2011/10/04 業界コラム 瀧本 孝治 状態監視モニタ vol.2 ~ 振動モニタの種類 ~ 新川電機株式会社 瀧本 孝治 マーケティング部 ST製品企画室...もっと見る マーケティング部 ST製品企画室 前号で振動モニタのおおよその機能と処理の流れを理解していただけるよう、非接触変位センサを入力とする軸振動モニタを例にとって、そのブロック図と各部分の機能を説明しましたが、今回は、その他のセンサを入力とする振動モニタに関して説明します。 2011年4月号と2011年5月号で接触式の速度センサと加速度センサについて、また、2011年6月号と2011年7月号で振動の3種類の測定パラメータ「変位」「速度」「加速度」の関係、適用範囲などについて説明し、その中で、変位を微分すると速度に、速度を微分すると加速度になることを、逆に、加速度を積分すると速度に、速度を積分すると変位になることを説明しました。 そこで、振動測定において振動センサの測定パラメータと振動モニタの測定パラメータが必ずしも一致していなくても、モニタ内部での微分または積分処理により希望する振動パラメータの測定が可能であることが想像できます。現実的には、入力された信号を微分処理することは、ノイズなどの不要成分を増幅する要因となるため、モニタ内部での微分処理は行なっていませんが、モニタ内部での波形信号の積分処理は実際に行なわれています。つまり、速度センサ入力の振動変位モニタや加速度センサ入力の振動速度モニタが存在するということです。 上記のようにモニタ内部で積分処理を行なうものと、センサとモニタの測定パラメータが一致していてモニタ内部での積分処理が必要ないものを含めて、実用的に使用されている振動計測におけるセンサとモニタの測定パラメータの組合せを表1に示します。 この中で示されているモニタ内部での積分が必要なケースでは、前号の図1に示したブロック図の④「HPF(ハイパスフィルタ) / LPF(ローパスフィルタ)」と⑤「検波 / 平滑」の間に積分回路が入ることになります。このイメージを図2に示します。 図2. 振動モニタのブロック図への積分回路追加表1に示す組合せNo.(1)は大型回転機械の軸振動計測に最もよく使用されている非接触変位センサと振動モニタの組合せで、前号の説明がこの組合せをベースにしています。この組合せの備考欄に相対振動と書いていますが、これは非接触変位センサによる軸振動計測が、測定対象である回転軸とセンサを固定している軸受(またはケーシング)との相対的な動き(振動)を計測していることから相対振動と呼ばれています。 組合せNo.(2)は、測定対象の回転軸に対して、先端にフッ素樹脂などの接触端を持つ伝振ロッドを直接押し当て、伝振ロッドの反対側に取り付けられた速度センサで軸振動を測定するもので、オンシャフト式と呼ばれるタイプの軸振動計です。このタイプで計測する振動は回転軸の絶対的な動き(振動)を検知しますので、絶対振動と呼ばれます。また、軸振動は変位で管理されますので、速度センサで検知した波形信号をモニタ内部で積分処理する必要があります。 【参考】ISO 7919-1規格による定義(同等規格JIS B 0910の表現を示す。) 相対振動:軸及び軸受箱又は機械のケーシングのような適切な構造部分との間の振動変位。 絶対振動:慣性座標系に対する振動変位。 表1. 振動計測におけるセンサとモニタの測定パラメータの組合せ No. 機種(例) 測定パラメータ 積分 備考 センサ モニタ センサ モニタ (1) FK-202F VM-5K 変位 変位 ― 非接触式、軸振動 (相対振動) (2) CV-86 VM-5U 速度 変位 ○ 接触式、軸振動 (絶対振動) (3) CV-86 VM-5U 速度 速度 ― 接触式、ケーシング振動 (4) CA-302 VM-5B 加速度 速度 ○ 接触式、ケーシング振動 (5) CA-302 VM-5B 加速度 加速度 ― 接触式、ケーシング振動 (6) CA-302 VM-5M 加速度 速度& 加速度 ○ 接触式、ケーシング振動 ※1.記号 ○:モニタ内部での波形信号の積分が必要。 ―:モニタ内部での波形信号の積分が不要。 ※2.センサおよびモニタの機種は一例であり、その他の機種が使用されることがあります。また、VM-7シリーズの場合、VM-701Bに対して各組合せのセンサ機種および測定パラメータを設定することで、上記組合せ全てにVM-701Bが適用可能となり比較しにくいので、入力センサの測定パラメータ毎に型式の異なるVM-5シリーズを例として記載しています。 ここまで見ると、軸振動計測において非接触式の相対振動と接触式(オンシャフト)の絶対振動はあるが、非接触式の絶対振動計測はないのかという疑問を持たれるかもしれません。実はISO規格(ISO 7919-1)では軸振動計測の方式として、非接触変位センサによる相対振動、オンシャフト振動計による絶対振動と非接触センサと速度センサを組合せた非接触の絶対振動の3種類が示されています。これに対応するモニタとしては、VM-5シリーズの場合VM-55振動モニタ、VM-7シリーズの場合VM-702B絶対振動モニタがあります。この軸振動計測における3種類の方式に関しては別の機会にもう少し詳しく説明します。 組合せNo.(3)は、速度センサで振動速度を計測しますので、モニタ内部での積分処理は必要ありません。これに対して組合せNo.(4)は、加速度センサで振動速度を計測しますので、モニタ内部での積分処理が必要となります。これらはいずれもケーシングに振動センサを取り付けてベアリングを通して伝わってくる振動を計測する接触式の振動計で、ケーシング部分の絶対振動計測になります。これらは通常転がり軸受で支持された回転機械のアンバランスやミスアライメントなど、回転軸に起因する異常の検知に有効です。 