2018/02/06 業界コラム 熊谷 卓 第 4 世代のシステムの実例 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業...もっと見る 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業 1955年04月 マミヤ光機株式会社入社 1962年11月 技術士国家試験合格・機械部門技術士登録 1963年03月 株式会社 新興技術研究所設立 代表取締役就任、現在 同社取締役会長(業務内容:自動組立機をはじめ各種自動化設備機器等の開発・製作・技術指導) 【歴任】 米国・欧州自動化技術視察団コーディネータ 8 回 自動化推進協会 理事・副会長 精密工学会 自動組立専門委員会 常任幹事 日本技術士会 理事・機械部会長 中小企業大学校講師 日本産業用ロボット工業会 各種委員 神奈川大学講師 自動化推進協会理事 高度職業能力開発促進センター講師 等を歴任 【業績】 著書 自動化機構300選(日刊工業新聞社)、メカトロニクス技術認定試験教本(工業調査会)ほか多数 講演 アジア生産性機構講演で自動化システムを W・T・MACS で表示・解析を提示(世界初)ほか多数 論文 自動化システムのデバッギング理論「チェック機構と最適稼働率」が欧州年間論文大賞にノミネイトほか多数 発明 メカトロニクス技術実習モジュールの発明、地震予知システム「逆ラジオ」の発明ほか多数 株式会社新興技術研究所 熊谷会長様のご好意による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」の 38 回目、第 5 章「これから面白くなる自動化の考え方・第 4 世代のシステムへ」の 2 回目です。 当月は「第 4 世代のシステムの実例」について紹介します。 5 これから面白くなる自動化の考え方・第4世代のシステムへ(2)ロボット関連の展示会などでもわかる通り、現在では多くの生産工程で第 4 世代のシステムが活用されようとしていますが、実稼働例はまだ必ずしも多くはないようです。ここでは古くから実用化されていた第 4 世代のシステムの例として、オルゴールの振動板の自動調律について述べます。 図 5-4 量産型オルゴールのドラムと振動板通常、音楽ではメロディーと伴奏部分とで最低 3 オクターブ 36 音必要と言われています。しかし量産型のオルゴールでは発音弁が 18 しかありません(図 5-4 参照)。 そこで、音楽の専門家がそれぞれの曲について上手に編曲して、18 音だけで表現できるようにしてあります。 従ってピアノのように音を順番に並べるのでなく、使わない音をすべて外してその曲に必要な音だけを振動弁として調律します。 つまりピアノでは ド、ド♯、レ、レ♯、ミ、ファ、・・・・のように順番に半音ずつ上がっていますが、例えば曲目「スバル」の場合は ラ、ド、レ、ミ、ソ、ラ、ド でメロディーができるので シ、ド♯、レ♯、ファ、・・・・などは不要です。 逆に「タタタ、ターン」のような同一音の連続の場合は、演奏用ドラムの回転速度が遅いので複数の弁で同一音を発するようにしなければ発音間隔が短くなりません。 この様に、振動弁の音程の並びは曲ごとに変化します。 そこで、「この曲の場合、第 1 弁は ラ、第 2 弁は ド、・・・・に調律せよ」というように曲ごとに調律の内容が指定されるのです。 振動弁の調律工程とは振動板の原板は、必要音程より低めの自己振動数を持つように概略調律した 18 本の振動弁を有するもので、図 5-5 のように各振動弁の裏側を削って質量を減らすことで自己振動数を次第に上げて高音にしていきます。 昔はベテラン作業員が手動で削っていました。 ほんの少しでも削り過ぎたらその振動板は不良品になってしまうので細心の注意が必要です。 自動化システムになっても同じ場所を削りますが、きわめて特殊な研削ツールを用います。 図 5-5 オルゴールのドラムと振動板 図 5-6A に、18 弁のオルゴールの発音源となる振動板の精密な自動調律工程を示します。 自動調律装置は多数の作業ステーションを持つ大型のロータリテーブルタイプで「工程分割」し、そのうちの 18 箇所のステーションでそれぞれ 1 弁を担当して自動調律するようになっています。 図 5-6A はその自動調律ユニットの基本構成を示しています。 ワークホルダに咥えられた振動板のある一つの振動弁について「発音弁振動駆動及び振動数検出機構」によって振動弁の自己振動数を検出し、これを上位コンピュータから与えられた目標振動数と比較して、どのくらい加工すれば目標振動数になるかを算定して、それに従って加工ユニットを作動させるわけです。 加工し過ぎては一挙に不良品になってしまうので、加工の進捗と振動数の変化状況とをにらみ合わせながら、目的の振動数になるまで計測と加工を進めるのです。 従って、最後の仕上がりに近い状態で「あと 4 ヘルツ」となった場合など、加工ツールをどれだけ働かせればいいか極めて難しい判断で、そこに適切なアルゴリズムが必要となります。 聞いたことのない名曲(?) 迷曲(?)調律の完了した振動板は確実に分類しておかないと、間違った曲目のドラムと組み合わせてしまうと音楽になりません。 例えば「乙女の祈り」用のドラムに「エリーゼのために」の振動板を組付けてしまうと、全く聞いたことのない曲になってしまいます。 組み合わせ違いで偶然、素晴らしい名曲になる可能性もゼロではありませんが・・・ このような組み合わせミスの不良品は工場では「迷曲不良」と呼ばれています。 図 5-6A オルゴールの振動板の各振動弁を自動調律するシステム図 5-6B オルゴールの振動板の自動調律システムの W・T・MACSこのステーションのシステムをブロック図にすると図 5-6B のようになり、ワークの状態を検出し制御アルゴリズムで制御する第 4 世代のシステムであることが分ります。 こう考えると我々の自動化技術はすでに第 4 世代に入ってきていると言えますが、まだそこに必要な「巧妙性導入」についてもう少し問題がありそうです。 次回はベテラン作業員の腕前を再現する第 4 世代の巧妙性取得法について考えることにします。 株式会社新興技術研究所 熊谷 卓 による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」は、クリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 2.1 ライセンスの下に提供されています。 Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 2.1 Japan License この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓さんのその他の記事 2018/06/05 業界コラム 5 これから面白くなる自動化の考え方・第 4 世代のシステムへ(6) 2018/05/09 業界コラム フィードバックシステムの巧妙性実現からその先へ(その1) 2018/04/03 業界コラム 文学的表現から工学的表現にしてシステムを構築 2018/03/06 業界コラム 真の巧妙性を駆使するベテラン作業員の説明 2018/02/06 業界コラム 第 4 世代のシステムの実例 2018/01/10 業界コラム ベテラン作業員の頭の中はカム曲線の集合か? 2017/12/05 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(7) 2017/11/07 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(6) 2017/10/03 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(5) 2017/09/05 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(4) 2017/08/01 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(3) 2017/07/04 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(2) 2017/06/06 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(1) 2017/05/10 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(5) 2017/04/04 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(4) 2017/03/07 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(3) 2017/02/07 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(2) 2017/01/11 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(1) 2016/12/06 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(21) 2016/11/08 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(20) 2016/10/04 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(19) 2016/09/06 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(18) 2016/08/02 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(17) 2016/07/05 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(16) 2016/06/07 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(15) 2016/05/11 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(14) 2016/04/05 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(13) 2016/03/08 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(12) 2016/02/09 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(11) 2016/01/13 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(10) 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月