2016/07/05 業界コラム 熊谷 卓 2 巧妙性実現の手段群(16) 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業...もっと見る 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業 1955年04月 マミヤ光機株式会社入社 1962年11月 技術士国家試験合格・機械部門技術士登録 1963年03月 株式会社 新興技術研究所設立 代表取締役就任、現在 同社取締役会長(業務内容:自動組立機をはじめ各種自動化設備機器等の開発・製作・技術指導) 【歴任】 米国・欧州自動化技術視察団コーディネータ 8 回 自動化推進協会 理事・副会長 精密工学会 自動組立専門委員会 常任幹事 日本技術士会 理事・機械部会長 中小企業大学校講師 日本産業用ロボット工業会 各種委員 神奈川大学講師 自動化推進協会理事 高度職業能力開発促進センター講師 等を歴任 【業績】 著書 自動化機構300選(日刊工業新聞社)、メカトロニクス技術認定試験教本(工業調査会)ほか多数 講演 アジア生産性機構講演で自動化システムを W・T・MACS で表示・解析を提示(世界初)ほか多数 論文 自動化システムのデバッギング理論「チェック機構と最適稼働率」が欧州年間論文大賞にノミネイトほか多数 発明 メカトロニクス技術実習モジュールの発明、地震予知システム「逆ラジオ」の発明ほか多数 株式会社新興技術研究所 熊谷会長様のご好意による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」の 19 回目です。前号に引き続き「巧妙性が面白い第 2 世代・メカニカルカムのシステム」から「巧妙動作のための任意速度特性はメカニカルカムが基本(その2)」を紹介します。 2 巧妙性実現の手段群(16)2-4 巧妙性が面白い第 2 世代・メカニカルカムのシステム 巧妙動作のための任意速度特性はメカニカルカムが基本(その2)タイミングチャートから実際のカムを作る 最もわかりやすい方法は図 2-44A のようにタイミングチャートをそのまま鋼板に張り付けてその曲線の通りに削り出すことでカム曲線とする方法です。ところが、始端から終端までの片道の動作はカム曲線の通りのドリル駆動ができますが、帰りにも同じカム曲線を逆にたどって帰るようになってしまいます。何らかの補助機構を別に設けてドリルを上端で保持しておくこともできますが、カムを逆に駆動して戻す時間は全くの無駄時間です。 図 2-44A タイミングチャートから直動板カムを作った例図 2-44B 直動板カムの問題点の例図 2-44C 対称形の直動板カムの場合は 往復とも同じ特性なので使用可能もちろん図 2-44C のような対称形のカム曲線であればこのような問題は発生しませんが、実例はあまり多くないでしょう。 類似の例として滑らかな上昇・下降をするための直動カムを、図 2-44D(自動化機構 300 選に掲載された機構)を示します。 図 2-44D 比較的単純な直進動作に直動板カムを用いた例 出典:改訂新版 自動化機構 300 選 P13(日刊工業新聞社)このようなカムの往復動作による問題点をなくするためにはカムを丸めてその始点と終点とを同一場所にすればいいことは誰でもわかります。 例えば図 2-45A のように円筒の周辺にカム曲線を巻きつけて、上端から曲線までの部分を切り取れば図 2-45B のようなカムが出来上がります。この形のカムを「円筒端面カム」と呼びます(ベルカムと呼ぶこともあります)。 この例では、駆動システムはカム軸を垂直に向けて図 2-45C のようになります。 これに対して円筒の側面にカム曲線どおりの溝を掘ったものを「円筒溝カム」と呼びます。 参考として図 2-45D に円筒端面カムと円筒溝カムの平面図を示します。メカトロニクス技術認定試験で用いるシステム構成資料の図として使われているものです。 図 2-45A タイミングチャートから円筒端面カムを作る例図 2-45B タイミングチャートから作った円筒端面カム図 2-45C 円筒端面カムによるドリル駆動図 2-45D メカトロニクス技術認定試験に出る円筒端面カムと円筒溝カムの平面図円筒型の端面カムや溝カムではカムフォロワーの位置は円周上のどこに置いてもいいはずです。 図 2-45E のシステム構成の例ではカムフォロワーを円筒の軸芯の真上に置いて、これが出力レバー A を水平面内で駆動するようになっています。 当然、固定ヒンジからカムフォロワーまでの距離と固定ヒンジから接続ピンまでの距離の比率でカムの駆動量が縮小/拡大されるわけでその比率をうまく設定することで目的の直進テーブルの駆動量を正しく設定します。 図2-45E メカトロニクス技術認定試験に出る円筒溝カムを用いた直進テーブルの 駆動システムを示す平面図:出力レバーを水平面内で駆動している―― 注意 ―― レバー A が短いと揺動動作でカムフォロワーが軸芯からずれる「オフセット」が大きくなるので、カムフォロワーの溝への喰いつきが発生する これに対して、写真 2-6A、B に示すのはカムフォロワーを円筒の側面にセットした例で、出力レバーは垂直面内で駆動されます。 円筒端面カムの場合は写真 A の左側に見えているスプリングによって出力レバーを常にカム側に引き寄せてカムフォロワーがカム曲線面から浮かないようにしてあります。 写真 B の溝カムの場合はその必要はありません。 写真 2-6A 円筒端面カム:出力レバーを戻りバネで引く 写真 2-6B 円筒溝カム:戻りバネ不要 円筒端面カムと円筒溝カムと、どちらの方が実用上有利か気になるところですが、実は一長一短なのです。 作りやすさの面では、端面カムの方が軽量で製作も容易です。溝カムの方は肉厚で溝加工も簡単ではありませんが、カムフォロワーの喰いつきを避けるため、さらに作りにくくなります。 使い方の面では端面カムは、速度を上げていくと戻りスプリングが弱い場合駆動される対象物の慣性でカムフォロワーが追従しきれずカム曲線から浮いてしまうので、スプリングを十分強くします。すると今度は駆動対象の荷重以外にスプリングの力がかかるので、押し・引きともに正しくカム曲線に従うためには強力な駆動モータパワーが必要です。 