2017/10/03 業界コラム 熊谷 卓 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(5) 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業...もっと見る 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業 1955年04月 マミヤ光機株式会社入社 1962年11月 技術士国家試験合格・機械部門技術士登録 1963年03月 株式会社 新興技術研究所設立 代表取締役就任、現在 同社取締役会長(業務内容:自動組立機をはじめ各種自動化設備機器等の開発・製作・技術指導) 【歴任】 米国・欧州自動化技術視察団コーディネータ 8 回 自動化推進協会 理事・副会長 精密工学会 自動組立専門委員会 常任幹事 日本技術士会 理事・機械部会長 中小企業大学校講師 日本産業用ロボット工業会 各種委員 神奈川大学講師 自動化推進協会理事 高度職業能力開発促進センター講師 等を歴任 【業績】 著書 自動化機構300選(日刊工業新聞社)、メカトロニクス技術認定試験教本(工業調査会)ほか多数 講演 アジア生産性機構講演で自動化システムを W・T・MACS で表示・解析を提示(世界初)ほか多数 論文 自動化システムのデバッギング理論「チェック機構と最適稼働率」が欧州年間論文大賞にノミネイトほか多数 発明 メカトロニクス技術実習モジュールの発明、地震予知システム「逆ラジオ」の発明ほか多数 株式会社新興技術研究所 熊谷会長様のご好意による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」の 34 回目、第 4 章「フレキシビリティが面白いインフォメーションカム」の 5 回目です。 当月は「ソフトウエアカムのタイマー動作」と「ソフトウエアカム曲線の部分使用」について紹介します。 世界で活躍するソフトウエアカムソフトウエアカムのタイマー動作コンピュータ内でのタイマーは言うまでもなく次のような動作となります。 図 4-11 タイムデータに沿った パルス出力をするプログラム例例えば、タイムデータを取り込んで、プログラム上でそのタイムデータから1を引き算し、結果がゼロになったかどうかをチェックして、まだであればもう一回 1 を差引くという「デクリメント動作」のループを繰り返して、最後に丁度ゼロになったら、次の 1パルスを出力し、同時に次のタイムデータを取り込む・・・というような動作を、ここでは1000パルス分(表 4-1 の場合は 50 パルス分)繰り返すことになります。(最も簡単なプログラムの例を図 4-11 に示します) 勿論このデクリメント動作はコンピュータの処理速度やプログラムの作り方によって一回のループ動作に要する時間\(TL\) が大きく変わります。 表 4-1 の右端の列は一回の「デクリメント動作」が\(TL=0.02ms\)を要すると仮定して上述のように50パルスを1秒で出力する\(\Delta Ti\)の実時間にするためのデクリメント回数です。この場合全体のデクリメント回数の総数は50,000となり0.02msずつなので全体で1秒となっています。 これがソフトウエアカムの「実駆動タイムデータ」になるわけです。 表 4-2 N=1000 パルスの Sin カーブ速度特性を実現するソフトウエアカムのタイムデータ例のうち、最初の 30 パルス(左表)、中央の 30 パルス(右表上)、最後の 30 パルス(右表下)を示す パルス 番号\(i\) 変位\(S (mm)\)0.1 無次元 時刻\(Ti\) 無次元 時間間隔\(\Delta Ti\) 速度\(v\) デクリメント 係数\(TL (ms)\)0.02 0 0 0 0 0 0 1 0.10 0.020135 0.020135 4.90 1,007 2 0.20 0.028480 0.008345 11.98 417 3 0.30 0.034887 0.006407 15.61 320 4 0.40 0.040290 0.005404 18.51 270 5 0.50 0.045053 0.004763 20.99 238 6 0.60 0.049362 0.004308 23.21 215 7 0.70 0.053326 0.003964 25.23 198 8 0.80 0.057017 0.003691 27.09 185 9 0.90 0.060486 0.003469 28.83 173 10 1.00 0.063769 0.003283 30.46 164 11 1.10 0.066892 0.003124 32.01 156 12 1.20 0.069878 0.002986 33.49 149 13 1.30 0.072744 0.002866 34.90 143 14 1.40 0.075503 0.002759 36.25 138 15 1.50 0.078166 0.002663 37.55 133 16 1.60 0.080743 0.002577 38.80 129 17 1.70 0.083242 0.002499 40.02 125 18 1.80 0.085670 0.002428 41.19 121 19 1.90 0.088032 0.002362 42.33 118 20 2.00 0.090334 0.002302 43.44 115 21 2.10 0.092581 0.002246 44.51 112 22 2.20 0.094776 0.002195 45.56 110 23 2.30 0.096922 0.002146 46.59 107 24 2.40 0.099024 0.002101 47.59 105 25 2.50 0.101083 0.002059 48.57 103 26 2.60 0.103102 0.002019 49.52 101 27 2.70 0.105084 0.001982 50.46 99 28 2.80 0.107030 0.001947 51.37 97 29 2.90 0.108943 0.001913 52.27 96 30 3.00 0.110825 0.001881 53.10 94 速度特性が正確に Sin カーブなので最初の30パルスのタイムデータを逆順にすると最後の30パルスのタイムデータと同じになる。 (上表)1000 パルスの半分 500 パルス(T=0.5)のところが Sin カーブの中央部分で、最高速となりタイムデータは最小値を示す。 (下表)速度特性が正確に Sin カーブなので最初の 30 パルスのタイムデータを逆順にすると最後の 30 パルスのタイムデータと同じになる。表 4-2 は、上記の通り全体を 1000 パルスで駆動する Sin カーブ特性のソフトウエアカムの一連のデータのうち、最初の 30 パルス、中間の 30 パルス、最後の 30 パルスの部分だけを抜粋したものです。 配置は表 4-1 と同様で左端から、パルス番号、パルス出力時刻(無次元)、パルス出力時間間隔(無次元)で、右端がデクリメント一回につき 0.02ms かかるとした場合の「実駆動タイムデータ」です。 1000 パルス分のタイムデータから逆に算定した速度特性と変位特性は図 4-12 の通りで Sin カーブの特性がよく表れています。(算定は Excel の VBA などにより比較的簡単にできます) 図 4-12 N=1000 パルスの Sin カーブ速度特性を実現するソフトウエアカムの変位特性と速度特性ソフトウエアカム曲線の部分使用ソフトウエアカムの大きな利点として「品種切換えの容易化によるフレキシビリティ」を挙げましたが、もう一つ、「ストローク変更のフレキシビリティ」もあります。 表 4-2 に 1000 パルス分全部のデータが掲載されていると想像してください。 これに従ってそのままパルス出力すると、ストロークは丁度 100mm でツールは 100mm 駆動されます。 これに対し、ストロークを 220mm とすることを考えてみます。 システム構成は図 4-10B の通り、ステッピングモータと送りねじだけなので、パルスさえ与えればストロークは自由になります。 