2017/04/04 業界コラム 熊谷 卓 3 生産性向上の 4 手法(4) 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業...もっと見る 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業 1955年04月 マミヤ光機株式会社入社 1962年11月 技術士国家試験合格・機械部門技術士登録 1963年03月 株式会社 新興技術研究所設立 代表取締役就任、現在 同社取締役会長(業務内容:自動組立機をはじめ各種自動化設備機器等の開発・製作・技術指導) 【歴任】 米国・欧州自動化技術視察団コーディネータ 8 回 自動化推進協会 理事・副会長 精密工学会 自動組立専門委員会 常任幹事 日本技術士会 理事・機械部会長 中小企業大学校講師 日本産業用ロボット工業会 各種委員 神奈川大学講師 自動化推進協会理事 高度職業能力開発促進センター講師 等を歴任 【業績】 著書 自動化機構300選(日刊工業新聞社)、メカトロニクス技術認定試験教本(工業調査会)ほか多数 講演 アジア生産性機構講演で自動化システムを W・T・MACS で表示・解析を提示(世界初)ほか多数 論文 自動化システムのデバッギング理論「チェック機構と最適稼働率」が欧州年間論文大賞にノミネイトほか多数 発明 メカトロニクス技術実習モジュールの発明、地震予知システム「逆ラジオ」の発明ほか多数 株式会社新興技術研究所 熊谷会長様のご好意による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」の 28 回目です。「生産性向上の 4 手法」、「高速化と併行作業化」の工程分割検討とラインバランスを紹介します。 工程分割検討 2前回の例はカシメ作業を一回のハンマー動作で完了としましたが、今回は、B 部品が壊れやすいガラスやセラミックだった場合を想定してみます。 割れやすい B 部品は一発のハンマー動作では確実に割れてしまうでしょう。そこで円周を一部ずつマイナスドライバーの先端のような平刃状のツールで「トントントントン」とカシメて行く方法があります。 図 3-9A 菊花弁状カシメの作業ユニット平刃状のカシメツールを高速で上下駆動し、そのハンマーリング駆動からメカ連動で減速して駆動軸をゆっくり回転させる、またはハンマーリング駆動軸を別の減速モータでゆっくり回転させるなどの構造にします。 これならカシメ領域全体に大きな力がかかることはなく、ごく部分的に小さい力で少しずつカシメて行けるので B 部品を割るような力はかかりません。結果は非常にきれいな菊の花弁状のカシメ跡になります。 図 3-9B 菊花弁状のカシメ図 3-9A に菊花弁状カシメの作業ユニットの構造原理図、図 3-9B にその作業の途中状態のワークを示します。 ただし、カシメツールを少しずつ位置を変えながら何度も叩くので、360° カシメるのに時間はかかります。 ****** ハンマーリング駆動軸の低速連続回転 *****図 3-9A 菊花弁状カシメの作業ユニットの構成でハンマーリング駆動軸回転用の「減速モータ」は、ステッピングモータにしなくていいのか? という疑問があるかもしれません。 ちょっと考えてみましょう。 A 部品のカシメられる軸直径を ϕ7mm とし、その円周 22mm を 36 枚の花弁状カシメとすると、 刃厚 0.6mm 程度のツールで 10° ごとにカシメて行くことになります。 仮にハンマーリング動作をストローク 30mm 毎秒 6 回とすると、ハンマーリング駆動機構の構造にもよりますが平刃状ツールが一回のハンマーリングでワークを叩いて加圧している時間は、0.01 秒以下と思われます。ハンマーリング駆動軸を連続回転してその回転速度を 10rpm とするとツールがワークを圧着している間のツールの回転方向移動量は 0.036mm 以下なので、ステップ駆動にしなくても減速モータによる低速連続駆動で差し支えないと思われます。 今、仮にこの作業で全円周をカシメるのに 6 秒かかると仮定します。 この場合、カシメ作業以外の条件は上記の例と全く同じと仮定して、 手作業は ① A 部品供給 前回と同じ:2 秒 ② B 部品供給 前回と同じ:2 秒 ③ カシメ作業 今回は:6 秒 ④ A+B 取出し 前回と同じ:2 秒 で、合計 12 秒の作業となります。 ここでもう一度図 3-6(1)から(4)までのシステムを使ってみましょう。 図 3-6(1)2 ステーション型図 3-6 (1)2 ステーション型の場合① A 部品供給 前回と同じ:2 秒 ② B 部品供給 前回と同じ:2 秒 ③ トランスファ 前回と同じ:1 秒 ④ カシメ作業 今回は:(6 秒) ⑤ A+B 取出し 前回と同じ:2 秒 となります。 作業員の手作業は「取り出し」「A 供給」「B 供給」で全部で 6 秒ですが、手作業が済んだ時、ちょうどカシメ作業も済んだので、直ちにトランスファレバーを駆動します。 結局手作業の 6 秒とトランスファの 1 秒で、サイクルタイムは 7.0 秒となり、前回の例と全く同じになります。 12 秒から 7 秒になったので、安い機械にしてはかなり有用と言えます。 図 3-6(2)4 ステーション型図 3-6 (2)4 ステーション型の場合① A 部品供給 前回と同じ:2 秒 ② B 部品供給 前回と同じ:2 秒 ③ トランスファ 前回と同じ:0.7 秒 ④ カシメ作業 今回は:(6 秒) ⑤ A+B 取出し 前回と同じ:(1.5 秒) となります。 作業員は 4 秒で仕事を終えていますが、まだカシメ作業が終わりません。6 秒でやっとカシメが終わるので、それからトランスファです。 サイクルタイムは 6.7 秒、図 3-6(1)2 ステーション型の場合より 0.3 秒短縮したのはトランスファを少し速くしただけです。 2 ステーション型の方がコスト的にも有利でしょう。 図 3-6 (3)6 ステーション型の場合言うまでもなくサイクルタイムは最長作業のユニットが作業終了して、それにトランスファを加えるのでサイクルタイムは 6.5 秒となり、やはりトランスファの速さだけの違いになってしまいます。 図 3-6 (4)12 ステーション型の場合これも当然サイクルタイムは 6.5 秒です。全自動なのでダメとは言えませんが、コストパフォーマンスは良くないでしょう。 まとめると表 3-2 のようになります。 表 3-2 各システムのサイクルタイム 番号 工程内容 手作業 図 3-6 (1) (2) (3) (4) 1 A 部品供給 2 秒 2 秒 2 秒 2 秒 (1.5 秒) 2 B 部品供給 2 秒 2 秒 2 秒 (1.5 秒) (1.5 秒) 3 トランスファ – 1 秒 0.7 秒 0.5 秒 0.5 秒 4 カシメ作業 6 秒 (6 秒) (6 秒) (6 秒) (6 秒) 5 A+B 取出し 2 秒 2 秒 (1.5 秒) (1.5 秒) (1.5 秒) サイクル合計 12.0 秒 7.0 秒 6.7 秒 6.5 秒 6.5 秒 評価 – ○ × × △ 工程分割とラインバランス 1さて前月号「工程分割検討 1」も今月号「工程分割検討 2」も同じように工程分割したはずですがどこが違ったのか、考え直してみます。 