2016/12/06 業界コラム 熊谷 卓 2 巧妙性実現の手段群(21) 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業...もっと見る 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業 1955年04月 マミヤ光機株式会社入社 1962年11月 技術士国家試験合格・機械部門技術士登録 1963年03月 株式会社 新興技術研究所設立 代表取締役就任、現在 同社取締役会長(業務内容:自動組立機をはじめ各種自動化設備機器等の開発・製作・技術指導) 【歴任】 米国・欧州自動化技術視察団コーディネータ 8 回 自動化推進協会 理事・副会長 精密工学会 自動組立専門委員会 常任幹事 日本技術士会 理事・機械部会長 中小企業大学校講師 日本産業用ロボット工業会 各種委員 神奈川大学講師 自動化推進協会理事 高度職業能力開発促進センター講師 等を歴任 【業績】 著書 自動化機構300選(日刊工業新聞社)、メカトロニクス技術認定試験教本(工業調査会)ほか多数 講演 アジア生産性機構講演で自動化システムを W・T・MACS で表示・解析を提示(世界初)ほか多数 論文 自動化システムのデバッギング理論「チェック機構と最適稼働率」が欧州年間論文大賞にノミネイトほか多数 発明 メカトロニクス技術実習モジュールの発明、地震予知システム「逆ラジオ」の発明ほか多数 株式会社新興技術研究所 熊谷会長様のご好意による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」の 24 回目です。前号に引き続き「巧妙性が面白い第 2 世代・メカニカルカムのシステム」から「メカニカルカムの使用目的別分類と機能」を紹介します。 メカニカルカムの使用目的別分類と機能(その4)2-4 巧妙性が面白い第 2 世代・メカニカルカムのシステム 全領域数式実現型カムおよびその他のカム機構前回はポイント・ツウ・ポイントカムの「正規化」について述べましが、今回は全領域数式実現型カムおよびその他のカム機構について簡単に解説します。 《数式実現型 カム》カムの使用目的分類で「全領域数式実現型」と呼ぶべきものがあります。典型的な例はズームレンズ駆動カムです。 図 2-61 に示すのは或るカメラの撮影レンズのレンズ構成で中央部に 2 枚セットになったレンズが二組あるのでレンズの全枚数は 9 枚ですが「7 群 9 枚構成」というような呼び方をします。 図 2-61 撮影レンズの構成の一例 ズームレンズでは 9 群 15 枚構成など、さらに複雑な構成になります。 しかしこれらのレンズを役目ごとに分類すると図 2-62 のように、フォーカシング用、バリエータ用、コンペンセータ用とリレー用の 4 グループに分かれます(3 グループ構成もあります)。 図 2-62 4 グループ式ズームレンズの構成【フォーカシングレンズ群】 対象物にピントを合わせるために前後に動かすレンズ群で、ズーミングに関係なく働きます。 【バリエータレンズ群】 像の大きさを変えるズーミングのために動かします。 【コンペンセータレンズ群】 バリエータレンズと連動して動き、ピントのずれや画像の収差を補正します。 【リレーレンズ群】 上記の 3 群によってできた像を像面に結像させるための中継動作をします。 例えば野球場の全景から選手のクローズアップまで画像のサイズを変更するためにはバリエータレンズ群とコンペンセータレンズ群とを厳密に正確な相互距離を実現するように駆動する必要があります。その移動量は精密な光学計算によっているので、バリエータレンズの移動可能な全範囲に亘ってコンペンセータレンズを正確に必要量だけ駆動しなければなりません。数式で計算された所定の移動量に対して 1/100mm の誤差も許されません。 これに使うカムの構成は幾つかありますが、簡単に考えればレンズの外筒に刻んだ精密カム溝に対して、直進スライドするための直線溝を持った内筒にカムフォロワーを持たせ、外筒を回転するとそのカム溝によってカムフォロワーが前後に直進運動をするように設定して、このカムフォロワーにバリエータとコンペンセータをそれぞれ持たせたレンズ筒を取り付けておくのです。(図 2-63A 参照) 図 2-63A ズームレンズのカム図では 1 個のカムフォロワーを 3 か所に分けて描いてありますが同一のものです。カムフォロワーはバリエータに 2 個、コンペンセータに 2 個取り付けてあると考えてください(現実には耐久性・精度保持などに配慮して 3 個以上のカムフォロワーを用いる例が多いようです)。バリエータに取り付けたカムフォロワーが直進ガイド用内筒の直線溝と、ズーム操作用外筒の内面のバリエータ用カム溝に同時に挿入されています。外筒を回転するとバリエータ用カム溝と内筒の直線溝の交点が前後に直進するので、バリエータ全体が前後に直進するのです。 コンペンセータも全く同じ機構で外筒の回転によって直進動作します。 図 2-63B ズームレンズの構成例全体の構造は図 2-63B に示すようになっていて、フォーカシング操作用外筒を回転して被写体にピントを合わせ、ズーム操作用外筒を回して画像の大きさを調整するわけで、このズーム操作で駆動されるバリエータとコンペンセータとが、完全に光学数式に一致した動作をしなければなりません。 つまりズーミング駆動の「全領域に亘って数式を実現」するカム機構なのです。 