2023/09/12 業界コラム 堀田 智哉 軸受の振動 ( 3 ) 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉 2017/3 博士(工学) 東京理科大学...もっと見る 2017/3 博士(工学) 東京理科大学 2017/4‐2020/3 関東学院大学理工学部助教 2020/4-2023/3 関東学院大学理工学部講師 2023/4 関東学院大学理工学部准教授 [専門分野] 転がり軸受工学、機械要素・機械設計、トライボロジー、材料工学 転がり軸受 (ベアリング : Bearing) は、さまざまな機械に使用される重要な機械要素です。機械の運転状態を監視するために、振動あるいは音響を測定し、その周波数を分析および評価することが多いです。この振動は軸受に起因するものも多く、正しい評価には、軸受からどのような振動が発せられるのかをよく理解しておく必要があります。そこで、本連載では、軸受からどのような振動 (音響) が発せられるのか解説していきます。 第3回目となる今回は、軸受の振動の分類について解説します。 転がり軸受から発生する振動 転がり軸受から発生する振動の要因は、「転がり軸受が弾性体であることに起因する振動」、「転がり軸受の製作精度に起因する振動」、「転がり軸受の取扱い不良に起因する振動」の3つがあります (図1) 。また、これらの振動には強制振動と固有振動とがありますが、強制振動は回転速度に応じた周波数が発生します。一方で、固有振動は、軸受が固有の周波数(固有振動数)で振動します。これらの振動は、軸受が弾性体で製作されている限り、いくら加工精度を上げてもこの固有振動を抑えることはできません。固有振動は、回転速度に依存しないので、回転速度を変えて周波数スペクトルを測定すれば、それが固有振動かどうかを判別することができます。 図1 転がり軸受の振動転がり軸受の構造に起因する振動 転がり軸受が弾性体であることによって発生する振動には、「転動体通過振動」、「軸受の固有振動」、「回転軸の危険速度」の3種類が含まれます (図2) 。ここでは、「転動体通過振動」のみを解説します。 図2 転がり軸受が弾性体であることで発生する振動転動体通過振動 内輪は転動体に支えられています。図3に示すように、アキシアル荷重のみの場合には、転動体にかかる荷重 (転動体荷重) が均等になりますが、ラジアル荷重が加わっている場合には、転動体荷重の偏りが生じます。転動体は弾性体ですので、荷重によって弾性変形します。つまり、ラジアル荷重が加わる場合には、転動体は位置によって弾性変形量が変わります。 図3 転動体荷重の変化 たとえば、図4のように、ラジアル荷重\(F_{r}\)が加わっているときに、軸の直下に転動体がある場合と、転動体間である場合とでは、転動体荷重が異なります。転動体をばねとして考えれば、それぞれ、3本のばねと4本のばねとで軸を支えているのと同じですから、この両者で剛性が変わることは何となくイメージができるのではないでしょうか。そのため、軸の回転によって軸の中心が上下に移動します。さらに、この中間 (転動体位置が左右非対称) の場合には、軸が水平 (左右) 方向にも移動します。これによって、転動体がラジアル荷重の方向の位置を通過する周期で振動が発生します。この振動を転動体通過振動と呼び、軸受が弾性体かつ転動体が有限個であるならば、必ず発生します。 図4 転動体の位置と転動体荷重 転動体通過振動は、低速時に明瞭に表れるといわれています。また、転動体通過振動周波数\(f\)は、転動体の公転速度を\(f_{c}\) , 転動体数を\(z\)とすれば、以下の式で表すことができます。 \[ f=zf_{c} \] また、振幅は軸受の呼び、ラジアル荷重、ラジアル隙間、転動体数に依存します。回転数が速くなると、軌道面および転動体面の凹凸がたがいに衝突してランダムな振動を生じ、複雑な振動状態となります。 この振動を抑えるためには、転動体荷重の偏りを少なくする必要があります。たとえば、転動体個数を増やす、ラジアル隙間を小さくする、あるいは、適当なアキシアル荷重 (予圧) を負荷するなどの方法があります。 次回は、軸受の製作精度に起因する振動について解説します。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉さんのその他の記事 2024/10/08 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 (1) 2024/01/10 業界コラム 軸受の振動 ( 5 ) 2023/11/14 業界コラム 軸受の振動 ( 4 ) 2023/09/12 業界コラム 軸受の振動 ( 3 ) 2023/07/11 業界コラム 軸受の振動 ( 2 ) 2023/05/09 業界コラム 軸受の振動 ( 1 ) 2023/01/11 業界コラム 軸受の選定 ( 5 ) 2022/11/08 業界コラム 軸受の選定 ( 4 ) 2022/09/13 業界コラム 軸受の選定 ( 3 ) 2022/07/12 業界コラム 軸受の選定 ( 2 ) 2022/05/11 業界コラム 軸受の選定 ( 1 ) 2021/12/14 業界コラム 軸受の取扱い ( 5 ) 2021/10/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 4 ) 2021/08/17 業界コラム 軸受の取扱い ( 3 ) 2021/06/04 業界コラム 軸受の取扱い ( 2 ) 2021/04/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 1 ) 2020/08/04 業界コラム 軸受の基本(5) 2020/07/07 業界コラム 軸受の基本(4) 2020/06/02 業界コラム 軸受の基本(3) 2020/05/12 業界コラム 軸受の基本(2) 2020/04/07 業界コラム 軸受の基本(1) 2019/10/01 業界コラム 軸受の寿命と振動(2) 2019/09/03 業界コラム 軸受の寿命と振動(1) 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月