株式会社新興技術研究所 熊谷会長様のご好意による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」の 20 回目です。前号に引き続き「巧妙性が面白い第 2 世代・メカニカルカムのシステム」から「タイミングチャートからメカニカルカムへ」を紹介します。
タイミングチャートからメカニカルカムへ
2-4 巧妙性が面白い第 2 世代・メカニカルカムのシステム
タイミングチャートから平カムの製作
今回はよく使われる平カムの製作方法について考えてみます。
図 2-46A のように、まずタイミングチャートの横軸の 0° から 360° までを、できるだけ細かく分割します。
図では 5° 毎の例ですがこれでは粗すぎるので、例えば 0.1° 毎などのように細かく分割する必要があります。
そして、それぞれの角度ごとにドリルの進み量(下降量)を測定し、図 2-46B のように円板状のブランク(カムの素材)の外周からの深さとします。
図 2-46B は 0° から 60° までの外周からの深さをブランク上に書き込んだ操作を示します。


当然同様な作業を 360° まで全体にわたって行う必要があります。結果として図 2-46C のように円板上にタイミングチャートと同じ特性を「回転角対応」にした曲線が描けます。
そのとき一番ドリルが深く進んだ位置が、このカムの最小半径となります。この最小半径で描いた円を「カムの基礎円」といいます。

ここでちょっと不思議に思うことがありませんか?
なぜか、図 2-42A、B に出ているカムと全く形状が違います。
一見、図 2-42A、B のカム曲線でほぼドリルの抜き差し動作を含めた全体の動作特性がよさそうに思えたでしょう。もちろん図 2-42A、B のカム曲線はいい加減ですから、細かい特性曲線の違いがあることは当然です。しかし、全体の形状が大きく違っています。その理由はなんでしょうか?
実は、「戻り時間」の違いなのです。
図 2-42A、B のカム曲線とカムの回転角度をよく見て下さい。図 2-42B の④では、カムは半分しか回転していません。残り半分が戻り時間として使われています。つまり加工時間 180° 、戻り時間 180° となっています。
これに対して、タイミングチャートの方はドリルが一番深くまで進んだところから、50° 程度の駆動で最上端まで戻ることになっています。戻りの無駄時間が大幅に節約されているので形が大きく異なるのです。
タイミングチャートからできた動作特性曲線を、本当のカム曲線にするには・・
これで平カムができたように思われますが、実はこれでは正しいカムになりません。
もう一度図 2-46A をよく見てこの曲線が何を示しているか考えてください。
これは「ドリルの先端の移動特性曲線」です。
さらに図 2-42A まで戻ってみると、「ドリルの先端の移動量」は「カムフォロワーの中心軸の移動量」と同じだということに気が付きます。
つまり図 2-46C で出来たカム曲線は「カムフォロワーの中心軸の移動特性曲線」なので、図 2-47 のように、カムフォロワーの中心が、この曲線上を移動したときの、内挿曲線が、本当のカム曲線になるのです。
これは、今まで述べた直動板カムも円筒端面カムも円筒溝カムもすべて同じです。

では、本当のカム曲線を作るにはどうすればいいでしょうか?
最も簡単な方法は、カムフォロワーの直径を最小にした「尖り先フォロワー」を用いれば、特性曲線がそのままカム曲線として使えます。
ただし、尖り先フォロワーは耐荷重が小さく、またカム面にも傷をつけやすいので、ごく荷重の小さいシステムでなければ使えません(図 2-48 参照)。
通常は耐荷重のしっかりしたローラ型のカムフォロワーを必要とすることが多いのでどうすればいいか考えてみますと、タイミングチャートと同じ特性曲線上をカムフォロワーの代わりに、カムフォロワーと完全に同じ直径のエンドミルを通して加工すれば原理的にはいい筈です。


もちろん具体的には焼き入れ研磨に工夫を必要とするなどやや困難が伴いますが、こうしてできたカムを取り付けたドリリングシステムは図 2-49 のようになります。
ただし、ここでは話を単純化するためにカムが直接ドリルユニットを駆動しているものとしましたが、一般的にはカムフォロワーの動作はリンク・レバーなどで拡大/縮小されることがほとんどで、通常のシステム構成は例えばストロークを拡大する場合、図 2-50 のようになります。
この場合、カム曲線はドリルの先端の動作特性をベテランの作業に一致させるために中間のリンクによる変換内容を加味したタイミングチャートを作らなければなりません。そのためには CAD などの補助を用いてタイミングチャートに適切な変換を加える必要がありますが CAD/CAM の使い方の解説は本書の目的ではないので詳細は省略します。

さて、このシステムはベテランの作業員が細いドリルによる深穴あけを上手に行った状態を、カムによって再現するものであることはわかります。つまりベテラン作業員の巧妙性をカムによって実現したものです。

このシステムをブロック図にしてみると、前章の「ヒンジとスライドによる巧妙性実現システム」と同じになることが分かります。違うのは「不均等変換のメカニズム」が「メカニカルカム」に替ったことだけです。(図 2-51 参照)
しかし、実現できる巧妙性のレベルが「ヒンジとスライド」のシステムに比べて圧倒的に高いので、これを「巧妙性実現のための第 2 世代のシステム」と呼んでいいでしょう。
すなわち「第 2 世代 メカニカルカムの世代」となるわけです。
分かりやすい実例として、ドリリングという一軸だけの動作を例にとって説明しましたが、当然、複数のカムを組み合わせることで更に高度の巧妙性を実現すれば、例えば紐結び作業の自動化のような両手作業の自動化もできるはずです。さらに、このような手法をうまく活用することによって、陶芸家の名人芸のヘラの動きの模倣なども実現できるかもしれません。
前の章で解説したヒンジとスライドによる巧妙性実現より、はるかに高度な巧妙性もカムに頼れば実現できる可能性があるわけです。じつは、後述する第3世代のシステムでもこのカムの考え方が基本となっているのです。
もちろんカムを用いるシステムは人間のもつ巧妙性を実現する以外にもいろいろあります。
次回は、カムの使用目的による種類について述べることにします。
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