2021/08/17 業界コラム 堀田 智哉 軸受の取扱い ( 3 ) 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉 2017/3 博士(工学) 東京理科大学...もっと見る 2017/3 博士(工学) 東京理科大学 2017/4‐2020/3 関東学院大学理工学部助教 2020/4-2023/3 関東学院大学理工学部講師 2023/4 関東学院大学理工学部准教授 [専門分野] 転がり軸受工学、機械要素・機械設計、トライボロジー、材料工学 第3回目となる今回は、転がり軸受の点検について解説します。 軸受の保全 軸受の早期損傷や、それによって発生する事故を未然に防止するためには、軸受の保全が必要です。一般的に保全は大きく予防保全と事後保全に分類されます(図1)。予防保全は、使用中での故障を未然に防ぐことを目的におこなう方式です。一方、事後保全は故障が発生した際に、故障原因を調査・解析して処置をおこなう方式です。 図1 保全 時間計画保全は、あらかじめ定めたスケジュールにしたがって実施する予防保全です。そのうち、暦年の経過時間で計画されるものが定期保全、累積動作時間で計画されるものが経時保全となります。定期検査としておこなわれるものが、これら時間計画保全にあたり、軸受を取外して損傷の状態を検査します。この周期は、故障などの統計や類似の機械の実績から推定して定めることになります。軸受だけを取出して検査することは非常に不経済ですので、他の機械部品とともに機械を分解し、まとめて検査をおこないます。とくに、グリースなどは、軸受よりも寿命が短くなることが多いですから、解体しなければグリースの給脂・交換ができない機械では、グリースの交換周期が定期検査の周期となります。 時間計画保全は、故障率の時間的変化がバスタブ曲線に従うことを前提に計画されています。しかし、故障は必ずしもバスタブ曲線に従うものではありませんし、突発的に故障が発生することもあります。そこで、状態監視保全が必要となります。 状態監視保全は、運転中の状態をセンサなどで監視し、その状態に基づいて保全の計画を立てる方式です。すべての機械の状態を監視するのは困難ですので、状態監視保全と時間計画保全を組み合わせた保全が一般的です。 運転中の軸受の点検では、軸受の回転音・振動や温度を調べます。転がり軸受はわずかな圧痕やはく離でも、異常音や不規則音が発生しますので、聴音器などを用いて運転中の軸受の状態を判定することが可能です。また近年では、専用の測定器を用いることで、熟練者でなくとも、異常の有無だけでなく、その原因まで判定ができるようになっています。また、軸受の温度は、ハウジングに触れたり、潤滑油の温度を測定することで、異常を確認します。グリースや潤滑油のその汚れや異物などを調べることも、軸受の運転状況を判断するのに有効な手段です。点検の結果、軸受の異常や損傷が発見された場合には、すぐに運転を停止させ、その原因を検討し、軸受損傷の再発防止の対策をおこないます。 原因を特定するためには、異常のあった軸受だけでなく、軸受の使用機械、使用箇所、使用条件、軸受周辺の構造、潤滑の条件、取扱いや運転経歴などを総合的に判断する必要があります。 軸受の点検 取り外した軸受の再使用が可能かどうかを判定するために、軸受をよく洗浄した後、検査します。軌道面、転動面、はめあい面の状況、保持器の摩耗状態、軸受内部すきまの増加、寸法精度の低下などについて損傷・異常の有無を注意深く点検します。非分離形の小形の玉軸受などでは、内輪を片手で水平に支持し、外輪を回してひっかかりの有無などを確かめます。また、円すいころ軸受などの分離形軸受では、転動体や外輪の軌道面を別個に調べることができます。大形の軸受は、手で回すことはできませんので、転動体、軌道面、保持器、つばのあたり面など外観を注意して調べます。軸受の重要度が高くなるほど、より慎重に検査しなければなりません。再使用が可能かどうかの判定は、軸受の損傷程度や機械の性能、重要度、運転条件、次回の点検までの期間などを考慮して決めることになります。軸受に次のような欠陥があれば、軸受の再使用はできませんので、新しい軸受と取替えてください。 内輪、外輪、転動体、保持器のいずれかに割れや欠けがある 軌道輪、転動体のいずれかにフレーキングがある 軌道面、つば、転動体に著しいかじりがある 保持器の摩耗が著しいか、リベットゆるみが甚だしい 軌道面、転動体にサビあるいはキズがある 軌道面、転動体に甚だしい圧痕や打痕がある 内輪内径面または外輪外径面に著しいクリープがある 熱による変色が甚だしい グリース封入軸受でシール板やシールド板の破損が著しい 走行跡と荷重のかかり方 運転後の軸受の軌道面には、走行跡と呼ばれるくすんだ面となります。走行跡自体は異常ではありませんが、図2に示すように、走行跡の状態によって、軸受の取付け不良や異常荷重がわかりますので、損傷原因の追究に役立つことがあります。 図2 深溝玉軸受への走行跡の付き方と荷重の状態次回は、転がり軸受の取付け・取外しについて解説します。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉さんのその他の記事 2025/04/08 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 ( 4 ) 2025/02/13 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 ( 3 ) 2024/12/10 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 ( 2 ) 2024/10/08 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 (1) 2024/01/10 業界コラム 軸受の振動 ( 5 ) 2023/11/14 業界コラム 軸受の振動 ( 4 ) 2023/09/12 業界コラム 軸受の振動 ( 3 ) 2023/07/11 業界コラム 軸受の振動 ( 2 ) 2023/05/09 業界コラム 軸受の振動 ( 1 ) 2023/01/11 業界コラム 軸受の選定 ( 5 ) 2022/11/08 業界コラム 軸受の選定 ( 4 ) 2022/09/13 業界コラム 軸受の選定 ( 3 ) 2022/07/12 業界コラム 軸受の選定 ( 2 ) 2022/05/11 業界コラム 軸受の選定 ( 1 ) 2021/12/14 業界コラム 軸受の取扱い ( 5 ) 2021/10/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 4 ) 2021/08/17 業界コラム 軸受の取扱い ( 3 ) 2021/06/04 業界コラム 軸受の取扱い ( 2 ) 2021/04/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 1 ) 2020/08/04 業界コラム 軸受の基本(5) 2020/07/07 業界コラム 軸受の基本(4) 2020/06/02 業界コラム 軸受の基本(3) 2020/05/12 業界コラム 軸受の基本(2) 2020/04/07 業界コラム 軸受の基本(1) 2019/10/01 業界コラム 軸受の寿命と振動(2) 2019/09/03 業界コラム 軸受の寿命と振動(1) 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月