関東学院大学 理工学部 准教授

堀田 智哉

2017/3     博士(工学) 東京理科大学
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2017/3     博士(工学) 東京理科大学
2017/4‐2020/3  関東学院大学理工学部助教
2020/4-2023/3  関東学院大学理工学部講師
2023/4     関東学院大学理工学部准教授
[専門分野] 転がり軸受工学、機械要素・機械設計、トライボロジー、材料工学

 転がり軸受 (ベアリング:Bearing) は、さまざまな機械などの回転軸を支える機械要素です。転がり軸受を用いることでしゅう動部分の摩擦を小さくすることができますが、完全になくすことはできません。本コラムでは、軸受内部の摩擦とその潤滑に着目し解説します。

 第3回目となる今回は、軸受のトルクの計算について解説します。

軸受のトルク

 転がり軸受の摩擦トルクの主要因は、第1回第2回で解説したような軸受要素の接触点でのすべりと、軸受が回転することによって発生する転がり粘性抵抗や潤滑剤の抵抗などです。これらすべての要因による摩擦トルクを計算すれば、軸受全体の摩擦トルクが求められますが、厳密な摩擦トルク計算をしようとすれば非常に複雑になります。厳密な摩擦トルクの計算が必要な方は、それほど多くはいないと思いますので、ここではざっくり考えます。厳密に計算をしたい方は、専門書などを参考にしてください。

起動トルクと回転トルク

 軸受のトルクには、「起動トルク」と「回転トルク」の2種類の状態があります。滑りで言えば、静止摩擦と動摩擦のようなものです。「起動トルク」とは軸受が静止状態から回転し始める際に発生するトルクを指します。一方、「回転トルク」とは、回転中の安定した状態のトルクを指します。
 起動トルクは、軸受内部のすべりに起因した摩擦トルクによるもので、玉軸受では、スピンすべりと転がり摩擦トルクがその大部分を占め、ころ軸受、とくに円すいころ軸受では、転動体とつば部とのすべり摩擦が大部分を占めます。さらに回転トルクは、軸受が回転することによって発生する転がり粘性抵抗や潤滑剤の抵抗によるトルクも含まれるようになります。
 図1はアンギュラ玉軸受と円すいころ軸受のトルクを測定した例です。一般的に、同一条件、同一サイズの軸受であれば、玉軸受の方が、すべり摩擦が少ない分、起動トルクも回転トルクも小さくなり、発熱も少ないです。

(a) トルク

(b) 外輪温度

図1 同一寸法のアンギュラ玉軸受と円すいころ軸受との比較

軸受のトルクの概算

 軸受のトルク算出方法として、最も簡便なのは、転がり軸受の摩擦係数概略値を用いる方法です。転がり軸受の摩擦モーメント (摩擦トルク) を軸受の呼び内径を基準にして、式 (1) より求めることができます。

\begin{equation} M=\mu P\frac{d}{2} \tag{1} \end{equation}

 ここで、
 \(M\):摩擦モーメント[N・mm]
 \(μ\):摩擦係数概略値
 \(P\):軸受に作用する荷重[N]
 \(d\):呼び内径[mm]

 表1に各軸受形式と摩擦係数概略値を示します。純粋な転がり摩擦係数 (0.00002) よりも大きくなります。また、一般的なすべり軸受の場合は、 \(μ\) =0.01~0.02程度であり、場合によっては0.1~0.2になることもありますので、転がり軸受の摩擦モーメントの方が小さいです。
 ただし、摩擦係数 \(μ\) は、軸受の内部形状、荷重、回転速度および潤滑方法などのさまざまな条件によって大きく影響を受けますので、あくまで参考値と考えてください。

表1 軸受形式と摩擦係数
軸受形式 摩擦係数概略値\(μ\)
深溝玉軸受 0.0010~0.0015
アンギュラ玉軸受 0.0012~0.0020
自動調心玉軸受 0.0008~0.0012
円筒ころ軸受 0.0008~0.0012
総ころ形針状ころ軸受 0.0025~0.0035
保持器付き針状ころ軸受 0.0020~0.0030
円すいころ軸受 0.0017~0.0025
自動調心ころ軸受 0.0020~0.0025
スラスト玉軸受 0.0010~0.0015
スラスト自動調心ころ軸受 0.0020~0.0025

