2020/06/02 業界コラム 堀田 智哉 軸受の基本(3) 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉 2017/3 博士(工学) 東京理科大学...もっと見る 2017/3 博士(工学) 東京理科大学 2017/4‐2020/3 関東学院大学理工学部助教 2020/4-2023/3 関東学院大学理工学部講師 2023/4 関東学院大学理工学部准教授 [専門分野] 転がり軸受工学、機械要素・機械設計、トライボロジー、材料工学 コラム執筆にあたって 転がり軸受(ベアリング:Bearing)は、さまざまな機械に使用される重要な機械要素ですので、機械系の技術者であれば、一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。しかしながら、転がり軸受については大学などで教えることは、ほとんどありません。本連載では、そんな転がり軸受の基本について解説していきます。 第3回目となる今回は、転がり軸受の材料について解説します。 軸受軌道輪と転動体の材料 軸受軌道輪と転動体の材料には高い硬度、転がり疲労耐性、寸法安定性および高いじん性などが要求されます。用途に応じて、以下の材料が使い分けられています。 ・ 高炭素クロム軸受鋼 最も一般的に使用される材料で、約1%の炭素と1~1.5%程度のクロムを含有している鋼材です。この鋼材は通常焼き入れ・焼き戻しの処理をおこない、58~65 HRCの硬度に仕上げます。また、軸受の信頼性を高めるために、製鋼時に真空脱ガス処理をおこない、アルミナなどの非金属介在物や含有酸素量を可能な限り減らしています。JIS G 4805に規定されている高炭素クロム軸受鋼のうち、中形以下の軸受で最も多く使用されているのがSUJ2です。肉厚の軸受にはマンガンが多く焼き入れ性の良いSUJ3が使用されます。また、大形や超大形にはSUJ5が使用されます。 ・ 浸炭軸受用鋼(肌焼鋼) 衝撃荷重が加わる場合には、炭素量が0.15~2%程度のクロム鋼もしくはニッケルクロムモリブデン鋼が使用されます。この鋼材は表面が硬く、内部が柔らかくなるような適切な浸炭深さで仕上げることのできます。これらの鋼材も高炭素クロム軸受鋼と同様に真空脱ガス処理がおこなわれます。 ・ 高温軸受用鋼 通常、軸受の最高運転温度は120℃程度で、150℃を超える場合には、新たに“焼き戻し”が起こります。この焼き戻しによって、材料の硬度が低下するため、軸受強度、疲労耐性が低下してしまいます。また、このような高温環境下では、鋼中の残留オーステナイトが徐々に熱分解されることで、軸受の寸法が変化する時効変形と呼ばれる現象が発生します。この時効変形によって内輪が膨張してしまうと、軸と内輪間のしめしろ不足となり、内輪クリープが発生することがあります。そこで、120℃を超える準高温で用いる軸受には、特殊な熱処理(寸法安定化処理)を施すことで、寸法の変化を抑えます。この処理によって、250℃程度までは寸法を安定化させることができますが、硬度は通常の軸受よりも低下します。さらに高温(500℃以下)で使用される軸受に M50やM50NiLと呼ばれる高温軸受用高速度鋼が用いられます。 ・ ステンレス鋼 耐食性が要求される場合には、SUS440Cなどのクロム含有率の高いマルテンサイト系ステンレス鋼が使用されます。 ・ セラミック 耐食性、耐熱性および耐薬品性が必要な箇所や、高速回転の場合、電食の対策が必要な場合にはセラミックが使用されます。非酸化物系セラミックス(窒化ケイ素、炭化ケイ素など)と酸化物系セラミックス(アルミナ、ジルコニアなど)に分かれますが、工作機械などに実用されているのは、窒化ケイ素です。 保持器の材料 保持器は、転動体を等間隔に分けるための部品です。保持器の材料には、摩擦、歪み、慣性力(遠心力)のほか、転動体の進み遅れによる繰返し応力への疲労耐性や潤滑剤などによるケミカルアタックを考慮する必要があります。 ・ 金属製打抜き保持器 打ち抜き(プレス)保持器の材料には、SPCC、SPHCおよびSPB2など低炭素の冷間または熱間圧延鋼板が用いられます。また、用途によってはSUS304などのオーステナイト系ステンレス鋼板や黄銅板が用いられることもあります。 ・ 金属製もみ抜き保持器 もみ抜き(削り出し)保持器の材料には、CAC301などの高力黄銅鋳物が用いられます。大形軸受や化学反応によって時期割れ(応力腐食割れ)が発生する恐れのある場合には、S25Cなどの炭素鋼が用いられます。 ・ 樹脂製保持器 樹脂製保持器には一般的に、ガラス繊維で強化したポリアミド(PA66)を射出成形したものが用いられます。そのほか、ガラス繊維の入っていないものやPA46製のものもあります。また、フェノール樹脂や耐薬品性能の高いPEEK樹脂なども用いられ、いずれの材料も、ガラス繊維や炭素繊維で強化して用いられています。樹脂保持器は軽量で耐食性があるほか,減衰性,潤滑性能にも優れた特性をもっています。 シールの材料 シールは転がり軸受の側面に取り付けられ、外部からの異物侵入防止、内部からのグリース漏れ防止のために使用されます。金属製シールドには鋼板(S25Cなど)が使われています。ゴムシールの材料には一般的に、耐薬品性能に優れたニトリルゴムが用いられています。そのほか、ポリアクリルゴムや耐熱性に優れたシリコンゴムやフッ素ゴムなどが用いられます。 次回は、転がり軸受の潤滑について解説します。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉さんのその他の記事 2025/04/08 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 ( 4 ) 2025/02/13 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 ( 3 ) 2024/12/10 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 ( 2 ) 2024/10/08 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 (1) 2024/01/10 業界コラム 軸受の振動 ( 5 ) 2023/11/14 業界コラム 軸受の振動 ( 4 ) 2023/09/12 業界コラム 軸受の振動 ( 3 ) 2023/07/11 業界コラム 軸受の振動 ( 2 ) 2023/05/09 業界コラム 軸受の振動 ( 1 ) 2023/01/11 業界コラム 軸受の選定 ( 5 ) 2022/11/08 業界コラム 軸受の選定 ( 4 ) 2022/09/13 業界コラム 軸受の選定 ( 3 ) 2022/07/12 業界コラム 軸受の選定 ( 2 ) 2022/05/11 業界コラム 軸受の選定 ( 1 ) 2021/12/14 業界コラム 軸受の取扱い ( 5 ) 2021/10/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 4 ) 2021/08/17 業界コラム 軸受の取扱い ( 3 ) 2021/06/04 業界コラム 軸受の取扱い ( 2 ) 2021/04/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 1 ) 2020/08/04 業界コラム 軸受の基本(5) 2020/07/07 業界コラム 軸受の基本(4) 2020/06/02 業界コラム 軸受の基本(3) 2020/05/12 業界コラム 軸受の基本(2) 2020/04/07 業界コラム 軸受の基本(1) 2019/10/01 業界コラム 軸受の寿命と振動(2) 2019/09/03 業界コラム 軸受の寿命と振動(1) 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月