関東学院大学 理工学部 准教授

堀田 智哉

2017/3     博士(工学) 東京理科大学
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2017/3     博士(工学) 東京理科大学
2017/4‐2020/3  関東学院大学理工学部助教
2020/4-2023/3  関東学院大学理工学部講師
2023/4     関東学院大学理工学部准教授
[専門分野] 転がり軸受工学、機械要素・機械設計、トライボロジー、材料工学

コラム執筆にあたって

転がり軸受(ベアリング:Bearing)は、さまざまな機械に使用される重要な機械要素ですので、機械系の技術者であれば、一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。しかしながら、転がり軸受については大学などで教えることは、ほとんどありません。本連載では、そんな転がり軸受の基本について解説していきます。

 第4回目となる今回は、転がり軸受の潤滑について解説します。

潤滑の必要性

 通常、転がり軸受はグリースや潤滑油などを用いて潤滑して使用する必要があります。潤滑は以下の目的でおこなわれます。

 ・ すべり摩擦および摩耗の軽減
 ・ 摩擦熱の排出(冷却)
 ・ 軸受寿命の延長
 ・ さびの防止
 ・ 異物の侵入防止および排出

 潤滑剤や潤滑の方法には様々なものがありますので、使用条件に適したものを選定する必要があります。

グリース潤滑

 グリースは半固体状の潤滑剤です。そのため取扱いが容易で密封装置も簡素なもので良いため、転がり軸受では油潤滑よりもグリース潤滑の方が多く用いられています。とくに家電品のモータなどに使われる小型玉軸受は、ほとんどがグリース潤滑です。転がり軸受においては広く使用されています。潤滑方法には、あらかじめ軸受内にグリースを封入されたものを使用する方法と、開放形軸受とハウジング内にグリースを充填する方法があります。前者は基本的にグリースの充填や交換をおこなうことはできませんが、後者は一定期間ごとに補給または交換することができます。

グリースの種類

 グリースは基油、増ちょう剤および添加剤から構成されています。質量比はおおよそ80(基油):15(増ちょう剤):5(添加剤)となっています。

 基油は鉱油(パラフィン、ナフテン)や合成油(ジエステル油、合成炭化水素油、シリコーン油、フッ素油など)が用いられています。

 増ちょう剤は高級脂肪酸の金属石けん系(リチウム、ナトリウム、カルシウムなど)が用いられることが一般的ですが、非石けん系のウレアやフッ素化合物が用いられることもあります。増ちょう剤は細かな網目構造になっており、毛細管現象よって基油を保持しています。したがって、圧力や熱が加わると基油が流出しますが、この漏れ出た基油が潤滑に寄与するとされています。

 添加剤は酸化防止剤、さび止め剤、油性剤、極圧(EP)剤、固体潤滑剤などが用いられています。

 グリ−スの充填量は通常、軸受へは空間容積の30〜40%、ハウジングへは空間容積の30〜60%ですが、高速回転の場合には15%程度まで減らすこともあります。グリ−ス充填量が多過ぎると温度上昇が大きくなり、グリ−スの軟化による漏れ、または酸化などの変質によってグリ−スの潤滑性能が低下してしまいます。また、グリースの混合使用はグリースの深刻な構造変化を起こす可能性があるため避けるべきですが、それが困難な場合には、基油の種類、増ちょう剤のタイプ、基油粘度、ちょう度などを基準として組み合わせの可否を判断する必要があります。種類の異なるグリースを給脂する場合には古いグリースを可能な限り取り除き、新しいグリース給脂し、しばらくたってから再度給脂する必要があります。

グリースの寿命

 家電などのように軽荷重で使用される場合、疲労寿命よりもグリースの寿命(潤滑寿命)が短くなることがあります。以下の実験式よりグリースの寿命を計算することができます。実用においては、疲労寿命とグリース寿命の両方を検討する必要があります。

汎用グリース(基油が鉱油)
\begin{aligned}\log t=6.54-2.6\dfrac {n}{N_{\max}}-\left( 0.025-0.012\dfrac {n}{N_{\max}}\right) T\end{aligned}

ワイドレンジグリース(基油が合成油)
\begin{aligned}\log t=6.12-1.4\dfrac {n}{N_{\max}}-\left( 0.018-0.006\dfrac {n}{N_{\max}}\right) T\end{aligned}

ここで、\(t\):平均グリース寿命[\(h\)]、 \(n\):軸受の回転速度[\(min ^{-1}\)]、 \(N_{\max }\):グリース潤滑の許容回転数[\(min ^{-1}\)]、 \(T\):軸受の運転温度[℃] ※\(n/N_{\max}\)≦0.25となる場合は\(n/N_{\max}\)=0.25とする。また、\(T\)<40℃の場合は\(T\)=40℃とする。

油潤滑

 潤滑油は液体のため、流動性が高く、循環させて使用すれば冷却や異物排出も可能となります。高速回転や高運転温度などの使用条件で使われますが、歯車などの隣接部品と潤滑を共用する場合に使用されます。
 油潤滑の方式には様々なものがありますが、主要な方法としては以下のものがあります。

 ・ 油浴式
 ・ 滴下給油式
 ・ 飛沫給油式
 ・ 循環給油式
 ・ オイルジェット式
 ・ オイルミスト式
 ・ オイルエア式

 詳細は割愛しますが、基本的に下にいくほど高性能で冷却能力が高いため高速回転に向きますが、潤滑装置が複雑で大型化します。
 油潤滑で使用する潤滑油は、スピンドル油、マシン油、タービン油などの鉱油が多く使われますが、高温または低温環境においてはジエステル油、合成炭化水素油、シリコーン油などの合成油が使用されます。
 潤滑油は軸受の運転温度において、最適な油膜が形成できる粘度となるものを選ぶ必要があります。潤滑油の粘度が低すぎれば、油膜形成能力が足りず、焼き付きなどの早期損傷が発生し、逆に高すぎると粘性抵抗によって発熱が大きくなります。一般的には、荷重が大きく、また運転温度が高くなるほど高粘度の潤滑油が用いられ、高速回転になるほど低粘度の潤滑油が用いられます。

 次回は、転がり軸受の許容回転速度について解説します。