましたが、実際にはさまざまな箇所から、さまざまな振動が発生しています。そのため、原因のわかる振動には対策が取れますが、実際には原因が分からないことも多くあります。本コラムで少しでも原因究明のお役に立つ点があれば幸いです。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉さんのその他の記事 2024/12/10 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 ( 2 ) 2024/10/08 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 (1) 2024/01/10 業界コラム 軸受の振動 ( 5 ) 2023/11/14 業界コラム 軸受の振動 ( 4 ) 2023/09/12 業界コラム 軸受の振動 ( 3 ) 2023/07/11 業界コラム 軸受の振動 ( 2 ) 2023/05/09 業界コラム 軸受の振動 ( 1 ) 2023/01/11 業界コラム 軸受の選定 ( 5 ) 2022/11/08 業界コラム 軸受の選定 ( 4 ) 2022/09/13 業界コラム 軸受の選定 ( 3 ) 2022/07/12 業界コラム 軸受の選定 ( 2 ) 2022/05/11 業界コラム 軸受の選定 ( 1 ) 2021/12/14 業界コラム 軸受の取扱い ( 5 ) 2021/10/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 4 ) 2021/08/17 業界コラム 軸受の取扱い ( 3 ) 2021/06/04 業界コラム 軸受の取扱い ( 2 ) 2021/04/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 1 ) 2020/08/04 業界コラム 軸受の基本(5) 2020/07/07 業界コラム 軸受の基本(4) 2020/06/02 業界コラム 軸受の基本(3) 2020/05/12 業界コラム 軸受の基本(2) 2020/04/07 業界コラム 軸受の基本(1) 2019/10/01 業界コラム 軸受の寿命と振動(2) 2019/09/03 業界コラム 軸受の寿命と振動(1) 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月