2017/01/11 業界コラム 熊谷 卓 3 生産性向上の 4 手法(1) 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業...もっと見る 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業 1955年04月 マミヤ光機株式会社入社 1962年11月 技術士国家試験合格・機械部門技術士登録 1963年03月 株式会社 新興技術研究所設立 代表取締役就任、現在 同社取締役会長(業務内容:自動組立機をはじめ各種自動化設備機器等の開発・製作・技術指導) 【歴任】 米国・欧州自動化技術視察団コーディネータ 8 回 自動化推進協会 理事・副会長 精密工学会 自動組立専門委員会 常任幹事 日本技術士会 理事・機械部会長 中小企業大学校講師 日本産業用ロボット工業会 各種委員 神奈川大学講師 自動化推進協会理事 高度職業能力開発促進センター講師 等を歴任 【業績】 著書 自動化機構300選(日刊工業新聞社)、メカトロニクス技術認定試験教本(工業調査会)ほか多数 講演 アジア生産性機構講演で自動化システムを W・T・MACS で表示・解析を提示(世界初)ほか多数 論文 自動化システムのデバッギング理論「チェック機構と最適稼働率」が欧州年間論文大賞にノミネイトほか多数 発明 メカトロニクス技術実習モジュールの発明、地震予知システム「逆ラジオ」の発明ほか多数 株式会社新興技術研究所 熊谷会長様のご好意による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」の 25 回目です。今号より新しく「生産性向上の 4 手法」に入り、「高速化と併行作業化」を紹介します。 自動化システムで常に目的とするのは生産性の向上です。 生産性を向上するための手法は大きく分けて (1) 高速化 (2) 併行作業化 の二つです。当然、高速にすれば生産性は上がります。また、同時にいくつかの作業をすれば生産性は上がります。 それぞれの手法についてさらに分類すると (1) 高速化 (1-1)動作のスピードアップ (1-2)無駄時間の削減 (2) 併行作業化 (2-1)工程分割 (2-2)マルチツーリング となります。 (1-1)動作のスピードアップについて第 1 章で、工場中のすべての作業ユニットが「いいユニットでなければならない」と述べましたが、「いい」ということの中には「動作速度が速い」ということも当然含まれています。現状よりもっと速度を上げたい、と思ったときどうすればいいか考えてみます。 図 3-1 作業ユニットの W/T/MACS工場中のすべての作業ユニットは、図 3-1 のように W・T・MACS、または W・T・MAC で表されることは述べてきましたが、どこを変えて速度を上げるのが適切でしょうか? まず思いつくのはアクチュエータのスピードアップでしょう。 図 3-2 に示す空気圧駆動のピックアンドプレース機構では、 ① まずシリンダ 1 が前進動作してチャックを下降し、下端でワークを掴んだ後、シリンダ 1 が後退動作してチャックを上端まで引き上げます。 ② 次にシリンダ 2 の前進動作でシリンダ 1 とチャックが前進し、前進端で停止します。 ③ 次にシリンダ 1 が前進動作してチャックを下降し、下端でワークを開放した後、シリンダ 1 が後退動作してチャックを上端まで引き上げます。 ④ その後シリンダ 2 が後退動作して全体が原位置に戻って 1 サイクル動作終了となります。 シリンダの動作回数は全部で 6 回あるので、各シリンダの動作時間を 0.8 秒とするとチャックの動作時間を無視しても 1 サイクル動作終了までに 4.8 秒かかります。つまり 1 時間当たり 750 個の生産能力です。 ここで生産性向上のためにはシリンダのスピードコントローラを少し緩めてシリンダの速度を上げれば良さそうです。 図 3-2 「直線動作を組み合わせたピックアンドプレース機構」「自動化機構300選」P292よりしかし単純に空気圧シリンダの速度調整弁を緩めて速度を上げるとシリンダ駆動の場合は矩形波速度特性で始端・終端で大きい加速度がかかり装置全体に大きな力がかかるので装置の損耗が気になるとともに、条件によっては前進端でワークの姿勢がずれたり、最悪はワークを取り落とすことさえ考えられます。 以前も詳述した通り、ここで矩形波特性から末端減速特性に変更しなければスピードアップは難しいのです。 2 巧妙性実現の手段群(4)「加速度特性の改善と効果」の項目で水を入れた器の往復駆動をビデオで紹介しましたが、矩形波特性の場合ストローク 90mm を 3 秒で往復する “秒速 60mm” 程度が精いっぱいでした。