2020/07/07 業界コラム 堀田 智哉 軸受の基本(4) 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉 2017/3 博士(工学) 東京理科大学...もっと見る 2017/3 博士(工学) 東京理科大学 2017/4‐2020/3 関東学院大学理工学部助教 2020/4-2023/3 関東学院大学理工学部講師 2023/4 関東学院大学理工学部准教授 [専門分野] 転がり軸受工学、機械要素・機械設計、トライボロジー、材料工学 コラム執筆にあたって 転がり軸受(ベアリング:Bearing)は、さまざまな機械に使用される重要な機械要素ですので、機械系の技術者であれば、一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。しかしながら、転がり軸受については大学などで教えることは、ほとんどありません。本連載では、そんな転がり軸受の基本について解説していきます。 第4回目となる今回は、転がり軸受の潤滑について解説します。 潤滑の必要性 通常、転がり軸受はグリースや潤滑油などを用いて潤滑して使用する必要があります。潤滑は以下の目的でおこなわれます。 ・ すべり摩擦および摩耗の軽減 ・ 摩擦熱の排出(冷却) ・ 軸受寿命の延長 ・ さびの防止 ・ 異物の侵入防止および排出 潤滑剤や潤滑の方法には様々なものがありますので、使用条件に適したものを選定する必要があります。 グリース潤滑 グリースは半固体状の潤滑剤です。そのため取扱いが容易で密封装置も簡素なもので良いため、転がり軸受では油潤滑よりもグリース潤滑の方が多く用いられています。とくに家電品のモータなどに使われる小型玉軸受は、ほとんどがグリース潤滑です。転がり軸受においては広く使用されています。潤滑方法には、あらかじめ軸受内にグリースを封入されたものを使用する方法と、開放形軸受とハウジング内にグリースを充填する方法があります。前者は基本的にグリースの充填や交換をおこなうことはできませんが、後者は一定期間ごとに補給または交換することができます。 グリースの種類 グリースは基油、増ちょう剤および添加剤から構成されています。質量比はおおよそ80(基油):15(増ちょう剤):5(添加剤)となっています。 基油は鉱油(パラフィン、ナフテン)や合成油(ジエステル油、合成炭化水素油、シリコーン油、フッ素油など)が用いられています。 増ちょう剤は高級脂肪酸の金属石けん系(リチウム、ナトリウム、カルシウムなど)が用いられることが一般的ですが、非石けん系のウレアやフッ素化合物が用いられることもあります。増ちょう剤は細かな網目構造になっており、毛細管現象よって基油を保持しています。したがって、圧力や熱が加わると基油が流出しますが、この漏れ出た基油が潤滑に寄与するとされています。 添加剤は酸化防止剤、さび止め剤、油性剤、極圧(EP)剤、固体潤滑剤などが用いられています。 グリ−スの充填量は通常、軸受へは空間容積の30〜40%、ハウジングへは空間容積の30〜60%ですが、高速回転の場合には15%程度まで減らすこともあります。グリ−ス充填量が多過ぎると温度上昇が大きくなり、グリ−スの軟化による漏れ、または酸化などの変質によってグリ−スの潤滑性能が低下してしまいます。また、グリースの混合使用はグリースの深刻な構造変化を起こす可能性があるため避けるべきですが、それが困難な場合には、基油の種類、増ちょう剤のタイプ、基油粘度、ちょう度などを基準として組み合わせの可否を判断する必要があります。種類の異なるグリースを給脂する場合には古いグリースを可能な限り取り除き、新しいグリース給脂し、しばらくたってから再度給脂する必要があります。 グリースの寿命 家電などのように軽荷重で使用される場合、疲労寿命よりもグリースの寿命(潤滑寿命)が短くなることがあります。以下の実験式よりグリースの寿命を計算することができます。実用においては、疲労寿命とグリース寿命の両方を検討する必要があります。 汎用グリース(基油が鉱油) \begin{aligned}\log t=6.54-2.6\dfrac {n}{N_{\max}}-\left( 0.025-0.012\dfrac {n}{N_{\max}}\right) T\end{aligned} ワイドレンジグリース(基油が合成油) \begin{aligned}\log t=6.12-1.4\dfrac {n}{N_{\max}}-\left( 0.018-0.006\dfrac {n}{N_{\max}}\right) T\end{aligned} ここで、\(t\):平均グリース寿命[\(h\)]、 \(n\):軸受の回転速度[\(min ^{-1}\)]、 \(N_{\max }\):グリース潤滑の許容回転数[\(min ^{-1}\)]、 \(T\):軸受の運転温度[℃] ※\(n/N_{\max}\)≦0.25となる場合は\(n/N_{\max}\)=0.25とする。また、\(T\)<40℃の場合は\(T\)=40℃とする。 油潤滑 潤滑油は液体のため、流動性が高く、循環させて使用すれば冷却や異物排出も可能となります。高速回転や高運転温度などの使用条件で使われますが、歯車などの隣接部品と潤滑を共用する場合に使用されます。 油潤滑の方式には様々なものがありますが、主要な方法としては以下のものがあります。 ・ 油浴式 ・ 滴下給油式 ・ 飛沫給油式 ・ 循環給油式 ・ オイルジェット式 ・ オイルミスト式 ・ オイルエア式 詳細は割愛しますが、基本的に下にいくほど高性能で冷却能力が高いため高速回転に向きますが、潤滑装置が複雑で大型化します。 油潤滑で使用する潤滑油は、スピンドル油、マシン油、タービン油などの鉱油が多く使われますが、高温または低温環境においてはジエステル油、合成炭化水素油、シリコーン油などの合成油が使用されます。 潤滑油は軸受の運転温度において、最適な油膜が形成できる粘度となるものを選ぶ必要があります。潤滑油の粘度が低すぎれば、油膜形成能力が足りず、焼き付きなどの早期損傷が発生し、逆に高すぎると粘性抵抗によって発熱が大きくなります。一般的には、荷重が大きく、また運転温度が高くなるほど高粘度の潤滑油が用いられ、高速回転になるほど低粘度の潤滑油が用いられます。 次回は、転がり軸受の許容回転速度について解説します。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉さんのその他の記事 2024/12/10 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 ( 2 ) 2024/10/08 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 (1) 2024/01/10 業界コラム 軸受の振動 ( 5 ) 2023/11/14 業界コラム 軸受の振動 ( 4 ) 2023/09/12 業界コラム 軸受の振動 ( 3 ) 2023/07/11 業界コラム 軸受の振動 ( 2 ) 2023/05/09 業界コラム 軸受の振動 ( 1 ) 2023/01/11 業界コラム 軸受の選定 ( 5 ) 2022/11/08 業界コラム 軸受の選定 ( 4 ) 2022/09/13 業界コラム 軸受の選定 ( 3 ) 2022/07/12 業界コラム 軸受の選定 ( 2 ) 2022/05/11 業界コラム 軸受の選定 ( 1 ) 2021/12/14 業界コラム 軸受の取扱い ( 5 ) 2021/10/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 4 ) 2021/08/17 業界コラム 軸受の取扱い ( 3 ) 2021/06/04 業界コラム 軸受の取扱い ( 2 ) 2021/04/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 1 ) 2020/08/04 業界コラム 軸受の基本(5) 2020/07/07 業界コラム 軸受の基本(4) 2020/06/02 業界コラム 軸受の基本(3) 2020/05/12 業界コラム 軸受の基本(2) 2020/04/07 業界コラム 軸受の基本(1) 2019/10/01 業界コラム 軸受の寿命と振動(2) 2019/09/03 業界コラム 軸受の寿命と振動(1) 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月