株式会社新興技術研究所 熊谷会長様のご好意による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」の 26 回目です。「生産性向上の 4 手法」、「高速化と併行作業化」の工程分割を紹介します。
(2-1)工程分割について
一連の作業工程をいくつかの細かい作業工程に分割してそれらを別々の作業ステーションで同時に行うのが工程分割です。
イメージ的には「皆で手分けして作業する」ということです。
例えば 4 人で手分けして作業する場合、4 か所の作業場所が必要になります。また、それぞれ作業を終えるごとに次の人に品物を渡すことになります。
お弁当を作る作業を考えてみます。
一人で作る場合は、まずしゃもじを持ってご飯をお弁当箱に盛ります。次に箸に持ち替えておかずをいくつか入れます。つぎは振りかけの袋を持ってうまくご飯の全面に振りかけをかけます。最後にお弁当箱の蓋を持って上からかぶせます。
これを手分けすると、A さんはご飯を盛るだけ、B さんはおかずを入れるだけ、C さんは振りかけを振りかけるだけ、D さんは蓋をして包むだけ・・・というようにそれぞれ担当する仕事は一人で全部やる時よりかなり単純化されます。当然一人でやるより約 4 倍の生産量を賄えるでしょう。しかし、A さんがご飯を盛ったら、そのお弁当箱をBさんに渡す必要があります。当然 B さんは C さんに、C さんは D さんに渡します。
A さん、B さん、C さんなどみんなそれぞれの作業をする場所があり、これを作業ステーションと呼び、作業ステーションから作業ステーションへの移動をトランスファ(移送)と呼びます。
もちろん一人で全部の作業をする場合はトランスファは不要です。
ここで図 3-4 に示すような A、B、2 部品の組立工程について工程分割を考えてみましょう。
手作業の場合
まず、手作業ではどのような工程になっているかを確認します。
手作業の場合は図 3-5 のようにカシメ用のハンマーツールユニットを用い、
① そのワークホルダ(冶具)に A 部品を取り付け、
② これに B 部品を挿入し、
③ スタートボタンでハンマーツールを落下させて A 部品の軸の突出部を潰します。このようにハンマーで叩いて抜けないようにする作業を「カシメ作業」と呼びます。(なお、スタートボタンは例えば 2 個離れた場所にあり、両手で同時に押さなければハンマーは落ちないような安全システムになっていると考えてください。)
④ ハンマーヘッドが上昇端に戻ったらカシメられた A+B を取り出して製品箱に入れて 1 工程完了です。

図 3-4
A、B を組み合わせた後、

図 3-5
A をワークホルダに供給、これに B を組み合わせた後、スタートボタン(安全のため両手起動)でカシメツールが落ちてカシメる
工程分割による自動化システムの各種
さて、この手作業に工程分割を導入して自動化することを考えます。
図 3-6 にごく単純な 2 ステーションの半自動化装置(1)から高級な全自動化システム(4)まで 4 段階を描いてみました。
以下、それぞれの装置の動作について説明します。


(1)2 ステーション型(設備費約 100 万円)
図のように手動回転ロータリテーブルにワークホルダを 2 個設けて、手前のワークホルダに A 部品を供給し、さらに B 部品を載せてからテーブル回転レバーを手で駆動すれば、テーブルは丁度 180 度回転して、カシメられた製品が手前に来ると同時に供給された A、B 部品を載せたワークホルダがカシメユニットの位置に移動します。
作業者はカシメられた製品を取り出し、A、B 部品を供給してテーブル回転レバーを駆動する動作を繰り返すことになります。

(2)4 ステーション型(設備費約 300 万円)
図で分かる通り 4 ステーションのロータリテーブルの第一ステーションで作業者はワークホルダに A 部品、B 部品を供給して「作業完了ボタン」を押すなどすれば、ロータリテーブルは自動的に 90 度回転して停止します。
すると第 2 ステーションにあった A、B 部品がカシメユニットの位置に移動し、自動でカシメ作業が行われるとともに、第 4 ステーションではカシメられた製品が自動取り出しされます。
取り出し動作は、ワークホルダの下からプッシャでワークを突き上げ、ワークが浮いたところでノズルから空気を吐いてワークをシュート上に転がし出すのです。
従って作業者は空のワークホルダに A、B 部品を供給して完了ボタンを押すだけでいいのです。
この場合 4 分割のロータリテーブルで 4 か所の作業ステーションが取れますが、実際に使っているのは ①、③、④ の 3 か所です。ただし、ワークホルダはロータリテーブルの 4 か所すべてに取り付けておく必要があることは言うまでもありません。

