2017/09/05 業界コラム 熊谷 卓 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(4) 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業...もっと見る 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業 1955年04月 マミヤ光機株式会社入社 1962年11月 技術士国家試験合格・機械部門技術士登録 1963年03月 株式会社 新興技術研究所設立 代表取締役就任、現在 同社取締役会長(業務内容:自動組立機をはじめ各種自動化設備機器等の開発・製作・技術指導) 【歴任】 米国・欧州自動化技術視察団コーディネータ 8 回 自動化推進協会 理事・副会長 精密工学会 自動組立専門委員会 常任幹事 日本技術士会 理事・機械部会長 中小企業大学校講師 日本産業用ロボット工業会 各種委員 神奈川大学講師 自動化推進協会理事 高度職業能力開発促進センター講師 等を歴任 【業績】 著書 自動化機構300選(日刊工業新聞社)、メカトロニクス技術認定試験教本(工業調査会)ほか多数 講演 アジア生産性機構講演で自動化システムを W・T・MACS で表示・解析を提示(世界初)ほか多数 論文 自動化システムのデバッギング理論「チェック機構と最適稼働率」が欧州年間論文大賞にノミネイトほか多数 発明 メカトロニクス技術実習モジュールの発明、地震予知システム「逆ラジオ」の発明ほか多数 株式会社新興技術研究所 熊谷会長様のご好意による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」の 33 回目、第 4 章「フレキシビリティが面白いインフォメーションカム」の 4 回目です。 当月は「Sin カーブの動作特性を実現するソフトウエアカム」について紹介します。 世界で活躍するソフトウエアカムSin カーブの動作特性を実現するソフトウエアカム(1)図 4-10A は、以前も紹介したメカニズム「スコッチヨーク」の幾何学図で、クランクアームの回転によって往復直進出力が得られますがその動作特性曲線は正しい正弦曲線(Sin カーブ)となるものです。 図 4-10A Sin カーブの動作特性曲線をもつスコッチヨーク上死点を原点としてクランクアームの回転角 θ と直進出力 S の関係は \(S = R(1-\cos\theta)\) ・・・・(4-1) となり、この動作をカムで実現した場合のカム曲線は図 4-10C のようになりますが、これをクランクアームの半回転で考えると、 スタート時 t=0 で \(\cos\theta=−1\) 前進端では t=π で \(\cos\theta=1\) となります。 ここではこの動作特性曲線を図 4-10B のようにステッピングモータ(またはサーボモータ)と送りねじによって実現するソフトウエアカム・システムを考えてみます。 図 4-10B Sin カーブの動作特性曲線をソフトウエアカムで実現図 4-10B のシステムでは、ステッピングモータで送りねじを回転するだけなので、一定ピッチでパルスを送るとツールは一定速度で進むだけです。そこで図 4-10C で分かる通りパルスを送り込む時間間隔を\(\Delta T1\) 、\(\Delta T2\)、\(\Delta T3\)・・・と次第に短くして速度を上げ、途中から速度を下げて最後は \(\Delta TN\) と低速にしています。 図 4-10C Sin カーブのカム曲線をステッピング駆動で作った例以下、この駆動システムのポイントとなる \(\Delta T1\) 、\(\Delta T2\)、\(\Delta T3\) ・・・の作り方について解説します。 Sin カーブの動作特性を実現するソフトウエアカム(2)図 4-10C では、最大ストローク S を、最大時間 T で移動しているので、カム曲線の正規化の考え方と同様、それぞれの範囲を 0~1 と置いて、直進出力 S とそれに要する時間 T について \(S=R(1-\cos T)\)・・・・(4-2) と定義していいでしょう。 しかし一つ問題があります。S が T の関数になった式 4-2 は、本来、時間軸 T が均等に進む場合のもので、図 4-10C のグラフでは時間軸が不均等でストローク軸の方が均等になっています。 となると式 4-2 ではなく、図 4-10D のように T と S とを入れ替えた「逆関数」にしなければなりません。 パルスの出力時刻 T が移動量 S の関数で表わされるわけです。 図 4-10D Sin カーブのカム曲線の逆関数表示\(T = \cos^{-1} \left( 1 – \displaystyle \frac{S}{R}\right)\)・・・・(4-3) ここでストローク S を N パルスで進むと考えると、スコッチヨークのストロークの最大値はクランク半径 R の 2 倍ですから S=2R で、R=50mm の場合、 S=100mm となり、 \(\Delta s = \displaystyle \frac{S}{N} = \frac{2R}{N}\)・・・・(4-4) となります。 例えばステッピングモータの 1 パルスごとに Δs=0.1mm ずつ進むとすると、全体では \(N = \displaystyle \frac{S}{\Delta s} = \frac{100(mm)}{0.1(mm)} = 1000\) で 1000 パルス駆動することになります。 式 4-3 に式 4-4 を代入すると、i 番目のパルス送出時刻 Ti は、 \(Ti = cos^{-1} \left(1 – \displaystyle \frac{i\Delta s}{R}\right) = cos^{-1} \left(1 – \displaystyle \frac{2i}{N}\right)\) ・・・・(4-5) となります。 