2022/09/13 業界コラム 堀田 智哉 軸受の選定 ( 3 ) 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉 2017/3 博士(工学) 東京理科大学...もっと見る 2017/3 博士(工学) 東京理科大学 2017/4‐2020/3 関東学院大学理工学部助教 2020/4-2023/3 関東学院大学理工学部講師 2023/4 関東学院大学理工学部准教授 [専門分野] 転がり軸受工学、機械要素・機械設計、トライボロジー、材料工学 第3回目となる今回は、軸受の内部すきまと予圧について解説します。 内部すきま 軸受の内部すきまとは、内輪あるいは外輪の一方を固定し、もう一方を動かした場合の移動量のことです。半径方向の移動量を「ラジアル内部すきま」といい、軸方向の移動量を「アキシアル内部すきま」と呼びます(図1)。 運転中における内部すきまの大きさは、転がり疲れ寿命、発熱、騒音、振動などの軸受の性能に影響を与えます。理想的な状態におけるラジアル内部すきまと軸受寿命との関係は、図2のようになります。軸受の定常運転状態において、内部すきまが負となる場合は、常に転動体に弾性圧縮力が加わります。また、内部すきまが小さくなるほど転動体に加わる荷重が大きくなります。逆に、すきまが大きければ、負荷を受けることのできる転動体数が減りますので、こちらも転動体に加わる荷重が増加します(図3)。これらの影響が合わさった結果、わずかに負になるときに疲労寿命が最大となります。 しかし、実際に最も寿命が長くなるすきまを常に保っておくことは難しく、何らかの要因によって、負のすきま量がわずかでも大きくなると,著しい寿命低下と発熱を招くことになります。したがって通常は、運転すきまがゼロよりもわずかに大きくなるように初期の軸受内部すきまを選定します。通常の使用条件(普通荷重のはめあいを用い、回転速度、運転温度などが通常である場合)であれば、普通すきまを選定することによって適切な内部すきまになるようになっています。 しめしろを与えて軸受を回転軸またはハウジングに取付けた場合には、内輪は膨張し外輪は収縮することになりますので、軸受の内部すきまは減少します。内輪または外輪の膨張あるいは収縮量は、軸受の形式、軸またはハウジングの形状、寸法および材料によって異なりますが、近似的には有効しめしろの70〜90%になるといわれています。 予圧 前述したように、軸受は運転状態でわずかな内部すきまを与えて使用するのが一般的です。しかし、剛性が必要な場合には、あらかじめ荷重を加えて軸受内部すきまを負の状態にすることがあります。このような軸受の使い方を予圧法と呼びます。とくに円すいころ軸受は、アキシアル荷重を与えた状態でないと、内輪と外輪が分離してしまいます。そのため、この軸受を正常に機能させるには、予圧が必要になります。 予圧を与えることで、転動体と軌道面との接触点には常に弾性圧縮力が生じた状態になりますので、次の効果が得られます。 荷重負荷時にも内部すきまが発生しにくく、剛性が高くなる。 軸の固有振動数が高くなり、高速回転に適するようになる。 軸振れが抑えられ、回転精度および位置決め精度が向上する。 振動および騒音が抑制される。 転動体の公転すべり、自転すべりおよびスピンすべりが抑制される。 外部振動によって発生するフレッチングを防止する。 しかし一方で、過大に予圧を加えると、寿命低下、異常発熱および回転トルク増大などが発生しますので、適切な予圧量を与えなければなりません。予圧量はその目的に応じて決定されますが、振動防止を目的として予圧を付加する場合には、軽予圧または普通予圧が用いられます。また、剛性を必要とする場合には、中予圧または重予圧が用いられます。 予圧方法 軸受への予圧の付与は、対向する軸受の間にアキシアル方向の荷重を与えて、軸受の内輪と外輪をアキシアル方向に相対的に変位させることによっておこなわれます。軸受に予圧を与える方法として、対向する軸受を固定し、間座あるいはシムなどによって寸法を調節することによって所定の予圧をかける定位置予圧と、ばねを弾性変形させることによって予圧する定圧予圧の2種類が存在します(図4)。それぞれの特徴は以下の通りです。 定位置予圧 軸受同士の位置が固定され,剛性を高めるのに有効である。 軸とハウジング間の温度差によるアキシアル方向の伸びの差,内外輪温度差,荷重による変位等により,予圧量が変化する。 定圧予圧 ばねを用いて予圧するので,運転中の熱影響および荷重の影響による軸受間の位置の変化があっても,予圧量を一定に保つことができる。 ばねを収縮させる方向のアキシアル荷重は負荷できない。 予圧と剛性 軸受に荷重が加わると、軌道輪と転動体との接触部に弾性変形が生じます。そのため、かかる荷重の増加にともなって、軸受の変位量も増加します。この変位の変化量を剛性と呼びますが、予圧を付与すると剛性を向上させることができます。たとえば、アンギュラ玉軸受の内輪にアキシアル荷重とアキシアル方向の変位量の関係は、図5に示す曲線のようになっています。外部からアキシアル荷重\(T\)が加わると,軸受には\(δ\) の変位が生じることになります。一方で、予圧\(P\) が付与された状態から、アキシアル荷重\(T\)を加えたときには、\(δ^{’}\)となります。このときの\(δ^{’}\)は\(δ\)よりも小さくなりますから、剛性が高くなることになります。 アンギュラ玉軸受や円すいころ軸受では、それぞれの軸受のアキシアル荷重(予圧)とアキシアル方向変位量(剛性)との関係から、必要なアキシアル荷重を算出して、与えることになります。 次回は、転がり軸受のはめあいについて解説します。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉さんのその他の記事 2025/02/13 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 ( 3 ) 2024/12/10 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 ( 2 ) 2024/10/08 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 (1) 2024/01/10 業界コラム 軸受の振動 ( 5 ) 2023/11/14 業界コラム 軸受の振動 ( 4 ) 2023/09/12 業界コラム 軸受の振動 ( 3 ) 2023/07/11 業界コラム 軸受の振動 ( 2 ) 2023/05/09 業界コラム 軸受の振動 ( 1 ) 2023/01/11 業界コラム 軸受の選定 ( 5 ) 2022/11/08 業界コラム 軸受の選定 ( 4 ) 2022/09/13 業界コラム 軸受の選定 ( 3 ) 2022/07/12 業界コラム 軸受の選定 ( 2 ) 2022/05/11 業界コラム 軸受の選定 ( 1 ) 2021/12/14 業界コラム 軸受の取扱い ( 5 ) 2021/10/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 4 ) 2021/08/17 業界コラム 軸受の取扱い ( 3 ) 2021/06/04 業界コラム 軸受の取扱い ( 2 ) 2021/04/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 1 ) 2020/08/04 業界コラム 軸受の基本(5) 2020/07/07 業界コラム 軸受の基本(4) 2020/06/02 業界コラム 軸受の基本(3) 2020/05/12 業界コラム 軸受の基本(2) 2020/04/07 業界コラム 軸受の基本(1) 2019/10/01 業界コラム 軸受の寿命と振動(2) 2019/09/03 業界コラム 軸受の寿命と振動(1) 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月