(3)6 ステーション型(設備費約 600 万円)
この装置はもう少し進歩しています。
6 分割のロータリテーブルで、6 ヵ所にワークホルダが設置されています。
動作内容は:
{1}まず手前の第 1 ステーションで作業員がワーク A をワークホルダに供給します。
{2}第 2 ステーションは「空き」です。もし作業員の手が引っかかっても、次のステーションが空いていれば怪我をしない、という安全性も含んでいます。
{3}第 3 ステーションでは、B 部品の自動供給装置が働いて A 部品の上から B 部品を挿入します。
{4}第 4 ステーションは、B 部品が正しく挿入されているかどうかの確認作業を行う「チェックステーション」です。人間がやれば必ず正しく挿入すると思われますが、ピックアンドプレイスユニットが B 部品を掴んで持ってきても例えば図 3-7 のように、うまく挿入できていないこともあるかもしれません。
このままカシメステーションに移送すると不良品になるので、装置を止めてブザーを鳴らして作業員に知らせます。作業員は立ち上がって B 部品を正しく挿入しなおして再スタートするわけです。

{5}第 5 ステーションはカシメステーションです。
{6}第 6 ステーションは出来た製品を取り出して次工程に送るコンベアに乗せる取り出しステーションです。
従ってこのシステムの場合は作業員はいつも A 部品をワークホルダに供給するだけで、たまに起こる B 部品挿入ミスの修正をすればいいのです。

(4)12 ステーション型(設備費約 1200 万円)
「たった 2 部品をカシメるだけで、この複雑なシステムは何だ?」という事になりそうですが、工程順に考えてみましょう。
このシステムには直接作業員はいません。
{1}第 1 ステーションには、A 部品のマガジン式自動供給ユニットがあり、マガジンの一番上からプッシャで A 部品を押し出してワークホルダに装入します(ワークを正しい姿勢で所定の位置に置くことを「装入する」と言います)。マガジンの構成は前回のビデオ「ナット供給」にあったような下からワークをせり上げて行く方式です。ここでは 1 本のマガジンが空になったら予備マガジンに自動切換えされるようになっています。
{2}第 2 ステーションでは A 部品が正しい位置・姿勢でワークホルダに装入されたかどうかをチェックするチェックユニットが作動しています。 ただし、もし挿入不良となったとしても、ここでは装置を停止しません。左側に立っている「メモリー付き制御システム」によって例えば「4 番のワークホルダのワークは姿勢不良」という状況を制御装置のメモリーに記憶します。その結果「4 番」のワークホルダが来た作業ステーションでは、作業ユニットが作業をせずに素通りさせるのです。
{3}第 3 ステーションは図では、使われていないアイドルステーションです。
{4}第 4 ステーションでは、上記の 6 ステーションのシステムと同じ B 部品の自動供給ユニットがあり、B 部品を A 部品の上から自動挿入します。
{5}第 5 ステーションでは同じく 6 ステーションのシステムと同じような B 部品供給チェックユニットが働いて、第 2 ステーションと同様にもし B 部品が姿勢不良だったら第 2 ステーションと同様にそのワークホルダ番号と「B 部品姿勢不良」の情報を制御装置のメモリーに記憶します。
{6}第 6 ステーションは、他のシステムと同様のカシメステーションです。
{7}第 7 ステーションにはカシメた結果の寸法が正しくできていることを確認する「カシメ寸法チェックユニット」があり、他のチェックユニットと同様に不良の場合ワークホルダ番号と寸法とをメモリーに記憶します。
{8}第 8 ステーションではメモリーに記憶された「不良」信号を伴ったワークホルダが来たらそこで ワークホルダの中の不良ワークを取出します。
{9}第 9 ステーションには良品ワーク取出しユニットがあり、カシメられた製品を取出します。 ここでは次工程に運ぶためのリニヤー型マガジンに収容して、これをまとめて次工程に運搬することを想定してあります。 この取出しユニットはワークチャックを二つ持っている両天秤型のユニットを想定してあります。
{10}第 10 ステーションに来たワークホルダは、空になっているはずですが、万一、どこかのステーションで変形異品種部品やビスなどが転がり込んでいるようなことがあると第 1 ステーションで引っかかり、 装置の故障の原因となるので、確実にワークホルダが空になったことを検出する「取出し完了チェックユニット」が設置してあります。
{11}第 11 ステーションは、使われていないアイドルステーションです。
{12}第 12 ステーションもアイドルステーションですが、もし、ワークの取り出しミスがあったような場合、作業員を呼んで手を入れることの容易な 11 または 12 のアイドルステーションで取り出してもらいます。
以上でわかる通り、たった 2 部品の組立でもトラブルを最小限にして稼働率を上げるにはこれだけの複雑なシステムが必要になるのです。
今回、半自動化から全自動化までの 4 段階のシステムを想定してみましたが、次回はこれらのうちのどれが有効なのかを考えることにします。
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