2021/10/12 業界コラム 堀田 智哉 軸受の取扱い ( 4 ) 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉 2017/3 博士(工学) 東京理科大学...もっと見る 2017/3 博士(工学) 東京理科大学 2017/4‐2020/3 関東学院大学理工学部助教 2020/4-2023/3 関東学院大学理工学部講師 2023/4 関東学院大学理工学部准教授 [専門分野] 転がり軸受工学、機械要素・機械設計、トライボロジー、材料工学 第4回目となる今回は、転がり軸受の取付け・取外しについて解説します。 軸受の取付け作業 普通の円筒穴の軸受は、軸にしめしろを与えて取付ける“しまりばめ”であることが多いですが、一般的には、内輪と軸、外輪とハウジングのはめあいの関係は表1のようになっています。“すきまばめ”であれば、簡単に組付けることが可能ですが、“しまりばめ”の場合は、圧入あるいは焼ばめや冷やしばめをしなければなりません。 軸受の取付け作業をおこなう上で、とくに注意すべき事項は以下の4点です。 軸受を直接ハンマでたたかない 転動体に力がかからないようにする 焼きばめをおこなう場合は、120℃以上に加熱しない 軸受の向きを確認する 表1 荷重の性質とはめあい 軸受の回転 荷重条件 はめあい 内輪 外輪 内輪 外輪 回転 静止 内輪回転荷重 外輪静止荷重 しまりばめ すきまばめ 静止 回転 静止 回転 外輪回転荷重 内輪静止荷重 すきまばめ しまりばめ 回転 静止 回転または静止 回転または静止 方向不定荷重 しまりばめ しまりばめ 圧入 しめしろの少ない中形・小形の軸受では、圧入に要する力も小さいですから、常温で圧入することができます。圧入はプレスにより静かに押し込むことが推奨されます。やむを得ず、ハンマを用いる場合には、樹脂製あるいは銅製のハンマを使用します。プレスあるいはハンマを直接軸受に当てることはせず、必ず治具(当て金)を用いてください。直接軸受に衝撃を与えることは厳禁です。この治具は、専用ツールが市販されていますが、軟鋼などで製作してもかまいません。木材などは、軸受内部に木くずなどが入る危険があるため使用してはいけません。また、棒状の当て金を用いて圧入すると均等に圧入できず、軸受損傷の原因となりますので避けてください。 治具は図1に示すように、圧入する側に当てるようにします。転動体に力がかかるような状態(図2)で圧入をおこなうと軌道面に圧痕やキズを付ける原因となりますので、絶対に避けなければなりません。圧入の際、はめあい面に清浄な油を塗布しておくと、かじりを予防できます。 図1 圧入方法図2 NG 円筒ころ軸受や円すいころ軸受のような分離形の軸受では、内輪、外輪を別々に取付けることができます。個々に取付けた内輪および外輪を組合せるとき、内輪と外輪の中心のずれがないように注意しなければなりません。無理に押込むと、転動面にかじりを生じさせるおそれがあります。 焼ばめ 大形の軸受は、しめしろが大きく、圧入に要する力が大きくなります。そこで、図3に示すような、油の中で軸受を加熱膨張させ、軸に取付ける焼きばめ方法が広く用いられています。この方法を用いると、軸受に無理な力がかからず、短時間で作業がおこなえます。ただし、この加熱油に浸漬する方法はグリースを封入した軸受に用いることはできません。内輪の加熱温度は、はめあい面の直径およびしめしろによって決まります。軸受メーカのカタログなどに掲載されているグラフを参照してください。焼きばめ作業における注意事項は、以下のとおりです。 軸受を120℃以上に加熱しない 油槽の底に直接触れないように、軸受を金網台に載せるか、吊るす工夫が望まれる 作業中に内輪が冷えて、取付けが困難にならないよう、所要温度より20℃~30℃高めに軸受を加熱する 取付け後、軸受が冷えると、幅方向にも収縮するため、内輪と軸の肩との間にすきまが生じないよう、軸ナットやそのほかの適当な方法で密着させておく 図3 油槽による加熱 油による加熱以外にも、恒温槽に入れる方法や誘導加熱装置を用いる方法があります。誘導加熱装置は、電磁誘導作用によって軸受に電流が流れると、軸受自体の抵抗により発熱する原理を利用しています。火や油を使わず電気により短時間で均一に加熱できますので、乾燥状態で能率よく作業がおこなえますが、この方法を用いたあとは軸受の脱磁処理を確実におこなう必要があります。 冷やしばめ 軸受を冷却して取付ける冷やしばめの方法もあります。冷却剤としてドライアイスなどを使用します。このとき、軸受の表面には空気中の水分が凝結するので、適切なサビ止め処置が必要となります。 軸受の取外し作業 軸受の取外しは、定期点検や軸受の取替えのときなどにおこなわれます。取外した軸受を廃却する場合は焼き切るなど、なるべく手間のかからない方法で構いません。取外し後に、その軸受を再使用する場合や軸受の状態を調査する必要がある場合には、取付けと同様に入念におこない、軸受および各部品を損傷しないように注意する必要があります。とくに、しまりばめで取り付けられた軸受の取外しは、作業が難しくなります。 軸受は新品への交換が推奨されていますので、多くの機械では、軸受を損傷させずに取り外せるような設計にはなっていません。再使用などが想定される機械の場合は、あらかじめ軸受を容易に取外しできるよう、軸受周辺の設計段階で十分考慮されている必要があります。また、必要に応じて取外用具を設計製作しておくことも大切です。 内輪を軸から取外す場合は、図4に示すように内輪に当て金をあて、軸をプレスやボルトで押し込みます。外輪をハウジングから取外す場合は、あらかじめ取外し用の穴を3ヶ所あけておき、ボルトで外輪を押します(図5)。圧入と同じで、転動体に力がかかると、軌道面に圧痕やキズを付けることになります。したがって、軸受を再使用あるいは軸受内部の状態を調査する場合には、絶対に避けなければなりません。 図4 内輪の取外しの例図5 外輪の取外しの例次回は、転がり軸受の試運転について解説します。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉さんのその他の記事 2024/10/08 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 (1) 2024/01/10 業界コラム 軸受の振動 ( 5 ) 2023/11/14 業界コラム 軸受の振動 ( 4 ) 2023/09/12 業界コラム 軸受の振動 ( 3 ) 2023/07/11 業界コラム 軸受の振動 ( 2 ) 2023/05/09 業界コラム 軸受の振動 ( 1 ) 2023/01/11 業界コラム 軸受の選定 ( 5 ) 2022/11/08 業界コラム 軸受の選定 ( 4 ) 2022/09/13 業界コラム 軸受の選定 ( 3 ) 2022/07/12 業界コラム 軸受の選定 ( 2 ) 2022/05/11 業界コラム 軸受の選定 ( 1 ) 2021/12/14 業界コラム 軸受の取扱い ( 5 ) 2021/10/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 4 ) 2021/08/17 業界コラム 軸受の取扱い ( 3 ) 2021/06/04 業界コラム 軸受の取扱い ( 2 ) 2021/04/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 1 ) 2020/08/04 業界コラム 軸受の基本(5) 2020/07/07 業界コラム 軸受の基本(4) 2020/06/02 業界コラム 軸受の基本(3) 2020/05/12 業界コラム 軸受の基本(2) 2020/04/07 業界コラム 軸受の基本(1) 2019/10/01 業界コラム 軸受の寿命と振動(2) 2019/09/03 業界コラム 軸受の寿命と振動(1) 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月