摩擦トルクの一般式

 摩擦モーメントに関する計算式として、式 (2) に示すようなPalmgrenの実験式と呼ばれるものがあります。

\begin{equation} M=M_{0}+M_{1} \tag{2} \end{equation}

 \(M\):軸受の摩擦トルク[N・mm]
 \(M_{0}\):粘性摩擦トルク (速度項) [N・mm]
 \(M_{1}\):負荷による摩擦トルク (荷重項) [N・mm]

粘性摩擦トルク

 本来、粘性摩擦トルクは、EHL理論 (弾性流体潤滑理論:Elasto-Hydrodynamic Theory) に基づき、転がり粘性抵抗を基準とした計算が必要になります。しかし、この計算は非常に煩雑であるため、ここでは、実験に基づいた式 (3) を用いて求めます。

\begin{equation} M_{0}=f_{0}\left( vn\right) ^{\frac{2}{3}}{D_{pw}}^{3}×10^{-7} \tag{3} \end{equation}

 \(f_{0}\):軸受形式と潤滑方式による係数 (表2参照)
 \(v\):潤滑油の動粘度[mm2 / s]
 \(n\):軸受回転速度[min-1]
 \(D_{pw}\):転動体ピッチ径[mm]

負荷による摩擦トルク

 負荷による摩擦トルクは式 (4) を用いて求めます。Palmgrenはすべての機構上の摩擦トルクについて、実験に基づいて評価していますが、軸受内部に封入されたグリースの量については考慮していないことに注意が必要です。

\begin{equation} M_{1}=f_{1}P_{f}D_{pw} \tag{4} \end{equation}

 \(f_{1}\):軸受形式による係数 (表2参照)
 \(p_{f}\):相当荷重[N]
   ラジアル玉軸受 :\(P_{f}\)=0.9\(F_{a}\)cotα – 0.1\(F_{r}\)≧\(F_{r}\)
   ラジアルころ軸受 :\(P_{f}\)=0.8\(F_{a}\)cotα≧\(F_{r}\)
   スラスト軸受   :\(P_{f}\)=\(F_{r}\)
    (\(F_{α}\):アキシアル荷重[N]、\(F_{r}\):ラジアル荷重[N])
 \(D_{pw}\):転動体ピッチ径[mm]

表2 軸受形式と係数
軸受形式 \(f_{0}\)※1 接触角 \(f_{1}\)※2
深溝玉軸受 1.5~2.0 (15°) 0.0009 \((P_{0r}\) / \(C_{0r})^{0.55}\)
アンギュラ玉軸受 2.0 30° 0.0010 \((P_{0r}\) / \(C_{0r})^{0.33}\)
4.0 40° 0.0013 \((P_{0r}\) / \(C_{0r})^{0.33}\)
自動調心玉軸受 1.5~2.0 10° 0.0003 \((P_{0r}\) / \(C_{0r})^{0.40}\)
スラスト玉軸受 1.5~2.0 90° 0.0012 \((P_{0r}\) / \(C_{0r})^{0.33}\)
円筒ころ軸受 2.0~3.0 0.00025~0.0003
円すいころ軸受 3.0~4.0 0.0004~0.005
自動調心ころ軸受 4.0~6.0 0.0004~0.005

※1 本表の\(f_{0}\)は、油浴潤滑の場合である。
   軽荷重では小さい方の数値を、重荷重では大きい方の数値を採用する。
   縦型油浴潤滑やジェット潤滑などでは、\(f_{0}×2\) (2倍の数値) にする。
   オイルミスト潤滑の場合などでは、\(f_{0}×1 / 2\) (1 / 2の数値) にする。
   グリース潤滑の場合では、基油動粘度を用いる。
※2 \(P_{0r}\):静等価荷重[N]、\(C_{0r}\):基本静定格荷重[N]

次回は、軸受の潤滑について解説します。

本コラムは全6回を予定しています。次回は4月号に掲載予定です。