2017/05/10 業界コラム 熊谷 卓 3 生産性向上の 4 手法(5) 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業...もっと見る 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業 1955年04月 マミヤ光機株式会社入社 1962年11月 技術士国家試験合格・機械部門技術士登録 1963年03月 株式会社 新興技術研究所設立 代表取締役就任、現在 同社取締役会長(業務内容:自動組立機をはじめ各種自動化設備機器等の開発・製作・技術指導) 【歴任】 米国・欧州自動化技術視察団コーディネータ 8 回 自動化推進協会 理事・副会長 精密工学会 自動組立専門委員会 常任幹事 日本技術士会 理事・機械部会長 中小企業大学校講師 日本産業用ロボット工業会 各種委員 神奈川大学講師 自動化推進協会理事 高度職業能力開発促進センター講師 等を歴任 【業績】 著書 自動化機構300選(日刊工業新聞社)、メカトロニクス技術認定試験教本(工業調査会)ほか多数 講演 アジア生産性機構講演で自動化システムを W・T・MACS で表示・解析を提示(世界初)ほか多数 論文 自動化システムのデバッギング理論「チェック機構と最適稼働率」が欧州年間論文大賞にノミネイトほか多数 発明 メカトロニクス技術実習モジュールの発明、地震予知システム「逆ラジオ」の発明ほか多数 株式会社新興技術研究所 熊谷会長様のご好意による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」の 29 回目です。「生産性向上の 4 手法」、「高速化と併行作業化」の工程分割検討とラインバランス、マルチツーリングを紹介します。 工程分割とラインバランス 2前回の結論では「工程分割検討 2」で、工程間の作業時間が大きくアンバランスになっているので、これをうまくバランスさせる必要があることが分かりました。 それには 6 秒の作業をさらに工程分割することです。 まず思いつくのはカシメユニットを 3 台置いて、360° のカシメ作業をそれぞれ 120° づつの部分カシメにすることです。こうするとカシメユニットは 3 分の 1 の 2 秒で作業を終了するので、手作業の 2 秒と同じになり、図 3-6(3)の機械は 2.5 秒のサイクルタイムになるはずです。 本講座の最初に、「工場中のすべての作業ユニットをいいユニットにしなければならない」と述べましたが、ここでは 360° 駆動の菊花弁状カシメユニットは、どうも「いい作業ユニット」ではなさそうです。 そこでひと工夫して 120° 駆動の菊花弁状カシメユニットを開発してみます。 例えば、平刃状のカシメツールを高速で上下にハンマーリング駆動し、その一往復ごとに駆動軸を単純に減速モータで回転駆動する図 3-9A の構造では、それぞれ 2 秒ずつで作業を打ち切っても、3 台の作業ユニットのスタート位置がバラついてしまいます。 そこでハンマーリング駆動軸を正確に一定の角度ずつ回転させるためにステッピングモータなどを使うことを工夫してみます。構造的には図 3-9A と同じですが、図 3-10A の場合は駆動軸の回転をステッピングモータで駆動しその制御プログラムを活用します。 図 3-10A 120° 駆動の菊花弁状カシメユニットの駆動つまり制御プログラムによってカシメ駆動のステップ角度とステップ数を任意に設定できるものにするのです。 ここでは一台目は 0° から 110° まで、二台目は 120° から 230° まで、三台目は 240° から 350° までの範囲カシメできるものとし、この範囲のハンマーリングをそれぞれ 2 秒で済むようにします。 こうすれば 6 秒の実作業を 3 ステーションに工程分割し、2 秒ずつの実作業にトランスファ 0.5 秒を加えてサイクルタイム 2.5 秒となります。 この場合はカシメ作業だけで 3 ステーション必要なので図 3-6(3)の 6 ステーションの装置が図 3-10B のように 8 ステーションの装置になります。 図 3-10B 菊花弁状のカシメ機を 3 台にした案3 台のカシメユニットのステップ回転連動について前回の例をそのまま踏襲して A 部品のカシメられる軸直径を ϕ ϕ 7mm とし、その円周 22mm を 36 枚の花弁状カシメとすると、刃厚 0.6mm 程度のツールで 10° ごとにカシメるものとします。 図 3-10A に示すハンマーリング駆動軸のステップ回転駆動は、ツールのハンマーリング動作のたびにステッピングモータで 10° ずつ駆動し、1 号ユニットは 0° から 110° までの 12 回、2 号ユニットは 120° から 230° まで、3 号ユニットは 240° から 350° までを分担してカシメることになります。それぞれのユニットのツールは 12 回目のカシメ完了後、上昇中に 10° 移動して 120° 、240° 、360° の位置で待機することになります。 この場合各ユニットの動作範囲が正確でなければ花弁状パターンがきれいに揃いません。最初のスタート位置を丁度 120° ごとになるよう正しく設定する必要があります。 動作速度は 2 秒間に 12 回のハンマーリング動作で、12 回終了後はトランスファの 0.5 秒の間に各ツールを原位置に戻すのが常識的です。 しかし、ハンマーリング駆動軸のステップ回転駆動がステッピングモータなどで相互のツールの位置の再現性が保証されていれば、2 回目は 1 号ユニットが 120° から始めて 230° まで、2 号ユニットは 240° から 350° まで、というように、120° ずつシフトしていく方法があります。 更に可能であれば、3 台のカシメユニットのステップ回転駆動をメカニカルな連動機構で連結し 1 個のアクチュエータで駆動すればどこから初めてもいいので制御はさらに容易となります。 もし、図 3-6(4)の機械に取付けて 2.0 秒のサイクルタイムとするには、90° カシメ機にして 4 台用いることになります。 確かにできると思われますが、ロータリテーブルのサイズから変えてかからなければならないようで、かなりコストが増大しそうです。 