株式会社新興技術研究所 熊谷会長様のご好意による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」の14回目です。前号に引き続き「W・T・MACSの他の要素群」から「制御回路の構成・1類、2類、3類」を紹介します。
2-3 W・T・MACS の他の要素群
制御回路の構成・1 類、2 類、3 類(その 1)
さてもう一度、図1-14自動化の要素の「Cコントローラ」の箱の中身を見てください。
ここにある、いろいろな種類のコントローラはすべてコントローラのハードウエアつまり機材です。
したがってそれぞれの機材には、必要なソフトウエア(或いはプログラム)が組み込まれていなければなりません。例えばプログラマブルシーケンサ、いわゆるPLCを買ってきても、これにプログラムを打込まなければ、ただの箱にすぎません。同様にリレーを買ってきても、複数のリレーを配線で接続してプログラムを構成しなければ何の働きもしません。
逆に言うと、いろいろなハードウエアであっても、組み込むプログラムによって、全く同じ制御動作をさせることができると考えてよいのです。
当然のことながらコントローラの目的は、アクチュエータとメカニズムを介してツール(T)を目的どおりの動作特性で動かすことにあります。
そこでツールの動作から考えてみると、複合化した自動化システムの動作でも、全体の80%近くが3種類の基本動作の組み合わせであることに気が付きます。
以下、簡単にその内容を紹介しておきます。
3種類の基本動作とは、
制御回路1類: 単純走行(スタートスイッチ・オンで走行開始→オフで停止)
制御回路2類: 単純1往復(スタート信号で前進→前進端センサ信号で後退、原点で停止)
制御回路3類: 前進→信号待ち→後退(スタート信号で前進→前進端センサ信号で中間停止→
中間スタート信号で後退、原点で停止)
です。
なお、これらの回路はコンピュータのプログラムでも、電子回路のロジックでも、PLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)でも、リレー回路でも、さらには完全防爆に有効な、全流体回路でも実現できて、どれを用いても全く同じ動作をさせることが出来るのです。
これら制御回路の詳細は「改訂新版自動化機構300選(日刊工業新聞社)」に掲載されていますが、その一部をここで解説することにします。
制御回路1類:単純走行(スタートスイッチ・オンで走行開始→オフで停止)
まず一番簡単な制御は「スタート」と「ストップ」だけの「制御回路1類」です。
図2-27(a)の動作内容・フローチャートなどでわかるとおり、スタート信号が来たらアクチュエータが作動し、停止信号が来ると作動を停止する、最も単純な制御内容です。


デジタル回路図中「AC」とあるのはアクチュエータで、制御されるアクチュエータはモータなどの電気駆動型、シリンダなどの油空圧駆動型の場合もあります。「FF」とあるのはフリップフロップ回路で、一種の記憶素子です。「IO」は入出力インターフェイスを意味します。
油空圧回路では「出力」の先にシリンダなどのアクチュエータが接続されていると考えてください。(図 2-27(b)参照)
「制御回路 1 類」は基本的には「前進 → 停止」ですが、停止したときバネ復帰型のアクチュエータでは当然原点位置まで自動的に戻ることになります。
専用自動化システムなどによく用いられる「PLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)」については PLC ラダー図しか表示されていませんが、これは図 2-27(c)のような、PLC 本体に取り付けた出力側インターフェイスでアクチュエータへの配線ができていること、入力側のスイッチやセンサが接続されていることを前提として組んだプログラムです。

自己保持回路 制御回路の基本は「記憶」にある。
PLC に限らず、シーケンス制御すなわち「順序を意識した制御」には、記憶機構が不可欠です。
最も簡単な例を挙げると、図 2-28 のように、駐車場の出入り口に 2 組の光電センサを置いた場合、最終的にはセンサ A、B ともに ON するので、その状態だけでは進行方向の判定は不能ですが、センサの動作記憶があれば、A が先に ON すれば入場、B が先に ON すれば出場との判定が出来ます。

動作記憶を司る記憶機構とは「信号が入力されたら、ある素子が ON して、信号が途絶えてもそのままの状態を保ち、リセット信号でその素子が OFF になる」ものです。
このような素子は、電子回路のフリップフロップ、流体回路のダブルコイルソレノイドバルブなど、幾つかありますが、PLC でよく使われるのが「自己保持回路」です。
メカトロニクス技術認定試験(TTAM)でも、PLC の自己保持回路は「基本中の基本」として、必ず出題される絶対必要な手法です。
以下、最も簡単な自己保持回路について述べることにします。
まず図 2-27(c)の配線接続は、スタートスイッチ A を X0、リセットスイッチ B を X1 に接続してあります。

「自己保持回路なし」の場合
これを図 2-29(a)の簡単なプログラムで駆動すると、当然スタートスイッチ X0 を押している間だけ「Y10」に出力が出るので、アクチュエータ(Motor)が駆動されることになります。
「自己保持回路あり」の場合
これに対して、図 2-29(b)のように出力リレー Y10 の「NO 接点(常時は導通しない)」をスタート信号 X0 と並列に入れることで、Y10 は、一旦オンしたら自分の出力接点が導通になるので自分自身に通電を続けることになり、スタート信号が切れてもオンし続けます。これが「自己保持」です。 これをオフするには、リセット信号の「NC 接点(常時導通している)」X1 をオンして、導通を遮断します。
つまり、スタートスイッチを一瞬押したら自己保持回路でそれを覚えていて、モータは駆動を開始し、リセットスイッチが押されるまで回転し続けるのです。
同じことを内部リレー M2 で行った例が図 2-29(c)です。動作は図 2-29(b)の場合と全く同じと考えてよいでしょう。

図 2-29(b)一瞬でもスイッチ A を押せば、Y10の接点が自分をオンし続けるので、これをリセットスイッチ B で切るまでモータは回り続ける

図 2-29(c)一瞬でもスイッチ A を押せば、M2 の接点が自分をオンし続けるので、M2 の接点で駆動される Y10 も出力を続ける。
M2 をリセットスイッチ B で切るまでモータは回り続ける
次回は、制御回路の構成・2 類、3 類について説明します。

フリップフロップ回路について
フリップフロップ回路は図の様になっていて、Set 入力を一瞬でも入れると正出力 Q がオン、反対側の出力がオフになりそのまま保ちます。
次に Reset 入力を一瞬でもオンすると、正出力 Q がオフとなり、反対側の出力がオンとなりそのまま保ちます。
つまり、記憶素子として働くのです。
株式会社新興技術研究所 熊谷 卓 による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」は、クリエイティブ・コモンズ
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