関東学院大学 理工学部 准教授

堀田 智哉

2017/3     博士(工学) 東京理科大学
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2017/3     博士(工学) 東京理科大学
2017/4‐2020/3  関東学院大学理工学部助教
2020/4-2023/3  関東学院大学理工学部講師
2023/4     関東学院大学理工学部准教授
[専門分野] 転がり軸受工学、機械要素・機械設計、トライボロジー、材料工学

 転がり軸受(ベアリング:Bearing)は、さまざまな機械に使用される重要な機械要素です。しかし、実際に機械を設計する際には、さまざまな形状や大きさの転がり軸受がありますので、どれを選べばよいのか迷ってしまうことがあります。また、選定はできても、取付け面はどのような点に注意して設計すればよいのか、わからない方もいるかと思います。そこで、本連載では、軸受の選定と取付け面の設計について解説していきます。

 第1回目となる今回は、軸受の選び方について解説します。

選定手順

 機械の設計において転がり軸受の選定を最初におこなうことは稀です。機械にはそれぞれ目的(機能)がありますから、それを果たすためのトルクや荷重を決めます。これらによって、回転軸の太さや回転軸に加わる荷重の大きさおよび方向などが先に決まりますから、必要な軸径と荷重をもとに転がり軸受を選定していきます。さらに、実際には価格や納期などの問題もありますので、これらを念頭に入れておかなければなりません。
 また、軸受は規格化されてはいますが、カタログに掲載されている形式のすべてがいつでも入手できるわけではありません。転がり軸受は受注生産を基本としていますので、そのときの生産体制や流通量によって納期や価格が変化します。したがって、軸受を選定する際には、供給や価格も含めた総合的な検討をおこなう必要があります。
 基本的に軸受は、以下の順番で決めていきます。ただし、あくまで基本であって、実際に軸受を選ぶ際には、過去の実績や事例を参考にすることも重要です。

  1.  転がり軸受の形式
  2.  転がり軸受の寸法・寿命
  3. 転がり軸受の許容回転速度、回転精度
  4. 転がり軸受の内部すきま、予圧
  5. 転がり軸受の潤滑方式
  6. 周辺構造

転がり軸受の形式

 軸受の形式は、荷重方向とその大きさによって決めることになります。最も一般的な軸受は「深溝玉軸受」です。この軸受はラジアル軸受に分類されますが、軽いアキシアル荷重であれば受け持つことも可能です。また、軸の傾きもある程度であれば許容できますので、最も使い勝手の良い軸受といえます。
 この深溝玉軸受を基準にして、より大きなアキシアル荷重を受けなければならない場合には、アンギュラ玉軸受やスラスト軸受に変更します。荷重が大きく玉軸受では負荷容量が不足する場合には、ころ軸受に変更します。

転がり軸受の寸法

 転がり軸受のカタログには、主要寸法が掲載されており、どのメーカーでも基本的に内径(軸径)順に並んでいます。主要寸法は内径寸法以外にも、外径寸法と幅(スラスト軸受の場合は高さ)寸法などが寸法系列ごとに記載されています。寸法系列とは幅系列と直径系列を示します。直径系列は内径寸法に対して段階的な外径寸法になっています(図1)。ただし、一部のベアリング形式(深溝玉軸受など)では省略されています。7/8/9/0/1/2/3/4の順に軸受の外径や幅が大きくなりますので、荷重や必要な剛性あるいは組付けるスペースに応じて、適したベアリングを選びます。
 直径系列は0を基準にして、それよりも負荷容量や合成が必要な場合には、1→2→3と上げていきます。また、取付けスペースが制限される場合や、より高速化したい場合には、直径系列9や8のベアリングを選びます。ただしこの場合には、負荷容量が減少しますので、それを補う必要があります。たとえば、軸方向のスペースに余裕があるのであれば、複列に配列を増やすか、幅系列を大きくします。余裕がなければ、軸受形式を見直す必要があります。過去の実績や事例が参考にできない場合では、複数の形式を同時に検討し、総合的に判断することが必要となります。

転がり軸受の寿命と負荷容量

 転がり軸受のカタログを見ると、「基本動定格荷重」と「基本静定格荷重」の2つの荷重が掲載されています。基本動定格荷重は、軸受の疲労寿命を算出する際に使用する値です。軸受にこの荷重を負荷した場合、(10%の軸受が)100万回転で疲労寿命にいたります。したがって、寿命がこれよりも短くなっても良いのであれば、この基本動定格以上の荷重を負荷しても構いません。一方で、基本静定格荷重とは、軸受の負荷限界を示す値です。この荷重が軸受に負荷された場合、転動体と軌道輪の永久変形量が合わせて転動体直径の0.0001倍となるとされています。(計算上では、転動体と軌道との接触部中央における接触応力が、玉軸受の場合で4200MPa、ころ軸受の場合で4000MPa、自動調心玉軸受で4600MPaとなるときの荷重です。)この変形が生じると、なめらかな回転ができなくなるといわれています。したがって、この基本静定格以上の荷重を軸受に負荷してはいけません。

 次回は、転がり軸受の配列について解説します。