これに対してクランクによる末端減速特性では最高速度は 90mm を 0.8 秒で往復する “平均秒速 225mm” まで高速化できました。 この場合の最高速度は “瞬間最大速度” ではなく、全移動量を移動時間で割った “最大平均速度” です。 もちろん、作業ユニットの動作目的や駆動されるものの質量などによって一概には言えませんが、「(1-1)動作のスピードアップ」について、この例では装置の構成をそのままにしてアクチュエータの速度だけを上げるのはせいぜい秒速 50-60mm 程度までで、それ以上のスピードアップは、速度特性を十分考えたシステムに再構成する必要があると考えるべきでしょう。 その意味で、前々回紹介した「カム駆動ピックアンドプレイスユニット」は、上下動作・前後動作ともに変形正弦曲線などの「いいカム曲線」が使ってあるので、最大平均速度として秒速 300mm ぐらいまでは殆ど問題なく安定した滑らかな動作を見せるのです。 図 3-2 で水平ストロークを 90mm、上下ストロークを 60mm と置き、チャックの開閉によるワークの保持・解放時間をそれぞれ 0.3 秒と置くと、サイクルタイムは上下動作 2 往復で 4 秒、前後動作 1 往復で 3 秒、チャック動作 0.6 秒で合計サイクルタイムは 7.6 秒、1 時間当たりの生産数は 473 個となります。 これをカム式のピックアンドプレイスユニットにすれば、上下動作 2 往復が 1.2 秒、前後動作 1 往復が 0.4 秒、チャック動作 0.6 秒でサイクルタイム 2.2 秒、1 時間当たりの生産数は 1636 個となり、生産性は大きく向上します。 つまり、高速化の手法としては或る程度まではアクチュエータのスピードアップだけでもできますが、さらに高速化しようとするとメカニズムも含んだ全体のシステム構成を「高速化用に再構築」しなければならなくなるのです。 (1-2)無駄時間の削減について無駄時間削減で一番簡単に思いつくのは作業ユニットのツールの移動距離を縮めることでしょう。 ワークを作業ステーションまで運ぶのに、遠くから持っていくよりワークの供給装置を近くに置いてやれば作業ユニットのストロークは短くできるので、当然サイクルタイムも短縮されます。無駄時間削減のための無駄ストロークの削減です。また複数の相互動作の待ち時間の短縮も有効な手法です。 例えば図 3-2 のピックアンドプレイスユニットでは、前進端でチャックが下降してワークを開放した後、上昇と後退とを同時に行うことによって少しでも無駄時間を減らす工夫が行われています{改訂新版自動化機構300選(日刊工業新聞社)P292.}。 この場合チャック上昇動作の 1 秒がチャック後退動作の 1.5 秒に含まれるので、これだけでも上記の例に当てはめれば 13% の生産性向上になります。 もう少し詳しい例として、千葉県幕張の高度職業能力開発センターで自動化技術のセミナーの教材に用いられている 3 部品の組立自動化システムの自動供給工程で、実際のセミナーと同様、無駄時間の削減について考えることにします。 このシステムは図 3-3 に示すようにブロック B をナット A にねじ止めする工程の教材用ラインです。 当然 3 部品それぞれを自動的に供給するものですが、ここでは第 1 工程のナット A の自動供給について無駄時間削減を考えます。 図 3-3 部品の自動組立システム 「自動化ライン設計定石集(熊谷卓編緒:日刊工業新聞社)」より転載:P3ナット A の供給工程はナット A を筒状のマガジンに装填しておき、これを上端から一個づつ取出してパレット上のワークホルダに供給するものです。 その工程は(ビデオ映像「ナット A 供給」参照): ①パレット移送 → ②パレット位置決め → ③ナット A せり上げ → ④チャック下降 → ⑤チャック閉じ → ⑥チャック上昇 → ⑦チャックアーム旋回 → ⑧チャック下降 → ⑨チャック開き → ⑩チャック上昇 → ⑪チャックアーム逆旋回 → ⑫チャックアーム停止 のようになっています。 https://www.shinkawa.co.jp/wp-content/uploads/2020/03/vol009_no01_info01_01.mp4動画 3-1 ナット A 供給(約48秒)写真 3-1 右端のマガジンから左端のパレットにナット A を供給ビデオを見るとかなりのんびりした供給動作に見えます。1 サイクルに約 20 秒かかっています。 一番最初に気がつくのは画面右端のマガジンから延々とチャックが移動して画面左端のパレットまで供給していることでしょう。