株式会社新興技術研究所 熊谷会長様のご好意による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」の 41 回目、第 5 章「これから面白くなる自動化の考え方・第 4 世代のシステムへ」の 5 回目です。
当月は「フィードバックシステムの巧妙性実現からその先へ」について紹介します。
5 これから面白くなる自動化の考え方・第4世代のシステムへ(5)
巧妙性模倣型自動化システム開発のまとめ
長い自動化技術の歴史の中で人間の持つ巧妙性を機械で実現することは大きなテーマの一つでした。
それに使うメカニズムと制御との組み合わせにより、第 1 世代から第 4 世代まであるのでこれらについて一通り解説してきました。
しかしながら、生産工程の中には、自動化するのが難しくていまだに手作業でこなしているものがかなりあります。
このような作業を自動化するための手法まとめてみますと:
- 人間が巧妙に作業をしている工程を自動化するには、まず、手作業工程を十分理解する必要があり、
そのためには、エンジニヤ自身が現場の作業員に「弟子入り」して作業のコツを教えてもらう - 作業員の説明の「文学的表現」をエンジニヤは「工学的表現」に直して理論的・数値的に理解する
- 自動化工程を計画する段階で最初に作業員のやっている通りの動作を自動化することを考えてみる
- 次に自動化機構設計の基本理念を念頭にもっと効率のいい方法に工夫しなおす
- 最終的に作業員の巧妙性と、自動化機構の特性活用とを適材適所に組み込んだベストシステムとする
前回の回収袋開封装置の例からも推定されるように、このベストシステムは多くの場合、今まで述べた巧妙性実現のための手法を駆使した複数の自動化システムの総合的な構成となり、その中の大きなポイントとなるシステムは第 4 世代の巧妙性実現システムになると思われます。
名人芸の巧妙性実現
さて、ここまでの考え方で人間の持つ巧妙性をすべて実現できるでしょうか?
最終的な問題は自動化システムが目的意識を持たないことですが、これは今はやりの AI をもってしてもなかなか解決できそうもありませんのでちょっと横に置くことにして、ここでは「名人芸的な巧妙性」の動作内容について考えてみることにします。
人間の持つ巧妙性動作の中には「名人芸」と呼ばれるものがあり、普通の人がまねのできない素晴らしい動作を見ることがあります。このような「名人芸」を機械で実現するのには上述の第 1 世代から第 4 世代までのシステムでは極めて困難な場合が多いのです。
ここで素晴らしい動作を見せる「名人芸」がどうなっているのかを考えてみることにします。
例えばプロ野球の「守備の達人」を想定してください。
一般の素人野球では「守備の達人」はまずいません。バッターが「カン!」といい音を立てたとき、外野手の一人が打球を見て一足下がり、もう一度見てまだ抜かれそうだと思ってもう一足下がり、・・・という「打球の状態検出」と「受けるための後退動作」を繰り返すフイードバック動作をします(現実にはもう少し効率がいいでしょうが)。
当然打球の方が速いので外野手のはるか後ろに打球が落ちてしまいます。
しかし、プロ野球の達人となると違います。
バッターが「カン!」といい音を立てた瞬間、くるっと向きを変えて塀際まで全速で走りそこでさっと手を伸ばすとボールはグラブにピタリと捉えられているのです。まさに名人芸です。
ここで気が付くことは、この外野手の走行中に一度も振り返って打球を見ないことです。
つまり「カン!」といい音を聞いた瞬間、その打球の勢い、方向、その時の風向き、などから一瞬にして計算して、ボールの落下位置を予測するのです。これはフィードバック動作ではありません。一種のフィードフォワード動作なのです。
この両者の動作を漫画的にブロック図にしたのが図 5-10A、B です。



Feedback から Feedforward へ
ここで制御回路の話を思い出してください。 「2A 類」というのがありました。スタート信号が来たら直ちに前進して前進端センサを検出したら直ちに逆走し、原点センサを検出して停止する回路です(図 5-11A、B)。
この回路の中で点線で囲った「前進端センサを検出するまで前進する」動作をパルス駆動のステッピングモータやサーボモータで実現した例が図 5-11C です。動作的にはアクチュエータを 1 パルス駆動してはセンサが ON したかどうかを見て、まだであればもう 1 パルス出力する・・・ということの繰り返しで、ここがフィードバック制御の基本となる動作です。
外野手の例で「一歩下がってはボールを見てまだ抜かれそうならもう一歩下がる・・・」と同じです。

図 5-11B 制御回路 2A 類(再掲載)

図 5-11B の点線部分をステッピング
モータなどで構成した場合の例

では名人芸の場合はどうなっているのでしょうか?
前述の通り「カン!」といい音を聞いた瞬間、その打球の勢い、方向、その時の風向き、などから一瞬にして計算して、ボールの落下位置を予測するのです。
2A 類のようなシンプルな制御システムの例では、センサをレーザ距離計などにして単純に目的位置の目印までの距離を瞬時計測し、これをコンピュータでパルス数に変換して一挙にドライブユニットに出力すればいいわけです(図 5-12)。
当然、このような動作はフィードバックではなく一種のフィードフォワード制御に相当します。
次回はフィードフォワード制御の概要と W・T・MACS について述べます。
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