では、これがベストでしょうか? もう一工夫することはできないでしょうか? 実はここから先は「マルチツーリング」の出番なのです。 (2-2)マルチツーリングについて前節の工程分割は、各工程で別々のことを行っていましたが、マルチツーリングというのは、同じことを 2 個同時に、3 個同時に、・・・などと、複数の場所で同じ仕事をするための複数のツールを使うことを言います。 例えば多軸ボール盤のように複数本のドリルヘッドで一枚の板に複数の穴あけを同時に行うことを考えると、一本のドリルだけをツールとして順番に穴あけをするより何倍も効率が上がることは当然です。つまり 1 本だけのシングルツールで生産するより複数のマルチツーリングにした方が何倍も生産効率が上がると考えられます。 マルチツーリングの考え方はいろいろな工程で応用されています。 図 3-11 オルゴールフレームの 8 個取りダイキャスト小型プラスティック部品の成型工程では、1 枚の金型がツールですが、直接生産にかかわっているのは金型に彫り込んだ「キャビティ」で、例えば 12 ヵ所のキャビティを持った金型を使えば、一サイクルで 12 個の部品を成型します。つまりキャビティが生産に携わるツールで、これが複数あるのでマルチツーリングなのです。 以前紹介したオルゴールの生産工程では、8 個のキャビティを持った金型で亜鉛ダイキャストによる本体部品(フレーム)を生産しています(図 3-11 参照)。 別の例では、オルゴールの振動板の素材を打ち抜くのに、帯状材料から 2 枚分を向かい合わせに使う様に、組み合わせた外形形状をプレスで打ち抜きます。また振動弁の櫛割加工も向かい合わせの 2 枚分を同時加工します(図 3-12 参照)。 図 3-12 オルゴール振動板の材料取りから櫛割加工まで 2 枚分を同時加工このマルチツーリングの考え方を花弁状カシメユニットに適用すると、図 3-13 のようにカシメツールを 3 本持たせることになります。 この場合、ハンマーリング駆動軸回転用にはステッピングモータを用いて毎回 120° 駆動すればいいわけで、どこがスタートでも構わないことになります。 更に考えてみれば、ステッピングモータを使わなくても、最初の図 3-9A のように、単純な減速モータを使って 10rpm で駆動しておけば、2 秒で切り上げることで丁度 120° のカシメ動作ができそうです。 図 3-13 花弁状カシメユニットのマルチツーリングこう考えてみると、図 3-6(3)の 6 ステーションの装置は、カシメユニットも図 3-9A のままの構成で、ツールを 3 本組に交換するだけで、カシメ作業時間を 2 秒で切り上げれば、サイクルタイム 2.5 秒のシステムとして活用できることになります。 図 3-6(4)の 12 ステーションの装置でも、4 本組のツールを使えばシステムは全く同じままで、作業時間設定を 1.5 秒にすればいいのです。 勿論あまりツールの本数を増やしすぎると、カシメに要する力が増えて、B 部品が割れるようになるかもしれません。カシメ工程の「力」の比較算定は難しいのでカシメられる「面積比」で考えても、4 本ツールの場合は一発カシメの 1/9 なので多分 OK でしょう。 「6 秒もかかる作業を工程分割して 2 秒ずつ 3 工程に分けよう」ということから始まりましたが、 ここで使うべき手法は「工程分割」ではなく「マルチツーリング」だったのです。 この場合「いい作業ユニット」とは: 【市販の花弁状カシメユニットに、複数のカシメツールを取付けて、短時間で実作業を終了できるように、コントロール方法を修正したユニット】が「いい作業ユニット」だったようです。 生産性向上の 4 手法を駆使するために改めて生産性向上の手法を整理しますと、 (1)大きく分けて 高速化 と 併行作業化 の 2 項目に分かれ、 (2)そのそれぞれに 2 項目ずつ 高速化:動作のスピードアップ と 無駄時間の削減 併行作業化:工程分割 と マルチツーリング となることが分かりました(図 3-14)。 図 3-14 生産性向上の 4 手法実際には生産システムを構築する上でこれらの手法のうちどれかを使えばいいのではなく、できる限りすべての手法を使うことが重要です。 これらの手法を使うために、必要な「いい作業ユニット」が市販になければこれを「チャンス」と考えることです。 「こうすれば良さそうだけれど、そんなユニットは売っていないから駄目だ!」として諦めてしまえば、競合他社を凌ぐことは出来ません。 上記の 4 手法を実現するための「いい作業ユニット」を開発すれば、競合他社より生産性を増大できるチャンスなのです。 次回はいい作業ユニットを開発するための有効な手法「インフォメーション・カム」について解説します。 株式会社新興技術研究所 熊谷 卓 による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」は、クリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 2.1 ライセンスの下に提供されています。 Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 2.1 Japan License この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓さんのその他の記事 2018/06/05 業界コラム 5 これから面白くなる自動化の考え方・第 4 世代のシステムへ(6) 2018/05/09 業界コラム フィードバックシステムの巧妙性実現からその先へ(その1) 2018/04/03 業界コラム 文学的表現から工学的表現にしてシステムを構築 2018/03/06 業界コラム 真の巧妙性を駆使するベテラン作業員の説明 2018/02/06 業界コラム 第 4 世代のシステムの実例 2018/01/10 業界コラム ベテラン作業員の頭の中はカム曲線の集合か? 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Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月