株式会社新興技術研究所 熊谷会長様のご好意による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」の 25 回目です。今号より新しく「生産性向上の 4 手法」に入り、「高速化と併行作業化」を紹介します。
自動化システムで常に目的とするのは生産性の向上です。
生産性を向上するための手法は大きく分けて
(1) 高速化
(2) 併行作業化
の二つです。当然、高速にすれば生産性は上がります。また、同時にいくつかの作業をすれば生産性は上がります。
それぞれの手法についてさらに分類すると
(1) 高速化
(1-1)動作のスピードアップ
(1-2)無駄時間の削減
(2) 併行作業化
(2-1)工程分割
(2-2)マルチツーリング
となります。
(1-1)動作のスピードアップについて
第 1 章で、工場中のすべての作業ユニットが「いいユニットでなければならない」と述べましたが、「いい」ということの中には「動作速度が速い」ということも当然含まれています。現状よりもっと速度を上げたい、と思ったときどうすればいいか考えてみます。

工場中のすべての作業ユニットは、図 3-1 のように W・T・MACS、または W・T・MAC で表されることは述べてきましたが、どこを変えて速度を上げるのが適切でしょうか?
まず思いつくのはアクチュエータのスピードアップでしょう。
図 3-2 に示す空気圧駆動のピックアンドプレース機構では、
② 次にシリンダ 2 の前進動作でシリンダ 1 とチャックが前進し、前進端で停止します。
③ 次にシリンダ 1 が前進動作してチャックを下降し、下端でワークを開放した後、シリンダ 1 が後退動作してチャックを上端まで引き上げます。
④ その後シリンダ 2 が後退動作して全体が原位置に戻って 1 サイクル動作終了となります。
シリンダの動作回数は全部で 6 回あるので、各シリンダの動作時間を 0.8 秒とするとチャックの動作時間を無視しても 1 サイクル動作終了までに 4.8 秒かかります。つまり 1 時間当たり 750 個の生産能力です。 ここで生産性向上のためにはシリンダのスピードコントローラを少し緩めてシリンダの速度を上げれば良さそうです。

しかし単純に空気圧シリンダの速度調整弁を緩めて速度を上げるとシリンダ駆動の場合は矩形波速度特性で始端・終端で大きい加速度がかかり装置全体に大きな力がかかるので装置の損耗が気になるとともに、条件によっては前進端でワークの姿勢がずれたり、最悪はワークを取り落とすことさえ考えられます。
以前も詳述した通り、ここで矩形波特性から末端減速特性に変更しなければスピードアップは難しいのです。
2 巧妙性実現の手段群(4)「加速度特性の改善と効果」の項目で水を入れた器の往復駆動をビデオで紹介しましたが、矩形波特性の場合ストローク 90mm を 3 秒で往復する “秒速 60mm” 程度が精いっぱいでした。これに対してクランクによる末端減速特性では最高速度は 90mm を 0.8 秒で往復する “平均秒速 225mm” まで高速化できました。
この場合の最高速度は “瞬間最大速度” ではなく、全移動量を移動時間で割った “最大平均速度” です。
もちろん、作業ユニットの動作目的や駆動されるものの質量などによって一概には言えませんが、「(1-1)動作のスピードアップ」について、この例では装置の構成をそのままにしてアクチュエータの速度だけを上げるのはせいぜい秒速 50-60mm 程度までで、それ以上のスピードアップは、速度特性を十分考えたシステムに再構成する必要があると考えるべきでしょう。
その意味で、前々回紹介した「カム駆動ピックアンドプレイスユニット」は、上下動作・前後動作ともに変形正弦曲線などの「いいカム曲線」が使ってあるので、最大平均速度として秒速 300mm ぐらいまでは殆ど問題なく安定した滑らかな動作を見せるのです。
図 3-2 で水平ストロークを 90mm、上下ストロークを 60mm と置き、チャックの開閉によるワークの保持・解放時間をそれぞれ 0.3 秒と置くと、サイクルタイムは上下動作 2 往復で 4 秒、前後動作 1 往復で 3 秒、チャック動作 0.6 秒で合計サイクルタイムは 7.6 秒、1 時間当たりの生産数は 473 個となります。
これをカム式のピックアンドプレイスユニットにすれば、上下動作 2 往復が 1.2 秒、前後動作 1 往復が 0.4 秒、チャック動作 0.6 秒でサイクルタイム 2.2 秒、1 時間当たりの生産数は 1636 個となり、生産性は大きく向上します。
つまり、高速化の手法としては或る程度まではアクチュエータのスピードアップだけでもできますが、さらに高速化しようとするとメカニズムも含んだ全体のシステム構成を「高速化用に再構築」しなければならなくなるのです。
(1-2)無駄時間の削減について
無駄時間削減で一番簡単に思いつくのは作業ユニットのツールの移動距離を縮めることでしょう。
ワークを作業ステーションまで運ぶのに、遠くから持っていくよりワークの供給装置を近くに置いてやれば作業ユニットのストロークは短くできるので、当然サイクルタイムも短縮されます。無駄時間削減のための無駄ストロークの削減です。また複数の相互動作の待ち時間の短縮も有効な手法です。
例えば図 3-2 のピックアンドプレイスユニットでは、前進端でチャックが下降してワークを開放した後、上昇と後退とを同時に行うことによって少しでも無駄時間を減らす工夫が行われています{改訂新版自動化機構300選(日刊工業新聞社)P292.}。
この場合チャック上昇動作の 1 秒がチャック後退動作の 1.5 秒に含まれるので、これだけでも上記の例に当てはめれば 13% の生産性向上になります。
もう少し詳しい例として、千葉県幕張の高度職業能力開発センターで自動化技術のセミナーの教材に用いられている 3 部品の組立自動化システムの自動供給工程で、実際のセミナーと同様、無駄時間の削減について考えることにします。
このシステムは図 3-3 に示すようにブロック B をナット A にねじ止めする工程の教材用ラインです。
当然 3 部品それぞれを自動的に供給するものですが、ここでは第 1 工程のナット A の自動供給について無駄時間削減を考えます。