往年のライカをはじめとする 35mm フイルムを用いたカメラの場合、三角測量式の距離計とレンズのフォーカシングとを連動させた「距離計連動カメラ」がもてはやされた時代があり、これにも全領域に亘って数式を実現するカム機構が組み込まれていました。 図 2-64 に原理図を示します。被写体を半透明鏡経由で見るとき、可動ミラーから来る光も見えるので目には被写体が二重像になって見えますが、可動ミラーをうまく動かして両方の光の角度を合わせればピタリと重なって二重でなく一つの像に見えるようになります。そのための可動ミラーの移動角度と、ピント合わせのための撮影レンズの繰り出し量とはいずれも光学計算で正確に算定されます。したがってピント合わせ用のレンズの駆動と可動ミラーの角度調整量とをメカニカルにカムを用いて連動しておけば、手でレンズを動かすことで可動ミラーも動かされ、二重像が重なって一つに見えるようになったところで完全にピントが合うわけです。これも全領域に亘って光学計算式に則った動作をさせるカム機構です。 図 2-64 距離計連動カメラの構成《動作拡大・縮小型カムなど、その他のカム》例えば洗面所の水栓などでは、一般にハンドルやレバーを用いて水流の開閉を行っていますが、ほとんどの場合均等変換機構を用いているので流量最大に対して、最小にする微調整が極めて難しいことが多いのです。 ネジを使った場合、通常ハンドルを一回転緩めて毎秒 360ml の水流が得られるとすると、ハンドルを 10° 緩めることで毎秒 10ml の水流になります。(図 2-65A 参照) もし極微少量の点滴のような流量、例えば毎秒 0.1ml を望んでもこの方式では不可能に近いでしょう。 逆にネジのリードを小さくしてハンドルを 10° 緩めて毎秒 0.1ml を実現できたとすると、ハンドルを 10 回転緩めても毎秒 36ml の水流しか得られないことになってしまいます。 このような場合、必要であればネジではなくカムを用いて流量特性を図 2-65B のようにすることで、微少流量での分解能を稼ぎながらハンドルの一回転で最大流量を得られるようにすることが可能なはずです(ズームレンズ用のカムに似た構成でできるはずですが市販されていないようです)。 左:図 2-65A ネジ式の水栓の構成例 右:図 2-65B 通常の水栓の流量特性と 微少流量調整を容易にした流量特性この例に限らず、カムを使えば入力ストロークと出力ストロークとの変換比率を必要な場所では大きく、または小さくして粗調整から微調整まで自在に応用できます。 これらは、目的分類として、入力動作に対する出力動作の「拡大・縮小用のカム機構」に分類され、カム曲線の作り方次第で拡大・縮小率を任意に設定できるので動作特性の微細調整などに有効に使われてきました。 写真 2-9 振動弁の 調律研磨工程の例上記のほか、往年のカメラのシャッター機構をはじめとして、玩具にも、昔からあるカラクリにも、カム機構はいろいろな工夫によって組み込まれてきました。これらについてはかなり興味を引かれますが、講座の目的にそぐわないので別稿に譲ることとし、ここでは生産システムに組み込まれた一例として、オルゴールの音源となっている振動板(写真2-9)の音程調整でカムを用いたシステムの例を紹介することにします。 図 2-66 振動弁の調律研磨工程の例振動板の音程調整の予備工程では、各振動弁の音程を合わせるために研削をして質量を減らすことで、自己振動数を次第に高音にして目的の音程に合わせます。図 2-66 はその研削量の設定にカムを用いた例です。目的の音程によって、カムの回転角をセットして各々の振動弁の押し下げ量を設定した状態で、下側から研削して質量を減らします。 研削ユニットのストロークは常に一定なので押し下げ量ゼロの振動弁は殆ど研削されません。 振動板はこれで完成ではなく、この後の工程で各振動弁について厳密な音程調整を行います。その方法はそれぞれの振動弁を振動させて自己振動数を正確に測定し、正しい音程になるまで特殊研削することになりますが詳細は別稿に譲ります。 次回は生産性向上の 4 手法について解説します。 株式会社新興技術研究所 熊谷 卓 による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」は、クリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 2.1 ライセンスの下に提供されています。 Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 2.1 Japan License この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓さんのその他の記事 2018/06/05 業界コラム 5 これから面白くなる自動化の考え方・第 4 世代のシステムへ(6) 2018/05/09 業界コラム フィードバックシステムの巧妙性実現からその先へ(その1) 2018/04/03 業界コラム 文学的表現から工学的表現にしてシステムを構築 2018/03/06 業界コラム 真の巧妙性を駆使するベテラン作業員の説明 2018/02/06 業界コラム 第 4 世代のシステムの実例 2018/01/10 業界コラム ベテラン作業員の頭の中はカム曲線の集合か? 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Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月