例えばコンピュータ内の時計を頼りに、これで指定された時刻に 1 番目、2 番目、・・ i 番目・・1000 番目のパルスを出力すればいいはずです。 しかし、逆関数表示の図 4-10D のような形で、ΔT1 から ΔT1000 までの「パルス出力の時間間隔」を決定して、それに従って全部で 1000 パルス出力する方式が自由度が高いので多く使われているようです。 i 番目のパルス出力の時間間隔 ΔTi は、i 番目のパルス出力時刻から i−1 番目のパルス出力時刻を差し引いた時間差となります。すなわち \(\Delta Ti = cos^{-1} \left(1 – \displaystyle \frac{2i}{N}\right) – cos^{-1} \left(1 – \displaystyle \frac{2(i-1)}{N}\right)\) となります。 N=1000 として 1000 パルスの全データをここに掲載するのは困難なので、簡略化して N=50 と置いた場合のデータサンプルを、一覧表にしたのが表 4-1 です。50 ステップのソフトウエアカムではとても「Sin 曲線」とはならず、「階段」になってしまいますが、この表の示す意味を解説します。 表 4-1 N=50 とした場合のタイムデータの例(T(Max)=1 の場合) パルス番号i パルス出力 時刻係数Ti パルス出力 時間間隔係数ΔTi 0.02msのデクリメント数 1 0.0903 0.09033 4,517 2 0.1282 0.03785 1,893 3 0.1575 0.02935 1,468 4 0.1826 0.02501 1,251 5 0.2048 0.02228 1,114 6 0.2252 0.02037 1,018 7 0.2441 0.01894 947 8 0.2620 0.01784 892 9 0.2789 0.01695 848 10 0.2952 0.01623 812 11 0.3108 0.01563 782 12 0.3259 0.01513 757 13 0.3406 0.01470 735 14 0.3550 0.01434 717 15 0.3690 0.01403 702 16 0.3828 0.01377 688 17 0.3963 0.01354 677 18 0.4097 0.01335 667 19 0.4229 0.01319 659 20 0.4359 0.01305 653 21 0.4489 0.01294 647 ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ 48 0.8718 0.02935 1,468 49 0.9097 0.03785 1,893 50 1.0000 0.09033 4,517 この表の左端の列はパルス番号で、第 1 パルスから第 50 パルスまであり、2 列目は式 4-5 の Ti に相当する各パルスの無次元出力時刻係数で T(Max) は 1.00 となっています。 この係数をそのまま「秒」と置くと、この表では 10 パルス目はスタート信号を受けてから 0.2952 秒後、20 パルス目を 0.4359 秒後、最終の 50 パルス目を 1.0000 秒後に出力することになります。 3 列目は式 4-6 の \(\Delta Ti\) に相当する出力パルスの時間間隔係数で、上記と同様にそのまま「秒」と置くと、スタート信号を受けてから 0.09033 秒で最初のパルスを出力し、その後 0.03785 秒で次のパルスを送出する・・・というように進めるわけです。 この時間間隔 \(\Delta Ti\) は、1 パルス出力後、コンピュータのタイマーで必要な時間 \(\Delta Ti\) だけ待ってから次のパルスを出力するわけで \(\Delta Ti\) が大きければ待ち時間が長いので低速駆動、小さければ高速駆動となります。 つまり、この \(\Delta Ti\) の一覧表がカム曲線実現のためのインフォーメーションであり、これが「ソフトウエアカム」そのものなのです。 なお、右端(4 列目)の値は、コンピュータのタイマーループの条件を想定してみた実用上の値の例で、使用するコンピュータの条件によって変わりますが、いわば「ソフトウエアカムのタイマー動作の実用値」の例となります。 次回はソフトウエアカムのタイマー動作について述べます。 株式会社新興技術研究所 熊谷 卓 による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」は、クリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 2.1 ライセンスの下に提供されています。 Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 2.1 Japan License この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓さんのその他の記事 2018/06/05 業界コラム 5 これから面白くなる自動化の考え方・第 4 世代のシステムへ(6) 2018/05/09 業界コラム フィードバックシステムの巧妙性実現からその先へ(その1) 2018/04/03 業界コラム 文学的表現から工学的表現にしてシステムを構築 2018/03/06 業界コラム 真の巧妙性を駆使するベテラン作業員の説明 2018/02/06 業界コラム 第 4 世代のシステムの実例 2018/01/10 業界コラム ベテラン作業員の頭の中はカム曲線の集合か? 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Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月