2015/01/14 業界コラム 熊谷 卓 1 生産設備の構成要素(1) 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業...もっと見る 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業 1955年04月 マミヤ光機株式会社入社 1962年11月 技術士国家試験合格・機械部門技術士登録 1963年03月 株式会社 新興技術研究所設立 代表取締役就任、現在 同社取締役会長(業務内容:自動組立機をはじめ各種自動化設備機器等の開発・製作・技術指導) 【歴任】 米国・欧州自動化技術視察団コーディネータ 8 回 自動化推進協会 理事・副会長 精密工学会 自動組立専門委員会 常任幹事 日本技術士会 理事・機械部会長 中小企業大学校講師 日本産業用ロボット工業会 各種委員 神奈川大学講師 自動化推進協会理事 高度職業能力開発促進センター講師 等を歴任 【業績】 著書 自動化機構300選(日刊工業新聞社)、メカトロニクス技術認定試験教本(工業調査会)ほか多数 講演 アジア生産性機構講演で自動化システムを W・T・MACS で表示・解析を提示(世界初)ほか多数 論文 自動化システムのデバッギング理論「チェック機構と最適稼働率」が欧州年間論文大賞にノミネイトほか多数 発明 メカトロニクス技術実習モジュールの発明、地震予知システム「逆ラジオ」の発明ほか多数 株式会社新興技術研究所 熊谷会長様のご好意による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」のスタートです。 今号では、「生産設備の構成要素(1)」を紹介します。 工場はすべて作業ユニットの集合図 1-1 は或る生産工場の例です。 図 1-1 製品外観と工場レイアウト(出典:株式会社三協精機製作所 技報 TERESA より) 図 1-2 製品の構成部品(出典:株式会社三協精機製作所 技報 TERESA より)図 1-1 の工場レイアウトでわかる通り工場内には多くの生産ラインがあり、それぞれの生産ラインには箱のようなものが並んでいます。 この箱のようなものは、「生産用の機械」を示しています。 生産用の機械が何台か並んで、一つの生産ラインを構成しているのです。 その生産用の機械は、どんなものか考えてみます。 図 1-3 生産用機械の一例 ロータリ型ベースマシンの周囲に作業ユニット群が配置されている図 1-3 は A、B 二つの部品を組み合わせてカシメユニットのハンマーで叩いて相互に固着するだけの、極めて単純な生産用機械の一例です。 中央に丸い「ロータリテーブル」があり、これに部品を保持するための「ワークホルダ」が 6 個設けてあります。 ロータリテーブルはスタート信号が来ると正確に 60° 回転して停止します。この停止位置を「作業ステーション」と呼びます。 この機械の動作内容は次のようになります。 A 部品の供給作業 ロータリテーブルが回るたびに A 部品供給作業員が A 部品を一個、目の前のワークホルダに入れます。これを「部品の供給作業」と言います。 B 部品の供給作業 ロータリテーブルが回るたびに B 部品自動供給装置の前にはA部品が入っているワークホルダが来ますので、この装置が A 部品の上に B 部品を自動で載せます。 B 部品のチェック作業 次の作業ステーションには B 部品チェックユニットがあって、A 部品と B 部品とが正しく組合わさって載っているかを調べます。もし B 部品が斜めに傾いたりしていたら、アラーム信号を出して作業員に修正してもらいます。 締結(カシメ)作業 次のステーションにはハンマーを持ったカシメユニットがあって、来たワークを叩いて A と B とが互いに抜けないようにします。二つの部品が相互に外れないようにすることを締結と言います。 取出し作業 次のステーションでは締結された A+B 部品を自動的にワークホルダから取り出して、次工程に送るベルトコンベア上に置きます。 この機械の構成内容を考えて見ますと、ロータリ型ベースマシンのテーブルの周囲にいろいろな作業をする作業ユニットが配置されていることがわかります。 これらの作業ユニットは全て「ワークに対して何かをする」ユニットです。 では、ベースマシンはどうかと考えてみると、やはりワークに対してこれを次の作業ステーションまで移動するもので、複数のワークを同時に扱う一種の作業ユニットであることに気付きます。 このワークの移動を「移送(トランスファ)」と言います。 つまり、この機械は: ワークの移送ユニットと、その周囲にある B 部品の供給ユニット B 部品のチェックユニット 締結(カシメ)ユニット 取出しユニット などの作業ユニットで構成されていることがわかります。 しかし、そのほかに A 部品の供給作業をする「作業員」 が必要です。 