円筒溝カムは写真の例の場合、カムフォロワーが円筒の軸芯を含む平面上だけを動けばいいのですが、出力レバーの角度によってカムフォロワーの高さが変動してオフセットが生じます。すると溝の角度が斜めになるのでカムフォロワーが溝に喰いついて動かなくなります。それを避けるにはカムフォロワーと溝角度を計算して溝幅を広げなければなりませんが、端面カムより相当造りにくいことになります。また、進み駆動と戻し駆動との境目でカムフォロワーと溝幅とのクリヤランス分だけ段のついた駆動曲線のような動きになってしまいます。 とりあえず言えることは、溝カムを使って、その片側だけの曲線を正確な駆動曲線とし、溝の反対側の曲線は「カムフォロワーを引き戻すだけ」に使うような設計にすれば比較的安心して使えるものになりそうです。 その他何種類ものカムがありますが、前回紹介した図 2-41、写真 2-5 で述べた「回転板カム」通称「平カム」が使われる例が多いので、次回はタイミングチャートから平カムを作ることを考えてみることにします。 株式会社新興技術研究所 熊谷 卓 による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」は、クリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 2.1 ライセンスの下に提供されています。 Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 2.1 Japan License この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓さんのその他の記事 2018/06/05 業界コラム 5 これから面白くなる自動化の考え方・第 4 世代のシステムへ(6) 2018/05/09 業界コラム フィードバックシステムの巧妙性実現からその先へ(その1) 2018/04/03 業界コラム 文学的表現から工学的表現にしてシステムを構築 2018/03/06 業界コラム 真の巧妙性を駆使するベテラン作業員の説明 2018/02/06 業界コラム 第 4 世代のシステムの実例 2018/01/10 業界コラム ベテラン作業員の頭の中はカム曲線の集合か? 2017/12/05 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(7) 2017/11/07 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(6) 2017/10/03 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(5) 2017/09/05 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(4) 2017/08/01 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(3) 2017/07/04 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(2) 2017/06/06 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(1) 2017/05/10 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(5) 2017/04/04 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(4) 2017/03/07 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(3) 2017/02/07 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(2) 2017/01/11 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(1) 2016/12/06 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(21) 2016/11/08 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(20) 2016/10/04 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(19) 2016/09/06 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(18) 2016/08/02 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(17) 2016/07/05 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(16) 2016/06/07 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(15) 2016/05/11 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(14) 2016/04/05 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(13) 2016/03/08 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(12) 2016/02/09 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(11) 2016/01/13 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(10) 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月