関東学院大学 理工学部 准教授

堀田 智哉

2017/3     博士(工学) 東京理科大学
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2017/3     博士(工学) 東京理科大学
2017/4‐2020/3  関東学院大学理工学部助教
2020/4-2023/3  関東学院大学理工学部講師
2023/4     関東学院大学理工学部准教授
[専門分野] 転がり軸受工学、機械要素・機械設計、トライボロジー、材料工学

 転がり軸受 (ベアリング:Bearing) は、さまざまな機械などの回転軸を支える機械要素です。転がり軸受を用いることでしゅう動部分の摩擦を小さくすることができますが、完全になくすことはできません。本コラムでは、軸受内部の摩擦とその潤滑に着目し解説します。

 第6回目となる今回は、軸受の油潤滑について解説します。

潤滑油の種類

 油潤滑で使用する潤滑油は、スピンドル油、マシン油、タービン油などの鉱油が多く使われますが、–30 ℃ 以下の低温または150 ℃ 以上の高温環境においてはジエステル油、合成炭化水素油、シリコーン油などの合成油が使用されます。
 潤滑油にとって、粘度は潤滑性能を決定する重要な特性の一つです。粘度が低すぎると油膜形成が不十分となり、転がり面を損傷させます。逆に、粘度が高すぎると粘性抵抗が大きくなり、温度上昇や摩擦損失を増大させます。したがって、潤滑油は軸受の運転温度において、最適な油膜が形成できる粘度となるものを選ぶ必要があります。一般的には、荷重が大きく、また運転温度が高くなるほど高粘度の潤滑油が用いられ、高速回転になるほど低粘度の潤滑油を用いられます。軸受メーカーのカタログなどには、各軸受形式における必要な動粘度や、回転数、荷重条件ごとの潤滑油粘度の選定の目安などが示されていますので、潤滑油を選定する際の参考にするとよいでしょう。

潤滑方法

 潤滑油は液体のため、流動性が高く、循環させて使用すれば冷却や異物排出も可能です。また、高速回転や高運転温度などの使用条件で使われますが、歯車などの隣接部品と潤滑を共用する場合にも使用されます。
 油潤滑の方式にはさまざまなものがありますが、主要な方法として以下のものがあります。

  • 油浴潤滑
  • 滴下給油
  • 飛沫給油
  • 強制循環給油
  • オイルミスト潤滑
  • オイルエア潤滑
  • オイルジェット潤滑

 基本的に下にいくほど高性能で冷却能力が高いため高速回転に向きますが、潤滑装置が複雑で大型化します。
 以下に各潤滑方式の詳細について、構造イメージとともにまとめています。

油浴潤滑

図1 油浴潤滑 (横軸)

図1に油浴潤滑方式のイメージを示します。この方式は油潤滑の中で最も簡便なため、最も多く用いられています。低速および中速回転速度領域で広く使用されています。潤滑油量は、横 (水平) 軸であれば最下部に位置する転動体の中心まで、縦 (垂直) 軸であれば転動体の50~80 % が潤滑油に浸る程度とします。また、摩耗鉄粉の油中への分散防止のために、磁石が備わったドレンボルト (磁気栓) を用いることがあります。

滴下給油

図2 滴下給油

 図2に滴下給油方式のイメージを示します。上部の給油器 (オイラ) から潤滑油を滴下 (毎分5~6滴程度) し、その油滴をハウジング内の回転体に衝突させ、霧状の油 (油霧) を発生させます。これにより、ハウジング内が油霧で満たされます。少量の潤滑油が軸受を通過するようにする場合もあります。比較的高速でかつ普通荷重以下の場合に用いられます。ハウジングの下部に潤滑油が溜りすぎないように注意する必要があります。

飛沫給油

図3 飛沫給油

 図3に飛沫給油方式のイメージを示します。軸に取り付けられている歯車や簡単な羽根車などによって、潤滑油をはねかけ、飛沫にして給油する方法です。軸受が油槽から離れている場合でも潤滑油の供給ができます。比較的高速まで使用可能ですが、油面のレベルをある範囲内に保つ必要があります。油浴潤滑と同様に、磁気栓を用いることがあります。