ナット A の供給工程はナット A を筒状のマガジンに装填しておき、これを上端から一個づつ取出してパレット上のワークホルダに供給するものです。
その工程は(ビデオ映像「ナット A 供給」参照):
⑥チャック上昇 → ⑦チャックアーム旋回 → ⑧チャック下降 → ⑨チャック開き → ⑩チャック上昇 →
⑪チャックアーム逆旋回 → ⑫チャックアーム停止
のようになっています。
動画 3-1 ナット A 供給(約48秒)

ビデオを見るとかなりのんびりした供給動作に見えます。1 サイクルに約 20 秒かかっています。
一番最初に気がつくのは画面右端のマガジンから延々とチャックが移動して画面左端のパレットまで供給していることでしょう。しかし、この ⑦チャックアームの旋回動作にかかっている時間は 2.5 秒です。機械的な構成を再設計すればマガジンをもっと近い所に移して移動距離を縮めることはできるかもしれませんが、半分にしても 1.25 秒の短縮にすぎません。⑪逆旋回を含めて往復で 2.5 秒の短縮となり、12.5% の生産性向上ですが、このステーションの相当部分を再設計して作り直すことになり、費用対効果がやや危ぶまれます。
次に「遅いな!」と思われるのはマガジン上端からのナット A のピックアップ動作でしょう。③ナット A せり上げに 3.6 秒かかっています。この待ち時間はいかにも長すぎます。ここでせり上げ動作用のアクチュエータを高速化してせり上げ速度を速くする方法もありますが、もう一工夫してみましょう。
この 3.6 秒はゼロにできないでしょうか?
この工程を除いたほかの工程が 16.4 秒かかっています。その間のどこかで 3.6 秒かけてせり上げておけば、次にチャックは待ち時間不要で、すぐに下りてきてナット A を掴めるはずです。例えば ⑦チャックアーム旋回と同時に ③ナット A せり上げを行います。つまり実質的に 3.6 秒はゼロにできたことになります。この改善はタイミングの変更だけで、コストはほとんどかかりません。これだけで 18% の生産性向上となります。

