2017/11/07 業界コラム 熊谷 卓 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(6) 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業...もっと見る 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業 1955年04月 マミヤ光機株式会社入社 1962年11月 技術士国家試験合格・機械部門技術士登録 1963年03月 株式会社 新興技術研究所設立 代表取締役就任、現在 同社取締役会長(業務内容:自動組立機をはじめ各種自動化設備機器等の開発・製作・技術指導) 【歴任】 米国・欧州自動化技術視察団コーディネータ 8 回 自動化推進協会 理事・副会長 精密工学会 自動組立専門委員会 常任幹事 日本技術士会 理事・機械部会長 中小企業大学校講師 日本産業用ロボット工業会 各種委員 神奈川大学講師 自動化推進協会理事 高度職業能力開発促進センター講師 等を歴任 【業績】 著書 自動化機構300選(日刊工業新聞社)、メカトロニクス技術認定試験教本(工業調査会)ほか多数 講演 アジア生産性機構講演で自動化システムを W・T・MACS で表示・解析を提示(世界初)ほか多数 論文 自動化システムのデバッギング理論「チェック機構と最適稼働率」が欧州年間論文大賞にノミネイトほか多数 発明 メカトロニクス技術実習モジュールの発明、地震予知システム「逆ラジオ」の発明ほか多数 株式会社新興技術研究所 熊谷会長様のご好意による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」の 35 回目、第 4 章「フレキシビリティが面白いインフォメーションカム」の 6 回目です。 当月は「ピクチャーカム・ソフトウエアカム・コンバータ」について紹介します。 ピクチャーカム・ソフトウエアカム・コンバータ 前回述べた通り、巧妙性動作を模倣するのに最も便利なピクチャーカムを、数式表現しないままで、うまくソフトウエアカムに作り込めれば、本当の巧妙性を持たせたソフトウエアカムになる可能性があります。 例えば高精度の画像センサなどを用いて図 4-14 のピクチャーカムの曲線を撮影し、数式とは無関係に「絵として」\(\Delta T_1\)、\(\Delta T_2\)、\(\Delta T_3\) ・・・の幅を寸法測定すればその一覧表がソフトウエアカムのデータになると考えてもいいわけですが、現実には高精度光学系の設定やピクセル数から実駆動パルス数への変換などかなり面倒です。 そこで、自動的に精度よくピクチャーカムを読み込み、これをソフトウエアカムに変換する手法として実駆動系を活用したピクチャーカム・ソフトウエアカム・コンバータが有効なのです。 図 4-14 ピクチャーカム読み込み動作ピクチャーカム・ソフトウエアカム・コンバータの動作ピクチャーカムからソフトウエアカムを作成するということは、図 4-14 で考えると出力軸(S 軸)において、現在位置から次の 1 ステップ前進出力(または後退出力)を与えるまでの時間間隔、例えば\(\Delta T_3\)、をピクチャーカム上で算定することです。そのためには図で T 軸方向にピクチャーカムを駆動する機構と、カムのヘリを検出するための光電センサを載せた S 軸方向の駆動機構とが必要で、両方の駆動軸は直交していなければばりません。 (参照:特許第 2603167 号ピクチャーカム変換装置) それには、図 4-15 のように駆動の分解能と最大ストロークの自由度を考えて S 軸を送りねじで駆動し、T 軸をステッピングモータ駆動のベルトにしてこれにピクチャーカムを乗せるのが、往年、高度職業能力開発促進センターで行われていた研修での実習システム構成の一例ですが、ここでは特許内容にある「直交するように配置された 2 軸」を最も簡便に構成できる XY テーブル(図 4-16)を用いることにします。 図 4-15 ピクチャーカムの読み込みシステムの一例2 ベルトコンベア 3 サーボモータ 6 インターフェイス盤 7 光電センサ 8 直進テーブル 9 送りねじ 10 ステッピングモータ 12 パーソナルコンピュータ P ピクチャーカム CL カム曲線 図 4-16 ピクチャーカムの読み込み用 XY テーブルの一例ただしピクチャーカムの最大傾斜角が強い場合を考慮して T 軸の分解能を稼ぐために T 軸を 1/3 に減速してあります(一般に最大傾斜角が 45 度を超えると光電センサの感度領域の関係から精度が保ちにくくなります)。 しかし、図 4-17(B)のようにピクチャーカムの曲線の T 軸側を伸長したものにして最大傾斜角\(\theta_{MAX}\)を小さくすればこの減速機構は無くても済みます。 