2023/07/11 業界コラム 堀田 智哉 軸受の振動 ( 2 ) 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉 2017/3 博士(工学) 東京理科大学...もっと見る 2017/3 博士(工学) 東京理科大学 2017/4‐2020/3 関東学院大学理工学部助教 2020/4-2023/3 関東学院大学理工学部講師 2023/4 関東学院大学理工学部准教授 [専門分野] 転がり軸受工学、機械要素・機械設計、トライボロジー、材料工学 転がり軸受 (ベアリング : Bearing) は、さまざまな機械に使用される重要な機械要素です。機械の運転状態を監視するために、振動あるいは音響を測定し、その周波数を分析および評価することが多いです。この振動は軸受に起因するものも多く、正しい評価には、軸受からどのような振動が発せられるのかをよく理解しておく必要があります。そこで、本連載では、軸受からどのような振動 (音響) が発せられるのか解説していきます。 第2回目となる今回は、軸受の振動監視の基本について解説します。 転がり軸受の振動監視 簡易診断における異常程度の判別には、携帯式の振動測定器などで対象機械の振動を測定でおこないますが、判定の方法には相対値判定法と絶対値判定法があります。 相対値判定法は、正常な場合の初期値 (基準値) を基準として、その値の何倍かで閾値を設定します。たとえば、ある機械の軸受の振動が図1のように変化したとします。事前に、基準値 (初期値) の2倍以上で「注意」、6倍以上で「異常」と定めます。またそれに合わせ、「注意」で精密診断と交換部品の発注を実施する、「異常」で機械停止・部品交換するなどの対処を決めておきます。そうすれば、機械が損傷することなく、機械の停止時間やコストを最小限にすることができます。 図1 転がり軸受の振動加速度推移 (例) 一般的には、基準値の2~3倍以上で注意、4~9倍以上で異常と定めることが多いです。ただ、これら評価の閾値は、何かで規定されているものではありません。機械の用途や環境によっても異なりますので、これまでの実績などから決めます。機械によって閾値を小さく、あるいは大きく設定することもあります。 一方で、絶対値判定法は比較すべき十分な基準データがない場合におこなわれます。これは、統計データによって検証された判定基準で判定をします。たとえば、AMD基準 (AMD : Asahi-kasei Machine Diagnosis) などが一般に公開されています。ただし、絶対値判定の閾値は一般的な統計から定められているものです。機械の振動は、その据付状態や負荷条件によって大きく変化しますので、絶対値判定法の閾値はあくまで目安として考えるのが良いでしょう。 転がり軸受の運転条件による振動の変化 図2は、同じ呼びの軸受 (6204) で、回転速度や荷重を変化させたときの振動加速度を示しています。このように、回転速度や荷重によって振動加速度が大きく異なります。これらのほかに、たとえば、転動体の形式 (玉もしくはころ) 、接触角や内部すきま、荷重方向、潤滑状態なども振動に影響します。さらに、ハウジングや軸の剛性、センサの取付位置および方向によっても異なります。したがって、基準値は実際の機械での振動の傾向から判断することが望ましいです。そのためには、個々の機械において、新品時や整備直後の基準値データを蓄積させ、基準値の把握をすることが重要です。 図2 軸受の運転条件による振動の変化振動監視システム 現在、ベアリングメーカーのみならず、さまざまなメーカーから軸受の振動モニタリングおよび診断システムが発売されています。かつては、携帯式の振動モニタを現場に持ち込み、定期的に測定をするのみでした。しかし、IoT技術の発展によって、ワイヤレスでのオンラインモニタリングが可能となったことから、より多くの場面において、リアルタイムでの測定および診断が可能となりました。また、測定機器などの選択肢が増えたことから、大規模システムから小規模システムまで、規模に応じて必要な監視システムを構築することが可能です (たとえば、新川電機の回転機械状態監視システム) 。その一方で、システムが複雑化しており、最適なシステム構築のためには、より高度な専門知識が必要になっています。導入には決して安くない初期コストがかかりますので、無駄にならないよう、何を目的に振動計測振動監視をしたいのかを明確にしたうえで、計測メーカーなどとよく相談するのが良いでしょう。 振動監視以外の方法 振動監視以外の転がり軸受の損傷検出方法としては、音響ノイズ分析、サーモグラフィ、フェログラフィ (摩耗粉分析) 、AE (アコースティックエミッション) などさまざまな方法があります。それぞれ特徴がありますので、最適なもの、あるいは組み合わせを選定する必要があります。 次回は、軸受の振動の分類について解説します。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉さんのその他の記事 2024/12/10 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 ( 2 ) 2024/10/08 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 (1) 2024/01/10 業界コラム 軸受の振動 ( 5 ) 2023/11/14 業界コラム 軸受の振動 ( 4 ) 2023/09/12 業界コラム 軸受の振動 ( 3 ) 2023/07/11 業界コラム 軸受の振動 ( 2 ) 2023/05/09 業界コラム 軸受の振動 ( 1 ) 2023/01/11 業界コラム 軸受の選定 ( 5 ) 2022/11/08 業界コラム 軸受の選定 ( 4 ) 2022/09/13 業界コラム 軸受の選定 ( 3 ) 2022/07/12 業界コラム 軸受の選定 ( 2 ) 2022/05/11 業界コラム 軸受の選定 ( 1 ) 2021/12/14 業界コラム 軸受の取扱い ( 5 ) 2021/10/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 4 ) 2021/08/17 業界コラム 軸受の取扱い ( 3 ) 2021/06/04 業界コラム 軸受の取扱い ( 2 ) 2021/04/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 1 ) 2020/08/04 業界コラム 軸受の基本(5) 2020/07/07 業界コラム 軸受の基本(4) 2020/06/02 業界コラム 軸受の基本(3) 2020/05/12 業界コラム 軸受の基本(2) 2020/04/07 業界コラム 軸受の基本(1) 2019/10/01 業界コラム 軸受の寿命と振動(2) 2019/09/03 業界コラム 軸受の寿命と振動(1) 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月