しかし、この ⑦チャックアームの旋回動作にかかっている時間は 2.5 秒です。機械的な構成を再設計すればマガジンをもっと近い所に移して移動距離を縮めることはできるかもしれませんが、半分にしても 1.25 秒の短縮にすぎません。⑪逆旋回を含めて往復で 2.5 秒の短縮となり、12.5% の生産性向上ですが、このステーションの相当部分を再設計して作り直すことになり、費用対効果がやや危ぶまれます。 次に「遅いな!」と思われるのはマガジン上端からのナット A のピックアップ動作でしょう。③ナット A せり上げに 3.6 秒かかっています。この待ち時間はいかにも長すぎます。ここでせり上げ動作用のアクチュエータを高速化してせり上げ速度を速くする方法もありますが、もう一工夫してみましょう。 この 3.6 秒はゼロにできないでしょうか? この工程を除いたほかの工程が 16.4 秒かかっています。その間のどこかで 3.6 秒かけてせり上げておけば、次にチャックは待ち時間不要で、すぐに下りてきてナット A を掴めるはずです。例えば ⑦チャックアーム旋回と同時に ③ナット A せり上げを行います。つまり実質的に 3.6 秒はゼロにできたことになります。この改善はタイミングの変更だけで、コストはほとんどかかりません。これだけで 18% の生産性向上となります。 写真 3-2 マガジン上端から ナット A をピックアップ更にもう一工夫してみます。 ここでナット A をせり上げただけの状態では、せり上げられたナット A は不安定です。ちょっとした機械の振動などで横に位置ずれを起こす可能性があります。そこでできるだけ早くチャックに掴ませておくことを考えます。 それには ⑪チャックアーム逆旋回と同時に ③ナット A せり上げを開始します。そして ⑪チャックアーム逆旋回の 2.5 秒と、逆旋回完了後、直ちに ④チャック下降の 0.9 秒とを行ったタイミングで、③ナット A のせり上げもほとんど完了となる筈です。 こうすることで ④チャック下降の 0.9 秒も節約できるので、22.5% の生産性向上となります。 一方、パレットが移送されてストッパに当たり、下から位置決めプッシャーで押し上げられるまでの約 3 秒間はチャックは ⑤チャック閉じのスタート信号待ちで停止しています。 当然、パレットがストッパーに当たったことをセンサで検出して、②パレット位置決め用プッシャーをスタートするので、同じセンサ信号を ⑤チャック閉じ → ⑥チャック上昇、のスタート信号にすれば、②パレットの押し上げ・位置決め、が終わると同時に ⑦チャックアーム旋回が始まるので、約 3 秒の待ち時間が無くなり、上記と合わせて 37.5% の生産性向上ができることになります。 しかも最初考えたような機構的な構造変更は全く行わず、PLC のプログラムのタイミング修正だけなので、実コストはほとんどゼロです。 現実に稼働中のラインでもよく考えると無駄時間を減らす可能性がある場合が多いので、是非いろいろな自動化システムで検討してみてください。 次回は(2)併行作業化 (2-1)工程分割 (2-2)マルチツーリング について述べます。 株式会社新興技術研究所 熊谷 卓 による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」は、クリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 2.1 ライセンスの下に提供されています。 Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 2.1 Japan License この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓さんのその他の記事 2018/06/05 業界コラム 5 これから面白くなる自動化の考え方・第 4 世代のシステムへ(6) 2018/05/09 業界コラム フィードバックシステムの巧妙性実現からその先へ(その1) 2018/04/03 業界コラム 文学的表現から工学的表現にしてシステムを構築 2018/03/06 業界コラム 真の巧妙性を駆使するベテラン作業員の説明 2018/02/06 業界コラム 第 4 世代のシステムの実例 2018/01/10 業界コラム ベテラン作業員の頭の中はカム曲線の集合か? 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Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月