2020/08/04 業界コラム 堀田 智哉 軸受の基本(5) 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉 2017/3 博士(工学) 東京理科大学...もっと見る 2017/3 博士(工学) 東京理科大学 2017/4‐2020/3 関東学院大学理工学部助教 2020/4-2023/3 関東学院大学理工学部講師 2023/4 関東学院大学理工学部准教授 [専門分野] 転がり軸受工学、機械要素・機械設計、トライボロジー、材料工学 第5回目となる今回は、転がり軸受の許容回転速度について解説します。 許容回転速度とはなにか メーカーの発行している転がり軸受の寸法表には通常、許容回転数が記載されています。軸受の回転速度が速くなると、軸受内部の摩擦熱の増大によって運転温度が上昇し、焼付きが発生してしまいます。許容速度は焼付きにいたるような発熱を生じさせないで、継続運転できる経験的な回転速度の許容値を指します。したがって、この許容値は軸受の形式・寸法・公差、潤滑方式、潤滑剤の質および量、保持器の形状や材料、荷重条件、冷却状況などの様々な要因によって変化します。寸法表などに記載されている値は、標準設計の軸受を普通荷重条件(\(C/P\)≧ 12,\(F_{a}/F_{r}\)≦ 0.2程度)のもとで、グリース潤滑もしくは油潤滑で運転する場合の許容される回転速度が示されています。なお、油潤滑の場合は、油浴方式を基準にしています。グリース潤滑では冷却効果が期待できないため、油潤滑よりも許容回転速度が20%程度低くなっています。 高速回転 潤滑剤の種類によっては、高速回転に適さないものもあります。寸法表に記載されている許容回転速度の70%以上の回転数で使用する場合には、高速性能に優れたグリースや潤滑油を選定する必要があります。 また前述のとおり、油潤滑の基準は油浴方式になっていますので、より冷却能力の高い潤滑方式を用いることによって、寸法表に記載されている許容回転速度以上の高速回転でも継続運転が可能となります。ただし、保持器の形状安定性または強度、保持器案内面の潤滑状態、転動体に作用する遠心力の大きさなどによっても回転速度の上限値が決まりますので、冷却さえされていれば、どんなに高速回転でも継続運転が可能というわけではありません。一般的に、冠型樹脂保持器(図1)などは形状安定性が悪いため、高速回転に適していません。また、セラミック転動体は軽量で遠心力が小さいため、高速回転に適しています。 図1 冠型樹脂保持器低速回転 許容回転数の上限値は寸法表などに記載がありますが、下限値の記載がありません。しかしながら、回転速度が極端に低い場合、油膜の形成が困難になります。そのため、油膜切れによる転送面や転動体の早期損傷が生じることがあります。このような低速回転の場合には極圧添加剤が混合されたグリースを使用するのが良いでしょう。 揺動運動 装置によっては、1回転する前に方向が切り替わる場所で使用されることがあります。このような揺動運動では、回転方向が逆転する瞬間に、回転速度がゼロとなるため、その瞬間だけ油膜がなくなります。そのため、転走面に転動体ピッチの摩耗による“くぼみ”が発生します。これをフレッティングと呼びますが、このような揺動運動の場合には耐フレッティング性能の高いウレアグリースなどを使用すると良いでしょう。 おわりに 今回は全5回にわたり、転がり軸受の基本について解説をおこないました。随分と割愛した内容となっておりますが、本コラムで転がり軸受に少しでも興味を持っていただき、お役に立つ点があれば幸いです。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉さんのその他の記事 2024/10/08 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 (1) 2024/01/10 業界コラム 軸受の振動 ( 5 ) 2023/11/14 業界コラム 軸受の振動 ( 4 ) 2023/09/12 業界コラム 軸受の振動 ( 3 ) 2023/07/11 業界コラム 軸受の振動 ( 2 ) 2023/05/09 業界コラム 軸受の振動 ( 1 ) 2023/01/11 業界コラム 軸受の選定 ( 5 ) 2022/11/08 業界コラム 軸受の選定 ( 4 ) 2022/09/13 業界コラム 軸受の選定 ( 3 ) 2022/07/12 業界コラム 軸受の選定 ( 2 ) 2022/05/11 業界コラム 軸受の選定 ( 1 ) 2021/12/14 業界コラム 軸受の取扱い ( 5 ) 2021/10/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 4 ) 2021/08/17 業界コラム 軸受の取扱い ( 3 ) 2021/06/04 業界コラム 軸受の取扱い ( 2 ) 2021/04/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 1 ) 2020/08/04 業界コラム 軸受の基本(5) 2020/07/07 業界コラム 軸受の基本(4) 2020/06/02 業界コラム 軸受の基本(3) 2020/05/12 業界コラム 軸受の基本(2) 2020/04/07 業界コラム 軸受の基本(1) 2019/10/01 業界コラム 軸受の寿命と振動(2) 2019/09/03 業界コラム 軸受の寿命と振動(1) 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月