関東学院大学 理工学部 准教授

堀田 智哉

2017/3     博士(工学) 東京理科大学
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2017/3     博士(工学) 東京理科大学
2017/4‐2020/3  関東学院大学理工学部助教
2020/4-2023/3  関東学院大学理工学部講師
2023/4     関東学院大学理工学部准教授
[専門分野] 転がり軸受工学、機械要素・機械設計、トライボロジー、材料工学

第2回目となる今回は、転がり軸受の洗浄方法について解説します。

軸受の洗浄

 転がり軸受は、新品の状態では防錆剤が塗布されていますが、洗浄せずにそのまま組付けても問題はありません。防錆剤は軸受の表面に非常に薄く塗布されていますので、潤滑油やグリースに混入しても有害ではないからです。それよりも、汚れた油やゴミの多い環境で洗浄作業をおこなうことの方が、軸受にとっては有害となってしまいます。ただし、小形の高速軸受や、低粘度の潤滑剤を使用する場合、ミスト給油をする場合には、防錆剤を洗い流したほうが良いようです。また、特殊な潤滑剤を用いる場合には、潤滑剤と防錆剤の反応による有害な影響を避けるために、洗浄が必要となることがあります。軸受の洗浄は、機械の定期点検や、故障時に取外した軸受を再利用する際におこなわれることが多いです。なお、両シールドおよびシール形軸受は、グリースが封入されていますので、洗浄してはいけません。

洗浄の手順

 洗浄をおこなう前に、潤滑油やグリースの汚れ、残存量などを観察し、また、異物などが混入していないことを確認します。このときに、必要に応じてサンプルの採取や、記録を残しておくと、あとで分析するときに活用できるでしょう。
 洗浄には、白灯油や軽油などの有機溶剤が用いられます。また、引火点が250℃以上の油を120℃に温めて洗浄をおこなうこともあるようです。圧縮空気も水分やゴミを含んでいなければ、軸受のゴミ除去に使用できますが、通常の空気には水分が含まれていますので、ノズルの出口で凝縮して水滴となり、サビの原因となるので注意を払う必要があります。
 洗浄槽は十分に大きなものを用います。洗浄槽の内面が白色などに塗装されたものを使用すれば、汚れの判定をしやすいでしょう。また、あらかじめ槽内に金網製の上げ底を設けてくことで、ゴミが軸受に再付着することを防ぎます。

図 洗浄槽の例

 洗浄は粗洗浄と仕上げ洗浄とに分けておこないます。汚れがひどい場合には、80℃程度に温めたマシン油にあらかじめ浸しておくと、汚れが落ちやすくなります。粗洗浄のとき、異物などが付いたまま軸受を回転させると、転動面にキズを付けることがありますので、回転させないように注意して下さい。まずは、内輪と外輪を手で固定した状態で、軸受を揺り動かして付着している汚れを洗い落とします。さらに、ブラシを使うなどして潤滑グリースや付着物を落し、おおむね、きれいになってから、仕上げ洗浄に移ります。仕上げ洗浄は、軸受を洗浄油の中で回転させながら、丁寧におこないます。なお、洗浄油は必要に応じて交換し、常に清浄にしておく配慮が必要になります。
 最後に、軸受の汚れが完全に落ちていることを確認します。空気中で外観を観察し、さらに内輪を水平に保持して、外輪を静かに回転させて、滑らかに回転することを確認します。また、軸受の外観をよく観察して、キズや変形、変色などの有無を確認します。洗浄後は直ちに防錆剤や潤滑剤を塗布し、サビから保護してください。グリースを塗布する場合は、軸受を回しながら、軸受内部に十分にグリースが行き渡るようにしてください。

次回は、転がり軸受の点検方法について解説します。