また、組合せNo.(5)は、加速度センサで振動加速度を計測しますので、モニタ内部での積分処理は必要ありません。この場合もNo.(3)やNo.(4)と同様に接触式センサによるケーシング部分の絶対振動計測になりますが、通常転がり軸受自体の異常検知に有効です。 最後に、組合せNo.(6)ですが、これは1つのセンサに対して積分処理を行なう回路と積分処理を行なわない回路の2系統の処理を行なう振動モニタを使うケースで、このようなモニタをデュアルパスモニタと呼んでいます。これはNo.(4)とNo.(5)の複合型で、1つの加速度センサで回転軸に起因する異常検知と転がり軸受自体の異常検知の両方に有効な振動監視装置と言えます。 本コラム関連製品 VM-5シリーズVM-7シリーズVM-25シリーズFKシリーズCAシリーズ この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 新川電機株式会社 瀧本 孝治さんのその他の記事 2024/07/09 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 4 ) 2024/07/02 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 3 ) 2024/06/25 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 2 ) 2024/06/17 業界コラム 回転機械の振動と状態監視 ( その 1 ) 2024/02/14 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2023/11/07 業界コラム 渦電流式変位センサの原理と特徴 2014/09/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(13)バランス調整 / 不釣合い修正 2014/08/05 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(12)ハイスポットとヘビースポットの位相角 2014/07/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(11)振動ベクトルとポーラ線図 2014/05/13 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(10)同期サンプリングにおける設定 2014/04/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(9)非同期サンプリングにおける設定 2014/03/11 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(8)同期サンプリングと非同期サンプリング 2014/02/12 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(7)データ収集間隔 / データ保存間隔 2014/01/14 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(6)サンプリング周波数 2013/12/10 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(5)位相基準信号(フェーズマーカ) 2013/10/08 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(4)軸振動センサのX-Y取付けでできること 2013/09/03 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(3)軸振動センサのX-Y取付け 2013/08/06 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(2)ターゲット、システムケーブル長 2013/07/09 業界コラム 分かりにくい用語とその意味(1)非接触変位センサの精度に関する用語の意味 2013/06/11 業界コラム 振動解析と診断 vol.11 ~ ポータブル振動解析システムKenjin ~ 2013/05/14 業界コラム 振動解析と診断 vol.10 ~ 振動解析診断システムの紹介(5) ~ 2013/04/09 業界コラム 振動解析と診断 vol.9 ~ 振動解析診断システムの紹介(4) ~ 2013/03/12 業界コラム 振動解析と診断 vol.8 ~ 振動解析診断システムの紹介(3) ~ 2013/02/13 業界コラム 振動解析と診断 vol.7 ~ 振動解析診断システムの紹介(2) ~ 2013/01/16 業界コラム 振動解析と診断 vol.6 ~ 振動解析診断システムの紹介(1) ~ 2012/09/04 業界コラム 振動解析と診断 vol.5~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(2)~ 2012/08/07 業界コラム 振動解析と診断 vol.4 ~ ロータキットによる異常発生時の解析事例(1)~ 2012/07/10 業界コラム 振動解析と診断 vol.3 ~ オービットとポーラ線図 ~ 2012/06/12 業界コラム 振動解析と診断 vol.2 ~ 解析グラフ ~ 2012/05/15 業界コラム 振動解析と診断 vol.1 ~ 振動解析の概要 ~ 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月