ところが、もしここに「A 部品自動供給ユニット」があれば、この作業員は不要です。 その意味では「作業員」とは、「自動化してない作業ユニット」のことなのです。 こう考えてくると、この一台の機械は「作業ユニットの集合体」であることがわかります。 もう少し複雑な機械の例を図 1-4 に掲げます。 これは直進トランスファ型のベースマシンの移送経路の周りにいろいろな作業ユニットが配置されています。 前工程からのベルトコンベアの先端部で本体供給ユニットが本体をパレット上に供給します。 パレットは順次右へ送られて各作業ステーションに停止します。 作業員は部品 ① を手作業で供給しますが、それ以外の部品 ② から部品 ⑥ はすべて自動的に供給されています。 さらに材料 ⑦ として半田が供給され、加熱・冷却ステーションの次に自動取り出しユニットで次工程へ送られます。 空になったパレットは矢印のように左端に送られて循環します。 図 1-4 生産用機械の一例 直進移送型ベースマシンの周囲に作業ユニット群が配置されているこの機械も、トランスファユニットと各種の作業ユニットから成り立っていることは明らかです。 なお、部品 ② は、前工程でロータリテーブル型のサブベースマシンで側面・上面などの予備加工が行われています。これもトランスファユニットとホッパ式自動供給ユニットや加工ユニット・捺印ユニットなどの作業ユニット群で構成されています。 予備加工のできた部品 ② が小型ベルトコンベアで供給位置まで送られると、自動供給ユニットで矢印のようにパレット上に供給されます。 つまり、工場内の全ての生産用機械は作業ユニットの組み合わせでできているのです。 その生産用機械が多数並んで一本の生産ラインができ、生産ラインが何本か集まって工場が出来上がっているわけです。 図 1-5 工場の生産ラインの例 工場はすべて作業ユニット群から構成されている工場内のすべての作業ユニットが「いいユニット」でなければならない要するに、工場の中で実際に生産作業をしているのは全て「作業ユニット」なのです。 そして、FA とは何のことかと言えば、工場の中の何千と言う作業ユニットを、すべて「いいユニット」にすることなのです。 ここで、「いいユニット」というのは、まず自動化されていることは当然ですが、その上で、精度がいい、生産速度が速い、品種切換えにすぐ対応する、などいろいろな意味がありますが、いずれにしてもそれぞれの対応する工程ごとに、的確に生産目標をこなすものでなければなりません。 仮に何千ものユニットの中で、一つでも効率の悪い、生産速度が遅く不良品ばかり作るようなユニットがあると、それだけで工場全体の生産が停滞してしまいます。 従って「すべてのユニットがいいユニット」でなければならないのです。 すべてのユニットがいいユニットになれば工場管理はきわめて簡単です。 営業からの情報によって何型を何日までに何個生産すればいいかを決めれば、後は「何型を何個作れ」「できたか?」「次は何型を何個作れ」の命令だけで工場の生産は確実に進みます。 「FA コンピュータ」は小さなパソコン一台ですむのです。 いいユニットかどうかの判定と改善例ここで、もっとも単純な作業ユニットの例として、図 1-6 のようなドリリング工程の例を考えてみます。 手作業の場合は当然ワークをワークホルダに入れて手で押さえて、上部のにぎり玉をつかんで下へ降ろしていき、所定の深さに穴が開いたら、にぎり玉を上に戻すとともにワークを取り外すのが一連の作業です。 図 1-6 ドリルによる手作業穴あけの例 図 1-7 ドリルによる手作業穴あけの自動化例 これを図 1-7 のような自動化ユニットで自動化しました。 この動作は次のようになります。 ワークの移送はベースマシンのロータリテーブルで自動的に行われることは言うまでもありません。 ロータリテーブルの移送動作が終わったら、コントローラにスタート信号が送られますので、コントローラはモータに駆動命令を出します。 モータはベルトによって連結されているピニオンを正回転しラックが駆動されてドリルヘッドが下降します。 ドリルヘッドに付けてあるセンサ用のドグが、下端センサを蹴るとコントローラは直ちにモータに逆転命令を出し、ドリルヘッドが上昇します。 センサ用のドグが上部の原点センサを蹴るとコントローラは直ちにモータ停止命令を出してモータを停止し、作業完了信号をロータリテーブルコントローラに送ります。 これで一連の動作が完了しますので確実に自動化はできていることがわかります。 さてこの自動化ユニットが「いいユニット」であるかどうか、考えてみます。 まず手作業の代わりにロータリテーブルでワークを移送することには全く問題はありません。 つぎにドリリングの工程を手作業と比較します。 ワークの材質にもよりますが、ドリリング動作をあまり速くしようとすると穴の形状が真円にならなかったりドリルの刃が欠けたりする可能性がありますので、標準的な切削速度に合わせた切り込み速度でゆっくりとドリルを下降します。 