2018/05/09 業界コラム 熊谷 卓 フィードバックシステムの巧妙性実現からその先へ(その1) 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業...もっと見る 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業 1955年04月 マミヤ光機株式会社入社 1962年11月 技術士国家試験合格・機械部門技術士登録 1963年03月 株式会社 新興技術研究所設立 代表取締役就任、現在 同社取締役会長(業務内容:自動組立機をはじめ各種自動化設備機器等の開発・製作・技術指導) 【歴任】 米国・欧州自動化技術視察団コーディネータ 8 回 自動化推進協会 理事・副会長 精密工学会 自動組立専門委員会 常任幹事 日本技術士会 理事・機械部会長 中小企業大学校講師 日本産業用ロボット工業会 各種委員 神奈川大学講師 自動化推進協会理事 高度職業能力開発促進センター講師 等を歴任 【業績】 著書 自動化機構300選(日刊工業新聞社)、メカトロニクス技術認定試験教本(工業調査会)ほか多数 講演 アジア生産性機構講演で自動化システムを W・T・MACS で表示・解析を提示(世界初)ほか多数 論文 自動化システムのデバッギング理論「チェック機構と最適稼働率」が欧州年間論文大賞にノミネイトほか多数 発明 メカトロニクス技術実習モジュールの発明、地震予知システム「逆ラジオ」の発明ほか多数 株式会社新興技術研究所 熊谷会長様のご好意による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」の 41 回目、第 5 章「これから面白くなる自動化の考え方・第 4 世代のシステムへ」の 5 回目です。 当月は「フィードバックシステムの巧妙性実現からその先へ」について紹介します。 5 これから面白くなる自動化の考え方・第4世代のシステムへ(5)巧妙性模倣型自動化システム開発のまとめ 長い自動化技術の歴史の中で人間の持つ巧妙性を機械で実現することは大きなテーマの一つでした。 それに使うメカニズムと制御との組み合わせにより、第 1 世代から第 4 世代まであるのでこれらについて一通り解説してきました。 しかしながら、生産工程の中には、自動化するのが難しくていまだに手作業でこなしているものがかなりあります。 このような作業を自動化するための手法まとめてみますと: 人間が巧妙に作業をしている工程を自動化するには、まず、手作業工程を十分理解する必要があり、 そのためには、エンジニヤ自身が現場の作業員に「弟子入り」して作業のコツを教えてもらう 作業員の説明の「文学的表現」をエンジニヤは「工学的表現」に直して理論的・数値的に理解する 自動化工程を計画する段階で最初に作業員のやっている通りの動作を自動化することを考えてみる 次に自動化機構設計の基本理念を念頭にもっと効率のいい方法に工夫しなおす 最終的に作業員の巧妙性と、自動化機構の特性活用とを適材適所に組み込んだベストシステムとする 前回の回収袋開封装置の例からも推定されるように、このベストシステムは多くの場合、今まで述べた巧妙性実現のための手法を駆使した複数の自動化システムの総合的な構成となり、その中の大きなポイントとなるシステムは第 4 世代の巧妙性実現システムになると思われます。 名人芸の巧妙性実現さて、ここまでの考え方で人間の持つ巧妙性をすべて実現できるでしょうか? 最終的な問題は自動化システムが目的意識を持たないことですが、これは今はやりの AI をもってしてもなかなか解決できそうもありませんのでちょっと横に置くことにして、ここでは「名人芸的な巧妙性」の動作内容について考えてみることにします。 人間の持つ巧妙性動作の中には「名人芸」と呼ばれるものがあり、普通の人がまねのできない素晴らしい動作を見ることがあります。このような「名人芸」を機械で実現するのには上述の第 1 世代から第 4 世代までのシステムでは極めて困難な場合が多いのです。 ここで素晴らしい動作を見せる「名人芸」がどうなっているのかを考えてみることにします。 例えばプロ野球の「守備の達人」を想定してください。 一般の素人野球では「守備の達人」はまずいません。バッターが「カン!」といい音を立てたとき、外野手の一人が打球を見て一足下がり、もう一度見てまだ抜かれそうだと思ってもう一足下がり、・・・という「打球の状態検出」と「受けるための後退動作」を繰り返すフイードバック動作をします(現実にはもう少し効率がいいでしょうが)。 当然打球の方が速いので外野手のはるか後ろに打球が落ちてしまいます。 しかし、プロ野球の達人となると違います。 バッターが「カン!」といい音を立てた瞬間、くるっと向きを変えて塀際まで全速で走りそこでさっと手を伸ばすとボールはグラブにピタリと捉えられているのです。まさに名人芸です。 ここで気が付くことは、この外野手の走行中に一度も振り返って打球を見ないことです。 つまり「カン!」といい音を聞いた瞬間、その打球の勢い、方向、その時の風向き、などから一瞬にして計算して、ボールの落下位置を予測するのです。これはフィードバック動作ではありません。一種のフィードフォワード動作なのです。 この両者の動作を漫画的にブロック図にしたのが図 5-10A、B です。 図 5-10A 素人野球の外野手はフィードバック制御をしている図 5-10B 外野手の達人はフィードフォワード制御をしている図 5-11A 制御回路 2A 類(再掲載) スタート後前進端を検出して直ちに後退する「一往復動作」回路Feedback から Feedforward へここで制御回路の話を思い出してください。 「2A 類」というのがありました。スタート信号が来たら直ちに前進して前進端センサを検出したら直ちに逆走し、原点センサを検出して停止する回路です(図 5-11A、B)。 この回路の中で点線で囲った「前進端センサを検出するまで前進する」動作をパルス駆動のステッピングモータやサーボモータで実現した例が図 5-11C です。動作的にはアクチュエータを 1 パルス駆動してはセンサが ON したかどうかを見て、まだであればもう 1 パルス出力する・・・ということの繰り返しで、ここがフィードバック制御の基本となる動作です。 