関東学院大学 理工学部 准教授

堀田 智哉

2017/3     博士(工学) 東京理科大学
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2017/3     博士(工学) 東京理科大学
2017/4‐2020/3  関東学院大学理工学部助教
2020/4-2023/3  関東学院大学理工学部講師
2023/4     関東学院大学理工学部准教授
[専門分野] 転がり軸受工学、機械要素・機械設計、トライボロジー、材料工学

 転がり軸受(ベアリング:Bearing)は、さまざまな機械に使用される重要な機械要素です。理想的な状態であれば軸受の疲労寿命まで使用できますが、実際に使用している中で、設定された寿命よりも早く寿命を迎える軸受が数多くあります。軸受は精密部品ですので、誤った取扱いをしてしまうと、性能を十分に発揮できません。そこで、本連載では、正しい軸受の取扱いについて解説していきます。

 第1回目となる今回は、取扱いの基本について解説します。

取扱いの基本

 軸受を取扱うにあたって、まず念頭に置いておかなければならないのは、“軸受は精密部品である”ということです。したがって、軸受の性能を十分に発揮させるためには、軸受の設計や選定と同じぐらい、正しく取扱うということは重要になります。とくに注意すべき点としては、

  • 軸受を清浄に保つこと
  • 衝撃を与えないこと
  • サビ防止に努めること

などが挙げられます。軸受の取扱いに関しては、精巧な装置は必ずしも必要ではありませんが、作業を容易に、かつ誤りなくおこなうためには、適切な用具を適切に扱わなければなりません。

図1 軸受の取扱い不良

清浄に保つ

 軸受は異物に弱い部品です。ゴミなどの異物が付着すると、異物混入による圧痕の発生だけでなく、組付け不良などによって、様々な損傷の原因となります。そのため、異物が付着しないように軸受や関係部品、作業環境などが清浄である必要があります。作業台周りだけでなく、工具や治具、ウエスや空気中の浮遊ゴミまで注意しましょう。

 新しい軸受は、包装によって保護されていますので、組込みの直前まで開梱してはいけません。また、軸受の梱包が汚れている、あるいは、へこんでいた場合には、輸送または保管が適切ではなかったと考えられます。このような場合は、その軸受の使用を控えたほうが良いでしょう。どうしても、その軸受を使用しなければならない場合には、十分な洗浄と、入念な検査をしてから使用してください。

衝撃を与えない

 軸受は衝撃に弱い部品です。したがって、ハンマなどで直接たたくことをしてはいけません。また、落下などにも気を付けましょう。これらによって与えられた衝撃は、圧痕の発生のみならず、割れや欠けの原因となります。どうしてもハンマで打込まなければならない場合には、直接軸受を叩かずに、打込み治具を当て、できるだけ軽く細かく打込みます。

サビ防止

 軸受はサビに弱い部品です。軸受の多くは高炭素クロム軸受鋼を使用していますが、この材料は錆びやすいです。新品の軸受には防錆油が塗布してありますが、素手で取扱うと手の汗の付着がサビの発生原因となります。軸受を取扱う際には、手袋を着用してください。やむおえず素手で触る場合は、すぐに防錆剤や潤滑剤を塗布してください。また、綿などの糸くずの出る素材が使用されている手袋は、異物の混入を招きますので、使用を避けてください。

軸受保管時の注意点

 先に述べたように、軸受は異物やサビに弱い部品ですので、軸受を保管する際には、ゴミや水分に気を付ける必要があります。具体的な保管場所としては、室温20℃以下、湿度60%以下で、ゴミやホコリが少なく、直射日光のあたらないところを選びます。地上に直接置かず、少なくとも地上から20cm以上の安定したパレット状の台に置いてください。このとき、薄肉の軸受を縦に置いてしまうと、変形してしまう恐れがありますので、軸受によっては置き方にも注意しなければなりません。
 軸受は使用期限がとくに決められていませんが、グリースが封入されている軸受は、グリースの劣化を考慮に入れなければなりません。2年以上の保管は避け、購入後、なるべく早く使用するようにしてください。また、軸受を組込んだ機械装置ごと保管する場合には、防塵のために、プラスチックフィルムやろう引き紙、きれいな毛羽立ちのない布などで保護したうえで保管するようにしてください。

図2 推奨されるベアリングの保管場所

次回は、転がり軸受の洗浄方法について解説します。