自動化ユニットでもこの下降速度は守らなければなりません。したがって、モータの減速比をこれに合わせてゆっくりとドリルを下降します。 しかし、ドリルの上昇速度は違います。 手作業の作業者は、帰りは無駄時間なのでできるだけ速くドリルを抜き上げて次のワークに掛かろうとします。 ところが、図 1-7 の作業ユニットでは、下降と同じモータを逆転するだけなので、上昇速度もゆっくりと長い時間をかけて上昇するのです。 手作業に比べて生産速度はかなり落ち込んでしまいます。 つまりこのドリリングユニットは「いいユニット」ではないのです。 図 1-8 ドリルによる穴あけ自動化の改善例 ではどうすればいいユニットになるでしょうか? 幾つかの改良手法がありますが、メカニズムの変更による改善をするとすれば図 1-8 のような「早戻り構成」が考えられます。 これは図 1-7 のラックピニオン機構の代わりにレバースライダ機構を用いたものです。レバースライダ機構は図 1-9 に示すとおり、行きと帰りの速度特性が大きく異なります。 すなわち、レバーの溝の中を滑動するスライダピンが、レバーの固定軸から遠い方を通るとレバーを上死点側から下死点側まで駆動するのに 180° よりかなり大きい角度の駆動が必要です。さらにそのまま駆動を続けることで、レバーは再び戻ることになりますが、戻りはスライダピンがレバーの固定軸に近い方の側を通ることになり、180° より相当小さい角度の駆動時間で済むことがわかります。 つまり行きはゆっくりで帰りは早く戻るので、「早戻り機構」とも呼ばれています。(逆駆動すれば「遅戻り機構」にもなります)。 図 1-8 の機構はこのレバーの固定軸側に歯車の歯を刻んで、ピニオンと同様にラックに噛み合わせてあります。これによって、スライダピンが一回転するだけで、ドリルヘッドは下降端までゆっくり進んで、下降端から速い速度で原位置まで戻るのです。 図 1-7 の「帰りものろのろと戻る」動作特性より相当に改善されています。 この場合の制御装置はスタート信号でスライダピンが一回転して止まればいいので、スライダピンのホルダにドグを持たせ、センサは一個だけで済みます。常時スライダピンのドグがセンサをオンした状態で停止していて、スタート信号によってモータが回転をはじめると、ドグが移動するのでセンサはオフになります。モータはそのまま回転を続けて、センサがもう一度オンしたら、スライダピンが一回転したことを示すので、そこでモータを停止すればいいのです。これを「一回転停止」の制御と言います。 図 1-9 早戻り機構「レバースライダ」の動作特性勿論、このような早戻り特性を実現するのはレバースライダのようなメカニズムによるものだけではありません。 例えば、図 1-7 の構成のままで、モータの方をサーボモータに換えて往復の速度を任意に制御する方法もあり、また、駆動を空気圧シリンダにして下降と上昇とでそれぞれの速度制御弁を適切な状態に絞って往復の速度差を実現する方法もあることは言うまでもありません。 実際にはいろいろな手法を考えて、それぞれの利害得失を検討して手段を決定する必要があります。 それを的確に行うには、これらの自動化システムが、どのように構成されているか、その構成要素について、十分に理解しておく必要があります。 次回はこれらの自動化システムの全体に通じる構成要素について解説します。 株式会社新興技術研究所 熊谷 卓 による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」は、クリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 2.1 ライセンスの下に提供されています。 Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 2.1 Japan License この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓さんのその他の記事 2018/06/05 業界コラム 5 これから面白くなる自動化の考え方・第 4 世代のシステムへ(6) 2018/05/09 業界コラム フィードバックシステムの巧妙性実現からその先へ(その1) 2018/04/03 業界コラム 文学的表現から工学的表現にしてシステムを構築 2018/03/06 業界コラム 真の巧妙性を駆使するベテラン作業員の説明 2018/02/06 業界コラム 第 4 世代のシステムの実例 2018/01/10 業界コラム ベテラン作業員の頭の中はカム曲線の集合か? 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Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月