そこで、例えば最初の 500 パルスを表 4-2 の 1 から 500 パルスに従って出力し、501 から 1700 パルスまでデクリメント数 32 の最高速のまま走らせ、1701 パルスから 2200 パルスまでは再び表 4-2 の 501 パルスから 1000 パルスまでのタイムデータに沿って駆動すれば、最初の 50mm で加速、その後の 120mm を最高速で走り、最後の 50mm で次第に減速して停止する「末端減速特性で 220mm 走行する一軸のロボットシステム」になるわけです。 つまり、全体のパルス数を任意に指定することで、システムのストロークはいかようにでも設定できる「ストローク変更のフレキシビリティ」を持っているのです。(ストロークが小さすぎる場合は別の工夫が必要です) 現在世界中のロボットシステムの大部分がこの考え方で、例えば[スタート→増速時]と[減速→停止時]には変形正弦曲線や変形台形曲線などで加速/減速し、中間は最高速で走る、といった駆動方式を採用しているのです。 図 4-13 は、この駆動方式による一軸ロボットの駆動速度特性の一例です。 立上りと立下り部分が変形正弦曲線によるもので、中間の水平直線部分は変形正弦曲線の最高速で等速走行しています。 全体のストロークの大小によってこの水平部分の長さが変わるだけで、変形正弦曲線特性部分は常に一定の末端減速特性を実現します。 図 4-13 加速部と減速部に変形正弦曲線のソフトウエアカムを用いた一軸ロボットの速度特性例現在、直交座標型ロボットだけでなく、円筒座標型、多関節型など多くの種類のロボットにこの考え方のソフトウエアカムによる末端減速手法が適用され、世界中で稼働しているのです。 さて、以前、2 巧妙性実現の手段群のうち 2-4 で述べた「メカニカルカムの使用目的別分類と機能」を思い出してください。 メカニカルカムの使用目的・機能を分類してみると: ( 1 )巧妙性模倣型カム ( 2 )Point to Point 型カム ( 3 )数式実現型カム ( 4 )動作拡大・縮小型カム のようになります、と述べました。 これらのうち、上述したソフトウエアカムの作成手法は、数式表現できるものが対象で、( 1 )の「巧妙性模倣型カム」のように数式表現のできない動作はこの手法ではうまくいきそうもありません。 一見、巧妙性模倣と思われるティーチング手法がありますが、その大部分は動作途中の通過点を記憶させるもので、通過点から次の通過点までは上述の数式表現可能な末端減速特性で動作し、本当の巧妙性作業の実現にはなっていないと言えます。 ではどうすれば巧妙性模倣のソフトウエアカムができるでしょうか? ここで改めて「ピクチャーカム」が登場することになります。 以前述べた通り、巧妙性動作を模倣するのはピクチャーカムが便利でした。 したがってピクチャーカムからうまくソフトウエアカムを作れれば、本当の巧妙性を持たせたソフトウエアカムになる可能性がありそうです。 次回はピクチャーカムとソフトウエアカムとの関連について述べます。 株式会社新興技術研究所 熊谷 卓 による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」は、クリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 2.1 ライセンスの下に提供されています。 Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 2.1 Japan License この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓さんのその他の記事 2018/06/05 業界コラム 5 これから面白くなる自動化の考え方・第 4 世代のシステムへ(6) 2018/05/09 業界コラム フィードバックシステムの巧妙性実現からその先へ(その1) 2018/04/03 業界コラム 文学的表現から工学的表現にしてシステムを構築 2018/03/06 業界コラム 真の巧妙性を駆使するベテラン作業員の説明 2018/02/06 業界コラム 第 4 世代のシステムの実例 2018/01/10 業界コラム ベテラン作業員の頭の中はカム曲線の集合か? 2017/12/05 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(7) 2017/11/07 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(6) 2017/10/03 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(5) 2017/09/05 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(4) 2017/08/01 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(3) 2017/07/04 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(2) 2017/06/06 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(1) 2017/05/10 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(5) 2017/04/04 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(4) 2017/03/07 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(3) 2017/02/07 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(2) 2017/01/11 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(1) 2016/12/06 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(21) 2016/11/08 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(20) 2016/10/04 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(19) 2016/09/06 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(18) 2016/08/02 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(17) 2016/07/05 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(16) 2016/06/07 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(15) 2016/05/11 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(14) 2016/04/05 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(13) 2016/03/08 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(12) 2016/02/09 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(11) 2016/01/13 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(10) 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月