2022/07/12 業界コラム 堀田 智哉 軸受の選定 ( 2 ) 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉 2017/3 博士(工学) 東京理科大学...もっと見る 2017/3 博士(工学) 東京理科大学 2017/4‐2020/3 関東学院大学理工学部助教 2020/4-2023/3 関東学院大学理工学部講師 2023/4 関東学院大学理工学部准教授 [専門分野] 転がり軸受工学、機械要素・機械設計、トライボロジー、材料工学 第2回目となる今回は、軸受の配列について解説します。 単列・複列・組合せ 1つの軸受に転動体が1列に配列されているものを単列軸受と呼び、2列に配列されているものを複列軸受と呼びます(図1)。複列軸受は軸受を2個並べているようなものですから、単列軸受に比べて負荷能力が大きく、剛性も高くなります。鉄鋼圧延機などの大きな荷重が加わる機械では、より列数の多い4列円すいころ軸受なども使用されます。 アンギュラ玉軸受の場合、単列ではアキシアル荷重は一方向しか受け持てず、また、モーメント荷重への耐性もありません。そこで、複列にすることで、両方向のアキシアル荷重とモーメント荷重を受け持てるようになります。 複列と同様の効果を得るために、複数の軸受を並べて使用することを“組合せ”と呼びます。基本的に組合せ軸受は、軸受の内部すきまあるいは予圧量を調整したうえで販売されています。そのため、同一の製品番号の軸受を組み合わせて使用する必要があります。 アンギュラ玉軸受や円すいころ軸受は、接触角を持ちますので向きが存在します。図2に示すように、正面、背面と呼び、組合せの方向によって、正面組合せ、背面組合せ、並列組合せと呼びます。背面組合せの方が正面組合せに比べて、モーメント荷重の負荷能力が大きくなりますが、許容傾き角は小さくなります。また、並列組合せでは、一方向のアキシアル荷重しか負荷できませんが、アキシアル荷重を2個の軸受で受けることができるため、より大きなアキシアル荷重を受けることができます。 固定側と自由側 通常、1本の軸には2個以上の軸受を取り付けなければなりません。このとき、軸が回転すると取り付けられた軸受が発熱し、その熱が周辺部品に伝わることで、軸とハウジングとが熱膨張します(図3)。 多くの場合では、軸とハウジングは放熱量や熱容量などが異なるため、温度差ができることになります。その結果として熱膨張の差による熱応力が生じ、最終的には軸のたわみや破損、軸受の早期損傷につながります。そこで、熱膨張の差による軸の伸縮を逃がす(吸収する)ことが必要です。そのため、軸の伸縮を考えた取付けをおこなわなければなりません。 たとえば、1本の軸に取り付けられている2個の軸受のうち、一方を軸とハウジングとを軸方向に固定します。この軸受により、軸とハウジングの相対位置を決定します。もう一方の軸受は、軸あるいはハウジングが軸方向に自由に動くようにして熱膨張の差による軸の伸縮を逃がします(図4)。 固定側軸受 軸とハウジングとを半径方向と軸方向に固定する固定側軸受には、ラジアル荷重とアキシアル荷重との合成荷重が加わります。そのため、ラジアル荷重とアキシアル荷重を支持できる形式の軸受を荷重の大きさに応じて選定します。また、固定側ベアリングにはラジアル荷重とアキシアル荷重を支持するために、外径の大きな深溝玉軸受を用い、自由側軸受にはラジアル荷重のみを支えるために、外径の小さな深溝玉軸受を用いる配列にすることもあります。 場合によっては軸受を組み合わせて、ラジアル荷重とアキシアル荷重を別々の軸受で支える方式にすることもあります。たとえば、図4(f)のように、深溝玉軸受の外径とハウジングの内径との間にすきまをつけて、深溝玉軸受はアキシアル荷重を支え、円筒ころ軸受にはラジアル荷重のみを支える配列とします。 軸を支える軸受のうち、どこを固定側軸受にするかは、機械の機能や軸受寿命のつりあいなどを考慮して決定します。 自由側軸受軸の伸縮を逃がすための自由側軸受には、大きく2つの方式があります。分離形(内輪と外輪との分離ができる)軸受では、ころと軌道面との間で軸の伸縮を逃がします。非分離形(内輪と外輪との分離ができない)軸受では、軸受の外径とハウジングの内径とをすきまばめにします。これによって、軸受がハウジングを滑動できるようになり、軸の伸縮を逃がします。軸受の発熱によって、軸受の外径も膨張しますので、滑動できなくなることがありますので、この膨張量を考慮してはめあいを決定しなければなりません。 固定側と自由側とを区別しない場合 以下のような場合は、固定側と自由側を区別しません。 軸の伸縮による影響が少ない小型機械の場合(図5 (a)(b)) 予圧を与えて軸に剛性をもたせる場合(図5 (c)~(f)) 小型機械の場合には、軸が短く、荷重も小さいため、伸縮の影響が少なく、自由側と固定側を区別せずに配列することがあります。また、予圧を与える場合には、双方の軸受を固定し、アキシアル荷重をかける必要があります。アンギュラ玉軸受または円すいころ軸受では、2個対向して背面または正面取付けにします。正面取付けと背面取付けを選ぶ際には、モーメントを考慮する必要があります。モーメントが小さい場合は正面取付けを、モーメントが大きい場合には背面取付けを選びます。 次回は、転がり軸受の内部すきまと予圧について解説します。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉さんのその他の記事 2024/10/08 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 (1) 2024/01/10 業界コラム 軸受の振動 ( 5 ) 2023/11/14 業界コラム 軸受の振動 ( 4 ) 2023/09/12 業界コラム 軸受の振動 ( 3 ) 2023/07/11 業界コラム 軸受の振動 ( 2 ) 2023/05/09 業界コラム 軸受の振動 ( 1 ) 2023/01/11 業界コラム 軸受の選定 ( 5 ) 2022/11/08 業界コラム 軸受の選定 ( 4 ) 2022/09/13 業界コラム 軸受の選定 ( 3 ) 2022/07/12 業界コラム 軸受の選定 ( 2 ) 2022/05/11 業界コラム 軸受の選定 ( 1 ) 2021/12/14 業界コラム 軸受の取扱い ( 5 ) 2021/10/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 4 ) 2021/08/17 業界コラム 軸受の取扱い ( 3 ) 2021/06/04 業界コラム 軸受の取扱い ( 2 ) 2021/04/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 1 ) 2020/08/04 業界コラム 軸受の基本(5) 2020/07/07 業界コラム 軸受の基本(4) 2020/06/02 業界コラム 軸受の基本(3) 2020/05/12 業界コラム 軸受の基本(2) 2020/04/07 業界コラム 軸受の基本(1) 2019/10/01 業界コラム 軸受の寿命と振動(2) 2019/09/03 業界コラム 軸受の寿命と振動(1) 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月