2023/11/14 業界コラム 堀田 智哉 軸受の振動 ( 4 ) 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉 2017/3 博士(工学) 東京理科大学...もっと見る 2017/3 博士(工学) 東京理科大学 2017/4‐2020/3 関東学院大学理工学部助教 2020/4-2023/3 関東学院大学理工学部講師 2023/4 関東学院大学理工学部准教授 [専門分野] 転がり軸受工学、機械要素・機械設計、トライボロジー、材料工学 転がり軸受 (ベアリング : Bearing) は、さまざまな機械に使用される重要な機械要素です。機械の運転状態を監視するために、振動あるいは音響を測定し、その周波数を分析および評価することが多いです。この振動は軸受に起因するものも多く、正しい評価には、軸受からどのような振動が発せられるのかをよく理解しておく必要があります。そこで、本連載では、軸受からどのような振動 (音響) が発せられるのか解説していきます。 第4回目となる今回は、軸受の製作精度に起因する振動について解説します。 転がり軸受の製作精度に起因する振動 転がり軸受の製作精度によって発生する振動には、「転がり軸受のうねりによる振動」、「転動体の直径相互差による振動」、「保持器の振動」の3つがあります (図1) 。これらは軸受の製作誤差が影響しますが、いくら精密な加工をおこなっても完全に防ぐことはできません。また、軸受の製作誤差以外にも、ハウジングあるいは軸の加工精度が、内輪あるいは外輪に転写され、その結果、振動が発生することもあります。薄肉の軸受を使用する場合や、はめあいがきつい場合には、とくに注意が必要です。 図1 転がり軸受の製作精度によって発生する振動転がり軸受のうねりによる振動 軸受内外輪の軌道面あるいは転動体の表面に円周方向の比較的大きな山を有するうねりがある場合に一定の周波数を持った振動または音が発生します。この音はびびり音と呼ばれます。内輪回転の場合、発生する周波数は表1のようになることが知られています。特定の山のうねりの場合に、半径方向、軸方向、角度方向へそれぞれ振動が発生します。 この振動は、転動体がうねりを通過するときに発生します。たとえば、内輪にうねりがある場合を考えます。図2に転動体個数が7個で内輪に6山のうねりがある場合の軸心の変動を示します。最下点の転動体と内輪の山部が一致する図2 (a) の状態のときに軸心は最も上になります。一方で、谷部が一致する図2 (b) のときには軸心が最も下になります。これによって径方向の振動が発生します。8山の場合も同様で、うねりの山数が \(nZ\) ± 1 の場合で最も顕著になります。 図2 うねりによる振動nz - 1山の場合(Z=7,n=1) 図3に内輪に\(nZ\) – 1山, \(nZ\)山, \(nZ\) + 1山のうねりがある場合の、軸の移動を示します。図はすべて最上部に転動体があるとき、この転動体がうねりの山に接触しているときを示しています。\(nZ\) – 1山および\(nZ\) + 1山の場合には、矢印の方向に軸が移動します。また、転動体個数とうねりの山数が同じである (\(nZ\)山) 場合には、うねりの山部あるいは谷部がすべての転動体で同時に接触するため、軸心は径方向には変動しませんが、軸方向の振動が発生します。 図3 うねりによる半径方向の振動(Z=7,n=1) 図4に内輪に\( nZ \)のうねりがある場合の軸方向の振動発生機構を示します。図4(a)はうねりの山部と転動体が接触している場合、図4(b)はうねりの谷部と転動体が接触している場合です。すべての転動体に同時に山部あるいは谷部が来ることで、見かけ上の内輪直径が変化しますので、ラジアル隙間が増減することになります。したがって、接触面の中心が軌道面の溝に沿って軸方向への移動することになり、結果として軸方向の振動が発生します。 図4 うねりによる軸方向の振動転動体の直径相互差による振動 転動体の直径に相互差があったり、転動体の配置が等間隔からずれたりしている場合にも振動が発生します。たとえば、図5のように転動体の1つが大きい場合には、その転動体とは反対方向に、軸中心が移動します。したがって、このような場合には、転動体の公転周波数\(f_{e}\)の振動が生じます。また、(\(f_{i}-2f_{e}\)) 成分の転動体の直径の相互差がある場合には、(\(f_{i}-2f_{e}\))の周波数の振動が発生するとされています。 図5 転動体が一つだけ大きい場合の軸中心の移動保持器の振動 保持器が転動体あるいは軌道輪(内輪または外輪)と衝突して振動が発生することがあります。また、保持器案内面の摩擦によって自励振動が発生することがあります。これらは基本的に保持器の固有振動数で振動をします。衝突音の周波数は、保持器の回転周期\(f_{e}\)(転動体の公転周期)やその転動体数倍\(zf_{e}\)であることが多いです。 次回は、軸受の取扱い不良および損傷に起因する振動について解説します。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉さんのその他の記事 2024/10/08 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 (1) 2024/01/10 業界コラム 軸受の振動 ( 5 ) 2023/11/14 業界コラム 軸受の振動 ( 4 ) 2023/09/12 業界コラム 軸受の振動 ( 3 ) 2023/07/11 業界コラム 軸受の振動 ( 2 ) 2023/05/09 業界コラム 軸受の振動 ( 1 ) 2023/01/11 業界コラム 軸受の選定 ( 5 ) 2022/11/08 業界コラム 軸受の選定 ( 4 ) 2022/09/13 業界コラム 軸受の選定 ( 3 ) 2022/07/12 業界コラム 軸受の選定 ( 2 ) 2022/05/11 業界コラム 軸受の選定 ( 1 ) 2021/12/14 業界コラム 軸受の取扱い ( 5 ) 2021/10/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 4 ) 2021/08/17 業界コラム 軸受の取扱い ( 3 ) 2021/06/04 業界コラム 軸受の取扱い ( 2 ) 2021/04/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 1 ) 2020/08/04 業界コラム 軸受の基本(5) 2020/07/07 業界コラム 軸受の基本(4) 2020/06/02 業界コラム 軸受の基本(3) 2020/05/12 業界コラム 軸受の基本(2) 2020/04/07 業界コラム 軸受の基本(1) 2019/10/01 業界コラム 軸受の寿命と振動(2) 2019/09/03 業界コラム 軸受の寿命と振動(1) 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月