工程分割検討 1 での図 3-6(3)の例を見ると、4 つの作業ステーションでの作業時間が 1 秒、1.5 秒、2 秒といずれも 2 秒以下です。この中で最長時間 2 秒にトランスファ時間 0.5 秒を加えてサイクルタイム 2.5 秒のシステムとなっています。 これに対して工程分割検討 2 では、ほかの作業ステーションではいずれも 2 秒以下なのに、一か所カシメステーションだけが 6 秒と跳びぬけて長い作業時間がかかっています(表 3-2)。分け方がいかにもアンバランスです。 逆に工程分割検討 2 の図 3-6(1)2 ステーションの機械では、手作業の 12 秒を丁度半分の 6 秒づつに分けています。非常にバランスよく分けているので、一挙に作業効率が上がっているのです。 これを人間の作業に置き換えて考えると、供給作業、取出し作業などを担当した人はすぐに終わりますが、カシメを担当した人は長時間一生懸命働かなければなしません。「ほかの人は楽な作業なのにどうして私だけこんなに大変なの?」と文句が出るような状況でしょう。 「工程分割」は「皆で仲良く手分けするやり方」なのです。バランスよく手分けして生産効率を上げるのです。 この考え方は工場内の生産体制全体にも適用されます。生産性向上のために各工程間のバランスを良くするわけですがこれを「ラインバランスを良くする」という言い方をします。 では、工程分割検討 2 のような条件では工程分割はうまく使えないのでしょうか? やはり図 3-6(1)の 2 ステーションの機械を 3 台買って作業者 3 人に仕事をしてもらうのでしょうか? そんなことはありません。 ここで図 3-6(3)や図 3-6(4)の機械でラインバランスを良くする方法を工夫すればいいはずです。 次回はこのシステムのいろいろな改善方法について考えることにします。 株式会社新興技術研究所 熊谷 卓 による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」は、クリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 2.1 ライセンスの下に提供されています。 Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 2.1 Japan License この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓さんのその他の記事 2018/06/05 業界コラム 5 これから面白くなる自動化の考え方・第 4 世代のシステムへ(6) 2018/05/09 業界コラム フィードバックシステムの巧妙性実現からその先へ(その1) 2018/04/03 業界コラム 文学的表現から工学的表現にしてシステムを構築 2018/03/06 業界コラム 真の巧妙性を駆使するベテラン作業員の説明 2018/02/06 業界コラム 第 4 世代のシステムの実例 2018/01/10 業界コラム ベテラン作業員の頭の中はカム曲線の集合か? 2017/12/05 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(7) 2017/11/07 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(6) 2017/10/03 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(5) 2017/09/05 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(4) 2017/08/01 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(3) 2017/07/04 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(2) 2017/06/06 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(1) 2017/05/10 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(5) 2017/04/04 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(4) 2017/03/07 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(3) 2017/02/07 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(2) 2017/01/11 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(1) 2016/12/06 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(21) 2016/11/08 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(20) 2016/10/04 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(19) 2016/09/06 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(18) 2016/08/02 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(17) 2016/07/05 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(16) 2016/06/07 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(15) 2016/05/11 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(14) 2016/04/05 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(13) 2016/03/08 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(12) 2016/02/09 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(11) 2016/01/13 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(10) 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月