2024/12/10 業界コラム 堀田 智哉 軸受の摩擦・潤滑 ( 2 ) 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉 2017/3 博士(工学) 東京理科大学...もっと見る 2017/3 博士(工学) 東京理科大学 2017/4‐2020/3 関東学院大学理工学部助教 2020/4-2023/3 関東学院大学理工学部講師 2023/4 関東学院大学理工学部准教授 [専門分野] 転がり軸受工学、機械要素・機械設計、トライボロジー、材料工学 転がり軸受 (ベアリング:Bearing) は、さまざまな機械などの回転軸を支える機械要素です。転がり軸受を用いることでしゅう動部分の摩擦を小さくすることができますが、完全になくすことはできません。本コラムでは、軸受内部の摩擦とその潤滑に着目し解説します。 第2回目となる今回は前回に引き続き、軸受内部に発生する摩擦について解説します。 2. 転がり接触部での微小すべり (第1回続き) 第1回で解説した、差動すべりやスピンすべり以外にも、ジャイロすべり、スキュー、公転すべり・自転すべりなどがあります。ここでは、「ジャイロすべり」と「スキュー」について解説します。 ジャイロすべり 通常、転動体は回転軸を中心にして公転をしています。一方、転動体の自転は転動体と内外輪との接触点ABを結んだ軸に対し、直角となる軸を中心におこなわれます。すなわち、図1に示すように接触角α を有する場合には、転動体自転軸は転動体公転軸と一定の角度を保ちながら旋回します。一般的には、この角度を小さくする (自転軸と公転軸を一致させる) ようにモーメント (ジャイロモーメント) が働きます。このジャイロモーメントにより、転動体は回転をはじめるため、転動体と内外輪との接点にはすべりが発生します。これを「ジャイロすべり」と呼び、接触角や回転速度が大きくなるほどジャイロモーメントが大きくなります。 図1 ジャイロモーメントスキュー ころ軸受などにおいて、図2のようにころの中心軸が進行方向に対して正しく直角でなく、小さな角度を持って傾くことを「スキュー」と呼びます。このスキューは、ころ端面とつば部との摩擦抵抗や軸受の加工精度、負荷の偏りなどによって生じます。ころのスキューが発生すると軌道面との接触面に軸方向のすべりを生じます。また、円すいころ軸受の場合には、組立幅が変化し、予圧の「抜け」に繋がります。 図2 ころのスキュー3. すべり接触による摩擦 転がり軸受には、さまざまな要因によってすべり接触が発生しています。たとえば、「つば部のすべり」、「保持器のすべり」などがあります。 つば部のすべり 前述のように、ころにはスキューが発生しますので、ころをまっすぐ転がすためには、図3に示すように「つば」を設けて、ころを案内する必要があります。このつばところの大端面とはすべり接触をしています。円筒ころなどは、つば部で荷重を受け持つ構造ではありませんので、発生する摩擦はそれほど大きくはありませんが、円すいころ軸受などでは、一部の荷重を「大つば」で受ける構造ですので、大きな摩擦が発生します。そのため、円すいころ軸受の大つば部では、かじりや焼付きが発生しやすくなります。また、ころ大端面が大つばのどの部分で接触しているかによって、摩擦の大きさが変化します。 図3 つば保持器のすべり 転がり軸受には、転動体を円周方向に一定の間隔に保たせるために保持器が用いられます。図4に保持器の有無による転動体の状態を示します。保持器がない場合、転動体同士が接触します。このとき、転動体表面の進行方向は逆方向ですので、相対すべり速度は転動体表面の周速の2倍になります。一方、保持器がある場合、転動体と保持器とが接触します。このとき、保持器と転動体との接触部での相対すべり速度は、転動体表面の周速ですから、前者の半分に抑えることができます。したがって、保持器を用いることで、摩擦による発熱を抑えることができ、高速回転に適するようになります。 ただし、保持器と転動体とのすべり接触をなくすことはできません。また、この保持器を軌道面で案内する方式 (内輪案内方式あるいは外輪案内方式) の軸受がありますが、この場合は保持器と案内面との接触面にすべり摩擦が生じます。 図4 保持器の効果4. 潤滑材の粘性抵抗・かく拌抵抗 転動体と軌道面とは、きわめて小さな面で接触しているため面圧が高く、接触面は弾性変形しています。このような弾性変形の影響を含んだ流体潤滑領域のことを弾性流体潤滑 (EHL:Elasto-Hydrodynamic Lubrication) と呼びます。 EHL状態で転がり運動をしている場合、接触面の圧力分布に起因した、転動体の回転に対して逆方向のトルクを与えるモーメントが発生します。このモーメントを転がり粘性抵抗と呼びます。ころ軸受では、摩擦抵抗のうち、転がり粘性抵抗の占める割合が玉軸受に比べて大きくなります。 そのほか、つば部や保持器と転動体とのすべり接触箇所における潤滑剤のせん断抵抗や、転動体や保持器が、潤滑剤の中をかき分けながら進むことで発生するかく拌抵抗などがあります。かく拌抵抗は潤滑剤の粘度だけでなく、封入量にも影響しますので、高速回転の場合には潤滑剤の封入量を減らすこともあります。 5. 密封装置による摩擦損失 転がり軸受では、潤滑剤の漏れを防ぐために密封装置としてシールやシールドが用いられることがあります。接触型のゴムシールを用いている場合には、開放形や非接触などと比べて、すべり摩擦が非常に大きくなります。 次回は、軸受のトルクの計算について解説します。 本コラムは全6回を予定しています。次回は2025年2月号に掲載予定です。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉さんのその他の記事 2024/12/10 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 ( 2 ) 2024/10/08 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 (1) 2024/01/10 業界コラム 軸受の振動 ( 5 ) 2023/11/14 業界コラム 軸受の振動 ( 4 ) 2023/09/12 業界コラム 軸受の振動 ( 3 ) 2023/07/11 業界コラム 軸受の振動 ( 2 ) 2023/05/09 業界コラム 軸受の振動 ( 1 ) 2023/01/11 業界コラム 軸受の選定 ( 5 ) 2022/11/08 業界コラム 軸受の選定 ( 4 ) 2022/09/13 業界コラム 軸受の選定 ( 3 ) 2022/07/12 業界コラム 軸受の選定 ( 2 ) 2022/05/11 業界コラム 軸受の選定 ( 1 ) 2021/12/14 業界コラム 軸受の取扱い ( 5 ) 2021/10/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 4 ) 2021/08/17 業界コラム 軸受の取扱い ( 3 ) 2021/06/04 業界コラム 軸受の取扱い ( 2 ) 2021/04/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 1 ) 2020/08/04 業界コラム 軸受の基本(5) 2020/07/07 業界コラム 軸受の基本(4) 2020/06/02 業界コラム 軸受の基本(3) 2020/05/12 業界コラム 軸受の基本(2) 2020/04/07 業界コラム 軸受の基本(1) 2019/10/01 業界コラム 軸受の寿命と振動(2) 2019/09/03 業界コラム 軸受の寿命と振動(1) 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月