2025/02/13 業界コラム 堀田 智哉 軸受の摩擦・潤滑 ( 3 ) 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉 2017/3 博士(工学) 東京理科大学...もっと見る 2017/3 博士(工学) 東京理科大学 2017/4‐2020/3 関東学院大学理工学部助教 2020/4-2023/3 関東学院大学理工学部講師 2023/4 関東学院大学理工学部准教授 [専門分野] 転がり軸受工学、機械要素・機械設計、トライボロジー、材料工学 転がり軸受 (ベアリング:Bearing) は、さまざまな機械などの回転軸を支える機械要素です。転がり軸受を用いることでしゅう動部分の摩擦を小さくすることができますが、完全になくすことはできません。本コラムでは、軸受内部の摩擦とその潤滑に着目し解説します。 第3回目となる今回は、軸受のトルクの計算について解説します。 軸受のトルク 転がり軸受の摩擦トルクの主要因は、第1回や第2回で解説したような軸受要素の接触点でのすべりと、軸受が回転することによって発生する転がり粘性抵抗や潤滑剤の抵抗などです。これらすべての要因による摩擦トルクを計算すれば、軸受全体の摩擦トルクが求められますが、厳密な摩擦トルク計算をしようとすれば非常に複雑になります。厳密な摩擦トルクの計算が必要な方は、それほど多くはいないと思いますので、ここではざっくり考えます。厳密に計算をしたい方は、専門書などを参考にしてください。 起動トルクと回転トルク 軸受のトルクには、「起動トルク」と「回転トルク」の2種類の状態があります。滑りで言えば、静止摩擦と動摩擦のようなものです。「起動トルク」とは軸受が静止状態から回転し始める際に発生するトルクを指します。一方、「回転トルク」とは、回転中の安定した状態のトルクを指します。 起動トルクは、軸受内部のすべりに起因した摩擦トルクによるもので、玉軸受では、スピンすべりと転がり摩擦トルクがその大部分を占め、ころ軸受、とくに円すいころ軸受では、転動体とつば部とのすべり摩擦が大部分を占めます。さらに回転トルクは、軸受が回転することによって発生する転がり粘性抵抗や潤滑剤の抵抗によるトルクも含まれるようになります。 図1はアンギュラ玉軸受と円すいころ軸受のトルクを測定した例です。一般的に、同一条件、同一サイズの軸受であれば、玉軸受の方が、すべり摩擦が少ない分、起動トルクも回転トルクも小さくなり、発熱も少ないです。 (a) トルク (b) 外輪温度 図1 同一寸法のアンギュラ玉軸受と円すいころ軸受との比較 軸受のトルクの概算 軸受のトルク算出方法として、最も簡便なのは、転がり軸受の摩擦係数概略値を用いる方法です。転がり軸受の摩擦モーメント (摩擦トルク) を軸受の呼び内径を基準にして、式 (1) より求めることができます。 \begin{equation} M=\mu P\frac{d}{2} \tag{1} \end{equation} ここで、 \(M\):摩擦モーメント[N・mm] \(μ\):摩擦係数概略値 \(P\):軸受に作用する荷重[N] \(d\):呼び内径[mm] 表1に各軸受形式と摩擦係数概略値を示します。純粋な転がり摩擦係数 (0.00002) よりも大きくなります。また、一般的なすべり軸受の場合は、 \(μ\) =0.01~0.02程度であり、場合によっては0.1~0.2になることもありますので、転がり軸受の摩擦モーメントの方が小さいです。 ただし、摩擦係数 \(μ\) は、軸受の内部形状、荷重、回転速度および潤滑方法などのさまざまな条件によって大きく影響を受けますので、あくまで参考値と考えてください。 表1 軸受形式と摩擦係数 軸受形式 摩擦係数概略値\(μ\) 深溝玉軸受 0.0010~0.0015 アンギュラ玉軸受 0.0012~0.0020 自動調心玉軸受 0.0008~0.0012 円筒ころ軸受 0.0008~0.0012 総ころ形針状ころ軸受 0.0025~0.0035 保持器付き針状ころ軸受 0.0020~0.0030 円すいころ軸受 0.0017~0.0025 自動調心ころ軸受 0.0020~0.0025 スラスト玉軸受 0.0010~0.0015 スラスト自動調心ころ軸受 0.0020~0.0025 摩擦トルクの一般式 摩擦モーメントに関する計算式として、式 (2) に示すようなPalmgrenの実験式と呼ばれるものがあります。 \begin{equation} M=M_{0}+M_{1} \tag{2} \end{equation} \(M\):軸受の摩擦トルク[N・mm] \(M_{0}\):粘性摩擦トルク (速度項) [N・mm] \(M_{1}\):負荷による摩擦トルク (荷重項) [N・mm] 粘性摩擦トルク 本来、粘性摩擦トルクは、EHL理論 (弾性流体潤滑理論:Elasto-Hydrodynamic Theory) に基づき、転がり粘性抵抗を基準とした計算が必要になります。しかし、この計算は非常に煩雑であるため、ここでは、実験に基づいた式 (3) を用いて求めます。 \begin{equation} M_{0}=f_{0}\left( vn\right) ^{\frac{2}{3}}{D_{pw}}^{3}×10^{-7} \tag{3} \end{equation} \(f_{0}\):軸受形式と潤滑方式による係数 (表2参照) \(v\):潤滑油の動粘度[mm2 / s] \(n\):軸受回転速度[min-1] \(D_{pw}\):転動体ピッチ径[mm] 負荷による摩擦トルク 負荷による摩擦トルクは式 (4) を用いて求めます。Palmgrenはすべての機構上の摩擦トルクについて、実験に基づいて評価していますが、軸受内部に封入されたグリースの量については考慮していないことに注意が必要です。 \begin{equation} M_{1}=f_{1}P_{f}D_{pw} \tag{4} \end{equation} \(f_{1}\):軸受形式による係数 (表2参照) \(p_{f}\):相当荷重[N] ラジアル玉軸受 :\(P_{f}\)=0.9\(F_{a}\)cotα – 0.1\(F_{r}\)≧\(F_{r}\) ラジアルころ軸受 :\(P_{f}\)=0.8\(F_{a}\)cotα≧\(F_{r}\) スラスト軸受 :\(P_{f}\)=\(F_{r}\) (\(F_{α}\):アキシアル荷重[N]、\(F_{r}\):ラジアル荷重[N]) \(D_{pw}\):転動体ピッチ径[mm] 表2 軸受形式と係数 軸受形式 \(f_{0}\)※1 接触角 \(f_{1}\)※2 深溝玉軸受 1.5~2.0 (15°) 0.0009 \((P_{0r}\) / \(C_{0r})^{0.55}\) アンギュラ玉軸受 2.0 30° 0.0010 \((P_{0r}\) / \(C_{0r})^{0.33}\) 4.0 40° 0.0013 \((P_{0r}\) / \(C_{0r})^{0.33}\) 自動調心玉軸受 1.5~2.0 10° 0.0003 \((P_{0r}\) / \(C_{0r})^{0.40}\) スラスト玉軸受 1.5~2.0 90° 0.0012 \((P_{0r}\) / \(C_{0r})^{0.33}\) 円筒ころ軸受 2.0~3.0 – 0.00025~0.0003 円すいころ軸受 3.0~4.0 – 0.0004~0.005 自動調心ころ軸受 4.0~6.0 – 0.0004~0.005 ※1 本表の\(f_{0}\)は、油浴潤滑の場合である。 軽荷重では小さい方の数値を、重荷重では大きい方の数値を採用する。 縦型油浴潤滑やジェット潤滑などでは、\(f_{0}×2\) (2倍の数値) にする。 オイルミスト潤滑の場合などでは、\(f_{0}×1 / 2\) (1 / 2の数値) にする。 グリース潤滑の場合では、基油動粘度を用いる。 ※2 \(P_{0r}\):静等価荷重[N]、\(C_{0r}\):基本静定格荷重[N] 次回は、軸受の潤滑について解説します。 本コラムは全6回を予定しています。次回は4月号に掲載予定です。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉さんのその他の記事 2025/02/13 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 ( 3 ) 2024/12/10 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 ( 2 ) 2024/10/08 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 (1) 2024/01/10 業界コラム 軸受の振動 ( 5 ) 2023/11/14 業界コラム 軸受の振動 ( 4 ) 2023/09/12 業界コラム 軸受の振動 ( 3 ) 2023/07/11 業界コラム 軸受の振動 ( 2 ) 2023/05/09 業界コラム 軸受の振動 ( 1 ) 2023/01/11 業界コラム 軸受の選定 ( 5 ) 2022/11/08 業界コラム 軸受の選定 ( 4 ) 2022/09/13 業界コラム 軸受の選定 ( 3 ) 2022/07/12 業界コラム 軸受の選定 ( 2 ) 2022/05/11 業界コラム 軸受の選定 ( 1 ) 2021/12/14 業界コラム 軸受の取扱い ( 5 ) 2021/10/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 4 ) 2021/08/17 業界コラム 軸受の取扱い ( 3 ) 2021/06/04 業界コラム 軸受の取扱い ( 2 ) 2021/04/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 1 ) 2020/08/04 業界コラム 軸受の基本(5) 2020/07/07 業界コラム 軸受の基本(4) 2020/06/02 業界コラム 軸受の基本(3) 2020/05/12 業界コラム 軸受の基本(2) 2020/04/07 業界コラム 軸受の基本(1) 2019/10/01 業界コラム 軸受の寿命と振動(2) 2019/09/03 業界コラム 軸受の寿命と振動(1) 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月