更にもう一工夫してみます。
ここでナット A をせり上げただけの状態では、せり上げられたナット A は不安定です。ちょっとした機械の振動などで横に位置ずれを起こす可能性があります。そこでできるだけ早くチャックに掴ませておくことを考えます。
それには ⑪チャックアーム逆旋回と同時に ③ナット A せり上げを開始します。そして ⑪チャックアーム逆旋回の 2.5 秒と、逆旋回完了後、直ちに ④チャック下降の 0.9 秒とを行ったタイミングで、③ナット A のせり上げもほとんど完了となる筈です。
こうすることで ④チャック下降の 0.9 秒も節約できるので、22.5% の生産性向上となります。
一方、パレットが移送されてストッパに当たり、下から位置決めプッシャーで押し上げられるまでの約 3 秒間はチャックは ⑤チャック閉じのスタート信号待ちで停止しています。
当然、パレットがストッパーに当たったことをセンサで検出して、②パレット位置決め用プッシャーをスタートするので、同じセンサ信号を ⑤チャック閉じ → ⑥チャック上昇、のスタート信号にすれば、②パレットの押し上げ・位置決め、が終わると同時に ⑦チャックアーム旋回が始まるので、約 3 秒の待ち時間が無くなり、上記と合わせて 37.5% の生産性向上ができることになります。
しかも最初考えたような機構的な構造変更は全く行わず、PLC のプログラムのタイミング修正だけなので、実コストはほとんどゼロです。
現実に稼働中のラインでもよく考えると無駄時間を減らす可能性がある場合が多いので、是非いろいろな自動化システムで検討してみてください。
次回は(2)併行作業化
(2-1)工程分割
(2-2)マルチツーリング
について述べます。
株式会社新興技術研究所 熊谷 卓 による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」は、クリエイティブ・コモンズ
表示 – 非営利 – 継承 2.1 ライセンスの下に提供されています。
Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 2.1 Japan License
- 2021年1月
- 2020年12月
- 2020年11月
- 2020年10月
- 2020年9月
- 2020年8月
- 2020年7月
- 2020年6月
- 2020年5月
- 2020年4月
- 2020年3月
- 2020年2月
- 2020年1月
- 2019年12月
- 2019年11月
- 2019年10月
- 2019年9月
- 2019年8月
- 2019年7月
- 2019年6月
- 2019年5月
- 2019年4月
- 2019年3月
- 2019年2月
- 2019年1月
- 2018年12月
- 2018年11月
- 2018年10月
- 2018年9月
- 2018年8月
- 2018年7月
- 2018年6月
- 2018年5月
- 2018年4月
- 2018年3月
- 2018年2月
- 2018年1月
- 2017年12月
- 2017年11月
- 2017年10月
- 2017年9月
- 2017年8月
- 2017年7月
- 2017年6月
- 2017年5月
- 2017年4月
- 2017年3月
- 2017年2月
- 2017年1月
- 2016年12月
- 2016年11月
- 2016年10月
- 2016年9月
- 2016年8月
- 2016年7月
- 2016年6月
- 2016年5月
- 2016年4月
- 2016年3月
- 2016年2月
- 2016年1月
- 2015年12月
- 2015年11月
- 2015年10月
- 2015年9月
- 2015年8月
- 2015年7月
- 2015年6月
- 2015年5月
- 2015年4月
- 2015年3月
- 2015年2月
- 2015年1月
- 2014年12月
- 2014年11月
- 2014年10月
- 2014年9月
- 2014年8月
- 2014年7月
- 2014年6月
- 2014年5月
- 2014年4月
- 2014年3月
- 2014年2月
- 2014年1月
- 2013年12月
- 2013年11月
- 2013年10月
- 2013年9月
- 2013年8月
- 2013年7月
- 2013年6月
- 2013年5月
- 2013年4月
- 2013年3月
- 2013年2月
- 2013年1月
- 2012年12月
- 2012年11月
- 2012年10月
- 2012年9月
- 2012年8月
- 2012年7月
- 2012年6月
- 2012年5月
- 2012年4月
- 2012年3月
- 2012年2月
- 2012年1月
- 2011年12月
- 2011年11月
- 2011年10月
- 2011年9月
- 2011年8月
- 2011年7月
- 2011年6月
- 2011年5月
- 2011年4月
- 2011年3月
- 2011年2月
- 2011年1月
- 2010年12月
- 2010年11月
- 2010年10月
- 2010年9月
- 2010年8月
- 2010年7月
- 2010年6月
- 2010年5月
- 2010年4月
- 2010年3月
- 2010年2月
- 2010年1月
- 2009年12月