コラム執筆にあたって
私は横浜市最南端に位置する大学で「転がり軸受」の研究をしております。具体的には、小径玉軸受の寿命試験や円すいころ軸受の低トルク化など、軸受単体を対象にした研究から、軸受の潤滑剤や軸受周辺設計を対象にした研究まで、研究の内容は多岐にわたっています。
機械の信頼性や静粛性、精度などは、軸受の性能が直接的に関与しますので、軸受に関する問題でお困りの方は多いように感じます。本コラムの読者は、とくに振動監視に関心がある方が多いかと思いましたので、転がり軸受の振動について、初学者向けの解説をすることにいたしました。
転がり軸受(ベアリング:Bearing)は、さまざまな機械に使用される重要な機械要素ですが、大学などでしっかり教わった方は少ないのではないでしょうか。本コラムでは、そんな転がり軸受の寿命と振動について、全 2 回にわたり解説していきます。
第 1 回目となる今回は、転がり軸受の寿命について解説します。
転がり軸受の寿命
転がり軸受は、外輪、内輪、転動体および保持器、また必要に応じて、シールやシールドなどの密封装置や潤滑剤(グリースまたは潤滑油)で構成されています(図 1)。原理としては、転動体が内輪や外輪の上を転がることによって、なめらかに軸を回転させることができるのです。このとき、内輪(もしくは外輪)上のある 1 点にだけ注目すれば、転動体が通過する際に荷重が加わることになりますので、軸の回転中には、内輪が繰返し応力を受けることになります。この繰り返し荷重によって、軸受材料内部の非金属介在物などを起点として亀裂が発生し、この亀裂が表面に達すると表面の一部がはがれてしまいます(図 2)。これを一般的に、「内部起点型はく離」と呼びます。はく離が発生した軸受は正常に回転することができませんので、はく離の発生=転がり軸受の寿命となります。このように、繰返し応力によりはく離が発生することで寿命を迎えることを「疲労寿命」と呼んでいます。これは、転がり軸受の構造上避けることはできません。転がり軸受の寿命にはそのほかにも、「潤滑寿命」「音響寿命」「摩耗寿命」「精度寿命」などがありますが、これらは、機械の要求性能や機能により基準が異なりますので、ここでは詳しく解説をおこないません。

- 疲労寿命・・・材料疲労による疲れ寿命
- 潤滑寿命・・・潤滑剤劣化による焼き付き
- 音響寿命・・・回転音増大による機能寿命
- 摩耗寿命・・・摩耗による機能低下
- 精度寿命・・・回転精度劣化による機能低下

転がり軸受の寿命計算
\begin{equation} L_{10}=\left( \frac{c}{p} \right)^p \tag{1} \end{equation}
\( L_{10}\) : 基本定格寿命\((\times10^6 回転)\)
\(C\) : 基本定格荷重\((N)\)
\(P\) : 動等価荷重\((N)\)
\(p\) : 玉軸受 \(p=3\)
: ころ軸受 \(p=10/3\)
また、回転速度\(n(min^−1)\)を用いて寿命時間に換算した式 (2) もよく用いられます。
\begin{equation} L_{10h}=\frac{10^6}{16n} \left(\frac{c}{p} \right)^p \tag{2} \end{equation}
\(L_{10h}\):基本定格寿命時間\((h)\)
これら、基本定格寿命や基本定格寿命時間は、一群の同じ呼び番号の軸受を同じ条件で個々に運転したときの寿命を統計的に取り扱い、そのうち、90% の軸受が転がり疲れによる損傷を起こさずに回転できる総回転数もしくは総回転時間を示します。つまり定義上は、この総回転数(時間)までに、1/10 の確率で寿命を迎える(信頼度 90%)ということです。
もちろん、1/10の確率で壊れるのは困るという場合もありますし、運転環境や潤滑状態に応じて寿命は変化しますので、それを補正する必要があります。この寿命補正には式 (3) の補正式を使います。
\begin{equation} L_{nm}=\alpha_{1}\cdot\alpha_{ISO}\cdot L_{10} \tag{3} \end{equation}
\(\alpha_1\):信頼度係数
\(\alpha_{ISO}\):寿命補正係数
\(\alpha_{ISO}\)には以下の因子が含まれています。
- (a)疲労限荷重 :
接触応力\(1500MPa\)に相当する軸受荷重を疲労限荷重\(Cu\)としたもの。 - (b)汚染度係数 :
潤滑剤が固体粒子により汚染された場合の寿命低下を汚染度係数\(e_c\)として重汚染\(e_c=0\)から極めて高い清浄度\(e_c=1\)としたもの。 - (c)粘度比 :
転がり接触表面の潤滑剤による分離度を示す指標を粘度比\(κ\)(使用潤滑剤の基準粘度に対する実用条件における粘度の比)で与えたもの。
これらの係数の詳細な値については各軸受メーカのカタログや ISO 281 などを確認してください。
システムとしての軸受寿命
さて、以上の式は、転がり軸受単体の寿命を求める式です。通常は 1 本の軸に二つ以上の軸受を使用しますので、さらに、軸受システムとしての寿命を求める必要があります。軸受システムの寿命計算の式は式 (4) で求めることができます。
\begin{equation} L=\frac{1}{\left(\frac{1}{{L_{1}}^{e}}+\frac{1}{{L_{2}}^e}+\cdots+\frac{1}{{L_{n}}^e} \right)^{1/e}} \tag{4} \end{equation}
\(L\) : 軸受の総合寿命 \((h)\)
\(Lm\) : 個々の軸受の基本定格寿命 \((h)\)
\(e\) : 玉軸受 \(e=10/9\)
: ころ軸受 \(e=9/8\)
ここで、注意していただきたいのが、システムの中で最も早く損傷する軸受の寿命ではないということです。実際に値を入れて計算すればわかるかと思いますが、システムとしての寿命は、単体の寿命よりも短くなります。これは、軸受の寿命が破損確立から求められていることによります。
転がり軸受の寿命診断
転がり軸受の寿命の診断には、音や振動、温度などを用います。転がり軸受の内部で損傷が発生すると、音や振動が上昇し、温度も上昇します。とくに焼き付き発生時には、瞬時に温度が上昇します。ですので、通常はこれらを監視し、総合的な知見から寿命を判断することになりますが、これらはあくまで、損傷した結果として現れる現象です。近年では、AE 信号のモニタリングやフェログラフィ-分析による予防保全がおこなわれることもあります。
次回は、転がり軸受の振動計測方法と損傷周波数について解説します。
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