図 4-17 ピクチャーカムの T 軸を延長して最大傾斜角 θMAX を小さくした例 図(A)と図(B)とは全く同じ駆動特性のピクチャーカムですが、図(B)の方は T 軸を伸ばしてあるので最大傾斜角\(\theta_{MAX}\)が小さくなっているのが分かります。 通常の XY テーブルで読み込むには図(B)の方が高精度に読み込めるので有効です。 さてここで述べるピクチャーカムの読み込みシステムは「ピクチャーカム・ソフトウエアカム・コンバータ」と名付けられています。 そのピクチャーカムの読み込み動作は、感覚的には図 4-14 の中で\(\Delta Ti\)の幅の中に何本の縦線が引けるか、を調べるのと同じですが実務的にはいささか工夫が必要なのです。 単純に考えれば、S 軸を 1 ステップ進めて S 軸の光電センサが OFF になってから、T 軸をわずかずつステップ駆動し、光電センサが再び ON するまでの時間(T 軸ステップ数)を数えればいいはずですが、ピクチャーカムが上り坂部分なのか下り坂部分なのかを自動判定しなければなりません。 もし下り坂部分であればいくら T 軸を進めても光電センサは ON にはなりません。その場合は逆に S 軸を 1 ステップ後退させて、光電センサは ON の状態のままで、T 軸を駆動していって光電センサが OFF になる直前を検出する必要があるのです。 当然このやり方ではメカニズムのバックラッシュや光電センサのヒステリシス(OFF → ON と ON → OFF との検出レベル差)があるので読取り誤差も大きくなり実用にはなりません。 そのため、操作は複雑になりますが実用上は次のようにします。 ( 1 ) まず、S 軸を大きく(例えば 8ステップ)後退させ、光電センサを OFF させてから ( 2 ) T 軸を=1を記憶します ( 3 ) 再び S 軸を光電センサが ON するまで前進させて ( 4 ) 光電センサが再び ON するまでの駆動ステップ数を数えて ( 5 ) もし8ステップだったらもう一度( 1 )に戻って同じ動作を繰り返し、その都度 Tステップの記憶に1を加えます ( 6 ) もし7ステップ(または 9ステップ)だったら Tステップの記憶数を、例えば\(\Delta T_3=T\)ステップとして方向記録を「+1」(または「-1」)とします つまり( 1 )の動作でメカニズムのバックラッシュの影響を避けられ、また( 5 )( 6 )の動作で光電センサのヒステリシスの影響を避けられるのです。 このように光電センサ後退 → ピクチャーカム T 軸前進 → 光電センサ前進、を繰り返し、仮に 5 回目の光電センサ前進動作で7ステップ目でセンサが ON した場合、S 軸が1ステップ進んだ位置に来たことを表すので、\(\Delta Ti=5\)として数値を記録し、「 i番目の駆動方向{+}」と記録します。 もし 9ステップ目でセンサが ON した場合はカムは「下り坂」曲線なので「 i番目の駆動方向{-}」の記録とします。 その次は改めてこの位置を起点として8ステップ後退から始めます。 こうして記録した「 T の値」と「駆動方向」との一覧表がソフトウエアカムとなるのです。 この読取り方法をフローチャートで表すと図 4-18 ようになります。 図 4-18 ピクチャーカムソフトウエアカムコンバータのフローチャートの一例次回は巧妙性実現のためのインフォーメーションカムの活用と問題点を考えます。 株式会社新興技術研究所 熊谷 卓 による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」は、クリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 2.1 ライセンスの下に提供されています。 Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 2.1 Japan License この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓さんのその他の記事 2018/06/05 業界コラム 5 これから面白くなる自動化の考え方・第 4 世代のシステムへ(6) 2018/05/09 業界コラム フィードバックシステムの巧妙性実現からその先へ(その1) 2018/04/03 業界コラム 文学的表現から工学的表現にしてシステムを構築 2018/03/06 業界コラム 真の巧妙性を駆使するベテラン作業員の説明 2018/02/06 業界コラム 第 4 世代のシステムの実例 2018/01/10 業界コラム ベテラン作業員の頭の中はカム曲線の集合か? 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Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月