強制循環給油

図4 循環給油

 図4に循環給油方式のイメージを示します。ポンプによって潤滑油を強制的に循環させる方法です。給油された潤滑油は、軸受内部を通過後、排油管を通りタンクに戻ります。タンクに戻った潤滑油は、ポンプによって再び給油されます。給油系統中にオイルクーラを設ければ、潤滑油の冷却ができるため、高速回転や高温条件の場合に多く用いられています。また、オイルフィルタを設けることで、潤滑油を正常に保つことができます。供給された潤滑油が、確実に軸受を潤滑するように、給油口と排出口とを互いに軸受に対して反対側に設け、さらに、排出油量が供給油量を下回ることがないように、排油管の太さは給油管の2倍程度にするとよいです。

オイルミスト潤滑 (噴霧給油)

 図5にオイルミスト潤滑方式のイメージを示します。図6に示すオイルミスト発生装置によって、ドライミスト (霧状の油を含んだ空気) を発生させ、ハウジングあるいは軸受に設けたノズルによりウェットミスト (付着しやすい油の粒) にして、軸受に給油します。潤滑に最低限必要な油膜を形成させる方法で、潤滑油による抵抗が小さくでき、高速回転に適しています。また、油汚れの防止、軸受保守の簡素化、軸受疲れ寿命の延長、潤滑油の消費量を削減するなどの効果もあります。さらに、潤滑油とともに圧縮空気が供給されているため、スピンドル内の圧力が高くなり、外部からのごみや切削液などの侵入防止にも効果があります。

図5 オイルミスト潤滑

図6 オイルミスト発生装置

オイルエア潤滑

 図7にオイルエア潤滑方式のイメージを示します。図8に示すミキシング装置によって微量の潤滑油と圧縮空気とを混合させて、軸受に連続的に安定して供給します。潤滑油はピストンにより定量を間欠的に送り出すため、供給油量の定量管理が可能です。この潤滑油を送り出す方式としては、インジェクションオイラ式と、定量ピストン式分配器を使用したものとがあります。常に新しい潤滑油を供給できるため、工作機械主軸などの高速回転用途で用いられています。オイルミスト式と同様に、スピンドル内部の圧力が高くなり、外部からのごみや切削液などの侵入防止にも効果があります。また、潤滑油は給・排油管中を流れるため、オイルミスト式と比べて、雰囲気汚染を抑えることができます。

図7 オイルエア潤滑

図8 ミキシング装置

オイルジェット給油

図9 オイルジェット潤滑

 図9にオイルジェット給油方式のイメージを示します。オイルポンプを用いて軸受の側面に直接、潤滑油を噴射する方法です。潤滑油がノズルから一定圧 (0.1~0.5 MPa程度) で噴射されるため、冷却効果が非常に高く、ジェットエンジンやガスタービンのような超高速かつ重荷重の用途に適しています。一方、供給油量が多いため、潤滑油による抵抗が大きくなります。軸受の発熱量がより大きい場合 (さらに冷却したい場合) は2~4個のノズルを用いることがあります。また、ジェット給油は給油量が多いので、不要な油がスピンドル内に留まらないよう、排油ポンプを用いて強制排油するとよいです。

アンダレース潤滑 (参考)

 図10にアンダレース潤滑のイメージを示します。アンダレース潤滑は、軸受内輪に給油孔を設けることで、回転軸側から遠心力を利用して潤滑油を供給する潤滑方法です。転動体および保持器案内面に直接かつ確実に潤滑油を供給できます。これにより、非常に高い冷却効果を発揮します。さらに、回転軸に給油管があるため、回転軸自体の冷却も期待できますが、構造が非常に複雑になります。
 内輪 (Inner race) の内側 (Under) から潤滑油を供給するため、アンダレース潤滑と呼ばれます。これまで紹介した、オイルジェット式、オイルエア式、オイルミスト式など、用途に応じた方法により潤滑油を供給します。

(a) 例1

(b) 例2

図10 アンダレース潤滑

おわりに

 今回は全6回にわたり、転がり軸受の摩擦・潤滑について解説をおこないました。転がり軸受内の摩擦は多様であり、さまざまな箇所で摩擦が発生しています。本コラムで少しでも摩擦・潤滑への理解につながれば幸いです。