2024/10/08 業界コラム 堀田 智哉 軸受の摩擦・潤滑 (1) 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉 2017/3 博士(工学) 東京理科大学...もっと見る 2017/3 博士(工学) 東京理科大学 2017/4‐2020/3 関東学院大学理工学部助教 2020/4-2023/3 関東学院大学理工学部講師 2023/4 関東学院大学理工学部准教授 [専門分野] 転がり軸受工学、機械要素・機械設計、トライボロジー、材料工学 転がり軸受 (ベアリング :Bearing) は、さまざまな機械などの回転軸を支える機械要素です。転がり軸受を用いることでしゅう動部分の摩擦を小さくすることができますが、完全になくすことはできません。本コラムでは、軸受内部の摩擦とその潤滑に着目し解説します。 第1回目となる今回は、軸受内部に発生する摩擦について解説します。 軸受内部の摩擦 転がり軸受の内部では、さまざまな要因で摩擦が発生しています。摩擦はトルク損失や熱となって現れますので、転がり軸受を使用するにあたっては、摩擦の要因を理解しておくことが大切です。軸受で発生する摩擦の割合は、軸受の型式、回転速度、荷重および潤滑条件などによって変化しますが、おおよそ以下の5つです。 弾性ヒステリシス損失 転がり接触部での微小すべり すべり接触による摩擦 潤滑剤の粘性抵抗・かく拌抵抗 密封装置による摩擦損失 以下では、これらの要因の詳細を解説します。 1. 弾性ヒステリシス損失 材料の弾性限度以下の応力において、応力とひずみとは比例の関係にあるとみなされていますが、厳密にいえば比例の関係ではありません。変形する際に材料の内部の摩擦によって、図1に示すようにひずみを発生させるのに必要なエネルギーと、ひずみが復元する際に解放されるエネルギーとにわずかな差異が生じます。この差異がエネルギー損失であり、これを弾性ヒステリシス損失と呼びます。 軸受の回転中は、転動体と軌道面との接触面は弾性変形と復元とが繰り返し発生していますから、弾性ヒステリシスによりエネルギーの損失が生じます。 図1 弾性ヒステリシスの例2. 転がり接触部での微小すべり 転動体と軌道面との接触は、玉軸受では点接触、ころ軸受では線接触と言われていますが、実際には弾性変形していますので面接触になっています。面積を有することで、「差動すべり」や「スピンすべり」などが発生します。 差動すべり 図2に玉軸受の転動体と内輪との接触状態の例を示します。Oa-Oa'が転動体の自転軸、Oi-Oi'が内輪の自転軸を示しています。接触面での周速はこれらの自転軸からの距離によって変化しますので、転動体側の周速は接触面中央の方が速く、内輪表面の周速は接触面中央の方が遅くなっています。純転がりをするためには、転動体表面の周速と内輪表面の周速が等しくなければなりませんが、前述のような周速分布であるため、接触面全面が純転がりをすることは不可能です。 仮に図のように、ある2点で純転がりをしている場合には、その内側では内輪側の周速が遅くなり、内輪回転方向とは逆方向のすべり (負のすべり) が生じ、その外側では内輪側の周速が速くなり、内輪回転方向のすべり (正のすべり) が生じます。これを「差動すべり」あるいは「ヒースコート・スリップ (Heathcote-Slip) と呼びます。また、純転がりをしている位置を純転がり線、ノンスリップライン、ニュートラルラインなどと呼びますが、とくに純ラジアル荷重の場合には、すべりの部分が摩耗し、純転がり線の部分が摩耗せずに残った「二山摩耗」と呼ばれる特徴的な摩耗が発生します。 図2 差動すべりスピンすべり アンギュラ玉軸受やアキシアル荷重が負荷された玉軸受では、接触角を持ちます。これら接触角を持つ玉軸受においては、スピンと呼ばれる現象が生じます。 図3にスピンすべりの模式図を示します。接触角αを有し、内輪と転動体が純転がりをする場合、転動体は内輪と転動体との接点Aでの接線と内輪の回転軸との交点Oiと転動体の中心Cとを結んだ軸Oi-Cを中心に自転します。このとき外輪側の接触面において転動体表面の周速は接触楕円の中心部 (点B) に比べ、点O側 (転動体大径側) では速く、その反対側 (小径側) では遅くなります。一方、外輪側表面の周速は点O側では遅く、その反対側では速くなります。この周速の差によって、接触楕円の中心 (点B) を中心として、転動体が回転 (スピン) をはじめます。その結果、スピンすべりが生じます。 図3 スピンすべり (内側コントロール) 外輪側で純転がりをする場合には、内輪側でスピンすべりが発生します。内輪あるいは外輪のどちらでスピンすべりが生じるかは、それぞれの節点での摩擦 (スピントルク)の大きさによって決定されますが、スピントルクの大きい軌道輪が「コントロール」していると定義されています。 内輪コントロール 内輪側のスピントルクが大きく、外輪側の節点でスピンすべりが生じる。低速域で生じやすい。 外輪コントロール 外輪側のスピントルクが大きく、内輪側の節点でスピンすべりが生じる。高速域で生じやすい。 接触角を有する玉軸受では、スピンすべりの発生を防ぐことができません。とくに高速回転の場合には、発熱や摩耗などの不具合を発生させる場合があるため、転動体と軌道面との接触面圧 (\(\,P\,\)) にスピン速度 (\(\,V\,\)) を乗じたPV値と呼ばれる値で使用可否を判定することがあります。 次回は引き続き、軸受の摩擦について解説します。 本コラムは全6回を予定しています。次回は12月号に掲載予定です。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉さんのその他の記事 2024/12/10 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 ( 2 ) 2024/10/08 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 (1) 2024/01/10 業界コラム 軸受の振動 ( 5 ) 2023/11/14 業界コラム 軸受の振動 ( 4 ) 2023/09/12 業界コラム 軸受の振動 ( 3 ) 2023/07/11 業界コラム 軸受の振動 ( 2 ) 2023/05/09 業界コラム 軸受の振動 ( 1 ) 2023/01/11 業界コラム 軸受の選定 ( 5 ) 2022/11/08 業界コラム 軸受の選定 ( 4 ) 2022/09/13 業界コラム 軸受の選定 ( 3 ) 2022/07/12 業界コラム 軸受の選定 ( 2 ) 2022/05/11 業界コラム 軸受の選定 ( 1 ) 2021/12/14 業界コラム 軸受の取扱い ( 5 ) 2021/10/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 4 ) 2021/08/17 業界コラム 軸受の取扱い ( 3 ) 2021/06/04 業界コラム 軸受の取扱い ( 2 ) 2021/04/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 1 ) 2020/08/04 業界コラム 軸受の基本(5) 2020/07/07 業界コラム 軸受の基本(4) 2020/06/02 業界コラム 軸受の基本(3) 2020/05/12 業界コラム 軸受の基本(2) 2020/04/07 業界コラム 軸受の基本(1) 2019/10/01 業界コラム 軸受の寿命と振動(2) 2019/09/03 業界コラム 軸受の寿命と振動(1) 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月