2021/12/14 業界コラム 堀田 智哉 軸受の取扱い ( 5 ) 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉 2017/3 博士(工学) 東京理科大学...もっと見る 2017/3 博士(工学) 東京理科大学 2017/4‐2020/3 関東学院大学理工学部助教 2020/4-2023/3 関東学院大学理工学部講師 2023/4 関東学院大学理工学部准教授 [専門分野] 転がり軸受工学、機械要素・機械設計、トライボロジー、材料工学 最終回となる第5回目は、転がり軸受の試運転について解説します。 試運転 取付けが完了したら試運転をおこないます。試運転では、音・振動および温度の上昇に注意をします。 手で回せる小形の機械であれば、まず手で回してみて、引っかかりや過大トルク、回転トルクのむらがないことを確認します。この時、引っかかりがあれば、軸受の不良(キズなど)、過大トルクやトルクむらであれば、ミスアライメントや取付け不良、密封装置の摩擦などの疑いがあります。これらの異常がなければ、動力運転による検査をおこないます。手で回せない大形の機械であれば、無負荷で始動し、すぐに動力を切って惰性運転で検査します。異常な振動や音がなければ、動力運転による検査をおこないます。 動力運転では、まず、無負荷・低速で始動し、徐々に負荷と回転数を上げていくようにします。動力運転検査は、主に音・振動・温度上昇によって判断します。また、専用の振動測定機器(FFTアナライザなど)を用いて、振動の大きさや周波数分布を数値化することができますので、より詳細に異常の原因を推定することが可能です。測定機器を使用する際には、軸受の使用条件やピックアップ(センサ)の取り付け位置などによって、測定結果が変わりますので、機械ごとにあらかじめ測定箇所や判定基準を決めておかなければなりません。 異常(回転音とは異なる不規則音・規則音の発生や急激な温度上昇など)があれば、速やかに機械を停止させ、点検をおこなってください。表1に各異常とその原因について記します。場合によっては、軸受の分解点検までおこないます。また、運転初期においては潤滑剤の漏れにも注視します。いずれの点検でも、正常の状態と比較して異常かどうかを判断しますので、正常の状態を良く知っておく必要があります。日ごろから音・振動や温度に注意していれば、小さな異常にも気づくことができるでしょう。 表1 軸受の異常と主な原因 異常 主な原因 騒音 高い金属音 ・過大荷重、過小すきま ・取付不良 ・潤滑剤の不足 ・潤滑剤の不適合 ・回転部品の接触 規則音 ・軌道面のキズ、圧痕、フレーキング ・ブリネリング 不規則音 ・異物の侵入 ・転動体のキズ、圧痕、フレーキング ・すきま過大 大きな振動 (軸の振れ回り) ・ブリネリング ・フレーキング ・取付不良 ・異物の侵入 異常な温度上昇 ・過大荷重、過小すきま ・潤滑剤の不足あるいは過多 ・潤滑剤の不適合 ・はめあい面のクリープ ・密封装置の摩擦過大 ・取付不良 軸受の温度 軸受の温度の測定は、ハウジングの表面で構いませんが、油穴などを利用して、直接軸受の外輪でおこなうことができれば望ましいです。また、油温によっても推測することができます。軸受の温度は始動直後から時間とともに上昇し、飽和状態となります(図1)。温度の上昇は、軸受のトルクに依存していますので、軸受の不良や取付け不良であれば、軸受温度にもそれが現れます。なお、グリース潤滑の場合は、トルクが安定しにくいですので、飽和状態であっても温度が不安定になることがあります(図2)。 軸受の飽和温度は機械の大きさや状態によっても変わりますが、10℃から40℃の温度上昇で飽和状態となることが多いです。温度が一向に飽和状態にならない場合は、軸受およびその周辺の点検が必要になります。 図1 軸受温度変化の例(7306、 300 rpm、 Fa = 4.5 kN)図2 軸受回転トルクの例(TRA0607、 500 rpm、 Fa = 8.0 kN)おわりに 今回は全5回にわたり、転がり軸受の取扱いについて解説をおこないました。いずれも軸受を使用するにあたって重要な事項となります。本コラムで転がり軸受に少しでも興味を持っていただき、お役に立つ点があれば幸いです。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉さんのその他の記事 2024/10/08 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 (1) 2024/01/10 業界コラム 軸受の振動 ( 5 ) 2023/11/14 業界コラム 軸受の振動 ( 4 ) 2023/09/12 業界コラム 軸受の振動 ( 3 ) 2023/07/11 業界コラム 軸受の振動 ( 2 ) 2023/05/09 業界コラム 軸受の振動 ( 1 ) 2023/01/11 業界コラム 軸受の選定 ( 5 ) 2022/11/08 業界コラム 軸受の選定 ( 4 ) 2022/09/13 業界コラム 軸受の選定 ( 3 ) 2022/07/12 業界コラム 軸受の選定 ( 2 ) 2022/05/11 業界コラム 軸受の選定 ( 1 ) 2021/12/14 業界コラム 軸受の取扱い ( 5 ) 2021/10/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 4 ) 2021/08/17 業界コラム 軸受の取扱い ( 3 ) 2021/06/04 業界コラム 軸受の取扱い ( 2 ) 2021/04/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 1 ) 2020/08/04 業界コラム 軸受の基本(5) 2020/07/07 業界コラム 軸受の基本(4) 2020/06/02 業界コラム 軸受の基本(3) 2020/05/12 業界コラム 軸受の基本(2) 2020/04/07 業界コラム 軸受の基本(1) 2019/10/01 業界コラム 軸受の寿命と振動(2) 2019/09/03 業界コラム 軸受の寿命と振動(1) 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月