2018/01/10 業界コラム 熊谷 卓 ベテラン作業員の頭の中はカム曲線の集合か? 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業...もっと見る 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業 1955年04月 マミヤ光機株式会社入社 1962年11月 技術士国家試験合格・機械部門技術士登録 1963年03月 株式会社 新興技術研究所設立 代表取締役就任、現在 同社取締役会長(業務内容:自動組立機をはじめ各種自動化設備機器等の開発・製作・技術指導) 【歴任】 米国・欧州自動化技術視察団コーディネータ 8 回 自動化推進協会 理事・副会長 精密工学会 自動組立専門委員会 常任幹事 日本技術士会 理事・機械部会長 中小企業大学校講師 日本産業用ロボット工業会 各種委員 神奈川大学講師 自動化推進協会理事 高度職業能力開発促進センター講師 等を歴任 【業績】 著書 自動化機構300選(日刊工業新聞社)、メカトロニクス技術認定試験教本(工業調査会)ほか多数 講演 アジア生産性機構講演で自動化システムを W・T・MACS で表示・解析を提示(世界初)ほか多数 論文 自動化システムのデバッギング理論「チェック機構と最適稼働率」が欧州年間論文大賞にノミネイトほか多数 発明 メカトロニクス技術実習モジュールの発明、地震予知システム「逆ラジオ」の発明ほか多数 株式会社新興技術研究所 熊谷会長様のご好意による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」の 37 回目、第 5 章「これから面白くなる自動化の考え方・第 4 世代のシステムへ」の 1 回目です。 当月は「ベテラン作業員の頭の中はカム曲線の集合か?」「 W・T の状況に合わせたフィードバックのアルゴリズム 」について紹介します。 5 これから面白くなる自動化の考え方・第4世代のシステムへ(1)ちょっと工場の現場を考えてみましょう。現場には優秀なベテラン作業員がいます。 この人のところへ、「次の製品の試作だけど・・」といって現状よりさらに細いドリルでかなり硬いワークに深穴をあけてみてもらうように頼んでみます。 「またこんなやりにくい仕事を・・・」などと文句を言いながら、細いドリルを使って新しい試作用のワークにきれいに穴をあけてくれます。 勿論彼はこの条件での穴あけは初めてですが、失敗はしません。一発で穴あけして「はい、できたよ」と言って持ってきてくれます。 初めての条件なのになぜ一発でできるのでしょうか? 彼の頭の中にたくさんのカム曲線があって、その中から最適の一本を選ぶ(?)というわけでもありません。 おそらく彼は、「このくらいの状況になったら一度ドリルを抜きあげてもう一度下し直さなければ切りくずでうまくいかなくなってしまう」というような「状況判断」があり「その状況に対応する操作」があり、これに従って加工するのでどんなドリルでもどんなワークでも一発で加工できるのでしょう。 つまりこれはカム曲線ではなく、「考え方」なのです。 従って我々はその「ドリリングのための考え方」を入手してそれに基づいた制御方式を採用すれば、どんなドリリング作業でも自在にこなすことができるはずです。ではどう考えているのでしょうか? 本当のところはベテランの作業員に聞いてみなければわかりませんが、例えば、「ワークを抑えている手に感じる振動が大きくなったらドリルをワーク上面から 10mm ぐらい上まで引き上げる」ということかもしれません。或いは「ドリルの根元側の振れが少し増えてきたらたらドリルをワーク上面近くまで抜きあげて切りくずが外れるようにすればいい」というのかもしれません。更には振動ではなく音を聞いているのかもしれません。「サーという音がゴーに変わったらドリルを抜きあげる」というようなことも考えられます。 いずれにしても図 5-1 のように、ワークとツールとの何らかの条件を検出して、それに応じてツールに所定の操作を加える、ということで、フィードバック信号をワークとツールから取っていることになります。 フィードバック信号の取り方としては一番いいシステムです。 図 5-1 ベテラン作業員はワーク・ツールの状態に応じた的確な「考え方」を持っているので、 すべての条件に対応できるW・T の状況に合わせたフィードバックのアルゴリズム図 5-1 では作業するのは人間なのでコントローラが頭脳でその内容が「考え方」になっています。 これを自動化システムに当てはめると、コントローラは当然コンピュータ系となるでしょう。 コンピュータを動かすプログラムに組み込む「考え方」を「アルゴリズム」といいます。したがってこの場合の自動化システムは図 5-2 のようになります。 図 5-2 コントローラに「ドリリング用アルゴリズム」が入ればどんなドリリングでもできる当然そこにはワークの振動状態を検出するセンサ、ドリルの振れ巾を検出するセンサ、或いは場合によると切削時の音の変化を検出するセンサなども必要になるかも知れません。これらのセンサの出力がある状態に変化したらドリルの進む速度を遅くする、また別の状況に変化したらドリルを急いで抜きあげる、などの考え方/アルゴリズムを制御用コンピュータのプログラムにしておくことになります。(図 5-3 参照) 図 5-3 「ドリリング用アルゴリズム」のためにワーク・ツール等の状態を検出するセンサが必要前述のように第 3 世代のソフトウエアカムによるロボット駆動システムがワークを無視したフィードバック信号の取り方なので、現在、それに対する反省から何とかワークの状態を検出してフィードバック信号をとろうとするのが世界的な趨勢です。 ロボットなどの展示会でも、山積みになったランダムな状態のワークを画像センサなどでの状態検出によって、ロボットハンドでランダム対応ピックアップするような第 4 世代のシステムが花盛りといった有様です。 「展示会で花盛り」ということは、まだまだ工場内で実用化されている第 4 世代のシステムは少ないということでもあります。 上に例として述べた図 5-3 のような第 4 世代のドリリングシステムは原理的には構築可能ですが、今のところどこの工場でも働いてはいないようです。 しかし、これから第 4 世代の技術が工場内で活躍するのはさほど遠い先ではないと言えるでしょう。 次回は、かなり昔から稼働していた第 4 世代のシステムの実例として、オルゴールの振動板自動調律装置の例を解説します。 株式会社新興技術研究所 熊谷 卓 による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」は、クリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 2.1 ライセンスの下に提供されています。 Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 2.1 Japan License この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓さんのその他の記事 2018/06/05 業界コラム 5 これから面白くなる自動化の考え方・第 4 世代のシステムへ(6) 2018/05/09 業界コラム フィードバックシステムの巧妙性実現からその先へ(その1) 2018/04/03 業界コラム 文学的表現から工学的表現にしてシステムを構築 2018/03/06 業界コラム 真の巧妙性を駆使するベテラン作業員の説明 2018/02/06 業界コラム 第 4 世代のシステムの実例 2018/01/10 業界コラム ベテラン作業員の頭の中はカム曲線の集合か? 2017/12/05 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(7) 2017/11/07 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(6) 2017/10/03 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(5) 2017/09/05 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(4) 2017/08/01 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(3) 2017/07/04 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(2) 2017/06/06 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(1) 2017/05/10 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(5) 2017/04/04 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(4) 2017/03/07 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(3) 2017/02/07 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(2) 2017/01/11 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(1) 2016/12/06 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(21) 2016/11/08 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(20) 2016/10/04 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(19) 2016/09/06 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(18) 2016/08/02 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(17) 2016/07/05 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(16) 2016/06/07 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(15) 2016/05/11 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(14) 2016/04/05 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(13) 2016/03/08 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(12) 2016/02/09 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(11) 2016/01/13 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(10) 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月