外野手の例で「一歩下がってはボールを見てまだ抜かれそうならもう一歩下がる・・・」と同じです。 図 5-11B 制御回路 2A 類(再掲載) 図 5-11C 制御回路 2A 類の部分詳細 図 5-11B の点線部分をステッピング モータなどで構成した場合の例 図 5-12 制御回路 2A 類の点線部分を 一括してステップ駆動した場合の例では名人芸の場合はどうなっているのでしょうか? 前述の通り「カン!」といい音を聞いた瞬間、その打球の勢い、方向、その時の風向き、などから一瞬にして計算して、ボールの落下位置を予測するのです。 2A 類のようなシンプルな制御システムの例では、センサをレーザ距離計などにして単純に目的位置の目印までの距離を瞬時計測し、これをコンピュータでパルス数に変換して一挙にドライブユニットに出力すればいいわけです(図 5-12)。 当然、このような動作はフィードバックではなく一種のフィードフォワード制御に相当します。 次回はフィードフォワード制御の概要と W・T・MACS について述べます。 株式会社新興技術研究所 熊谷 卓 による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」は、クリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 2.1 ライセンスの下に提供されています。 Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 2.1 Japan License この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓さんのその他の記事 2018/06/05 業界コラム 5 これから面白くなる自動化の考え方・第 4 世代のシステムへ(6) 2018/05/09 業界コラム フィードバックシステムの巧妙性実現からその先へ(その1) 2018/04/03 業界コラム 文学的表現から工学的表現にしてシステムを構築 2018/03/06 業界コラム 真の巧妙性を駆使するベテラン作業員の説明 2018/02/06 業界コラム 第 4 世代のシステムの実例 2018/01/10 業界コラム ベテラン作業員の頭の中はカム曲線の集合か? 2017/12/05 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(7) 2017/11/07 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(6) 2017/10/03 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(5) 2017/09/05 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(4) 2017/08/01 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(3) 2017/07/04 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(2) 2017/06/06 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(1) 2017/05/10 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(5) 2017/04/04 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(4) 2017/03/07 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(3) 2017/02/07 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(2) 2017/01/11 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(1) 2016/12/06 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(21) 2016/11/08 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(20) 2016/10/04 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(19) 2016/09/06 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(18) 2016/08/02 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(17) 2016/07/05 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(16) 2016/06/07 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(15) 2016/05/11 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(14) 2016/04/05 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(13) 2016/03/08 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(12) 2016/02/09 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(11) 2016/01/13 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(10) 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月