2025/04/08 業界コラム 堀田 智哉 軸受の摩擦・潤滑 ( 4 ) 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉 2017/3 博士(工学) 東京理科大学...もっと見る 2017/3 博士(工学) 東京理科大学 2017/4‐2020/3 関東学院大学理工学部助教 2020/4-2023/3 関東学院大学理工学部講師 2023/4 関東学院大学理工学部准教授 [専門分野] 転がり軸受工学、機械要素・機械設計、トライボロジー、材料工学 転がり軸受 (ベアリング:Bearing) は、さまざまな機械などの回転軸を支える機械要素です。転がり軸受を用いることでしゅう動部分の摩擦を小さくすることができますが、完全になくすことはできません。本コラムでは、軸受内部の摩擦とその潤滑に着目し解説します。 第4回目となる今回は、軸受の潤滑について解説します。 潤滑の目的 転がり軸受を運転させる際には、潤滑剤が必須です。転がり軸受において潤滑は、転がり面およびすべり面に油膜を形成し、金属と金属の直接接触を防ぐことを主目的におこなわれます。一般論として、転がり軸受における潤滑の効果は以下の通りです。 軸受寿命の延長転がり接触部に油膜を形成させることにより、転がり疲れ寿命を延長させる。 摩擦および摩耗の軽減軸受構成部品の転がり部、滑り部における金属接触を防止し、摩擦および摩耗を軽減する。 摩擦熱の排出および冷却摩擦により発生した熱あるいは、外部から伝わる熱を排出する。 その他異物の侵入防止および排出、あるいは金属表面を油膜で覆うことにより、腐食 (さび) を抑制する。 これらの効果を発揮させるためには、使用条件に適した潤滑方法を用いるとともに、適切な潤滑剤、適切な潤滑剤の量である必要があります。さらに、軸受外部からの異物の侵入と潤滑剤の漏れを防ぐための適切な密封構造の設計などの、総合的な検討が必要です。潤滑が十分でない場合には、摩擦によって軸受の過度な昇温を招いたり、異常摩耗を起したりすることがあるので、潤滑設計は適切におこなわれなければなりません。 図1に潤滑油量と摩擦損失、温度上昇との関係を示します。図に示したA~Eの領域における特徴と、その条件に対応する主な潤滑方式は以下の通りです。 領域A:油量が非常に少ない場合、転動体と軌道面とが部分的に金属接触し、軸受の摩耗や焼付きが発生する。 領域B:完全な油膜が形成され、摩擦は最小で軸受温度も低い。 (グリース潤滑、オイルミスト潤滑、エアオイル潤滑) 領域C:さらに油量を増やした場合、領域Dに移行し、発熱と冷却とが平衡する。 (循環給油) 領域D:温度上昇は油量に関係なく、ほぼ一定となる。 (循環給油) 領域E:油量の増加とともに冷却効果が顕著になり軸受温度が下がる。 (強制循環給油、ジェット潤滑) 図1 供給油量と軸受温度および摩擦トルクとの関係転がり接触領域の潤滑 前述のように、転がり軸受は潤滑剤により軌道輪と転動体との間に油膜を生成させ、金属接触を防いでいます。したがって、油膜の形成状態が軸受寿命に影響を与えます。つまり、油膜の形成状態、とくに油膜厚さを求めることが軸受寿命を考える上では非常に重要です。 すべり軸受の油膜厚さの計算に使用されているReynoldsの流体潤滑理論を転がり軸受の油膜厚さの計算に適用しても、実態と一致しない、非常に薄い膜厚が算出されます。これは、転がり軸受では転がり接触面が非常に小さく、接触面圧が数GPaの高圧となるためです。高面圧下の接触領域では、接触面の弾性変形と高圧下での潤滑油の粘度の増加があるため、それらを考慮した計算をおこなう必要があるのです。 そこで考案されたのが、流体潤滑理論に接触面の弾性変形と高圧による潤滑油の粘度の増加をとりいれた、弾性流体潤滑理論 (EHL理論:Elasto-Hydrodynamic Theory) です。これは、Reynoldsの流体潤滑の基礎方程式にHertzの弾性変形理論、そして圧力と粘度との関係を連立させて解を求めます。 図2にDowson-Higginsonが提唱したEHLの模式図を示します。接触面の圧力分布は全体的にHertzの接触理論による半だ円形状に近似しています。左側の潤滑油の入口では、くさび形状の流体膜による圧力上昇が生じ、一方、右側の潤滑油の出口では、圧力スパイクと呼ばれる圧力のピークが生じます。流体膜の膜厚はほぼ一様ですが、出口付近では圧力スパイクに対応した位置でくびれがみられ、この部分で膜厚が最小となります。油膜厚さの計算式は多くの研究者により提唱されていますが、ここでは割愛します。 図2 EHLにおける圧力分布と油膜形状潤滑方法 潤滑方法には大きく分けて、グリース潤滑と油潤滑があります。表2にそれぞれの特徴を示しますが、転がり軸受では取扱いの容易なグリース潤滑の方が広く用いられています。 表2 グリース潤滑および油潤滑の特徴 項目 グリース潤滑 油潤滑 密封装置 簡易 やや複雑 保守に注意が必要 潤滑性能 良い 非常に良い 回転速度 低・中速 高速にも使用できる 潤滑剤の交換 やや複雑 簡易 潤滑剤の寿命 比較的短い 長い 冷却効果 なし 良い (循環が必要) ごみのろ過 困難 容易 次回は、軸受のグリース潤滑について解説します。 本コラムは全6回を予定しています。次回は6月号に掲載予定です。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉さんのその他の記事 2025/04/08 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 ( 4 ) 2025/02/13 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 ( 3 ) 2024/12/10 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 ( 2 ) 2024/10/08 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 (1) 2024/01/10 業界コラム 軸受の振動 ( 5 ) 2023/11/14 業界コラム 軸受の振動 ( 4 ) 2023/09/12 業界コラム 軸受の振動 ( 3 ) 2023/07/11 業界コラム 軸受の振動 ( 2 ) 2023/05/09 業界コラム 軸受の振動 ( 1 ) 2023/01/11 業界コラム 軸受の選定 ( 5 ) 2022/11/08 業界コラム 軸受の選定 ( 4 ) 2022/09/13 業界コラム 軸受の選定 ( 3 ) 2022/07/12 業界コラム 軸受の選定 ( 2 ) 2022/05/11 業界コラム 軸受の選定 ( 1 ) 2021/12/14 業界コラム 軸受の取扱い ( 5 ) 2021/10/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 4 ) 2021/08/17 業界コラム 軸受の取扱い ( 3 ) 2021/06/04 業界コラム 軸受の取扱い ( 2 ) 2021/04/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 1 ) 2020/08/04 業界コラム 軸受の基本(5) 2020/07/07 業界コラム 軸受の基本(4) 2020/06/02 業界コラム 軸受の基本(3) 2020/05/12 業界コラム 軸受の基本(2) 2020/04/07 業界コラム 軸受の基本(1) 2019/10/01 業界コラム 軸受の寿命と振動(2) 2019/09/03 業界コラム 軸受の寿命と振動(1) 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月